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【世界トッププロ達のFamily・家族の絆】第4回「ジョーダン・スピース」

世界のトッププロたちは、毎週各地を転戦し、自宅で家族と過ごす時間はあまりない。
しかし過酷なスケジュールの中、頑張れるのも家族がいるから。
プロたちの大事なチームである家族を紹介する。

連載第4回は、21歳にして「マスターズ」でメジャー初優勝を遂げ、タイガー・ウッズに並ぶ数々の歴史的な記録を樹立してきたジョーダン・スピース。
彼のこれまでの活躍の陰には家族、特に妹エリーさんの大きな存在があった。

©Getty Images

2016年ヒュンダイ·トーナメント·オブ·チャンピオンズで優勝したスピース。左から父ショーン、母クリス、妹エリー、スピース、妻アニー(当時はガールフレンド)。

「妹エリーは僕のゴルフの原点。彼女の喜ぶ顔が見たいから頑張れる」

©Getty Images

2015年ツアー選手権で優勝し、フェデックスカップチャンピオンにも輝いたスピース。妹のエリーさんが駆け寄り、優勝をハグで祝った。

早熟なスピース
成功の原動力は家族

アマチュア時代から数々のタイトルを獲得し、鳴り物入りでプロ転向を果たしたジョーダン・スピース。

父ショーンさんはリーハイ大野球部、母クリスさんはモラビアン大バスケットボール部に所属していたというスポーツ一家に生まれ育った彼は、もともと野球をやっていたが13歳でゴルフに専念することを決意。

現在ツアー会場に同伴しているコーチは、12歳から師事するキャメロン・マコーミック氏だ。

2015年、21歳にしてマスターズでメジャー初優勝を遂げ、その後も全米オープン、全英オープンとメジャー2勝。

世界ランクも1位に上り詰め、フェデックスカップチャンピオンに輝いたジョーダンの成功の原動力となったもの。それは家族の存在、特に障害を持つ妹エリーさんの存在が大きい。

「妹エリーの存在が僕のゴルフの原点です。彼女は僕の優勝を常に信じていて、試合が終わって自宅に戻ると〝ジョーダン、勝った?〟と聞いてくるんです。だから僕は彼女のために勝ちたい」

7歳年下のエリーさん。

彼女は障害児として誕生し、保育器の中に1か月以上いたという。

長男のジョーダンは保育器の中の妹を眺めながら「妹を僕が守る」と決意。

両親の労力をできるだけエリーさんに向けてやりたいと、彼は1人でゴルフの練習に励み、両親の手を煩わせないように生きてきた〝出来た子〟なのだ。

彼のプレーぶりや報道陣に対する受け答えなどを観ていると、年齢の割に落ち着きがあり、冷静沈着な「大人」の対応ができているが、これらの所作はエリーさんの誕生に大きく起因している。

そして、メジャー大会など緊張感漂う場面でも落ち着き払ってプレーできているのは、子供の頃からエリーさんの世話などで精神力を鍛えられていることも大きいだろう。

母クリスさんも「妹の存在なしにはジョーダンの人間性はここまで育っていない。どんなコーチよりも妹がジョーダンを作り上げている」と語っているが、障害を持つ妹の世話は想像以上に忍耐が必要で、それが精神力の鍛錬につながっているようだ。

エリーさんは時々応援にやってくるが面倒見のいい兄として現地に来てくれた彼女をとても大切にしているのが見て取れる。

練習日などはロープ内に招き入れ、一緒にフェアウェイを歩いたり、あるいはギャラリーにサインしている最中に、彼のそばでずっとハグを続けるエリーさんの姿もたまに見かける。

お兄ちゃんが大好きで、彼が優勝するのを見るのが何よりも嬉しいのだ。

そんな彼女を喜ばせたいと、ジョーダンも頑張る。その兄妹愛の強さが、彼のこれまでの偉業達成を支えてきたのだといっていいだろう。

「彼女は素晴らしい妹であり、最大のサポーターだ。彼女を見ていると、日々のストレスやラウンド中のストレスも大したことないと思えるし、謙虚な気持ちになれる」

©Getty Images

全米プロの練習日、エリーさんとロープ内を歩くスピース。妹想いの優しい兄だ。

障害者を助けたい!
20歳にして財団設立

 また彼は2013年にツアーで初優勝を遂げた後、「ジョーダン・スピース財団」を創設し、障害や経済的事情で教育が受けられない子供達を救おうとチャリティ活動をスタート。

家族に障害児がいたため、子供の頃から障害者を助けたいという気持ちが自然に芽生えていた彼は、20歳にして自らの財団を設立した。

彼の成熟度はゴルフだけでなく、社会性、人間性においても非常に高いのだ。

自閉症の子供を持つアーニー・エルスはジョーダンを「最もバランスの取れた、世界で一番素晴らしい若者だ」と語っている。

「彼と一緒にプレーしたことがあるが、その時に家族の話もしたんだ。自閉症の子供はとても特別で、僕の娘のサマンサを見てもわかるが、自閉症の弟と一緒に成長してきた彼女は、人生に対して普通とはちょっと違う見方をしている。自閉症の子供たちはいかに特別か、正直か、そして愛すべき人たちかを理解しているんだ。ジョーダンは若者の肩の上に大人の頭を乗せているようなもの。若くしてゴルフというゲームを理解し、自分自身もこれでいいとはわかっているが、かといって全てを知っているとは思っていない。常に学ぶ準備はできているんだ」

高校時代のガールフレンドが生涯に渡ってジョーダンを支える最愛の人に……

©Getty Images

2016年のライダーカップに出場したスピース。現在は妻のアニー・ベレットさんとともにオープニングセレモニーに出席。

高校時代からの交際が実り、結婚へ

ジョーダンは2018年11月、高校時代から交際していたアニー・ベレットさんと結婚。カリブ海へハネムーンに出かけた。

彼女はテキサス工科大出身の才女で、「ファーストティー・プログラム・ダラス」(米国のジュニアゴルフの育成プログラム)に勤務し、イベントコーディネーターを務めたこともある。

現在は「スピース財団」の仕事を手伝っているが、彼女の両親も婚前からボードメンバーとして手伝っており、家族ぐるみの深い付き合いが、入籍前からすでに築かれている。

彼女は今どきの選手たちが連れ歩く、ブロンド&セクシータイプの女性とは違う。

ダスティン・ジョンソンのフィアンセ、ポーリナ・グレツキーさんや、ブルックス・ケプカのガールフレンド、ジェナ・シムズさんなどはその典型例だが、アニーさんの髪の色は茶色で、決して美ボディを曝け出したり、派手に着飾るようなタイプではない。

だが、目鼻立ちがはっきりとした聡明そうな美女で、真面目なジョーダンにお似合いのキュートな女性である。

ここのところ不調続きだったジョーダンも、新型コロナウイルスによるツアー中断中にコーチとともにスイングを見直し、復調の兆しも見えてきた。

アニーさんのコース内外でのサポートを受け、妹エリーさんからの変わらぬ応援を力に変えながら、再び強いジョーダンが帰ってくる日を期待したい。

©Getty Images

2016年「ディーン&デルーカ招待」優勝直後に、スピースはアニーさんと祝福のキス。

Text /Eiko Oizumi Photo/Getty Images   

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