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【2020マスターズ大特集】ヨーロッパ人から見たマスターズ「全英オープンにはないマスターズの魅力とは?」

マスターズは毎年同じコースで開催される唯一のメジャーだが、世界ではどのような大会に見られているのだろうか?

ヨーロッパ人たちのマスターズへの想いを探る。

©Getty Images

2011年には優勝を目前にして悲劇の崩落を味わったマキロイ。13〜18年の5年間は1度もトップ10を外していない。今年こそ悲願のグランドスラム達成を期待!

完璧な美しさと征服し難さゆえの魅力

ヨーロッパ人にとってマスターズとは何か?

全英オープンと同等か、2番目に重要なメジャーと言っていいだろう。

もちろん全英オープンは最古のメジャーだし、間違いなく世界最高峰のメジャー。クラレット・ジャグを手に入れるためには数々の技術が必要になってくるのも魅力の一つである。

しかし、グリーンジャケットをディフェンディングチャンピオンから着せてもらう夢を携え、毎年大西洋を越えてやってくる欧州勢にとってはどうか?

全英オープン以上のものかはわからないが、マスターズには他にはない魅力がある。

オーガスタの完璧に手入れの行き届いた美しさに対する満足感と、欧州勢で実際に勝利したものがあまりいないという事実があるからかもしれない。

セベ・バレステロスが1980年に初めて欧州勢として優勝して以来、たった8人の選手だけしかこの偉業を成し遂げていない。

ベルンハルト・ランガー(2勝)、サンディ・ライル、ニック・ファルド(3勝)、イアン・ウーズナム、ホセ・マリア・オラサバル(2勝)、ダニー・ウィレット、セルヒオ・ガルシアである。

©Getty Images

2016年チャンピオンのダニー・ウィレット(イングランド)からグリーンジャケットを着せてもらう2017年チャンピオンのセルヒオ・ガルシア(スペイン)。

翌日、寝不足だったとしても観戦したいマスターズ

ヨーロッパのゴルフファンたちは、深夜まで起きてマスターズをTV観戦するのが常だが(大会が終了するのはいつもだいたい深夜1時頃)、仮にそのせいで翌日、寝不足だったとしてもマスターズのドラマを見ることができてハッピーなのだ。

そして日本も同じだろうが、ヨーロッパ人にとっても一度は現地に観に行きたいという夢がある。

いまだかつて実際に観に行ってガッカリした人を見たことがない。

ただ初めてオーガスタに行った人がビックリするのは、いかにアップダウンが激しいか、ということだ。

特に9番、18番の上りはキツイ。

だが、オーガスタはいろんな意味でゴルフパラダイスであり、その地に行くのが初めてでも20回目でもゲートを入っていくのは最高の気分だ。

決して後悔することはない。

©Getty Images

昨年の欧州ツアー賞金王であり、世界ランク3位のジョン・ラーム。昨年末に結婚し、おめでた続きの彼が目指すのはメジャー初優勝だ。

マキロイが、なんとしてでもマスターズに勝つための作戦

すでにブックメーカーのオッズでも人気は高いが、とうとう今年、オーガスタで北アイルランド人が優勝する年となるかもしれない。

昨年はローリー・マキロイのゴルフ人生の中でも最も安定したシーズンとなったが、昨年同様のシーズン初期の作戦を今年も繰り返している。

欧州ツアーの賞金の高いアブダビ、ドバイ、サウジアラビア開催の試合を蹴って、マキロイは最初の4ヵ月間、米国にとどまることにした。

ツアー転戦の移動を減らし、米ツアーのグリーンとコース設定に自分のゴルフを慣らすことで、オーガスタナショナルに合ったゲームに仕上げることが目的だ。

そしてマスターズに勝つことだけでなく、入れそうで入れない、さらに上級のクラブに入ることを目的としている。

それは「グランドスラム」。

過去、グランドスラムを達成しているのは、今までにたった5人だけである。

ジーン・サラゼン、ベン・ホーガン、ジャック・ニクラス、ゲーリー・プレーヤー、そしてタイガー・ウッズだ。

マキロイは 全英オープン、全米オープンでそれぞれ1勝、全米プロ2勝の経歴があるが、5年間、オーガスタのトビラを開くのに足踏みしていた。

その結果、とてつもないプレッシャーを自分にかけ、苦しんでいたのは間違いない。

だが昨年、通常のレギュラーツアーのようにリラックスした雰囲気でプレーするという態度をメジャーでも取り入れるようになった。

タイガーマニアたちが大勢いるマスターズにひっそりと乗り込むことで、この30歳のプレーヤーがいつもより心に余裕を持って自分のやるべきことに集中できるというわけだ。

しかし他の欧州勢はどうか?

昨年の欧州ツアー賞金王のスペインのジョン・ラームにとって、今年はメジャー優勝が期待されるビッグイヤーとなる。

セベ・バレステロス、ホセ・マリア・オラサバルの後を追い、スペインの次なるメジャー複数回優勝者となることができるだろうか?

昨年9位タイの成績をもってすれば、25歳のプレーヤーが今年マスターズで勝てない理由など見当たらない。

また、スイングコーチも兼任する欧州ツアーの選手、ロバート・ロックと昨年手を組み、息を吹き返した46歳のリー・ウェストウッドにもチャンスがある。

ゴルフを楽しみ、ツアーでプレーできることに毎日感謝することを知った男は、美しいスイングと落ち着きを取り戻して勝者の仲間入りを再び果たした。

1月のアブダビ選手権での勝利で、マーク・マクナルティ、デス・スミスに次ぎ、40年に渡って欧州ツアーで勝利を挙げる3人目のプレーヤーとなったのだ。

過去、トップ10入り6回のうち、2位が2回という好相性のオーガスタに今のスイング、安定した精神面を持ち込むことができたなら、46歳でおとぎ話のような勝利を想像するのは非現実的すぎるだろうか?

ジャック・ニクラスなら86年に46歳でどうやって成し遂げたか、全て教えてくれるだろう。

だが、今年はやはりマキロイに注目だ。彼がオーガスタの悪魔たちを追い払い、ついにパズルの最後のピースをはめ込むことができるかどうか、楽しみである。

ヨーロッパ人選手のマスターズチャンピオン

©Getty Images

過去3勝を挙げているニック・ファルド。現在はTV解説で活躍中。

過去83回開催されているマスターズだが、ヨーロッパ勢の優勝はたった8人しかない。

ヨーロッパ人にとってぶ厚い壁であるオーガスタで優勝したチャンピオンたちを紹介しよう。

優勝者スコア2位
1980セベ・バレステロス(スペイン)−13G・ギルバート、J・ニュートン(4打差)
1983セベ・バレステロス(スペイン)− 8B・クレンショー、T・カイト(4打差)
1985ベルンハルト・ランガー(ドイツ)− 6S・バレステロス、R・フロイド、C・ストレンジ(2打差)
1988サンディ・ライル(スコットランド)− 7M・カルカベッキア(1打差)
1989ニック・ファルド(イングランド)− 5S・ホーク(プレーオフ)
1990ニック・ファルド(イングランド)−10R・フロイド(プレーオフ)
1991イアン・ウーズナム(ウェールズ)−11J・M・オラサバル(1打差)
1993ベルンハルト・ランガー(ドイツ)−11C・ベック(4打差)
1994ホセ・マリア・オラサバル(スペイン)− 9T・レーマン(2打差)
1996ニック・ファルド(イングランド)−12G・ノーマン(5打差)
1999ホセ・マリア・オラサバル(スペイン)− 8D・ラブⅢ(2打差)
2016ダニー・ウィレット(イングランド)− 5J・スピース、L・ウエストウッド(3打差)
2017セルヒオ・ガルシア(スペイン)− 9J・ローズ(プレーオフ)

Text/Euan McLean

ユアン・マクリーン
(スコットランド)
スコットランドを拠点に欧州ツアー、海外メジャーを過去20年以上に渡り取材。

日本人のマスターズ

日本勢のオーガスタでの戦いを振り返る

日本人のマスターズ出場は1936年の第3回大会に遡る。

ここでは日本人のオーガスタでの戦いを振り返ってみよう。

©Getty Images

青木功(あおき・いさお)
マスターズ出場14回。1985年16位タイなど。1975年には「パー3コンテスト」で米国籍外選手として初優勝。

©Getty Images

尾崎将司(おざき・まさし)
マスターズ出場19回。1973年8位タイと、アジア人では初のトップ10入り。2000年まで出場した。

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中嶋常幸(なかじま・つねゆき)
マスターズ出場11回。1986年8位タイ、1991年10位タイ。現在では毎年マスターズのTV中継でおなじみ。

リトル・コーノのイーグル、量産ジャンボ尾崎の初のトップ10入り

日本人がマスターズに出場したのは、1936年の第3回大会から。

戸田藤一郎と陳清水が初めてオーガスタの森でプレーする。

この後57年のカナダカップで優勝した中村寅吉・小野光一のコンビが、翌年のマスターズに招待されたが成績は振るわず、中村が41位、小野は予選落ちに終わっている。

この大舞台でその存在を強くアピールできた、初めての日本人選手は河野高明だろう。

164センチ、60キロと小柄ながら、イーグルを量産し「リトル・コーノ」と呼ばれた。

初出場の69年の大会第3日。17番のパー4(400ヤード)の第2打を、6番アイアンで打って直接カップインさせるイーグル。

このホールのイーグルは大会史上初だった。この年から5回連続の出場で河野は1、2、15、17番で計ひとつずつ、計4個ものイーグルを奪っている。

日本が誇るAONも苦戦、立ちはだかるオーガスタの壁

その河野の出場最後の年、2度目の挑戦で初の日本人トップ10フィニッシュを演じるのが尾崎将司。

79年大会の初日はJ・ニクラスと並んで2位タイの好発進。通算1オーバーの8位に食い込んだ。

この時点ではジャンボのマスターズ優勝が期待されたが、その後はスランプに陥った。

87年から復活し再挑戦となったがこの年は青木功、中嶋常幸と当時最強の日本人トリオ「AON」が全員予選落ちと深刻な事態が発生した。

尾崎はこの年の暮れ、反社会的勢力との交際をデカデカと報じられ、マスターズの出場を辞退する羽目にもなった。

青木もすでに78年の世界マッチプレーや82年のハワイアンオープンで日本人初の米ツアー制覇を成し遂げていたものの、マスターズでは振るわず85年の16位が最高位に終わった。

中嶋は86年に優勝争いを演じ、8位に入賞している。

筆者はAON3人が揃って予選落ちした87年から4年連続取材し、その後も数回オーガスタを訪れているが、日本人選手のこの大会に対する強い思い入れを感じることが多かった。

特に88年、中嶋からこんな話を聞いたことがある。

「オーガスタは最初の挑戦からいろいろあっただけに、もし2打差くらいで18番のウイニングパットとなった時に、涙でカップが見えなくなっちゃうんじゃないかと思うんだよ」。

残念なことにその瞬間を見ることはできなかったが、今でもマスターズの季節がやってくると、思い出すシーンだ。

日本人の最高位は伊澤利光と片山晋呉の4位。

片山晋呉は09年は首位と2打差の4位だったが、この後は燃え尽き症候群のような状態に陥り、シーズン未勝利に終わっている。

今年は松山英樹&今平周吾の2人がオーガスタに挑む!

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松山英樹(9度目の出場)

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今平周吾(2度目の出場)

2010年代に6年連続8回の出場で、日本人初のローアマ(2011年=17位)、ベストフィニッシュも5位(2015年)と健闘している松山は、今年も日本人最高位の世界ランクで出場する。

昨年は32位と不本意な成績に終わったが、秋のZOZOチャンピオンシップではマスターズで復活したタイガー・ウッズと最後まで優勝争い。

日本のファンの前で本来のゴルフができたことで、確実にいい時の松山に戻ってきている。

9回目の挑戦となる今年、その実力が額面通りに発揮されれば優勝争いは当然の成り行き。

平常心でグリーンジャケットに袖を通して欲しいものだ。

日本の賞金王、今平周吾にとっても2度目のマスターズ。

あのジャンボ尾崎も初出場で予選落ちの翌年、8位の好フィニッシュを演じている。

昨年、海外メジャー4試合では全て予選落ちに終わっているが、国内の強さを海外でも発揮して欲しい。

日本人のマスターズ史

©Getty Images

5年連続でマスターズ出場を果たした河野高明。リトル・コーノとして愛された。

選手(順位)
1936陳 清水(20位T)、戸田藤一郎(29位T)
1958中村寅吉(41位)、小野光一(予落)
1963小野光一(予落)
1964石井朝夫(40位)
1965石井朝夫(26位T)
1966石井朝夫(予落)
1967杉本英世(予落)
1968杉本英世(35位T)
1969河野高明(13位T)
1970河野高明(12位T)
1971河野高明(予落)
1972河野高明(19位T)、尾崎将司(予落)
1973尾崎将司(8位T)、河野高明(51位T)
1974尾崎将司(予落)、青木 功(予落)
1975尾崎将司(43位T)、青木 功(予落)
1976尾崎将司(33位T)、村上 隆(37位T)
1977青木 功(28位T)、村上 隆(予落)
1978尾崎将司(予落)、青木 功(予落)、中嶋常幸(予落)
1979青木 功(34位T)、尾崎将司(予落)
1980中村 通(予落)、青木 功(予落)
1981青木 功(45位T)、鈴木規夫(45位T)
1982羽川 豊(15位T)、青木 功(予落)
1983中嶋常幸(16位T)、青木 功(19位T)、羽川 豊(36位タイ)
1984青木 功(25位T)、中嶋常幸(33位T)
1985青木 功(16位T)、中嶋常幸(47位T)
1986中嶋常幸(8位T)、青木 功(予落)
1987中嶋常幸(予落)、尾崎将司(予落)、青木 功(予落)
1988青木 功(25位T)、中嶋常幸(33位T)
1989尾崎将司(18位T)、中嶋常幸(予落)
1990尾崎将司(23位)、尾崎直道(33位T)
1991中嶋常幸(10位T)、尾崎将司(35位T)
1992中嶋常幸(予落)、尾崎直道(予落)
1993尾崎将司(45位T)、尾崎直道(45位T)
1994飯合肇(41位T)、尾崎将司(予落)
1995尾崎将司(29位T)、中嶋常幸(予落)
1996尾崎将司(予落)、東 聡(予落)
1997尾崎将司(42位)、金子柱憲(予落)
1998尾崎将司(予落)、丸山茂樹(予落)
1999丸山茂樹(31位T)、尾崎将司(予落)
2000尾崎将司(28位T)、丸山茂樹(46位T)、尾崎直道(予落)
2001伊澤利光(4位T)、片山晋呉(40位T)、丸山茂樹(予落)
2002丸山茂樹(14位T)、片山晋呉、谷口徹、伊澤利光(予落)
2003片山晋呉(37位T)、丸山茂樹、谷口徹、伊澤利光(予落)
2004伊澤利光(予落)、丸山茂樹(予落)
2005片山晋呉(33位T)、丸山茂樹(予落)
2006片山晋呉(27位T)、丸山茂樹(予落)
2007片山晋呉(44位T)、谷原秀人(予落)
2008片山晋呉(予落)、谷口 徹(予落)
2009片山晋呉(4位)、今田竜二(20位T)、石川 遼(予落)
2010池田勇太(29位)、石川 遼(予落)、片山晋呉(予落)
2011石川 遼(20位T)、*松山英樹(27位T)ローアマ、池田勇太、藤田寛之(予落)
2012*松山英樹(54位)、石川 遼(予落)
2013石川 遼(38位T)、藤田寛之(予落)
2014松山英樹(予落)
2015松山英樹(5位T)
2016松山英樹(7位T)
2017松山英樹(11位T)、池田勇太(予落)、谷原秀人(予落)
2018松山英樹(19位T)、小平智(28位T)、池田勇太、宮里優作(予落)
2019松山英樹(32位T)、*金谷拓実(58位T)、小平智(61位タイ)、今平周吾(予落)

*はアマチュア

Text/Akira Ogawa

小川 朗
東京スポーツに入社後、ゴルフ担当を長年務め、海外特派員として活躍。男女メジャー取材も25試合に上る。

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