タイガー・ウッズが 帰ってきた!
「PNC選手権」出場時のタイガーのショット。10ヶ月前の事故で、足を切断する可能性もあったとは思えない回復力だ。
片足切断の可能性もあったタイガー。
息子と「PNC選手権」に出場し2位に入賞という快挙!
ショット間は、カートに乗って移動。まだ全ホールを歩くほどには回復していないという。同乗しているのは、娘のサム・アレクシスさん(中央)とガールフレンドのエリカ・ハーマンさん(左)。
2020年11月の「マスターズ」以来初めてプレー姿を披露
昨年の2月末、タイガー・ウッズがロサンゼルス郊外で大事故に遭い、瀕死の重傷という衝撃のニュースが世界中を駆け巡ってから、約10か月。
一時は片足切断の可能性もあったというが、まさか彼が再び年内に、プレーできると誰が予想しただろうか?
親子、あるいは孫とペアを組んで出場するPGAツアー非公式試合「PNC選手権」が12月にフロリダで行なわれ、タイガー・ウッズが息子のチャーリーくんとともに出場。ジョン・デーリー親子チームに2打差の2位でフィニッシュし、世界中のゴルフファンを沸かせた。
タイガーはその試合の前に、自身がホストを務める「ヒーロー・ワールドチャレンジ」(PGAツアー非公式試合)に姿を見せ、記者会見などには応じていたが、プレーすることはなかった。
「今回のリカバリーは今まで以上に大変だった。
もともと左ヒザや腰、そして今回は右足、と数々の手術を繰り返してきたが(過去彼は、ヒザを5回、腰を5回手術している)、今回は3か月動けなかったし、いかに苦労したかは説明が難しいほどだ。
ただ横になったまま、外に出られる日を楽しみに待つばかりの日々を送っていたんだ。
まずは外に出る、ということが僕の目標だった。
今はやっと車椅子や松葉杖を使うことなく歩けるようになった。
すごく苦労したよ。外科医や看護師、友達や家族のおかげだ。本当に辛い時もあったけど、みんながベッドの側にいてくれて、元気づけてくれた。
痛みを克服できたのも彼らのおかげ。
完全に回復するまで、まだまだこれからも長い道のりだけどね」
タイガーの話によれば、自宅に戻ってきてから、いかに自分の家が大きいか、を初めて自覚したのだという。
広大な家の中の移動も、最初は休み休み、だったそうだ。
家族やガールフレンドのエリカ・ハーマンさん、友人たちが元気づけ、助けてくれたおかげで、お先真っ暗な状態から少しずつ光明を見出し、ポジティブマインドで回復していったタイガー。
最近では彼のコース「メダリスト」で、普段使っているティーよりも前のティーからプレーするのがお気に入りだと言う。
まだまだ足に痛みはあり、18ホールを歩き通すことも、バックティーから打つこともできない状態で、ツアーで戦えるレベルではない。
しかし、カートに乗りながら、レギュラーティーからプレーを楽しむレベルまでには戻っているのだ。
恐るべし! タイガー、である。
レギュラーティーからプレーをエンジョイ
「PNC選手権」に2年連続出場を果たしたタイガー・ウッズ(右)と、息子のチャーリー・アクセルくん(12歳)。
PGAツアー非公式試合だが、タイガーの事故後初のプレーということで、メディアも大勢かけつけた。
タイガーの望みはベン・ホーガン
昨年末に46歳になったタイガーだが、自身の年齢や体の変化、今後のゴルフ人生について、どう思っているのだろうか?
「腰と同様に、この足も、もう元には戻らないだろう。
歳も取っているし、もはや若くはない。
そういうことを総合して考えると、フル参戦したり、練習をこなすことはもうしたくないんだ。
年に何試合か選んで、試合に出るという感じになると思う。(ベン・)ホーガンがそうしたようにね。
生きているだけでもラッキーだったが、その上、手足もあるんだから幸せだ。
僕を世話してくれる人がいて、義足ではなく自分の足で歩ける。
これほど素晴らしいことはないよ」
ベン・ホーガンはPGAツアー64勝、メジャー9勝を挙げており、彼もまた車の運転中にバスと正面衝突し、瀕死の重傷を負った。
骨盤の複雑骨折、鎖骨や左足のくるぶし、肋骨などの骨折に加え、身体各所に血栓ができ、主治医からは二度と歩くこともできないだろうと言われたが、怪我を克服し、大事故から11か月後に「ロサンゼルスオープン」で復帰し、2位に。
その5か月後の「全米オープン」で優勝を果たした。
当時ホーガンは37歳。
46歳のタイガーとは回復力や年齢的な体の衰えの点で、全く同じとは言い難いが、今のタイガーを勇気づけ、モチベーションの源になっているのは、間違いなくホーガンの復活劇であろう。
自分もホーガンのように大怪我を負ってもトーナメントに出場したい、という気持ちを強く持っているはずである。
タイガーは「試合には優勝するためにきている」と長年言い続けてきたが、今後のゴルフ人生についてどう考えているのだろうか?
「自分が素晴らしい人生を送るために、世界のベストプレーヤーと戦う必要はない。自分が〝エベレスト〟に登れる体に戻れるかと言われればそうではないだろうし、それでもいいと思っている。それは現実的ではない」
以前のように「優勝のために試合に出る」という感じではないようだが、かといって人生の余興のつもりで今後の試合に出場したいわけでもないだろう。
「(今年は)セント・アンドリュースの全英オープンに出たいね。それは間違いない。
ピーター・トムソンがまだ生きていた時に、全英オープンのチャンピオンズディナーで隣に座り、彼の話を聞いていたが、すばらしい話だった。
それはマスターズのチャンピオンズディナーのような感じで、ディナーはプライスレスな体験。
だからできれば(今年の)全英オープンには出たい。
試合はどこにも逃げないが、自分がそこに到達するだけだ」
「ショートゲームに関しては問題ないが、マスターズで優勝するにはもっと大きなゲームができないとダメ。
それにはまだまだ、遠い道のりだ。
もしツアーが距離を伸ばすのではなく、短くしながらも戦略的に難しいコースで試合をやってくれるなら、僕にとっては問題ない。
もし(昔のように)木製のシャフトやフェザーボールに戻して試合をやるというなら、僕はOKだ。最高だよ」
「ベン・ホーガンのように試合を選びながらプレーしたい」タイガー・ウッズ
「PNC選手権」最終日は11連続バーディを決め、グータッチ連発だったウッズ親子。
南フロリダのジュニアの試合にも出場しているチャーリーくん(左)。2020年「リンクスツアー・ジョナサンズランディング・オールドトレイル」で優勝している。
最終日のホールアウト後にハグするウッズ親子。11連続バーディを含む57という爆発的なスコアで、ジョン・デーリー親子チームに2打差の2位に入った。
父のショットを見守るチャーリーくん(右)。足に痛みを抱え、本調子ではないため、体の動きに硬さはあるものの、ここまでスイングできるのは奇跡だ。
「競技に対する情熱は失われない」
テーラーメイドの最新モデル「Stealth Plus」を投入したタイガー。「重心が前に移動したので、ボールを曲げられるようになった。これでドローだけでなくカットボールも打てるようになった。カットに打っても、飛距離が落ちないね。色も気に入ってるよ」
現在のタイガーのゴルフ力
今後の予定に関しては、まだトーナメントでプレーできる状態ではないといい、果たしてそのレベルまで到達すること自体も自分が希望しているのかどうか、わからないという。
だが、「PN C選手権」に出場し、プレーしたタイガーは以下のように語っている。
「プレーを再開したばかりだが、まだ技術はあるし、感覚もある。
時々スピードやショットの感覚が合わないこともあるし、自分が思うような弾道が描けていないこともあるから、いろいろと細かいところは調整が必要だ。
それに、エネルギーを温存しながらプレーしなければならないし、以前のようにパワフルではない。
コースを歩くこともままならず、我慢ができない」
回復して、ゴルフの練習やトレーニングを積み、トーナメントでプレーできるようになるためには、まだまだやることがたくさんあり、リハビリには時間もかかるという。
だが、息子のチャーリーと2日間でノーボギー、という素晴らしいプレーを披露し、最終日には11連続バーディを奪取した。
そして、自分が生涯持ち続けてきた「競技に対する情熱」はまだ失っていないことを実感。
日々のリハビリはきつく、時にはやりたくない日もあるそうだが、競技に対する情熱を思い出しながら、周囲の励ましも手伝って、タイガーは再びトーナメント出場に向けて、一歩一歩歩んでいるところである。
Text/Eiko Oizumi
大泉英子
「ゴルフ・グローバル」編集長。国内男子、海外ツアー取材をメインに、男・女・シニア、海外メジャー取材は100試合以上。全米ゴルフ記者協会、日本ゴルフジャーナリスト協会会員。
Photo/Getty Images, PNC Championship/IMG