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オリンピックゴルフ現地レポート
「愛国心」と「父の夢のリベンジ」 2つをかけて戦ったシャウフェレ

©️IGF

新型コロナウイルス蔓延の中、1年遅れで開催された2020東京オリンピック。ゴルフが五輪競技に復活し、1900年のパリ大会から今回で4回目を迎えた。直前でコロナに感染し、欠場せざるを得ない選手もいたものの、多忙なスケジュールを縫ってメダル獲りにやってきた各国男女の熱い戦いは見応えがあった。五輪ゴルフ取材2回目の「ゴルフ・グローバル」編集長のO嬢が、現地体験情報をレポート!

高額賞金もポイントも加算されない五輪で、選手たちが目指すもの

新型コロナウイルス蔓延の影響で1年遅れの開催となった東京オリンピック。「リオ五輪」に続き、4回目となったゴルフ競技は、埼玉県川越市の名門、霞ヶ関カンツリー倶楽部で行なわれ、男女とも1打を争う白熱した戦いが繰り広げられた。ツアー競技のように高額賞金もポイントも加算されない五輪で選手たちが目指したものとは……?

金メダリストのザンダー・シャウフェレ(中央)と父のステファン・シャウフェレさん(右)。過去、10種競技の陸上選手としてオリンピックを目指していたステファンさんだが、交通事故で左目を負傷。オリンピアンへの道を諦めた。左はキャディであり友人のオースティン・カイザーさん。ザンダーとは10年来の付き合いだ。 ©️IGF 

人種のグローバル化が垣間見られる五輪

男子ゴルフは、米国のザンダー・シャウフェレが金メダル、スロバキアの45歳、ローリー・サバティーニが銀メダル。7人のプレーオフの末勝ち残った台湾のCTパンが銅メダルという結果で幕を閉じた。オリンピックに出場する選手たちは皆、母国を代表することを誇りに思い、母国にメダルを捧げたいという強い思いで戦っているが、今回のメダリストたちのラインナップを見ると、人種のグローバル化が進む昨今ならではの特徴がよく現れている。

 シャウフェレの場合、自身は米国生まれ、米国育ちの米国人であるが、父ステファンさんはドイツ人とフランス人のハーフ、母ピンイーさんは日本育ちの台湾人という多国籍のルーツを持つプレーヤーである。彼自身も「僕はアメリカ人だが、とてもインターナショナルな分、いろいろな国の違う文化を学んできたし、他の人よりもいろいろな文化を理解できる」と語っている。祖父母は今でも東京・渋谷に住んでいるが、彼が子供の頃、祖父母がサンディエゴの自宅にやってきて、スーツケースを開けると日本の匂いがしたという。人間は、匂いを嗅いだときに、急に幼い頃の記憶が蘇ることがあるが、彼の場合も同様で、子供の頃から嗅ぎ慣れた祖父母の運ぶ日本の匂いに居心地の良さを感じながら、五輪で戦えたのではないか、と思う。

ザンダー・シャウフェレ。祖父母の住む日本で金メダル獲得
(中央)金メダル/ザンダー・シャウフェレ(米国)。1993年10月25日生まれ。米ツアー4勝。世界ランク5位。2015年プロ入り。2017年PGAツアーで初優勝を遂げ、その年2勝してルーキー・オブ・ザ・イヤーに輝いた。 (右)銀メダル/ローリー・サバティーニ(スロバキア)。 1976年4月2日生まれ。米ツアー6勝。もともと南アフリカ国籍だったが、2018年、再婚したマルチナ夫人と同じスロバキア国籍に変更。スロバキア代表としてオリンピック出場を果たした。 (左)銅メダル/ CTパン(台湾)。 1991年11月12日生まれ。アマチュア時代は世界アマチュアランキング1位になったことも。2015年プロ入り。2019年「RBCヘリテージ」で米ツアー1勝。2019年「プレジデンツカップ」出場。 ©️IGF

「僕は日本が大好き。祖父母は東京に住んでいるから、昔からよく日本に来ては、文化や食事を楽しんでいたんだ。祖父母は(今回の金メダル獲得を)とても喜んでくれていると思う。日本で松山英樹よりも僕を応援してくれた唯一の人たちじゃないかな。父も僕が金メダルを獲って、肩の荷が下りただろうね。彼は有望な10種競技の選手で、オリンピック出場を目指していたんだけど、トレーニングに向かう途中に事故に遭って、長い間の夢だったオリンピック選手にはなれなかったんだ。そんな父は僕に良いゴルファーになれるポテンシャルがあると見抜き、全てを捧げてくれた。こうして彼と金メダルを獲ることができ、本当にハッピーだ」

祖国・南アではなくスロバキア代表になった理由

ローリー・サバティーニも国籍やルーツに多様性を持つ選手だ。
 彼の家系はイタリア、スコットランド系で、本人は南アフリカ・ダーバン生まれ。国籍は南アのまま、米国のアリゾナ大に進学し、プロ入り後はPGAツアーメンバーとなったが、米国市民権、英国のパスポートも持っているという。そして2018年12月に南アフリカ国籍を所持しつつも、妻のマルチナさんがスロバキア人であることから、スロバキア国籍を取得。スロバキア代表として五輪出場を果たした。ちなみにマルチナ夫人のいとこは現在、スロバキアゴルフ協会の会長を務めており、国籍登録変更の際、尽力したと伝えられている。

「南アフリカは国を代表して五輪に出場できるゴルファーがたくさんいるが、スロバキアには誰もいない。そこで僕は、スロバキアのジュニアゴルファー育成のために国籍を変更し、スロバキア代表として出場したんだ。こうしてスロバキアを代表し、国旗を掲揚することができて誇りに思う」

メジャー優勝と五輪金メダル
どっちが欲しいかは人それぞれ

優勝でなくても3位以内に入れば祝福される五輪

1900年「パリオリンピック」で初めて競技種目入りし、190

4年の「セントルイス」大会まで2回行なわれたゴルフ競技。20

16年の「リオ五輪」で112年ぶりにゴルフが復活し、今回で4回目を数えるが、五輪ゴルフ取材で思うことがある。優勝者だけが表彰され、祝福される通常の試合やメジャーと違い、2位、3位でも銀メダリスト、銅メダリストとして祝福される五輪を、選手たちはどのように感じているのだろうか、と。これに関しては、人それぞれ意見があるようで、金メダリストのシャウフェレは「金メダルを獲ったということはチャンピオンだということ。僕は賞金やメダルのためにプレーしているわけではない。相手をやっつけ1位になったということだ」と語っている。女子で銀メダルを獲った稲見萌寧は、「通常のトーナメントでは、準優勝、3位が表彰されることはない。それに周囲の人の期待や、国の代表としての責任感が五輪は全然違う。銅メダルよりは、銀メダルが獲れてよかったですけどね」と語った。また、銅メダルのリディア・コーのように「本当は違う色のメダルが欲しかったけど、ニュージーランドにメダルをもたらすことができて誇りに思う」と、色はともかく母国にメダルをもたらすことが第一とする選手もいた。

 また、メジャー優勝とオリンピック金メダル、どっちが欲しいかという問いもある。「比較できない」と英国のトミー・フリートウッドは言い、ノルウェーのビクトル・ホブランは「僕はメジャーの方が大事だけど、ノルウェーのゴルフを知らない人たちには、メジャーよりも五輪でメダルを獲った方がいいと思う人も多いだろう」と語る。昔からジャック・ニクラスやタイガー・ウッズらのメジャーでの活躍ぶりを見て育った選手たち(特に40代以上の選手)にとっては、五輪の歴史は浅く、自分が目指してきたもの(メジャー優勝)とは違うということで、出場そのものに興味がない選手がいることは確かだが、コリン・モリカワが言うように比較的若い年代の選手の方が五輪に対する意欲が強いかもしれない。

最終日のプレーが終わり、シャウフェレ(左)の金メダルを祝福する松山英樹。©️IGF
最終ホールを終えて銀メダルを決めたローリー・サバティーニ。愛妻マルチナさんがキャディを務め、労をねぎらいあった。 ©️IGF
CTパンも愛妻ミッシェルさんがキャディを務めた。ラウンド中、CTはクラブを何本か持ち、少しでもバッグが軽くなるよう、優しい配慮を見せていた。©️IGF
最終日のバック9は「ローラーコースターのようだった」と語るシャウフェレ。しかし終始落ち着いてプレーすることを心がけ、1打差で逃げ切った。©️IGF
 

Text/Eiko Oizumi

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