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欧米ツアーの最大の驚異 ノーマンとサウジが世界のゴルフ界を大きく変える?

サウジアラビア&グレッグ・ノーマンが世界のゴルフに激震

©Getty

昨年10月末、元世界ランク1位のグレッグ・ノーマンが設立した新会社が、アジアンツアーと2億ドル(約226億円)を超える10年契約を発表した。

ノーマンのバックにはサウジアラビアの投資ファンドがついており、今後10年間で10試合の新規試合を開催。

2月上旬には元欧州ツアーの「サウジインターナショナル」がアジアンツアーとして開催され、世界のトッププロたちも多数参戦することになっている。

スター選手を巨額の契約金で囲い込み、新ツアー構想も打ち立てているサウジ&ノーマン。

今後世界のゴルフはどのように変わっていくのだろうか?

「眠れる巨人」を開拓し世界のプロゴルフ界に新たな機会を創出

グレッグ・ノーマンには30年前から、ある構想が頭にあった。「ワールドツアー」の設立である。
この構想は、現存のWGCとして一部実現したものもあるが、PGAツアーの賛同を得られず頓挫した。だが、この度サウジアラビアから莫大な資金を得て、現実味を帯びてきたのだ。

サウジアラビア政府系の世界最大級の投資ファンド「パブリック・インベストメント・ファンド」が過半数の株式を保有する「LIVゴルフインベストメンツ(以下LIV)」という新会社が設立され、ノーマンがCEOに就任。同社はアジアンツアーに2億ドル(約226億円)以上を投資し、今後10年間で10試合の新規大会を開催予定であることを発表したのだ。
2022年は年間25試合を開催し、過去最高の賞金額が見込まれている。

「これはまだ始まりに過ぎない。LIVは世界のゴルフの枠を越えて、新たな機会を創出するための主要な資金を確保している。アジアンツアーは眠れる巨人。未開拓で、重要な可能性を秘めている」(ノーマン)

今まで温めてきた構想が、サウジの豊富な資金を得ることで、ようやく実現に漕ぎ着けたのだ。  

かつてサウジアラビアは、2020年に「プレミアゴルフリーグ」という新しい世界ツアーの構想を発表。
欧米両ツアーはこれに激しく対抗し、この構想は消滅したかに見えた。
しかし昨年の5月には「スーパーゴルフリーグ」の名前で、再び新ツアー構想が浮上。
サウジはノーマンと手を組み、コロナで2020年3月以降1試合も開催できず困窮していたアジアンツアーとタッグを組んで、新たなゴルフの世界を構築している。

世界最高峰の欧米両ツアーが、今最も警戒している「サウジ&ノーマンの新興勢力」について特集する。

Text/Eiko Oizumi
Photo/Getty Images, Yoshitaka Watanabe, Eiko Oizumi

世界のトッププロを招致しサウジのゴルフ熱を上げることが狙い

昨年までは欧州ツアーの1試合だった「サウジインターナショナル」。今年はアジアンツアーとして開催される。開催コースは、紅海に面したロイヤル・グリーンズ・ゴルフ&カントリー・クラブ。

ゴルフ発展途上国が世界のゴルフの震源地に

国土が約215万平方キロメートルのサウジアラビアは、中東最大で、アラブ世界では2番目に大きい国である。
アラビア半島の大部分に及ぶこの国は、正式にはサウジアラビア王国(以下サウジ)として知られており、人口は約3500万だ。
王国に最初のゴルフ場が誕生したのは半世紀以上前のことだが、ゴルフに触れている人々はごく一部に過ぎない。

サウジで石油が初めて発見されたとき、砂のフェアウェイと石油で固めたグリーンという、砂のコースが出現した。
これは、「サンドブラウン」として知られている。

最初の芝生のコースが造られたのは1980年代で、本格的なチャンピオンシップコースが初めて開設されたのはつい4年前のこと。
ジェッダ空港から車で20分の場所に位置するロイヤル・グリーンズ・ゴルフ&カントリー・クラブだ。
現在、サウジには9つのゴルフ場があり、ゴルフ人口については、登録ゴルファーが3000~5000人と推定されている。このうち、サウジ出身者は200人に満たない。

このように、まだまだ未熟な状況にもかかわらず、この数か月間でゴルフに関する激しい論争に火花を散らしたのは、地球上の他のどの国でもない。サウジだ。

議論の中心となっているのは、グレッグ・ノーマンがCEOに就任した、サウジのパブリック・インベストメント・ファンド(PIF)から資金提供を受けている「LIVゴルフインベストメンツ(以下LIV)」による、アジアンツアーへの2億ドル(約226億円)の投資である。

簡単に言えば、ノーマンと彼のチームが、プロゴルフを変えている最中だということだ。
政治が介入しており、予想どおりにPGAツアーやDPワールドツアー(旧欧州ツアー・以下DPWT)などのゴルフ組織や、サウジの人権の歴史に抗議している人々からの反発が出ている。
そして同じく予想どおりに、ノーマンはサウジの「スポーツウォッシング」(国家や団体がスポーツを利用して、自らのイメージを高めようとしたり、不都合な事実から目を背けさせようとすること)の疑惑を激しくはねつけた。

「私は、(サウジの)スポーツウォッシングのために利用されているわけではない。サウジに行ったことがあるし、そこで起きている変化も目の当たりにしてきた」と、ファイナンシャル・タイムズ紙のインタビューで述べたと伝えられている。

「どの国にも恐ろしいことを行なってきた過去がある……例えば、アメリカの人種差別がそうだ。今も深く根付いていて本当に醜い」

「過去に行なった間違いは、この先、正すことができる。過去のことで状況や人を判断せず、現在の事実がどうであるかで判断すべきだ」
と、ノーマンは語る。

サウジゴルフ連盟のマジェッド・アルソローCEOは、「サウジインターナショナル」をアジアンツアーの公式競技として10年間開催することを発表。

アジアンツアーが得た巨額の投資と、欧州ツアーからの三行半

アジアンツアーCEOのチョ・ミンタン氏は「アジアンツアー史上最大の投資で、プロゴルフ界にとっては歴史的なこと。選手たちがプレーする新たな機会を作り、アマチュアゴルフにとっても画期的なことだ」と語っている。

アジアンツアーからすれば、新型コロナウイルスの大流行で18か月間、試合が開催できず、苛立たしい状況にあったため、投資を緊急に必要としていたというのが正直なところだ。

アジアンツアーのCEO兼コミッショナーのチョ・ミンタン氏はその事実を隠そうとはしていない。

「もし、LIVからの投資がなかったら、私たちはツアーを再開させようと慌てふためいていたことだろう。今回の話は私たちにとって、恵みのようなものだった。10年契約のお陰で、ツアーの予定を立てることができ、ツアーを育てる自信と安心を与えてくれている」

だが、その安心感を得る一方で、かえって高くついてしまったこともある。

DPWTは20年以上にわたってアジアンツアーと提携し、多くの共催試合を開催してきたが、今回のことで関係が全て絶たれてしまった。

しかし、DPWTの最高責任者であるキース・ペリー氏は、現在もアジアでの足場を固めている最中であり、両ツアーの衝突はあるものの、DPWTが同じアジアで試合を開催することに良心の呵責を感じていない。
最近では、DPWTの試合を日本で開催することが発表された(日本は、DPWT史上51番目の開催国になる)。
茨城県小美玉市のPGM石岡ゴルフクラブで開催される「ISPS HANDA 欧州・日本どっちが勝つかトーナメント!(2022年4月21~24日)」である。

ペリー氏は「『ヒーロー・インディアンオープン』を2月に再び開催すると発表したが、「アジアは引き続き、DPWTにとっての重要な地域。
日本で初めて試合を開催するのも、その表れだ」と語った。

サウジのゴルフ文化を育てる役目

サウジアラビアでは、ジュニアゴルファーや女性ゴルファーの育成にも力を入れている。

こうしたゴタゴタは別として、一方では、サウジ社会にゴルフを取り込むことを目的とした素晴らしい活動も行なわれている。
サウジゴルフ連盟は、ゴルフ界がこれまで見たこともないような、最も広範囲にわたる開発プログラムを実施することになっている。

そしてサウジでゴルフを定着させるために、数々のすばらしい試合や世界初の環境に配慮したゴルフのエコシステムを構築することになっている。

「私が任されている業務の中でも、おそらく業界内で最も心躍る仕事だ。サウジは大きく変化を遂げているが、とりわけゴルフは、その最前線に立つすばらしいチャンスだ」とサウジゴルフ連盟・最高執行責任者のエド・エドワーズ氏は語っている。

自分でも認識しているように、ゴルフを現代サウジ文化に馴染ませることが、彼の最大の任務である。

「サウジでゴルフを普及させ、ゴルフ人口を増やし、ゴルフに夢中にさせることが目的だ。ゴルフを学校のカリキュラムの一部に組み込むことができたが、既に2万人以上の子どもたちが申し込んでいる」

サウジゴルフ連盟の5年計画では、30万人を超える子どもたちがゴルフを始めると想定されているが、これはほんの始まりに過ぎない。
地元の市営コースやパー3コースで、手ごろな料金でゴルフ体験ができるようにし、サウジ全土にわたって誰もが参加できる開発プログラムを実施するそうだ。
そしてそれに合わせてゴルフアカデミーを創設し、技術指導できるようにするのだという。

また、今後10年間でゴルフにまつわる仕事が何千と増えることを想定し、サウジ国民がコーチングやゴルフ場管理、土壌学の研究など、ゴルフを通じて実行可能な仕事の機会を得られるよう、道筋を作ることもサウジゴルフ連盟にとってのもう一つの重要な分野である。

この「サウジでのゴルフ文化の創造」に大きな役割を果たすのが、賞金総額500万ドル(約5億7000万円)の「サウジインターナショナル」だ。
この試合はアジアンツアーの2022年開幕戦となるが、この試合に選手たちに出て欲しくないPGAツアーとDPWTに逆らい、多くの選手たちが出場する予定である。
ブライソン・デシャンボーやダスティン・ジョンソン、フィル・ミケルソン、ババ・ワトソン、アダム・スコット、セルヒオ・ガルシア、ザンダー・シャウフェレらが出場を表明している。
エドワーズ氏は、「世界最高の選手たちをこの試合に連れてくることで、今までゴルフに関心がなかった人たちを呼び込むことができる」と語っている。

Text/Spencer Robinson

スペンサー・ロビンソン
(シンガポール)

ゴルフライター、ブロードキャスターとしてシンガポールを拠点に活動。アジアゴルフインダストリーフェデレーション最高コミュニケーション責任者。

30年間温めてきた「世界ゴルフツアー」の構想をようやく実現するノーマンの執念

©Getty Images

2021年12月に開催された、グレッグ・ノーマン(中央)がホストを務める「QBEシュートアウト」で優勝したジェイソン・コクラック(左)とケビン・ナ(右)も、「サウジインターナショナル」に出場する。

グレッグ・ノーマンがやりたかったこと

グレッグ・ノーマンは常に、少人数のプロで高額な賞金を争うトーナメントを呼び物にした「ワールドゴルフツアー」の夢を持っていた。
彼がこの構想を提案したのは、1994年のことである。
この構想は、後にPGAツアーのコミッショナーとなるティム・フィンチェム氏から反対され、頓挫してしまった。
しかし、PGAツアーからの再度の反対にもかかわらず、ノーマンの夢は今や実現されそうである。
66歳の彼は、もはや試合でプレーすることはないが、依然としてゴルフ界において大きな存在だ。

ノーマンは、サウジゴルフ連盟の顔として選ばれた。
彼は、最近提案されているスーパーゴルフリーグ(SG L)を管理する会社の「LIVゴルフインベストメンツ(以下LIV)」CEOに就任したことを公表したのだ。

LIVは、サウジアラビア政府系のパブリック・インベストメント・ファンド(以下PIF)の資金提供を受けている。
PIFの価値は4500億ドル(約51兆円)で、同社の膨大なポートフォリオには大手の一流企業が含まれている。

PIFは、サウジが「ビジョン2030」を推し進めるために、スポーツの一つとしてゴルフを選択した最初の頃から、積極的に関与してきた。
2019年から始まった「サウジインターナショナル」の大手スポンサーを務め、サウジ内の約15の新規ゴルフコース開発も支援している。
ノーマンはプロジェクトの一つの設計に関与しており、ジャック・ニクラスも同様にゴルフ場設計に関わっている。

LIVは、ゴルフにおける新規投資の手始めに、10年間で2億ドル(約226億円)という多大な額でアジアンツアーと契約を結んだ。
同ツアーはまた、新規試合を10試合、100万ドル(約1億1300万円)規模の試合として毎シーズン開催する。
アジアンツアーは、こうした新規試合はSGLの一環ではないと主張しているが、ツアースケジュールの発表は、2月の第1週に開催される「サウジインターナショナル」の期間中に行なわれると予測されている。

サウジゴルフ連盟の計画の話を進める前に、まずは過去、何があったのかをおさらいしておこう。

SGLが、世界各地でプレーしている世界のトッププロたちを呼び物にした一連のトーナメント計画を公開するや否や、欧米ツアーは、自分たちが過去築き上げてきたものをSGLが奪い去ろうとしていると感じ、拒否している。
「サウジインターナショナル」は、過去にダスティン・ジョンソンやブルックス・ケプカ、ブライソン・デシャンボー、フィル・ミケルソンらを招待しているが、彼らの多くはトーナメントと長期契約を結んでいる。

アジアンツアーと関与することは、常にサウジゴルフ連盟の計画の一環であったが、旧欧州ツアー(DPWT)と関係が切れてしまったことで、彼らは守備範囲を広げざるを得なくなった。
「サウジインターナショナル」は、今やアジアンツアーの新たな2022~23年シーズンの開幕イベントとなり、正当に世界ランキングの対象試合になったのだ。
だがその見返りとして、アジアンツアーはおそらくSGLの一部となる試合を認可せざるを得ないだろう。

アジアンツアーは、欧米両ツアーから嫌われてしまった。
アジアンツアーは、新型コロナウイルスの大きな打撃を受け、20か月もの間、一度もトーナメントを開催することがなかったが、両ツアーからは支援の申し出はない。
サウジゴルフ連盟は、そんなアジアンツアーに手を差し伸べたが、これを拒むのは不可能だった。

「アジアンツアーは眠れる巨人。大きな未開発の可能性があり、新たなマーケットが広がる」

©Getty

オーストラリアのグレッグ・ノーマンは、ホワイトシャークのニックネームで知られ、現在66歳。世界で68勝、メジャー2勝。
欧米両ツアーで賞金王になり、世界ランク1位にも輝いたレジェンドだ。
現在は、世界中のゴルフ場設計やワイン事業など、実業家としても活躍しており、LIVゴルフインベストメンツのCEOにも就任。

2022年「サウジインターナショナル」主な出場選手

ブライソン・デシャンボー

©Eiko Oizumi

セルヒオ・ガルシア

©Eiko Oizumi

ダスティン・ジョンソン

©Eiko Oizumi

アダム・スコット

©Eiko Oizumi

ザンダー・シャウフェレ

©Eiko Oizumi

ポール・ケーシー

©Eiko Oizumi

フィル・ミケルソン

©Eiko Oizumi

上の7人の選手のほか、ババ・ワトソン、ヘンリク・ステンソン、アブラハム・アンサー、トミー・フリートウッド、ジェイソン・ダフナー、ティレル・ハットン、シェーン・ローリー、グレアム・マクドウェル、ルイ・ウーストハイゼン、イアン・ポールター、ハロルド・バーナーⅢ、リー・ウエストウッドらが出場する。

2月初旬にサウジ&ノーマンの第2の構想を発表?

「サウジインターナショナル」が開催される2月3~6日にサウジゴルフ連盟とLIVがSGLの計画を公表すると期待されているが、PGAツアーコミッショナーのジェイ・モナハン氏とDPWTのキース・ペリーCEOが、500万ドル(約5億7000
万円)へと賞金が引き上げられた試合に世界のトッププロたちが出場しないようにするため、どんな策を講じてくるのかにも注目が集まっている。

一方、DPWTは、UAEで200万ドルの新規試合、「ラアス・アル・ハイマ選手権」を同週に開催しようとしており、サウジでプレーする予定にしている欧州ツアー選手は、出場の許可を求めなければならない。

西欧のメディアでさえ、サウジの人権の歴史について話題にし、彼らの資金提供を「汚れた金」と呼んでいるが、サウジゴルフ連盟は計画について沈黙を守っている。
だが、彼らはSGLに取り組み続け、選手たちにアプローチし、ノーマンの周りでチームを築いている。

元F1の商務チーフであったショーン・ブラッチズ氏とPGAツアーの元上級役員であったロン・クロス氏は、リーダーシップ・チームの一員として既にLIVに参加している。
以前に「プレジデンツカップ」や「ツアー選手権」、WGCイベント、そしてオーガスタナショナルGCでの任務を含む、PGAツアーのプレミアイベントの一部を担っていたクロス氏は、今やLIVにとって大きな存在である。

ノーマンはLIVのアジアンツアーへの投資が、他のツアーを攻撃するものではないと語った。

「これはPGAツアーに対する直接攻撃ではないと、私はきっぱり言える。これは純然たるゴルフの試合向上のためだ。この構想は随分と前からあったものだ」

「LIVは巨額な資金を確保しており、世界中のプロゴルフ全体において、新たな機会を生み出すために使われる。アジアンツアーは眠れる巨人。ツアーを成長させ、大きな未開発の可能性を解き放つことを共有している。有力選手がより多くの試合でプレーできるプラットフォームを作る上で、重要な一歩だ」

Text/Joy Chakravarty

ジョイ・チャクラバルティ
(アラブ首長国連邦)

ドバイを拠点に25年以上にわたり世界中でゴルフ取材を続けている。

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