6月にロンドンでスタートしたLIVゴルフが世界のゴルフ界を激震させた!
このところ、記事を目にしない日はないほど世界のゴルフ界を大きく揺り動かし、話題を提供し続けているLIVゴルフ。
今年船出した新興リーグの1年(いや半年)をわかりやすく解説する。
1)有名プロが続々参入!
一攫千金を狙う選手たちの椅子取りゲーム
第7戦ジェッダに出場した48人。ダスティン・ジョンソン、キャメロン・スミス、ブライソン・デシャンボー、ブルックス・ケプカ、セルヒオ・ガルシア、フィル・ミケルソン、ヘンリク・ステンソン、リー・ウエストウッド、ポール・ケーシー……など有名プロが次々に参入。
第1戦のロンドン大会が開幕する前から、フィル・ミケルソンやセルヒオ・ガルシア、リー・ウエストウッド、イアン・ポールターらが参入するのは、ある程度予測の範囲内ではあったが、おおよそは「40代以上のPGAツアーで勝てなくなってきた選手たちが、メンバーの大半では?」との見方が強かった。
だが蓋を開けてみれば、LIVへの参戦を否定していたダスティン・ジョンソンが、初戦からメンバーに名を連ね、その後もブルックス・ケプカ、ブライソン・デシャンボーら、PGAツアーに忠誠を誓っていた人気若手選手たちが続々とLIV入りして大きな波紋を呼んだ。
そして「全英オープン」チャンピオンで当時世界ランク2位のキャメロン・スミスが9月のボストン大会からLIV入りしたことで、LIVゴルフへの見方が少しずつ変わってきたように思う。
最近勝てなくなった中堅選手でも、巨額の賞金を手にすることができるイージーなイベントではなく、本気でいいプレーができなければ勝てない試合になってきたのだ。
シカゴ大会でのD・ジョンソンとスミスの戦いも、非常に見応えがあり、同週に開催されていたPGAツアーの試合よりも注目度は高かったかもしれない。
というわけで、最初はアジアや欧州の無名な選手も何人か出場していたが、今は有名選手が集まり、48人のスポットに入るための〝椅子取りゲーム〟が激化しつつある。
来年もさらに選手層を厚くすべく、ビッグネームの新規参入を目論むLIVゴルフ。
2023年シーズンは2月に開幕するが、それまでの3か月間で、新規大物メンバーが入るのか、また、チーム構成はどうなるのかに注目が集まる。
2)PGAツアーとの闘争
世界のゴルフの分断に決着はつく?!
PGAツアーコミッショナーのジェイ・モナハン氏は、LIVゴルフと徹底抗戦。LIV移籍組に対し、PGAツアー出場停止処分を科している。
PGAツアーの選手会長ローリー・マキロイは、反LIVを唱える選手の筆頭格だ。
PGAツアーコミッショナーのジェイ・モナハン氏は、LIVゴルフ・ロンドン大会の開始直後に、参戦した選手に対し、今後のPGAツアー大会への出場停止を言い渡した。
これに対し、LIVゴルフコミッショナーのグレッグ・ノーマンや選手たちはPGAツアーを相手に反トラスト法(独占禁止法)違反で提訴。
9月末には、今度はPGAツアー側がLIVゴルフとその選手たちを逆提訴し、「LIVゴルフによってPGAツアーは大きなイメージダウン。利益損失だ」と主張している。
これらの訴訟の公判は、2024年1月8日となっているが、つまりその間はLIVゴルファーがPGAツアーでプレーできない。
ゴルフ競技の世界の総本山であるR&A最高責任者のマーティン・スランバーズ氏は、次のように語る。
「この問題は、我々と彼ら(LIV側)というものではない。選手たちが生活のためにプレーするのは、別に問題ないし、サウジアラビアが、私が愛するゴルフというスポーツに巨額の資金を投じたいと思っていることもいいことだ。ただ、ゴルフというゲームが構築される基盤と〝実力主義〟は、失いたくない。それがないスポーツは、スポーツではないからだ。だから私は毎週、ベストプレーヤーが競技に出る状態を作りたい。ゴルフというゲームに対し、高い価値を見出したり、敬意を払わなければ、このスポーツが成長するチャンスはない」
現在、PGAツアー対LIVゴルフ、という団体間の抗争だけでなく、選手間の分断も生んでいるのが悲しいところ。
メジャーでの練習ラウンドを見てもわかるが、LIVゴルファーは現在、孤立した感もあり、LIVゴルファー同士が一緒にプレーせざるを得ないほど、肩身の狭い思いをしているのも現実だ。
そんな中、アダム・スコットのように、自身はPGAツアーに留まるが、LIVに行った選手たちを理解し、応援する、という選手もいる。
幼少の頃から憧れていた母国のヒーロー、グレッグ・ノーマンに対しての配慮もあるのだろうが、「LIVを悪とも思わないし、LIVもおもしろいと思う」という彼の意見は、ゴルフ界分断の解消のために、不可欠なものとなるだろう。
3)世界ランキングポイント獲得とMENAツアー
10月にLIVゴルフと戦略的提携を結んだ中東・北アフリカのツアー「MENAツアー」。欧州ツアーとも提携しており、MENAツアーの「ドバイデザートクラシック・シュートアウト」に優勝した選手には、本戦に出場できる特典が与えられる。
現在、LIVゴルファーが抱えている大きな問題の一つに、「世界ランキングポイントが獲得できない」ということが挙げられる。
キャメロン・スミス、ダスティン・ジョンソン……らトッププロたちの世界ランクは下降する一方だ。
今季のLIVゴルフで大活躍したダスティン・ジョンソンの10月末時点での世界ランクは、31位である(6月初旬には15位だった)。
これに対し、反LIV派のマキロイも「ダスティン・ジョンソンが世界の100位くらいにいるような状態では、世界ランクも正確とは言えない」と言及している。
この世界ランキングポイント問題を解決すべく、LIVゴルフは今まで注目されていなかった、MENAツアー(2016年以降、世界ランキングポイントを付与されている)と10月初めに戦略的提携を結んだ。
だが、だからと言ってLIVに対し、バンコク、ジェッダ大会ではポイントが付与されなかった。
このままいけば、世界ランクはますます落ちる一方で、メジャー優勝者で資格を有するLIVゴルファー以外は全員、世界の大舞台から姿を消すことになる。
2022年LIVゴルフ成績
開催地 | 個人戦優勝 | チーム戦優勝 |
第1戦ロンドン(英国) | シャール・シュワーツェル | STINGER GC |
第2戦ポートランド(米国) | ブランデン・グレース | 4 ACES GC |
第3戦ベッドミンスター(米国) | ヘンリク・ステンソン | 4 ACES GC |
第4戦ボストン(米国) | ダスティン・ジョンソン | 4 ACES GC |
第5戦シカゴ(米国) | キャメロン・スミス | 4 ACES GC |
第6戦バンコク(タイ) | エウヘニオ・チャカラ | FIREBALLS GC |
第7戦ジェッダ(サウジ) | ブルックス・ケプカ | SMASH GC |
第8戦マイアミ(米国) | ーーーーーーーー | 4 ACES GC |
Text/Eiko Oizumi
Photo/LIV GOLF、Getty Images