なぜ「LIVゴルフ」は世界のツアー、ゴルフ団体から敵対視されているのか?LIVゴルフイベントが本格的に始まり、LIVゴルフ入りを表明するビッグネームも増えつつあるが、PGAツアーを筆頭に世界のゴルフ団体からは、敵視される傾向が強まっている。
なぜここまで、LIVゴルフは既存のゴルフ団体からバッシングされているのだろうか?
LIVゴルフはこの3人を抜きには語れない。左からLIVゴルフ・インベストメンツCEOのグレッグ・ノーマン、サウジアラビア最大の石油会社「アラムコ」のCEOであり、PIF(サウジ政府系ファンド)などのCEOも務めるヤシール・アル・ルマイヤン氏、ゴルフサウジCEOのマジェド・アル・ソロル氏。
表彰式で、LIVゴルフイベントで54のスコアを記録した選手には、5400万ドル(約73億円)を提供することを誓ったルマイヤン氏。フィル・ミケルソンとも近しい関係にある。
「今までのゴルフ界では見られなかったような新しいやり方、新しい団体戦の概念などで、新しいゴルフ体験を選手やゴルフファンに提供していくことにワクワクしている。新しい時代の到来だ!」と力強くスピーチしたグレッグ・ノーマン。
2月のアジアンツアー開幕戦「サウジ・インターナショナル」以来、初めて公の場に姿を現したフィル・ミケルソン。会見場では、サウジアラビアの人権問題や、金銭に関することなど、厳しい質問が飛び交った。
大会開始30分前にPGAツアーのメンバー資格を返上したグレアム・マクドウェル(左)と、PGAツアーに対して異議申し立ての意向を示すイアン・ポールター。
欧米の記事には、圧倒的にLIVゴルフに対するバッシングが多く、PGAツアーからもツアーメンバーでLIVゴルフに出場した者(あるいは今後出場予定者)に対して、出場停止が言い渡されているため、「LIVゴルフはゴルフ界にとっての悪」という見方をしている日本のゴルフファンも多いだろう。
賞金や契約金が破格すぎるため、つい金銭面、およびその資金源のサウジアラビアに目が向けられがちである。
LIVゴルフを現地で実際見てみると、ゴルフ界にとって悪いことばかりでもなさそうなのだが、なぜLIVゴルフがバッシングを受けているのだろうか。
まず、欧米の記者たちがこぞって記者会見場で選手たちに厳しく質問し、書き立てているのは、LI Vゴルフイベントへの法外な資金源であるサウジアラビアのオイルマネー(サウジアラビア政府の公的な資金)と、サウジの人権問題(ワシントンポスト紙のジャマル・カショギ記者の殺害、女性権利活動家の拘束、女性・同性愛者蔑視など)についてである。
それらの問題への非難から逃れるために、ゴルフ以外にもF1やパリダカなどのカーレースやサッカー、ボクシングなどのスポーツに莫大な資金を投入し、「スポーツウォッシング」が行なわれているとの見方をされているのだ。
金については「血塗られた金」「汚れた金」などと表現され、フィル・ミケルソンやダスティン・ジョンソンら人気選手は特に、多額の「サウジから汚い金」を受け取っていると批判されている。
もちろん人権問題については、ミケルソンも語っているように容認できる話ではない。
また、札束を山ほど積むやり方に違和感や嫌悪感を抱く人も少なくないだろう。
たった3日間の試合で賞金総額33億円という破格の額である。
「世界のトッププロも、要は金なのか?」と、純粋にゴルフを愛するファンからは、批判的な声も多く寄せられている。
そしてこのLIVゴルフを真っ向から敵視しているのがPGAツアーだ。
ロンドン大会に出場したPGAツアーメンバー(すでにメンバー資格を返上している者も含めて)17名に対し、大会がスタートした後に名指しで「出場停止、あるいは資格を剥奪する」とジェイ・モナハンコミッショナーは選手宛の書簡で表明。
しかもPGAツアーのメンバーでなくなった後は、スポンサー推薦などで出場することも一切できず、PGAツアーだけでなく、チャンピオンズツアー(シニアツアー)、コーンフェリーツアー、PGAツアー・カナダ、PGAツアー・ラテンアメリカなどのPGAツアー関連の試合に出場することもできない。
「ただし、PGAツアーに復帰したいと考えている者には、透明性を持ってPGAツアーの規定に則り対処する」という一文もあって、若干の譲歩も見せている。
ミケルソンは「自分は生涯シード選手になるために、これまで一生懸命頑張ってきた。いつ、どの試合でも出られる権利が自分にはあるはず。この段階で資格を自ら返上する必要はないと思っている」と淡い期待を寄せていたものの、バッサリと切り捨てられた。
下記は、ロンドン大会開始後に、ツアーの出場停止を言い渡された選手たちのリストだ。
セルヒオ・ガルシア(*)
テーラー・グーチ
ブランデン・グレース(*)
ダスティン・ジョンソン(*)
マット・ジョーンズ
マーティン・カイマー(*)
グレアム・マクドウェル(*)
フィル・ミケルソン
ケビン・ナ(*)
アンディ・オグレトリー
ルイ・ウーストハイゼン(*)
ターク・ペティット(*)
イアン・ポールター
シャール・シュワーツェル(*)
ハドソン・スワフォード
ピーター・ユーライン
リー・ウエストウッド(*)
*のついている選手は、事前にツアー資格を返上した選手
モナハン氏は、「LIVゴルフ出場選手は、金銭的な理由などにより、LIVゴルフ参加を決断した。
どちらにも参加したいという期待は、他のツアーメンバー、ファン、パートナーたちを軽視することになる。
ジャック・ニクラス、アーノルド・パーマー、タイガー・ウッズなどの選手たちが作り上げてきた、彼らのレガシーはPGAツアーと深く結びついており、買収されたり、販売されるべきものではない」とツアーメンバーに伝えている。
なお、LIVサイドはLIVだけにしか出場してはいけないとは言っておらず「ホームのツアーを基点に、出場できる試合に出てくれればいい」というスタンスだ。
一方、PGAツアー側としては、ツアーメンバーにLIVゴルフでのプレーを許可すると、どうしても賞金の高いLIVゴルフに出場する選手が増えるため、同週に開催されるPGAツアーの大会には出場しなくなる。
ツアーのバリューが落ちてしまうと危惧し、LIVへの出場を禁止しているのだ。
LIVゴルフ側は「PGAツアーからの発表は、執念深く、ツアーとそのメンバーとの間の溝をさらに深めているようなもの。
ゴルファーにプレーの機会を作ることがツアー組織の仕事なのに、プレーを妨害していることに困惑している」と発表。
PGAツアーの処罰が発表された後も、ブライソン・デシャンボー、ブルックス・ケプカなど、LIVゴルフ入りをする選手のニュースが絶えない。
ちなみに全米ゴルフ協会(USGA) は、LIVゴルファーの出場を許可した。
またR&A主催の「全英オープン」に関しても同様だ。
ただ来年以降のメジャーの出場資格に関しては、今のところ正式な発表はない。
なおDPワールドツアー(欧州ツアー)は、ガルシアやウエストウッドら、LIVゴルフに許可を得ずに出場した欧州ツアーメンバーに対し、10万ポンド(約1650万円)の罰金を課すことを発表した。
今後のゴルフ界の発展と活性化のためには、「世界のツアー対LIVゴルフ」というような分断があってはならないはずだ。近い将来、ゴルフ界の悲しい「分断」に終止符が打たれ、両者の間で折り合いがつくことを祈っている。
2022年 LIVゴルフ・スケジュール
① | 6月9日~11日 | ロンドン(英) センチュリオンクラブ |
② | 6月30日~7月2日 | ポートランド(米) パンプキンリッジ |
③ | 7月29日~31日 | ベッドミンスター(米) トランプナショナルGCベッドミンスター |
④ | 9月2日~4日 | ボストン(米) ジ・インターナショナル |
⑤ | 9月16日~18日 | シカゴ(米) リッチ・ハーベスト・ファームズ |
⑥ | 10月7日~9日 | バンコク(タイ) ストーンヒル |
⑦ | 10月14日~16日 | ジェッダ(サウジアラビア) ロイヤルグリーンズゴルフ&CC |
⑧ | 10月27日~30日 | マイアミ(米) トランプナショナルGCドラール |