タイガー・ウッズ「マス ターズ」に続き、今季2回目のメジャー予選通過
足を引きずりながら「全米プロ」で予選通過したタイガー・ウッズだがホールアウト後に棄権を表明
タイガー・ウッズのショットを、スマホで撮影しながら観戦するギャラリーたち。その群集に混じり、1人、ビール(ミケロブ・ウルトラ)を持って純粋にゴルフ観戦を楽しんでいる男性がいたことが後日わかり、ビール会社から無料のビールと彼の写真を使用したTシャツ、帽子(25ドルで販売)、PGAツアーの観戦チケットがプレゼントされることになった。
昨年2月下旬の交通事故で、右足を損傷したタイガー。まだ、グリーン上でラインを読むときなど、ヒザを曲げることができない。
ショット後に顔をしかめて、痛みを堪える場面も……。
予選ラウンドをタイガーとプレーしたローリー・マキロイ (中央)。「彼は究極のプロだ。もし僕だったら、棄権して家に帰っていると思う。でもタイガーは違う。信じられないくらい回復力が早くて、精神力が強い」
フィジカルセラピスト(右)を帯同して試合に臨んだタイガー。
アップダウンのあるコース上では苦しい表情を見せるタイガー・ウッズも、記者会見ではこの笑顔!
「マスターズ」に続き2回目のメジャー予選通過
「全米プロ」の2日目が終わった金曜日の夕方、タイガー・ウッズがサザンヒルズCCのクラブハウスを出て駐車場に停車中のコーテシーカーに歩いて向かう頃には、ほぼ終日照りつけていた太陽は雲の向こうに隠れ、コースに残っている選手は数人だけだった。
彼はこの日、大量の汗をかき、いつにも増して足を引きずりながらコースを歩いていた。
そして、次のショットまで歩いて移動している間にも、足の具合が悪く見えることもあった。
こうした状況は、今の彼にとっては普通のことだ。
時には、もっと足の具合が悪く見えることもあるし、下り坂ではカート道を歩くこともある。
5時間以上も立ちっぱなしで、アップダウンのあるコースを歩きながら、懸命に痛みをこらえているのも普段通りだ。
そして、最終的には試合を棄権した。
まだ足の具合は本調子ではないのだ。
2021年2月の深刻な交通事故からの復帰以来、彼はどうにか2度目の予選突破に成功したが、その表現は決して大げさではないだろう。
初日の74に続いて、2日目は1アンダーの69をマークし、通算3オーバーの53位タイで予選ラウンドを終えていた。
この日は11番ホールで致命的なダブルボギーを叩いたが、最後の6ホールで2つのバーディを奪取。
予選落ちが濃厚かと思われたところからの決勝ラウンド進出だったのは見事だった。
しかし翌日、計り知れない痛みを抱えながら、「全米プロ」において自己ワーストの79を叩き、「マスターズ」と同じような苦戦を強いられることになった。
頑張ってはいたが、寒さには勝てず(気温がこの日は10度前後と低かった)、彼は最終ラウンドを棄権した。
試合への復帰があまりにも性急すぎたのではないかと思われてもおかしくはない。
右足をきちんと押し出すことができないと、スイングが変化する。
腕の振りが大きくなり、パワーロスを補おうとして、球を長く左へ引っかける傾向があるからだ。
予選2ラウンドでタイガーとプレーし、8位で今大会を終了したローリー・マキロイは、次のように述べた。
「オーガスタ、そしてここでも予選を通過するなんて、ただただ信じられない。昨日、(キャディの)ジョーイ(・ラカバ)とジョークで、『彼はツアーの中でも最もフラットなコースである、《ホンダクラシック》や《バルスパー選手権》でもプレーできたはずだ。彼にとっては少し簡単だったかもしれないが。でもタイガーは、もっとも歩くのがつらい2コースに戻ってきた』と話していたんだ。信じられないほど回復力があり、精神的にもタフだ。彼は手ごたえも感じている。スイングする度にね。彼は究極のプロだ。昨日の彼を見ていると、もし自分だったら……棄権して家に帰ることも考えただろう。でもタイガーは違った。彼は自分が違うことを証明したが、それは途方もない努力の賜物だ」
ウッズは、足の腫れを軽減するために、氷風呂が欠かせないと語る。
彼にはフィジカルトレーナーも帯同し、万全の態勢で試合に臨んでいるのだ。
あるスイングは他のスイングより痛みが伴う。
初日にウッズは、右足を押し出すのが難しく、ヒネったり、歩いたりするときに痛みがあると話していた。
ラフに曲げればヒースで歩きづらく、寒さも伴う「全英オープン」で予選通過なるか?
後にウッズは次のように述べている。
「私は今後多くのトーナメントに出場するつもりはない。出場するのは、(いくつかのPGAツアーの試合と)メジャーなどの大きな試合だけだ。前回『全米プロ』で優勝したこの場所に戻って来て、世界のベストプレーヤーと対戦することが楽しみだった。幸いなことに、私はどうにかそれができるようになった。危機的な状態を元通りにしてくれた素晴らしいPTスタッフに恵まれているし、今日のババ(ワトソン)のようなことができればと思っている」
ウッズは、2日目に63をマークして、上位争いに加わったババ・ワトソンについて言及した。
「予選通過を逃したら優勝はできないから。メジャーではないけど、普通の試合で予選カットラインから優勝したこともあるんだ。一生懸命戦うには理由があり、週末に優勝のチャンスも生まれる。ただ、いつ優勝争いに食い込めるくらい、いいプレーができるかはわからないが……」とウッズは述べた。
残念ながら、この日の彼のプレーは絶好調とは言い難かった。
彼は、「全英オープン」のためにセントアンドリュースに行くつもりだと語っていた。
この号が出る頃にはどんな旅になったのかがわかることだろう。
タイガーのクラブセッティング。2~3番アイアンはテーラーメイドの「P・770シリーズ」、ウェッジは「全米プロ」の週から「MG3」に変更。それ以外はタイガー・ウッズモデルの「P・7TWシリーズ」。
Text/Bob Harig Photo/Eiko Oizumi, Getty Images
O嬢日記@全米プロ
メジャーに「通常」が戻ってきた!
コロナ禍では、ギャラリーがサインをもらうことが許可されていなかったが、ようやく通常のツアーの風景が戻ってきた。写真はファンサービスに励むダスティン・ジョンソン。
タイガーのリカバリーショットの写真を撮るのも久し振り!
「マスターズ」では、選手からサインをもらうということが、他の試合に比べると元々しにくい環境であるため、あまり感じなかったのだが、「全米プロ」ではクラブハウス周辺に選手のサイン待ちをするゴルフファンの長い列ができ、サインが欲しくて選手の名前を大声で呼ぶ子供たちが大勢いた。
そんな光景を見て、「あ~、やっとメジャーも通常に戻ったな」と思ったものだ。
普段、練習日には1時間近くかけてサインや写真撮影に応じるディフェンディングチャンピオンのフィル・ミケルソンが欠場だったのは残念だったが、今までファンサービスをしたくてもできない状況だったからか、他の選手たちもいつも以上に熱心にファンのリクエストに応じていたように思う。
特にダスティン・ジョンソンは、他の選手たちがほどほどのところでサインを切り上げ、クラブハウスに戻っていくところを、目の前に差し出されたフラッグやキャップに一つひとつ丁寧にサインをし、記念撮影に応じていた。
しかも長い行列がどんどん長くなっても、最後までやめなかったのだ。
一見素っ気なく見える彼も、口元に笑いを浮かべながら穏やかな雰囲気でファンとの交流を楽しんでいるのを見て、いいシーンだな、と思った。
コロナ感染拡大以降、観戦はできても選手との接触を避けるように言われていたギャラリーたちは、サインももらえず、選手の近くで写真撮影もできない状況にあった。が、今年に入ってようやくメジャーでも解禁になったのだ。
そして、ギャラリーたちのお目当ては、時代が変わって若手の台頭が顕著でも、やはりタイガー・ウッズだった。
タイガーの組には大勢のギャラリーがつき、歓声がどの組よりも大きいので、すぐにどこにいるかわかる。
そしてタイガーの近くで彼らの歓声を聞いていると以前同様、鳥肌が立った。
懐かしい感覚だ。タイガーがコロナ禍の試合会場を「エネルギーが足りない」と言っていたが、まさしくこのギャラリーからの「エネルギー」が選手たちのプレーを盛り上げ、心に火を付ける源になっていることを改めて実感したものである。
一方日本は……という比較をここでするつもりはない。
だが、米国では既に日常に戻っているのが現状だ。