ゴルフ界隆盛の礎を築いたレジェンドたちの栄光を振り返る「Legends of Golf」。
今年の「全米オープン」はボストン近郊の「ザ・カントリークラブ」で開催されるが、「ザ・カントリークラブ」といえば、この選手の名前を忘れてはならない。フランシス・ウィメットである。
彼は、このコースの17番ホールの真向かいに住み、この地でゴルフを習得。20歳で初出場した1913年「全米オープン」に優勝し、生涯をアマチュアゴルファーとして通した「アメリカアマチュアゴルファーの父」だ。
球聖ボビー・ジョーンズと並ぶ偉大なアマチュアゴルファーの生涯を紹介しよう。
Francis Ouimet
フランシス・ウィメット（米国）
1893年5月8日生まれ、1967年9月2日死去。1913年、20歳で「全米オープン」優勝。1914年、1931年「全米アマ」で２勝。R&Aのキャプテンに、英国人以外から初めて選出された。1974年世界ゴルフ殿堂入り。
「アマチュアゴルフの父」と呼ばれた米国人アマチュアゴルファー。11歳で自宅の真向かいにある「ザ・カントリークラブ」（今年の「全米オープン」開催コース）でキャディを始め、独学でゴルフを習得したという。オーバーラッピンググリップを採用して、トッププレーヤーとなった初めての人物。
ゴルフが米国の 主要スポーツの一つとなった「アマチュアゴルフの父」 F・ウィメットの功績
1913年「全米オープン」にアマチュアとして初出場を遂げ、優勝を飾ったウィメット（中央の長身の人物）。キャディのエディ・ロワリー（前列中央）は、当時10歳だった。
ウィメット（右）の「全米オープン」勝利を中心とした伝記小説『The Great
est Game Ever Played』が出版され、映画化もされた。10歳のキャディ、ロワリーとの２人の銅像が、マサチューセッツ州ブルックライン（ウィメットの生誕地）とフロリダの世界ゴルフ殿堂に飾られている。
今年の「全米オープン」はウィメットがゴルフを学び、キャディを務めたザ・カントリークラブで開催される。
米国ゴルフを目覚めさせた20歳の青年の偉業
米国ゴルフの歴史には、礎を築いた人物は何人もいるが、米国生まれの最初の真のゴルフ界のヒーローは、フランシス・ウィメットだ。
先月、ボストン南西の郊外に位置するザ・カントリークラブで「全米オープン」が開催された際、彼のことが話題となることも多かっただろう。
1913年の「全米オープン」で、20歳にしてメジャー初出場のアマチュアゴルファーだったウィメットが、英国人のベテランチャンピオン、ハリー・バードン、テッド・レイの2人を破って優勝した。
ザ・カントリークラブの向かいに住み、キャディをしていたのでコースのことを熟知していた青年による大番狂わせは、今でもゴルフ史上最も注目すべき出来事の一つとしてたたえられている。
そしてこの話題は、世界中でニュースになった。
まだゴルフが広く普及していなかった米国で、「全米オープン」で優勝したウィメットの活躍は、「偉大なる目覚め」とも呼ばれ、ゴルフへの大きな関心を呼んだ。
ニューヨーク・タイムズ紙は見出しで、この勝利を「ありえない勝利」と伝えた。
「ウィメットはゴルフを変えた。フランシス・ウィメットの影響がなければ、米国でのゴルフは今日のようなものにはならなかっただろう」と、メジャー18勝を誇るゴルフ界の巨匠、ジャック・ニクラスは語っている。
あの栄光に満ちた〝ありえない〟勝利から50周年目にあたる１９６３年の「全米オープン」でウィメットに会ったジャック・ニクラスは、「その時、私は真のアメリカのヒーローに会っているのだと分かった」と述べた。
フランシス・デサール・ウィメットは、1893年5月8日にブルックラインで誕生した。
彼が4歳の時に、歴史を刻むことになるプライベートクラブの向かいにあったクライドストリートに家族は家を購入。
11歳のときにその目の前のゴルフ場でキャディを始め、16歳まで務めた。
当時、全米ゴルフ協会（USGA）には、アマチュア資格を維持したい場合、16歳を超えてキャディとして働くことを禁止する規則があったため、やむなく辞めたのである。
彼は独学でゴルフを学び、普段はコースで拾ったボールでプレーして、州内でもトップクラスのプレーヤーの一人となった。
しかし、父アーサーは彼のゴルフへの興味に難色を示し、高校卒業後は乾物店に就職するよう強要した。
その後、シンシナティやボストンの初期のメジャーリーグチームでプレーし、後に野球の殿堂入りを果たしたジョージ・ライトのスポーツ用品店で働くことになった。
生涯をアマチュアで通した「アメリカゴルフの父」
米国ゴルフの発展を促したパイオニア
「全米アマ」でボビー・ジョーンズ（左）に敗れたフランシス・ウィメット（右から3人目）。その間はB・ジョーンズの母。グランドスラムを史上初めて達成した球聖ボビー・ジョーンズと同時代に活躍したウィメットだが、直接対決では敗れることが多かったという。
1941年「マスターズ」で。ウォルター・ヘーゲン（左）とウィメット。
シカゴのビバリーCCで開催された「全米アマ」で優勝したウィメット。「全米アマ」では２勝している。
英国の大本命プロを破り「全米オープン」優勝
1910年に初めて「全米アマ」に出場したが、1913年にニューヨーク州ロングアイランドのガーデンシティ・ゴルフクラブで開催された大会で、マッチプレー初進出を果たした（「全米アマ」は、最初の２日間はストロークプレーを行ない、上位64名がマッチプレーに進出する）。
1913年の「全米アマ」で優勝したジェローム・トラバースに、準々決勝で敗れたが、この年、彼は6つのマサチューセッツ州のアマチュア・タイトルのうち、最初のタイトルを獲得しており、調子はよかったのだ。
ウィメットには、その年の「全米オープン」が彼の「ホーム」コースであったにもかかわらず、「全米オープン」に出場する予定はなかった。
しかし、USGAのロバート・ワトソン会長から「全米オープン」への出場要請があり、スポーツ用品店での仕事を休ませてほしいと頼んだ。
「全米オープン」が6月ではなく9月に開催されたのは、米国でエキシビションに参加していたバードンとレイが出場できるようにするためだった。
バードンは1900年の「全米オープン」で優勝し、「全英オープン」では5回優勝していた。
レイは1912年「全英オープン」に優勝していたが、この２人の人気は絶大だった。
全米オープンは、9月18日から19日にかけて、各日36ホールずつで行なわれる予定だった。
しかし、終了したのは9月20日。ウィメットは、最後の6ホールを2アンダーでプレーし（13番ホールと17番ホールでバーディ）、79をマーク。
12オーバーの304ストロークでバードンとレイに並んだ。
しかし、翌日の18ホールのプレーオフでは、1万人の地元の人々が、人気のウィメットの応援に駆けつけ、大本命の英国人2人は敗退。
バードンとレイがともにボギーを叩いた10番ホールで、ウィメットは首位に立つと、3バーディ、2ボギーと安定したプレーで1アンダー72をマーク。
一方で、バードンはボギー、ダブルボギーで77、レイは78に終わった。
1913年には、35万人の米国人がゴルフをしていたと推定されているが、そのわずか10年後にはウィメットに触発され、米国のゴルファーの数は、200万人に膨れ上がった。
優勝後すぐに、自身のスポーツ用品事業を開業したウィメットは、この素晴らしい成績に続き、1914年にバーモント州マンチェスターのエックワノック・カントリークラブで行われた「全米アマ」で優勝。
彼は、当時の米国のメジャー「全米オープン」と「全米アマ」の両方で優勝した最初の人物となったのである。
1951年、セントアンドリュースでプレーするウィメット（右）。中央の人物は、セントアンドリュース出身で、1893年「全英オープン」チャンピオンのウィリー・オクタロニー。彼の名を冠するゴルフショップが今も、オールドコースから至近の場所で営業中だ。
「ウォーカーカップ」（欧米のアマチュアの団体戦）の練習ラウンド風景。ショットしているのはキャプテンのウィメット。「ウォーカーカップ」に９回出場し、11勝１敗の好成績を残している。そして計６回、キャプテンも務めた。
米国だけでなく世界のゴルフ界にも影響
1951年、米国人として初めて、セントアンドリュースのR&Aのキャプテンを務めるなど、ウィメットは世界のゴルフ界にも多大な影響を与えた。
またそれ以前の1949年には、マサチューセッツ州のコースでゴルフ関連の仕事に従事する若者に大学の奨学金を付与する、「フランシス・ウィメット奨学基金」が設立された。
USGAは、「全米シニアオープン」のトロフィーをフランシス・D・ウィメット・メモリアルトロフィーと命名することを決定。
「全米オープン」が、ザ・カントリークラブで再び開催された１９８８年に発行された米国の切手には、ウィメットが描かれている。
1967年9月2日、マサチューセッツ州ニュートンにおいて74歳で死去。
発足後初代のメンバーとして、1974年に世界ゴルフ殿堂入りを果たしている。
2007年「フランシス・ウィメット・ゴルフ生涯貢献賞」を受賞したジャック・ニクラス（右）とバーバラ夫人（中央）。「フランシス・ウィメット奨学基金」は、マサチューセッツ内でキャディとして働く若者に大学奨学金を提供するもので、全米でも2番目の規模を持つ、キャディ支援の奨学基金だ。
Photo/ USGA 、 Getty Images
Text/Dave Shedloski
デーブ・シェドロスキー
長年に渡り、ゴルフトーナメントを取材。著書にアーノルド・パーマーの遺作『A Life Well Played』やジャック・ニクラスの『ゴールデン・トワイライト』などがある。
