世界のトッププロたちは、毎週各地を転戦し、自宅で家族と過ごす時間はあまりない。
しかし過酷なスケジュールの中、頑張れるのも家族がいるから。
プロたちの大事なチームである家族を紹介する。
連載第14回は、スコッティ・シェフラー。
Scottie Scheffler
スコッティ・シェフラー
スコッティ・シェフラー(米国)
1996年6月21日生まれ。190cm、91kg。
米ツアー4勝、メジャー(マスターズ)1勝。テキサス大出身。2017年「全米オープン」ローアマ。2018年にプロ転向し、翌年、米下部ツアーで最優秀選手に。2022年「WMフェニックスオープン」でツアー初優勝を遂げ、「WGCデルテクノロジーズ・マッチプレー」で優勝を果たし世界ランク1位に。
今年の「アーノルド・パーマー招待」でツアー2勝目を飾ったシェフラー(中央)。左からメレディス夫人、母のダイアンさん、スコッティ、祖母、父のスコットさん。
今年に入って4勝(7月9日時点)と、驚異的な強さを誇るスコッティ・シェフラー。
ここ最近、リーダーボードの上位に名前をよく見る選手の1人ではあったものの世界ランク1位にのぼりつめ、「マスターズ」でメジャー初優勝と、その勢いは止まることを知らない。
そんな彼の活躍を支えているのは家族。
シェフラーの人柄や考え方にも触れながら彼の家族とゴルフ人生を紐解いていこう。
妹3人も上級者ゴルファー
ゴルフ一家のシェフラー家
2016年、当時アマチュアとして「全米オープン」に出場したシェフラー。キャディは妹のキャリーが務めた。
父のスコットさんもゴルフ好きで、テキサスに引っ越した直後、ロイヤルオークスCCのメンバーとなった。
ランディ・スミス(左)がシェフラーのコーチを長年務めているが、ランディの息子、ブレイクはマネージャーとしてシェフラーを支えている。シェフラー家とスミス家の関係は年々深まっているという。
イクメンに育てられた世界ランク1位
スコッティ・シェフラーの名前を、今年の「マスターズ」で初めて知った、という人も多いかもしれない。
あるいは、以前から名前は知っていたが、現在、世界ランク1位で、「マスターズ」を含め今季すでに4勝も挙げている選手だとは思いもよらなかった、という人も多いだろう。
彼は今年の2月、「WMフェニックスオープン」で初優勝を遂げ、それ以降「マスターズ」までで6戦4勝、という驚異的な勝率で世界ランク1位に上り詰めた26歳の若手である。
彼は父スコットさん、母ダイアンさんとの間に生まれた4兄妹の長男で、3人の妹(キャリー、モリー、サラ)がいる。
ニュージャージー北部の街で生まれ、その後テキサス・ダラスに引っ越した。
母ダイアンさんが外に働きに出かけ、父スコットさんは家の中で家事・育児に追われるという、いわゆる「イクメン」だったが、そんな家庭環境に育ったスコッティは、我が家の環境を革命的だ、とも普通とは違う、とも思っていなかったようだ。
「マスターズ」で息子が優勝した直後、父のスコットさんは米国人記者に嬉し涙を浮かべながら、以下のようにコメントしたという。
「私はただ父親として、子供のためにすべきことを全てしただけなんだ。子供たちは我々に素晴らしい喜びを与えてくれている。私は何もしていないが、息子が一生懸命やるべきことをやったんだよ。私はただ彼を育て、いい父親としてベストを尽くしたまでだ」
シェフラー家は、両親も、3人の妹も含めてゴルフ一家で、子供が小さい時には同じトーナメントに連れて行かれたこともあったという。
当時6歳だったサラさんは、家族で初めて、そして今も、家族の他の誰もが達成していないダブルイーグル(アルバトロス)を達成したそうだ。
両親は子供たちをジュニアゴルファーのための試合だけでなく、バスケットボールの練習、その他さまざまなスポーツイベントに連れて行った。
スコッティ自身、ハイランドパーク高校時代までは、ゴルフとバスケットの両方をやっていたという。
「いつも両親は僕たちのために最高のことをしてくれた。両親が大好きだし、言葉に言い表せないくらい感謝している」
「自分の人生を通して、僕はどんなにゴルフが大好きかを知っているよ。季節は関係なく、いつもやりたいと思う唯一のスポーツだ」とスコッティは語っている。
高校時代から交際開始
最大のサポーターの妻の存在
いつも元気いっぱいにスコッティのプレーを応援しているメレディス夫人。高校時代から交際が始まり、6年の交際期間を経て2020年に結婚した。
昨年は「ライダーカップ」にキャプテン推薦で出場したスコッティ。シングルス戦で当時、世界ランク1位だったジョン・ラームを破り、チーム優勝に貢献。メレディス夫人と熱い抱擁とキスを交わして勝利を喜んだ。
高校時代に出会った勝利の女神とキリスト教
スコッティは、ハイランドパーク高校時代に知り合ったメレディス・スクーダーさんと交際し、6年の歳月を経て2020年に結婚。
トーナメント会場では常にロープ外で夫のプレーを見守り、今年の「マスターズ」でも優勝直後の彼に飛びついて喜びをあらわにした。
「高校時代、知り合って間もない頃、私はいつも彼がすごく謙虚な雰囲気の人で、非常に分別のある人だなと思っていたのです。そして深刻になりすぎない人だな、と。仮に彼が素晴らしいことを成し遂げたとしても、それ自体が彼の最も大事なことではないのです」
シェフラーは敬虔なクリスチャンで、人生においてだけでなく、ゴルフにおいても常に「神」「主」を考えているような人である。
そしてメレディス夫人もまた日々、クリスチャンであり、彼と結婚が決まった後、SNSで次のような書き込みをしている。
「神様が私に、残りの人生をずっと私の親友と過ごす機会をお与えになったことが信じられない! 神への忠誠心が実り、私たちにいいことが起きたのね」
今年の「マスターズ」では連日アンダーパーを積み重ね、第2ラウンド以降は一度も首位の座を明け渡すことはなかったスコッティ。
その堂々とした戦いぶりに「シェフラーはマスターズでも、あまりプレッシャーを感じていないのかもしれない」と思ったほどだ。
だが、実は違った。最終日の朝は、プレッシャーのせいで号泣したという。
「僕は今朝、赤ちゃんのように泣いていた。すごくストレスを感じていて、何をしていいかわからなかったんだ。妻のメレディスに〝僕はまだマスターズに優勝する準備ができてないみたいだ〟と伝えると、彼女は〝誰がそんなことを言ってるの?〟と言った。神がコントロールしており、主が自分を導いてくれるという話をしたんだ。そして今日は僕の番だ、といい、もし今日82を打ったとしても、何かしらの教訓になる、と。本当に長い朝だった」
「神の栄光のためにゴルフをしている」シェフラー
「マスターズ」優勝直後、グリーン奥で夫のホールアウトを見守っていたメレディス夫人はスコッティに抱きついた。
今年の「マスターズ」の水曜日に行なわれた「パー3コンテスト」にメレディス夫人もキャディとして参加。
このようにスコッティは、非常に信仰心の厚い人間であり、彼の人生の全てにおいて、神への信仰が中心である。
それはゴルフの試合に出ている時も同様で、「主が僕にゴルフの技術を授けてくださったから、それを主の栄光のために使おうとしている」と語るほどだ。
また、ゴルフをする理由は「神の栄光を讃えるため」であり、自分のアイデンティティは、ゴルフのスコアではなく、「神の栄光を讃えることにある」と明言している。
「マスターズで今日優勝しても、あるいは10打差で負けたり、他の試合で二度と優勝できなかったとしても、神は自分を愛してくれるし、何も変わらない」と「マスターズ」の優勝記者会見で語っていた。
きっとこの深い信仰心は家族全員も持ち合わせているはず。
特に両親がそうであるから、子供たちもそのような思想で日頃から物事を考え、行動しているのだろう。
どんなことが起きても、神は自分たちを愛してくれ、それが教訓となって後々生きてくる。
自分の技術を磨いていいスコアを出し、メジャーで勝ちたい、というのではなく、自分が神から授かった技術を、神の栄光を讃えるために使うし、それでメジャーで勝てたのなら、その優勝は神へ捧げられるものなのである。
世界ランク1位で、「マスターズ」チャンピオン
スコッティ・シェフラー本当の実力
「マスターズ」で優勝し、フレッド・リドリー委員長(右)からトロフィーを受け取るシェフラー。
今年に入って一気に優勝回数を積み重ね、世界ランキング1位に躍り出たスコッティ・シェフラー。
その躍進ぶりがあまりにも急で、中には「ラッキーだけでこの結果になっているのでは?」とのネガティブな見方をしているゴルフファンもいるという。
そこでアマチュア時代からの活躍も含め、彼の「大物ぶり」を紹介しよう。
6歳からゴルフをスタート!
PGAツアープレーヤーを教えるコーチも実力に太鼓判
2017年の「ウォーカーカップ」に出場し、米国チームの優勝を祝うシェフラー(前列右から2番目)。コリン・モリカワ(前列中央)、ウィル・ザラトリス(後列中央)、キャメロン・チャンプ(後列右)などの姿も見える。
2017年、エリンヒルズで開催された「全米オープン」でローアマに輝いた(中央)。この年の優勝者はブルックス・ケプカだった。
今まで「優勝は時間の問題」と言われていたが、ついに今年の2月、「WMフェニックスオープン」でPGAツアー初優勝を飾った。
かつては世界ランクで1600位台だったが、2019年、コーンフェリーツアーの「エバンス・スカラーズ招待」と「ネーションワイド・チルドレンズホスピタル選手権」で優勝したことにより、一気に世界ランキング100位以内に浮上。現在は1位に君臨している。
幼少の頃から球の打ち分けができた
スコッティ・シェフラーがゴルフを始めたのは6歳の時。
ニュージャージー州からテキサス州に引っ越した後、父のスコットはロイヤルオークスCCのメンバーとなったが、スコッティ自身もメンバーとなり、ジャスティン・レナードやハリソン・フレーザーらPGAツアー選手のコーチを務めていたランディ・スミスの指導を受けるようになる。
スミス曰く、「スコッティは当時、ゴルフバッグよりも小さいくらい小柄だったが、球の高低・左右などの打ち分けができる子供だった」
練習熱心で、ロイヤルオークスの練習場で、よく練習していたそうだ。
2013年に「全米ジュニアアマ」で優勝し、その勝利により翌年、PGAツアー「バイロン・ネルソン選手権」への出場権を得た。
当時17歳だったが、見事予選通過を果たし、22位タイで終了。221ヤードのパー3で、ホールインワンを達成するという快挙も見せた。
その後はテキサス大に進み、ゴルフ部に所属。
団体戦「BIG12選手権」の3回連続優勝に貢献し、2015年には「フィル・ミケルソン・年間新人賞」に輝いている。
2016年にはメジャーにも挑戦。
「全米オープン」に予選会を勝ち抜いて出場し、この時は予選落ちに終わったが、翌2017年に再度予選会を勝ち抜いて「全米オープン」に出場。
見事、ローアマに輝いた。そして同年、「ライダーカップ」のアマチュア版「ウォーカーカップ」に出場し、米国の勝利に貢献している。
プロ入り後、メジャーで予選落ちはたったの1回!
大舞台に強いシェフラー
「マスターズ」の表彰式で、思わず涙を浮かべるシェフラー。見かけによらず(?!)意外と感情的になるタイプだ。
かつて、ババ・ワトソンのバッグを担ぎ、彼の「マスターズ」2勝に貢献したキャディのテッド・スコット(右)。現在はシェフラーのエースキャディとして活躍している。
アナハイムダックスとダラススターズの試合に、「マスターズ」チャンピオンとして登場したシェフラー。
2020年「ノーザントラスト」の第2ラウンドで「59」叩き出した。ツアー史上最少スコアはジム・フューリックの「58」。
飛距離もショットの精度も上位のシェフラー。平均飛距離は308ヤード(ツアー27位)、パーオン率は71.26%(ツアー6位)、平均スコアは69.676(ツアー3位)だ。
プロ入り後の活躍と大躍進につながる1勝
このように、アマチュア時代から活躍してきたシェフラーは、2018年にプロ入りし、コーンフェリーツアー(PGAツアー下部ツアー)からその人生をスタートしている。
2019年「エバンス・スカラーズ招待」でツアー初優勝を遂げ、その後「ネーションワイド・チルドレンズホスピタル」で優勝。
世界ランクも初めてトップ100位以内にランクインした。
2020年の「WGC・メキシコ選手権」で26位タイに入り、エリートの証である「世界ランク50位以内」に初めてランクインしている。
また、昨年は未勝利でありながら、「ライダーカップ」の米国キャプテン、スティーブ・ストリッカーにその実力を買われ、メンバーに抜擢。
2勝0敗1引き分けという、ルーキーながらすばらしい成績を残している。
しかも最終日のシングルス戦では、当時世界ランク1位だったジョン・ラームとの対決を制し、米国に勝ち星をもたらした。
スコッティが優勝するのは時間の問題とも言われていたが、このシングルス戦の勝利によって大きな自信が生まれたことが、今年の大躍進につながっているのではないか、との見方も強い。
メジャーの成績を見ると、彼の大舞台での強さがよりわかりやすいかもしれない。
今年のマスターズまでのプロ入り後のメジャーの成績を見ると、8試合中5回、トップ10入りを果たしており、予選落ちはわずか1回。
あとの2回はどちらもトップ20には入っている。
デビュー当時から、ほとんどのメジャーのリーダーボードの上位に名を連ねてきた彼なら、今年「マスターズ」で優勝したのをきっかけに、かつてのブルックス・ケプカのようにメジャーで連勝する可能性も高い。
今後のメジャーでの彼の活躍に注目だ。
プロ入り後のメジャー成績
2019年 | 全米オープン予落 |
2020年 | マスターズ19位タイ 全米プロ4位タイ |
2021年 | マスターズ18位タイ 全米プロ8位タイ 全米オープン7位タイ 全英オープン8位タイ |
2022年 | マスターズ1位 |
Text/Eiko Oizumi
Photo/Getty Images