• 国境や人種を超えたスポーツの力とゴルフの愉しさをすべての人に。
  1. ホーム >
  2. トーナメントレポート >
  3. 【海外メジャー一気見せ大特集】全英オープンでブライアン・ハー...

【海外メジャー一気見せ大特集】全英オープンでブライアン・ハーマンが悪天候とヤジに耐えて初優勝

全英オープンでブライアン・ハーマンが悪天候とヤジに耐えプロ15年目でメジャー初優勝!

The Open 2023年7月20日〜23日/Royal Liverpool GC・7383ヤード・パー71

2009年にプロ転向して以来、15年目にしてメジャー初優勝を飾った小柄なレフティ、ブライアン・ハーマン。
彼の戦いぶりや心境をレポートする。

©Yoshitaka Watanabe

優勝

Brian Harman
ブライアン・ハーマン(米国)

1987年1月19日生まれ。170cm、68kg。PGAツアー3勝、メジャー1勝。2009年にプロ転向し、2012年からPGAツアーに参戦。「ジョンディアクラシック」「ウェルズファーゴ選手権」で優勝。ニックネームは「肉屋」。

©Yoshitaka Watanabe

最終日の最終ホールでガードバンカーにつかまったハーマン。うまく脱出してガッツポーズ!

「お前はメジャーで勝てるタマじゃない」
ギャラリーの一言が、優勝への原動力に

クラレットジャグ(優勝トロフィー)を掲げて笑顔のハーマン。表彰式でも雨は降り続いた。

狩猟好きハーマンが優勝トロフィーも狙い撃ち

狩りや釣りが趣味で、トラクターを所有し、自分の農場を持つPGAツアーのベテラン選手、36歳のブライアン・ハーマンが「全英オープン」でメジャー初優勝を飾った。
今大会の優勝で、2014年「ジョンディアクラシック」、2017年「ウェルズファーゴ選手権」に続く、6年ぶりのツアー3勝目を達成。プロ入り後、340試合目でようやく叶えたメジャー優勝だった。

「嬉しい限りだ。ここ3日間は本当にタフな戦いだった。今日、昨日と出だしは悪かったが、立て直すことができて本当に満足している」

3日目を終えて、2位のキャメロン・ヤングに5打差をつけていたハーマンは、出だしの2番と5番をボギーにしたが、6~7番で連続バーディを奪い、振り出しのスコアに戻した。
その後、13番でボギーを叩いたが、14~15番で再び連続バーディを奪い、トータルで4バーディ、3ボギーの70とし、1つスコアを伸ばして通算13アンダーに。
2位タイのトム・キム、セップ・ストラカ、ジェイソン・デイ、ジョン・ラームに6打差をつけ、余裕の勝利だった。
過去、ハーマンは「全英オープン」に8回出場しているが、これまでの最高成績は2022年の6位タイだった。

ハーマンの敵は悪天候とヤジ?!

©Yoshitaka Watanabe

最終日は寒く、1日中雨が降りしきる悪天候の中、行なわれた。写真はブライアン・ハーマンとキャディのスコット・ツェー(左)。「全米プロ」チャンピオン、ボブ・ツェーの弟だ。

最終日は朝から降りしきる雨と、寒さとの戦いでもあったが、彼にはもう一つ、リバプールの観客の手厳しいヤジやブーイングとの戦いもあった。
地元のご贔屓、トミー・フリートウッドや、ライダーカップ・欧州チームの旗頭でもあるジョン・ラーム、あるいは2014年の「全英オープン」で優勝したローリー・マキロイに大きな声援が飛ぶ中、ボギーを叩くと拍手が湧き、「お前は(メジャーで)勝てるタマじゃない」、「アメリカのクソ野郎」などとヤジられていたブライアン・ハーマンは、現場で見ていても気の毒だった。
だが、彼はそんなヤジやブーイングにも動じずに、いや、それをモチベーションに変えて戦っていた。

「昨日(土曜日)、2つ目のボギーを叩いたあと、ある男の横を通り過ぎたんだ。その時、彼は『ハーマン、お前は勝てるタマじゃない』と言われた。それが大いに助けになったんだ。その一言を聞いて、自分は十分勝てると思い直せた。僕は優勝できる。自分のやり方でできる。そして次のショットもうまくいく、と。うん、これ以上、このことに言及しない方がいいな。彼のおかげ、というよりは、忍耐力で勝てたんだから。そのあともミスショットを打つことはわかっていたし、天候や状況次第で悪いショットを打つこともあるだろう。だが、それにどう反応するかで、自分がここに座れるかどうか(優勝できるかどうか)が決まるとわかっていたんだよ」

「(1番ホールでブーイングされたことについては)なぜかわからない。フリートウッドやローリーに優勝してもらいたかったからかもね。でも、大丈夫。みんな自分の応援する選手はいるものだから。もし僕にいいプレーをしてほしくなかったんだったら、もっと僕にやさしくしてくれれば良かったね(笑)」

こうして悪天候とヤジに耐えながら、メジャーで初優勝したあとは、ニューヨーク北部の湖畔にある家に向かい、家族と時間を過ごしながら、趣味の狩りや釣りを楽しんだという。

狩猟好きで、農地開拓用にトラクターも購入
多彩な趣味を持つ小柄なレフティ

©R&A

「全英オープン」には、世界一目の肥えたゴルフファンが集まるというが、米国のほとんど無名なブライアン・ハーマンに対しては汚いヤジを浴びせるなど、手厳しかった。

©R&A

地元の一番人気、トミー・フリートウッドは、最終日に1つスコアを落とし、通算4アンダーの10位タイで終えた。

©R&A

ローアマは、初日に5アンダーをマークして首位タイ発進した、南アのクリスト・ランプレヒトが獲得。スコアは通算11オーバー。

©Yoshitaka Watanabe

オーストリアのセップ・ストラカは最終日に2つスコアを伸ばし、6打差の2位タイに。

©Yoshitaka Watanabe

最終日、ベストスコアタイの67をマークしたトム・キムも、ジョン・ラームらとともに2位タイに入った。

高額賞金を獲得しても人生は変わらない

彼は無類の狩猟好きで、「ブッチャー(肉屋)」というニックネームがある。
自宅の冷凍庫には自分が捕らえた獲物の肉を貯蔵しているそうだ。
また、農場も所有していて最近、クボタのオレンジ色のトラクターを購入したという。
妻にはその費用のことは伝えていなかったそうだが、今回の優勝で3ミリオンドル(約4億2300万円)を獲得したのだから、まったく問題はないだろう

「メジャーチャンピオンになり、今後の人生は変わると思うか?」と記者会見で問われると「変わるとは思えない」ときっぱり。
自分には素晴らしい家族がいて、本当に好きな趣味も多様にあり、楽しめる快適な生活を送っているという彼には、人生の変更は必要なさそうだ。

ただ、彼の多彩な趣味にもう一つ「クラレットジャグでビールを飲む」が追加される1年となることは間違いないだろう。
優勝当日は、ギネスビールをトロフィーに入れて飲み干す、と宣言していたハーマン。
SNSでもその様子が早速アップされていた。

2023全英オープン最終成績

優勝ブライアン・ハーマン−13
2位トム・キム
セップ・ストラカ
ジェイソン・デイ
ジョン・ラーム
−7
6位エミリアーノ・グリジョ
ローリー・マキロイ
−6
8位シュバンカ・シャルマ
キャメロン・ヤング
−5
10位マックス・ホーマ
マシュー・ジョーダン
トミー・フリートウッド
−4
13位松山英樹
ビクトル・ホブラン
−3
17位ザンダー・シャウフェレ−2
23位スコッティ・シェフラー
リッキー・ファウラー
E
33位キャメロン・スミス+1
60位ブライソン・デシャンボー
星野陸也
+7
64位ブルックス・ケプカ+8

予選落ち/安森一貴、比嘉一貴、中島啓太、フィル・ミケルソン、アーニー・エルス、蟬川泰果、ジャスティン・トーマス、金谷拓実、ダスティン・ジョンソン、平田憲聖、岩田寛

Text/Eiko Oizumi

大泉英子

「ゴルフ・グローバル」編集長。海外メジャー取材は男・女・シニア合わせて130試合以上。現在も海外ツアーをメインに取材。全米ゴルフ記者協会、欧州ゴルフ記者協会、日本ゴルフジャーナリスト協会会員。

Photo/Yoshitaka Watanabe、R&A、Eiko Oizumi

関連する記事