世界にはゴルフ文化のない国、あるいは最近ゴルフ場ができたばかりという国がいくつもある。
ここでは、「ゴルフ発展途上国」の歴史と文化、“ゴルフの夜明け”との関係性などを紐解いていく。
第17回はブータン王国を紹介する。
ブータン王国
北は中国、それ以外はインドと接しているブータン。ブータンには国際空港が1つしかなく、パロ空港のみ。ブータンの国営航空であるロイヤルブータン航空だけが国際線を飛ばしており、バンコク、デリー、カトマンズ、ダッカ、シンガポール便などが就航。
手つかずの自然と人々が共生
仏教への信仰心が篤い世界一幸せな国
ブータンは100%有機農業を実施。日本人観光客によって、マツタケ採取ができることが認識されると、ブータンの一大農産物となった(“仏陀のキノコ”を意味する「サンガイ・シャム」と名付けられた)。
ブータンにはゴールデンラングールなど多くの珍しい種類のサルが生息。その他、ベンガルトラ、レッドパンダ、ヒマラヤンブラックベア、770種類以上の鳥など様々な動物を見ることができる。
ヒマラヤの山々に囲まれた雄大な景色を堪能できるブータン。トレッキングも人気。
8世紀にパドマサンババ(チベットに密教をもたらした人物)が虎の背に乗って舞い降りたという伝説が残る、チベット仏教の聖地「タクツァン僧院」。僧院へのアクセスは徒歩のみ(一部は馬も可)。片道3時間前後かかる。
仏教が盛んなヒマラヤの王国
北は中国、その他はインドと国境を接するブータンは、南アジアに位置する内陸国で、北部にはヒマラヤ山脈が広がり、未踏峰としては世界最高峰のガンカー・プンスム(〝崇高な三兄弟の白い峰〟の意。7570メートル)がそびえたっている。
人口は約86万人、首都はティンプー、公用語はゾンカ語だ。
ゾンカ語が国語として決められたのは比較的最近のため、公用語になっている割には、国民の3割程度しか理解できないという話だ。
多くの若者は、英語を流暢に話せるという。
仏教が盛んな国であり、人々の生活に根ざした宗教となっている。
7世紀に仏教が伝来。その当時、チベットを広く統一した王、ソンツェン・ガンポは、多数の仏教の寺を建てた。
ブータンの古刹として有名なパロのキチュ・ラカン、ブムタンのジャンパ・ラカンなどは、ソンツェン・ガンポが627年に建てたとされる寺だが、彼が建てた12の寺も含め、全部で108の寺があるという。
国王が治める世界一幸福度が高い国
第5代国王のジグメ・ケサル・ナムゲル・ワンチュク(左)とジェツン・ペマ王妃。国王は2006年に26歳で即位し、その端正な容姿と穏やかな人柄で人気。2011年に結婚し、2人の子供がいる。
ブータンは世界で唯一、チベット仏教を国教とする国。菩薩信仰が強く、宗教は生活の一部となっている。不要な殺生をせず、常に慈悲の心を持つ教えは国民性にも表れ、幸福度世界一と言われる政策の土台にもなっている。
2006年、ジグメ・ケサル・ナムゲル・ワンチュクが26歳で第5代国王の座に就いた。
2011年の東日本大震災直後には国王夫妻が日本に国賓として来日し、日本でも一躍有名になったので、この美男・美女カップルをテレビで観た人も多いだろう。
ブータンは「世界一幸福度が高い国」と表現されることも多い。これは一体どういうことなのだろうか?
ブータンは決して先進国ではないが、いろいろな物に溢れている先進国では味わえない「経済的な豊かさではなく、精神的な豊かさ」がある国だとされている。
1971年に国連に加盟して以来、代々の国王は「国民総幸福量」を大事にした国づくりを進めてきた。
国民一人ひとりの幸福量を最大にすることで、国家としての幸福度を最大化しようという狙いがある。
近年ではインターネットやスマホの普及もあり(一時、ブータンでは禁止されていた)、他国の経済事情と比較する若者も多く、幸福度は低下。
だが、統率力のあるリーダーのもと、衣食住が保障され、自分達は幸せだ、と胸を張って言えるブータン人に学ぶことは多い。
ブータン経済を支える日本へのマツタケ輸出
2000年代初頭には、世界で最も経済成長を遂げていた国だったブータン。2007年には22・4% の経済成長率で世界2位を誇っていたこともある。
ブータンの主な産業は、林業、農業、観光業、インドへの電力供給などで成り立っているが、手工業品、宗教的な美術品などによる収入も少なくはない。
またブータンは100%有機農業を実施しており、キノコは地元料理に常に取り入れられている。
1988年、アウム・クチュム氏が新鮮なキノコを首都ティンプーの市場に持ち込んだところ、彼女の屋台を通りかかった日本人観光客がそのキノコが「マツタケ」であることを発見。
1年後には「サンガイ・シャム(〝仏陀のキノコ〟の意)」と名付けられ、収穫されたマツタケは1キロ単位で箱詰めされて日本に輸出されることになった。
アーチェリーが人気
ゴルフは1960年代から
アーチェリーはブータンで人気。全国各地で大会が行なわれており、社交的なイベントとしても楽しまれている。
ブータンでは織物文化が盛ん。男性の民族衣装は「ゴ」、女性の民族衣装は「キラ」と呼ばれている。素晴らしい手織りの美しい色柄の衣類やスカーフなどは観光客も購入できる。染色技術も発達。
アーチェリーはブータンの国民的競技であり、全国各地で大会が行なわれる非常に人気の高いスポーツだ。
ゴルフがブータンにもたらされたのは1960年代後半、と意外と早く、首都ティンプーに、9ホールのロイヤルティンプーGC(R&A公認)が建設され、その後、ドラクポイGCとインディアハウスGC、ハーGCという3つの9ホールコースがオープン。
ゲストも受け付けている。ブータンゴルフ連盟は、ロイヤルティンプーGCがオープンして後の、今から約40年前に設立された。
「我々の目標は、国内でゴルフを普及させること。年に2回、ジュニア向けの草の根キャンプを開催している。」とフンツォ・ギャルツェン会長は語る。
現在、まだプロゴルファーは生まれていないが、優秀なアマチュアは何人もいるという。
ロイヤルティンプーゴルフクラブ
Royal Thimphu Golf Club
ティンプーの中心部に位置する9ホールのセミプライベートコース
ブータンの政治と宗教を担う国の中枢「タシチョ宮」に隣接するロイヤルティンプーGC。コースからも「タシチョ宮」を見ることができる。
ブータン政府の本拠地・タシチョ宮に隣接
毎週水曜日にはミニトーナメントを開催
首都ティンプーの中心に位置しながら、青々とした松の木に囲まれ、山々のパノラマビューを楽しめる。
メンバーやビジターのグリーンフィーで従業員の給与やコースメンテナンス、必要な機械設備などが賄われている。
タシチョ宮はさまざまな催事にも利用され、国王の戴冠式や晩餐会も行なわれる。釘を1本も使わずに建てる、ブータンの伝統的建築様式を見ることができる。
ジュニアゴルファーの育成にも力を入れているブータンゴルフ連盟。
歴史上、重要な場所に位置するブータン最古のコース
1968年に開場し、ブータンで最も古く、便利な場所にあるコースがロイヤルティンプーGCだ。
首都ティンプーにあるブータン政府の本拠地、タシチョ宮に近接したコースからは、ワンディツェ寺院も見ることができ、訪れるゴルファーにブータンの歴史を感じさせる9ホールとなっている。
18ホールをプレーしたいなら、同じコースを2回回る必要があるが、クラブハウスには居心地のよいレストランも完備されているので、ぜひターリー(定食のようなもの)を事前に注文して、9ホールを終えた時に楽しむのがオススメだ。
毎週水曜日には地元のゴルファーグループが主催するミニトーナメントが開催され、ビジターも参加できるので、機会があれば参加してみるといい。
地元の人との交流も楽しめ、文化を垣間見る絶好の機会となるだろう。
ドラクポイゴルフクラブ
Drakpoi Golf Club
ブータン陸軍の支援を得て建設された9ホール
デチェンチョリンに位置するドラクポイGCでは、周囲の山々と、人々の住む街を眺めながらプレーできる。
近隣の仏教寺院からの笛の響きが感動的
クラブハウス周辺のホールをプレーするゴルファー達。こじんまりとしたコースながらも、大自然に囲まれてのプレーを楽しめる。
息を呑むようなパノラマが特徴。グリーンフィーは40ドル、キャディフィーは10ドル。予約なしでプレーできる。
クラブハウスから9番ホールのフェアウェイを眺めるとこんな感じ。
クラブハウスも充実!
陸軍のコース
ティンプー市街から車で30分の場所に位置するドラクポイGCは、2018年にブータンの陸軍の支援を得て建設された9ホール。
切り立った垂直な山にあり、チャレンジングなコースだ。
3356ヤード・パー36で、多くのティーグラウンドからは素晴らしい景色を眺めることができる。
隣接する仏教寺院からは僧侶の読経と笛の響きが聞こえてきて、いかにも仏教国ブータンのゴルフ場、という雰囲気を味わえる。
クラブハウスは美しく、宿泊施設も完備しているので、観光やゴルフを楽しみたい人にオススメだ。
Photo/Bhutan Tourism, Royal Thimphu GC, Drakpoi GC
Text/Susanne Kemper
スザンヌ・ケンパー(スイス)
オーストリア国籍、スイス在住。20年以上にわたって米国、欧州を中心に世界中を旅しながら、ゴルフ誌やライフスタイル誌に寄稿。5ヶ国語を操る。