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【ライダーカップ】なぜアメリカは負けたのか?
世界ランク上位者揃いもまさかの不調

世界ランク上位者揃いの米国チームだったが……

過去「ライダーカップ」で6回コンビを組み、勝ち星を挙げてきたジョーダン・スピース&ジャスティン・トーマスの黄金コンビも、今大会では2敗1分と勝ち星なしに終わった。
米国の劣勢ぶりに呆然とするコリン・モリカワ。後ろで抱き抱えるジャスティン・トーマスの表情も不安そう。
米国キャプテンのザック・ジョンソン(左)を始め、スティーブ・ストリッカー(中央)、ジム・フューリックら副キャプテンも、欧州の圧倒的な優勢に、なす術がなかった。
初日の1組目に、スコッティ・シェフラー&サム・バーンズという仲良しコンビを投入したザック・ジョンソン。実際この2人のコンビの、昨年の「プレジデンツカップ」のデータを見ると、ポイントが取れていない。これに対して米メディアは「どんなデータを見て、この2人を組ませたんだ。しかも初日の1組目という、勢いをつけたい大事なマッチに……」とジョンソンの采配を批判した。
パトリック・キャントレーが勝ち星を挙げるロングパットを決め、キャディのジョー・ラカバが帽子を脱いで振った。これが対戦相手のローリー・マキロイの怒りを買い、騒動に。
パトリック・キャントレーが帽子を被らないことに対し、「金銭をもらえないことに対する反抗的な態度」と捉える者もいた。実際は、帽子のサイズが合わなかったという理由からだという。

「復讐は忘れた頃にするのが良い」ということわざがあるが、欧州の「ライダーカップ」チームメンバーは、恐らくこれに同意しないかもしれない。
彼らはローマ郊外のマルコシモーネG&CCに大量の熱気をもたらし、16・5対11・5で米国チームをかなり徹底的に、楽々と破ったからだ。

10月1日に閉幕した第44回「ライダーカップ」は、米国にとって欧州で30年ぶりに優勝できる可能性があると同時に、難しい課題とされていた。
米国チームはウィスリングストレーツで行なわれた2021年大会で、記録的な大差(10ポイント差)で勝利し、そのメンバーのうち7人がローマ大会のキャプテン、ザック・ジョンソンが指揮するメンバーに名を連ねていた。

しかし、欧州チームには別のプランがあった。
LIVゴルフリーグに参加したことで、キャプテンから外されたヘンリク・ステンソンの代わりに就任した、ルーク・ドナルドが指揮する欧州チームは絶好調で、2年前の屈辱的な敗北のリベンジをしようと躍起になっていた。
ホストチームは序盤から猛攻を仕掛け、午前中のフォーサムで前例のない4対0というリードを奪ったが、彼らは過去を振り返ることなく、その後も引き続き米国に圧力をかけた。
米国はシングルス戦の行なわれた日曜日の午後に、再び4ポイント差まで迫ることはあったものの、優勝のチャンスはなかったのだ。
あるいは引き分けにして「ライダーカップ」を保持するチャンスさえもなかったのである。

欧州のパフォーマンスにとって重要な要素は、世界ランク1位のスコッティ・シェフラーに次いで、2位、3位、4位にランクインしているローリー・マキロイ、ジョン・ラーム、ビクトル・ホブランの3人のビッグネームのプレーだった。
彼らは合計10・5ポイントを獲得し、そのうちマキロイはチーム最多の4ポイントを獲得した。
また、ティレル・ハットンも3・5ポイントを獲得して勝利に貢献。ビッグネームたちは必要に応じて結果を出していたのだ。

「彼らにやる気を出させたり、準備させるために私が何かする必要は全くなかった」とドナルドは語る。

一方、惨敗を喫した米国チームは、準備が出来ている状態とは程遠いものだった。
ほとんどの選手は、フェデックスカップ・プレーオフ終了後、5週間も試合に出場していなかった。
ルーキーのマックス・ホーマは、「ライダーカップ」の2週間前にカリフォルニア州ナパで開催された「フォーティネット選手権」に出場していたが、3勝1敗1引き分けというチームで最高の成績を収めたのも偶然ではないだろう。
2022年の「プレジデンツカップ」デビューで勝利できなかったスコッティ・シェフラーは、ローマでも勝利ポイントを挙げることができず、「ライダーカップ」史上、一度も勝てなかった初の世界ランキング1位となった。
また、特にザック・ジョンソンが指名した6選手の成績は、4勝12敗4引き分けという有様で、ほとんど助けを得ることができなかったのだ。
米国最終選考ランキングで15位のジャスティン・トーマスが指名に値するかどうかについては疑問があったが、「ライダーカップ」の成績が芳しくないリッキー・ファウラーや、シーズン終盤に苦戦したジョーダン・スピースの追加も同様に疑問視されていた。
スピースはさらに、試合の数週間前に帝王切開で生まれた娘のことにも気を取られてしまったということがあるだろう。

調子がよかった唯一のアメリカ人は、世界ランキング5位のパトリック・キャントレーだった。
彼はフォーボールマッチの最後の3ホールで重要なパットを決め、ローリー・マキロイの5戦全勝を阻止し、「全米オープン」チャンピオンのウィンダム・クラークとともに、マキロイとマット・フィッツパトリックを1アップで破った。
キャントレーは18番ホールで約12メートルのバーディパットを沈めて締めくくり、米国の選手たちは彼に帽子を振って祝福。
彼のキャディであるジョー・ラカバも帽子を脱いで、それを振りながらグリーン回りを歩いたのだった。
これは、キャントレーが「ライダーカップ」でプレーする選手に直接、報酬が支払われないことに抗議して、USAの帽子を被ることを拒否したという報道があったためだった。
午後になると、欧州のファンたちは彼に対して茶化すように帽子を振っていたが、彼が18番のパットを沈めたあと、ラカバと米国チームはそれに対抗して帽子を振ったのだ。

しかしその時、ラカバはキャントレーと引き分けに持ち込むための6メートルのパットが残っていたマキロイに近づきすぎてしまった。
2人は言葉を交わし、グリーンサイドではシェーン・ローリーとジャスティン・ローズがラカバを捕まえ、ラカバが欧州チームに対して無礼を働いたと抗議。
1時間以上経っても、マキロイは怒りが収まらず、投稿されたSNSの動画には彼がトーマスのキャディであるジム・〝ボーンズ〟・マッケイを怒鳴りつける様子が映っていたのだった。
翌日、マキロイはサム・バーンズに3&1で勝利した。

「とても集中できた。それ(昨日の事件)を糧にでき、素晴らしい1週間を無駄にすることはなかったよ。昨夜の出来事をうまく利用した」とマキロイは語った。
これは、2年前のリベンジを果たそうとする欧州の決意の一例に過ぎなかった。任務完了である。

「かなり感慨深いですね。その間、いろいろあったが素晴らしい旅だった。これが私と仲間たちにとって『ライダーカップ』が特別である理由だ。我々は互いのためにプレーし、これらの思い出を永遠に共有するだろう。私は彼らに十分な準備をさせたが、あとは彼らが自分たちで良いプレーをしなければならなかった。そしてそれを成し遂げたのだ。彼らはこれから先、長い間競技の舞台に立つだろうし、2年後にもすばらしい戦いをするだろう」(ルーク・ドナルド)

次回の「ライダーカップ」は2025年で、ニューヨークのベスページ・ブラックコースで開催される。
今度は欧州側が、アウェイでの勝利の秘訣を探求することになる。

「恐らくここ6、7年間、耳を傾けてくれる人に言い続けてきたことだが、現在のゴルフ界における最大の成功の一つはアウェイの『ライダーカップ』で勝つことだと思う。そしてそれが我々がベスページでやろうとしていることだ」とマキロイ。
彼はすでに2年後の「ライダーカップ」へ目を向けている。

Text/Dave Shedloski

デーブ・シェドロスキー(アメリカ)

長年にわたり、ゴルフトーナメントを取材。著書にアーノルド・パーマーの伝記『A Life Well Played』やジャック・ニクラスの『ゴールデン・トワイライト』などがある。「ライダーカップ」の公式本を手がける。

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