1日5万人、合計27万人超 の観客を動員したローマ初開催の「ライダーカップ」
イタリアゴルフのポテンシャル
イタリアのスポーツといえば、サッカーの印象が強いが、ゴルフはいったいイタリア人にとってどんな存在なのだろうか?
今のゴルフ人口や、ゴルフのポテンシャルについて、イタリア人ゴルフ記者シルビア・アウディシオがレポート。
「今回の『ライダーカップ』はパーフェクトの一言に尽きる!」
これは、新星ルドビグ・オーバーグをサポートするためにスウェーデンから来た5人組のファンが言った言葉だ。
彼らは、祖父母、娘、そして2人の孫で構成される家族で、オーバーグの名前にちなんで、それぞれが青と黄色のシャツにオーバーグの名前の文字を一つずつ着用していた。
このイタリア開催の「ライダーカップ」について彼らは「全体のセットアップは素晴らしく、我々はここに来れてラッキーだ。ローマにこのあと数日間滞在し、今回はゴルフバッグなしで市街を観光したいと思うが、すぐにローマに戻ってきて、次回はゴルフしたいと思っているよ」と語っていた。
「ローマの『ライダーカップ』は10点満点かもしれないが、米国が負けたので、評価は9」と、アメリカのマーシャルズ(バイキング)の陽気なキャプテン、カル・フランクリンは言う。
彼らは過去8大会で米国チームを応援してきた団体だ。
AP通信のダグ・ファーガソンはコースについて「『ライダーカップ』にとって最も美しいコースである必要はないが、マルコ・シモーネはすばらしいレイアウトであり、今大会に合った舞台。完璧なプレゼンテーションであり、観客が選手のすぐ近くまで接近できなくても、プレーが良く見える」と言う。
そして「運営が非常にスムーズで、これまでの取材の中で、食べ物も最高。
さらに、このコースからはローマ市街は見えなくても、ローマとその歴史が近くにあることは知っている。
だから、多くのアメリカ人たちは試合後にローマを訪れることだろう」と付け加えている。
2015年12月に行なわれた「ライダーカップ」のローマ開催の発表によって、ゴルフ界に衝撃が走った。
誰もがイタリアのチャンピオン(コンスタンチノ・ロッカやモリナリ兄弟など)は知っているが、この国を訪れる際にゴルフバッグを持参することはないからである。
発表以降の8年間には、コロナパンデミックやトーナメントの1年間の延期など、さまざまな問題が発生した。
さらに新興アラブリーグ(LIVゴルフ)へ欧州チームのキャプテン、ヘンリク・ステンソンや、強い選手たちが移籍することで、もはや彼らが欧州チームのメンバーになることは不可能になった。
そして何よりも、マルコ・シモーネへの道路は最後の瞬間まで整備されなかったため、イタリアの組織に対して不信感が募っていたのだ。
2021年のウィスリングストレーツでの「ライダーカップ」で、米国チームが19:9で圧勝した後、ベルンハルト・ランガー(「ライダーカップ」に10回出場し、のちにキャプテンとして優勝)のような選手たちは、米国チームが少なくとも数回の大会で勝利するだろうと語っていたが、これはわりと妥当な考えに思えたものだ。
そして、わずか半年前まではそのような見方がされていたが、その後欧州の選手のレベルは急速に上昇し、世界ランキングの上位4人に欧州のスーパースターが3人含まれるほどになった。
さらに、主将ルーク・ドナルドによるルドビグ・オーバーグの突然の推薦がチームと世界に驚きを与えた。
これらのことから、競技前日には欧州は米国と対等な地位にあるように見えたが、最終的には圧倒的な勝利を収めた。
そしてホームのアドバンテージは、選手と観客の両方にとって重要な役割を果たしたのだ。
DPワールドツアーと「ライダーカップ」のコマーシャルディレクターであるマックス・ハミルトン氏は、「これまでで最高の『ライダーカップ』を構築し、実行してくれたチームに感謝している。まさにスポーツを超越している」と総括。
そして、一部の人々は「大衆文化を超えたもの」とさえ付け加えた。
この「ライダーカップ」開催権を獲得するために、イタリアはオーストリア、ドイツ、スペインと戦わねばならなかった。
しかも、これらの国々は欧州チームメンバーに選ばれそうな可能性のある選手がいるという点において、明らかな優位性を持っており、ローマの勝利は不可能に思われた。
しかし今、イタリアゴルフはここから始まろうとしており、その瞬間は重要である。
イタリアゴルフは、エドワルド&フランチェスコのモリナリ兄弟や、コスタンティノ・ロッカなど、偉大なチャンピオンの存在だけではない。
歴史と伝統(1903年にオープンした、ローマにあるイタリア最古のゴルフ場、アクアサンタなど)があり、質の高い施設と有名なコースデザイナーがいる。
しかしゴルファー数はわずか9万3000人で、実際にプレーするゴルファーの数も少ない。
それは、効果的な宣伝活動が欠けているからだ。
これまでメンバーに依存してきたゴルフクラブの性質に問題があり、メンバー数は近年減少傾向にある。
また、実際にプレーする人数が少ない(グリーンフィが支払われることがあまりない)という問題もある。
イタリアゴルフは、国際舞台でゴルフのポテンシャルがあることをアピールすることに、今まで失敗してきたのだ。
したがって、今回の「ライダーカップ」は、世界中の観客の熱狂によって、ゴルフ業界全体にとって素晴らしい刺激となっている。
ファッションデザイナーのラビニア・ビアジョッティがマルコ・シモーネゴルフ&CC(母親であるラウラが1970年代後半にマルコ・シモーネ城を復活させ、自宅とアトリエにした場所)の社長を務めているが、「今回の『ライダーカップ』は、イタリアのゴルフや、スポーツ全体、そしてイタリアにとって信じられないほどの成果を生んだ」と語っている。
観光もゴルフも楽しめる魅惑の国「イタリア」
イタリアといえば、サッカーの盛んな国という印象があるが、近年ゴルフ人気も高まりつつあるという。
イタリアのゴルファーは9万3000人で、男女比は7万人:2万3000人だ。イタリアの人口が6000万人ということを考えると、645人に1人がゴルファーだが、女性はゴルファー総人口の25%を占めている。
特に注目すべき地域はロンバルディア(ミラノがある地域。ゴルファー数は2万7000人)とピエモンテ(トリノがある地域。ゴルファー数は1万3000人)となっている。
イタリアには北アルプスや湖のある地域から、南部の海岸地域、トスカーナなどの美しい丘陵地域まで約230コースが存在。
コスパのいいグリーンフィでトップデザイナーによるゴルフ場でのプレーを楽しんだ後は、観光や美味しい食事を楽しめるのがイタリアゴルフの魅力である。
Text/Silvia Audisio
シルビア・アウディシオ
(イタリア)
イタリア・プロゴルフ協会・メディアコミュニケーションマネージャー。「ガゼッタ・デロ・スポルト」「スポートウィーク」などに寄稿。「ゴルフダイジェスト・イタリア」の元編集長。37年間、ゴルフ記者として活躍。
Photo/Eiko Oizumi、PGA of America、Getty Images