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【私の愛したゴルフコース】第23回クラン・シュル・シェールゴルフクラブ(スイス)

世界のゴルフフォトグラファーの第一人者として今も第一線で活躍するデビッド・キャノン。

彼のファインダーを通して切り取られた世界のゴルフコースの数々は、まるで宝石箱のジュエリーのように一つ一つが個性豊かに輝いている。

私の愛したゴルフコース第23回はスイスのクラン・シュル・シェールゴルフクラブを紹介する。

Crans-Sur-Sierre Golf Club

©David Cannon (Getty Images)

まだ雪が残る山々が眼前に迫る7番ホール。クランモンタナはスイスのバレー州シェールの北に位置する山岳リゾートで、各国の著名人の別荘もある。DPワールドツアー「オメガ・ヨーロピアンマスターズ」の舞台。

クラン・シュル・シェールゴルフクラブ(セベ・バレステロスコース)
●設計:セベ・バレステロス
●コース:6277メートル・パー71
●備考:「オメガ・ヨーロピアンマスターズ」開催コース。1906年に9ホールがオープン。セベ・バレステロスコース以外にジャック・ニクラスコース(9ホール・2729メートル・パー35)など全3コースがある。近隣ホテルとの宿泊パッケージもあり。
https://www.golfcrans.ch/en/

欧州のゴルフ史を物語る
スイスのゴルフリゾート

スイス、ヴァレー州のローヌ渓谷から4750フィート(約1448メートル)の高さに位置するクラン・シュル・シェールゴルフクラブのセベ・バレステロスコースは、「世界スキー選手権」を含む多くのスキーの国際大会を開催する山々や素晴らしいスキー場の麓の街にある。
このゴルフ場はもともと1906年に建設され、1948年以降「ヨーロピアンマスターズ」の開催地となっている。

この輝かしいリゾート地にはゴルフの歴史が豊富にあり、街とゴルフ場は、いくつかのホテルとゴルフコースを所有するバラス家と大きなつながりがある。
ガストン・F・バラスは、クラブの継続的な成功と「ヨーロピアンマスターズ」の開催を支えた、現代の陰の功労者だったのだ。
彼は大会のタイトルスポンサーとしてキヤノンと、その後オメガから大きな支援を受けたが、世界中のテレビ視聴者たちは毎年9月に開催されるこの試合の、あまりにも美しい景色に釘付けとなった。

セベ・バレステロスが改修したハイスペックコース

1995年、「ヨーロピアンマスターズ」で3勝を挙げているセベ・バレステロスは、バラス家からコースの改修を依頼され、その作業は1997年に完了。
敷地が狭く、冬になると保育園のスキー場に変わる高原地を改修するという難しいプロジェクトだった。

最初の6ホールは木々に囲まれた、非常に狭くて挑みがいのあるホールとなっており、新しいグリーンは非常にハイスペックに改良され、新しい排水設備も非常に良く機能している。
グリーン上でラインを読むときは、谷に向かって下るという、自然の傾斜を考慮に入れること。
6番グリーンから木々の間を抜けて、次のティーに到着すると、そこにはゴルフ場の真の美しさが目の前に広がっている。
おそらくヨーロッパのゴルフで最も美しい景色の一つが目の前に広がる中で、ドライバーで1オン可能な短いパー4の7番ホールを迎えるのだ。
晴れた日は特に美しく、その景色から目をそらすことができないほど。
私はカメラマンとしてこのホールが大好きで、遠くに見えるイタリアアルプスの峰々と砲台グリーンが、絶景を作り出している。
このドライバーで1オン可能なパー4はセベが新たに創り上げたもので、1オン狙いのティーショットが右サイドやグリーン奥のOBゾーンに行かなければ、トラブルにはならない。
リスクと報酬の素晴らしいホールである。
このグリーンから、時には幸せな気持ちで歩き去る日もあるし、本当に打ちのめされたように感じる日もあるだろう。
グリーンの手前にはガードバンカーがあり、グリーンには傾斜があるので、難しいパッティングが残るが、これはセベがショートゲーム上級者のためにこのようにデザインした、と誇りに思っていたホールなのだ!!

打ち上げの9番ホールは、ティーグラウンドから600ヤード以上あるビッグホールで、ショットの精度が要求されるホール。
この3段グリーンに2オンさせるには、ドライバーの正確性が不可欠だ。
そしてグリーンは、セベ・バレステロスの「拷問部屋」のようなもので、ピン位置がグリーン奥にあると、非常に難しい。

マッターホルン、モンブランなど
世界の名峰が聳え立つゴルファーの庭

©David Cannon (Getty Images)

12th Par4/381yard
バックグラウンドに大きな岩山が聳え立つ12番ホール。写真は1996年「キャノン・ヨーロピアンマスターズ」でプレーする、スコットランドの選手、ロス・ドラモンド。

最終日の18番ホールで、林の中から起死回生のショットを放ち、バーディを決めたセベ・バレステロス。
セベ・バレステロスのこの地でのショットをたたえた記念碑と、そのショットの写真が表紙になっている彼の書籍(1996年撮影)。
8番ホール・パー3(160ヤード)。グリーン手前にガードバンカーがあり、砲台グリーンになっている。

Seve’s Spirit
セベの精神

「オメガ・ヨーロピアンマスターズ」開催時にはスタンドが立つ18番ホールのグリーン。

セベの精神が息づく18番ホール

1993年、すでにこのコースで「ヨーロピアンマスターズ」を三度制覇していたバレステロスは、前の5ホールで連続バーディを決めて、18番ホールのティーグラウンドに到着した。
首位に立っていたバリー・レーンをとらえるためには、このホールでバーディを奪う必要があった。
そのホールで私はセベの撮影をしていたが、幸い彼の写真の中でも最もお気に入りのショットを撮影することができた。
セベはそのホールで林に打ち込んだ。
テレビカメラは単にフェアウェイに出すだけだと確信してフェアウェイで待機していたが、そのおかげで私の写真がゴルフ史上で最も素晴らしい「ピンチを切り抜けた」唯一の記録となったのだ!
テレビクルーだけでなく、彼のキャディのビリー・フォスターも、偉大なゴルファーに安全なプレーをするよう説得していたが、バレステロスには無駄だった。

彼のティーショットはひどくスライスし、球は恐ろしいほど傾斜した18番のフェアウェイの右にある、プールを囲むコンクリート壁からほんの6フィートしか離れていない松の林に入った。
バレステロスが打った次のショットは、私が人生で見た中でも最も信じられないほど素晴らしいショットの一つであり、このゴルフクラブの歴史の大事件の一つとなった。
今も石の銘板が残っているが、それは彼が自分の目の前にある松の木の枝のわずかな隙間にショットを通して、コンクリートの壁を越え、グリーンの手前に着地させる、という欧州ツアー史上で最も素晴らしいショットを放った正確な位置を表している。
そこから、彼は魔法のように巧妙なチップショットを放ち、ボールはグリーンの斜面をゆるやかに転がって、ゴルフ史上において最も驚くべきバーディを決めた。
だが残念なことに、バリー・レーンはセベを1打差で破り、セベのバーディを台無しにしてしまった。

セベの精神は永遠に、この素晴らしいゴルフクラブの一部であり続けるのだ。

Text & Photo/ David Cannon (Getty Images)

David Cannon デビッド・キャノン(イギリス)

海外メジャー100大会以上を取材し、現在も第一線で活躍中のゴルフフォトグラファー界の巨匠。自身もシングルハンデの腕前で、息子はプロゴルファー。アメリカ、ヨーロッパ、中東、オーストラリア、アジアと世界各国を股にかけて撮影している。2022年、PGAオブ・アメリカ生涯功労賞を受賞。Getty Images所属。

Text & Photo/ David Cannon (Getty Images)

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