世界にはゴルフ文化のない国、あるいは最近ゴルフ場ができたばかりという国がいくつもある。
ここでは、「ゴルフ発展途上国」の歴史と文化、“ゴルフの夜明け”との関係性などを紐解いていく。
第18回はキュラソーを紹介する。
キュラソー
カリブの海に浮かぶオランダ領
近年はゴルフ観光にも注力する情熱と歴史の小国
カリブに浮かぶ治癒の島
キュラソーは、ベネズエラの北、約60キロのカリブ海に位置する島だが、実はオランダの構成国の一つだ。
アルバ、ボネール、キュラソーからなる「ABC諸島」の一つで、1499年、スペイン人のアロンソ・デ・オヘーダとイタリア人のアメリゴ・ベスプッチによって発見。
もともと先住民のカケティオス族が住んでいたが、1527年にスペイン人によりイスパニョーラ島へ労働奴隷として連れて行かれた結果、ほぼ全滅してしまった。
キュラソーは、16~17世紀の探検と植民地化の時代にキュラコス・インディアンが住んでいたため、「キュラソー」と呼ばれるようになった。
そして、ビタミンC欠乏から壊血病になることが多かったヨーロッパ人の渡航者たちが、この島に上陸し、ビタミンCが豊富な果物を食した結果、病気が治癒することが多かったため、「イルハ・ダ・キュラソー(癒しの島)」と呼ばれるようになった。
多言語社会で、公用語はオランダ語だが、英語、パピアメント(ポルトガル・クレオール語)、スペイン語なども使われている。
オランダ、フランス、ラテンアメリカの多くの征服者によって統治された影響から、アフリカ系の人種も多く、労働力として東アジアや南アジアからの移民もおり、ユダヤ人コミュニティも存在する。
現在では人口16万人を抱えている。
キュラソーの経済を支える観光業と石油
首都のウィレムスタッドは、17~18世紀に建てられたパステルカラーの美しい建造物(オランダ植民地時代のもの)が立ち並び、観光客に人気のある街だが、この街並みはユネスコの世界遺産リストに登録されている。
1634年にオランダ西インド会社がキュラソーの支配権を得てからは、貿易に適した天然の港付近にウィレムスタッドを建設。商業、貿易などの主要な経済活動が行なわれ、その後、塩の生産や農業で栄えるようになり、西アフリカからの奴隷貿易も行なわれた。
1854年、奴隷制度は廃止されたが、これによりキュラソーの経済は壊滅的打撃を受けた。
1915年、ベネズエラで油田が発見されると、ロイヤル・ダッチ・シェル社がキュラソーにベネズエラ産の原油を扱う石油精製所を建設。
だが、1970年代のオイルショックはキュラソーの石油精製所に大きな打撃を与え、1985年にシェルは製油所を閉鎖した。
現在も、巨大企業シュルンベルジェ社がウィレムスタッドに拠点を置いて石油サービスを行ない、ベネズエラのPDVSAがイスラオイル精製所で石油精製を行なっている。
その他、観光業、船舶サービス、バンカリング、金融サービスなどが盛んだ。
特に観光業はオランダ、アメリカ、他のカリブ諸国、南アメリカからの観光客を歓迎しており、クルーズ船観光は2017年「トップクルーズ・デスティネーション」に選ばれたこともある。
美しいビーチも多く、多くのダイバーたちを魅了。
また、ハイキングやロッククライミングも人気だ。
野球や陸上競技が盛んなキュラソー
キュラソーは、メジャーリーガーやバスケットボールのプロリーグの選手を多く輩出しており、特に野球は非常に人気のあるスポーツだ。
サッカーも小国ながら強豪で、陸上競技の一部でも成功を収めている。
一方、ゴルフはここ数年で注目を浴びており、ABC諸島の連合団体とPGAプロのジェーン・ウェストレイトなどの提唱により、オランダ・カリブゴルフ協会が設立された。
キュラソーには、ブルーベイゴルフリゾート(18ホール)、オールドクォーリーゴルフコース(18ホール)、キュラソーゴルフ&スカッシュクラブ(9ホール)の3コースがあり、観光客(ビジター)は、3コース全てを特別料金でプレーできる「キュラソーゴルフパス(295ドル)」を購入できる。
オールドクォーリーゴルフコース
Old Quarry Golf Course
全長7000ヤード以上の、練習環境も整った18ホール
19世紀の石灰岩採石場にちなんで名付けられた、PBダイ設計コース
美しいターコイズブルーの海に面したオールドクォーリーGC。絶景が広がるが、左サイドはずっと海というプレッシャーのかかるホールもある。
チャリティイベントも開催する、カリブで最高のゴルフ場
全長7009ヤードのオールドクォーリーGCは、キュラソーにある2つの18ホールコースの一つで、PBダイ(ピート・ダイの息子)が設計したチャンピオンシップコース。
「クォーリー」とは採石場のことで、19世紀にこの辺りに広がっていた採石場にちなんで名付けられた。
ダイはこの地の「景色、遺跡、環境」が素晴らしいといい、ゴルファーを魅了する卓越した景色を評価している。
芝は塩に強いパスパラムを使用し、散水には再利用水を使用。環境保護にも配慮している。
各9ホールにパー5を4ホール、パー3を4ホールというユニークなレイアウトとなっており、ウォーターハザードやバンカー、ドッグレッグホールなど非常に戦略的だ。
2010年4月に開場以来、「USAトゥデイ」紙によって、カリブで最高のゴルフ場に2回選ばれており、パッティング、アプローチなどのショートゲームの練習場を含む、芝生の練習施設を完備している。
キュラソーの未来のゴルフを背負う少年
PGAプロのジェーン・ウェストレイトは、オランダ人ゴルファーの母と祖母の影響で15歳の時にゴルフを始め、現在はオールドクォーリーで40人以上のジュニアゴルファーの指導も行なっている。
その生徒の中に、ディラン・ヨンクインドくんもいる。
彼はキュラソーで生まれ育ち、6歳でゴルフをスタート。
ウェストレイトからレッスンを受け、アメリカやコロンビアのジュニアトーナメントにも出場してきたが、2022年からウェストレイトとともにイベントやマーケティングプロジェクトを手伝っている。
「僕はキュラソーを離れ、オランダで国際ビジネスマネージメントを学びますが、その後はPGAスクールに通い、最終的にはジェーンのようになりたいと思っています」(ディランくん)
ブルーベイゴルフコース
Blue Bay Golf Course
ビーチリゾート施設内にある18ホールのゴルフ場
カリブ海に向かって打ち下ろすパー3ホールが圧巻
ブルーベイGCには海に面した3つのホールがあるが、中でも6番ホールの打ち下ろしのパー3は、美しい青い海を眺めながらの爽快なショットを楽しめる。
海賊に占拠された過去を持つ楽園
ブルーベイという名の通り、青く美しい海が眼前に広がるブルーベイゴルフコースは、ウィリアム・〝ロッキー〟・ロクモアによりデザインされた、非常に戦略的に造られた18ホールのコースだ。
6646ヤード・パー72のこのコースには、ティーグラウンドは4つあり、コースメンテナンスもバッチリ。
メンバーやゲストが毎週、あるいは毎月開催される多くのトーナメントに参加している。
かつてこの地は1800年にフランスの海賊によって占拠され、20世紀にはジェイコブス家の所有となり、農場として使用された。
1990年に地元の開発グループがジェイコブス家から農園を購入し、スティーブ・ラスポート氏がこの地にリゾートとゴルフ場を造り上げたという。
リゾートはラグジュアリーな客室を擁し、ゴルフにビーチにと1日中楽しめる。
キュラソーゴルフ&スカッシュクラブ
石油精製所(シェル)によって造られた9ホールのコース
石油エネルギー企業のシェルが建設した9ホールのコースで、初期段階では「ブラウン」と呼ばれた砂地のグリーンがあったといわれている。
約600人のメンバーを擁する石油精製所の関連企業によって管理されていたが、精製所の売却と閉鎖まで続けられた。
現在では小さなグループが管理しており、3コース回れるお得な「キュラソーゴルフパス」でプレーできる。
このコースは9ホールだが、グリーンは10個あり、2回回るとパー70のコースとして楽しめる。
プレー中にイグアナやオウムに遭遇することもあり、いかにもカリブのコースという雰囲気を味わうことができる。
Photo/Getty Images, Old Quarry Golf Course, Santa Barbara Plantation, Blue Bay Golf Resort
Text/Susanne Kemper
スザンヌ・ケンパー(スイス)
オーストリア国籍、スイス在住。20年以上にわたって米国、欧州を中心に世界中を旅しながら、ゴルフ誌やライフスタイル誌に寄稿。5ヶ国語を操る。