プロ入り3年目で、DPワールドツアー初優勝!
今シーズンはPGAツアー本格参戦
序盤はマキロイにリードを許したものの、最終的にはマキロイのスコアよりも1打上で終了。©GettyImages
2020年12月にプロ転向して以来、着実にステップアップしてきた久常涼。
男子下部ツアーのABEMAツアーで3勝を挙げ、JGTO、DPワールドツアーを経て、たった3年間でPGAツアーのシード権を獲得できるまでに大成長を遂げている。
DPワールドツアーを締めくくる最終戦会場で、これまでの道のりを振り返るとともに、今後の展望を語ってもらった。
プロ入り3年目。
順調にいいステップを踏めている
2020年にプロ転向した久常涼のこれまでとこれから
21歳・久常涼の成長速度は非常に速く、力強い推進力で次々に自ら世界への扉を開いている。
2020年12月、高校3年生でプロ転向した久常は、2021年から国内男子下部ツアーで出場機会をうかがいながら、9月までに3勝。
レギュラーツアー「JGTO」に自動的に昇格し、たった7試合でシードを確定させたことで話題となった。
22年には国内シード権を獲得する一方で、常に世界を目指していた久常はDPワールドツアー(欧州ツアー)の予選会に出場。
7位で突破し、22~23年シーズンの欧州ツアー・シード権を獲得した。
開幕戦の「フォーティネット・オーストラリアンPGA選手権」で2位タイに入ると、その後トップ10入り7回。
9月には、「カズー・フランスオープン」でツアー初優勝を飾った。
さらに欧州ツアー・ポイントランキングでトップ10に入り(有資格者を除く)、2024年のPGAツアー・シード権を10位で獲得したのである。
飛び級ではなく、確実に順調に進んでいる
ゴルフ・グローバル(以下GG): 3年前にプロ入りして、ここまでトントン拍子に来ていますが、ご自身、ここまでの道のりをどうお考えですか?
久常:いやぁ~、想像していなかったですね、自分でも。
いいステップは踏めていると思います。
順を追って、ABEMAツアーから始まり、JGTO、そして去年(2022年)はJGTOとアジアンツアーを掛け持ちしながらプレーして、今年はDPワールドツアーでこうして最終戦や大きな試合にも出られるようになった。
ちょっとペースは速いですけど、急に飛び級という感じではなく、順を追っていけているので、なんとか順調に進んでいるな、という感じです。
GG:ABEMAで3勝して、ここまでブレークしたきっかけというか、心境の変化などはあったんですか?
久常:特にないんですよね。最初は出場権もなかったから、優勝しか意味がなかった。
優勝しないと次にもつながらなかったんです。
だからABEMAは、状況が差し迫っていただけにすぐに勝つことができた。
JGTOでは勝てていませんが、昨年はシーズンを通して戦うことが一つの目標だったんです。
でも賞金ランキングで上位にいて、欧州ツアーの最終予選会に出場する資格を取れたので、出場した。
そしてそこでも目標としていた「通過」を果たすことができたので、特にきっかけというのはないんです。
GG:以前から海外志向の強い選手だと思っていましたが、うまく今につながっていますね。それに昔は「英語は全然」とおっしゃってましたが、今では英語でスピーチしているのがすごい!練習したんですか?
久常:いや、練習はしていないんですけど、通訳さんを連れて行くお金もないですし、困ったら結構ツアーが助けてくれたりして……。
最低限くらいなら、なんとか実際できてるので、そんなに喋れなくても大丈夫かな、と。
複数人との会話になると、どうしても理解度は薄いなという感じはしますけど、ほぼなんとなくわかるようにはなってきましたね、最近は。
GG:久常選手の欧州ツアーでの目標は、シード権確保のために110位以内に入る→最終戦に出場するために50位以内に入る、とどんどん変わってきたと思うんですが、これは思っていた通りの道のりでしたか?
久常:通常の試合ではずっとトップ10前後で戦えている感はあったので、それが続けばこの最終戦まで来れる可能性はありそうだな、と思ってました。
もちろん最初は予選会に通って、こっちでシードを取ることが目標だったので、その辺は変わってきていますが、「BMW PGA選手権(欧州ツアーのメジャー級のビッグトーナメント)」に出た時に、マキロイとかジョン・ラーム、フィッツパトリックらPGAツアーで活躍する選手たちがこぞって出ていた試合でもあったので、ちょっと浮かれている感覚はありましたね。
そういう試合になると、まだ戦える感じはしなかった。でもその経験があったので、最終戦も戦えましたし、いい1週間になりました。
川村昌弘の「何があっても深く考えすぎない」
姿勢を学んだ1年間
「あまり深刻に考えない」のが海外でやっていく秘訣
GG:それにしても欧州ツアー1年目で「フランスオープン」に勝ったのはすごいと思うんですけど、優勝した当時はどんな感じだったんですか?
久常:ちょうどその前、2週間は予選落ちが続いていたんです。
なんかすごく考える時間も多くて、トップの選手と自分とで何が違うのかな、と。
で、攻めの気持ち、姿勢が違うんじゃないかな、と思ったんです。
やっぱりトップの選手はガンガン行かないと勝てないな、というのを雰囲気で見てて、感じたところがあって、それがたまたまフランスオープンでかみ合って、勝てたんじゃないのかな、と思います。
でもあまり勝てると思っていなかったので、すごくラッキーでしたね。
ああいう歴史ある大会で勝てたのは、すごく自信になりました。
GG:優勝後は、こっちの選手や海外のゴルフファンからも少しずつ名前を覚えてもらったりとか、注目度が上がってきたんじゃないかと思いますが、自分なりに自信を持てたというか、トップクラスの中に入ってきたな、という感じはしますか?
久常:そういう感じはないけど、ル・ゴルフナショナルは本当に難しいコースだったので、そこで勝てたのはすごく自信になりましたね。
それは日本に帰って、「ZOZOチャンピオンシップ」で6位タイになったのもそうですし、いい風につながってるなとは思います。
こっちでも戦っていけるんじゃないかなという気は少ししていますね。
GG:DPワールドツアーを1年間戦ってみて、一番勉強になったことはなんですか?
久常:今までこんな長い期間、海外で生活することもなかったんですが、移動での不便さなどを経験し、全てをあまり深刻に考えすぎないこと、というのを学びました。
コース上でもコース外でも、思い通りに行かないことはたくさんありますが、どんな状況でも順応性や柔軟性があれば、悪い状況にいても改善できると思ったんです。
あまり深刻に考えすぎないでやることが、こっちでは大事なのかな、と川村昌弘さんを見て思いましたね(笑)。
川村さんのようなスタイルでやっていけばできるんじゃないのかな、という気持ちでやっていたので、本当にいい先輩がいてくれたおかげで、僕も欧州ツアーを楽しめました。
川村さんは14歳でエビアンのジュニアの大会の第1回目で優勝されていて、僕もその試合で勝ったことがあるんです。
高卒でプロになったというのも、川村さんと同じですし、何か勝手に共通点を抱いています(笑)。
一番身近にいる、すごい人。それで今年、一番何を学んだのかといえば、川村さんのすごさを1年間学びました。
GG:いつも一緒にいたんですか?
久常:はい、練習ラウンドも最後の方はずっと一緒にやってましたし、ご飯も週1回は必ずどこかのタイミングで食べに行ってました。
だから、最終戦のドバイに川村さんがいないのが残念でしたね。
GG:旅行中でもプレー中でもいいんですが、ピンチになったことはありましたか?
久常:飛行機の乗り継ぎミスで、火曜日入りの試合が2回くらいありましたね。
日曜日から移動が始まってるのに、月曜日中に入れなくて……。
実は「フランスオープン」の時も日曜日入りする予定が、飛行機の欠航と重なって、火曜日の早朝に着いたんですよ。
ちょっと寝て、すぐに練習ラウンドして、次の日ゆっくり休んで、木曜日から試合という感じだったんで……。
GG:では、あまり練習する時間がなかったんですね。
久常:そうですね。その前の週は予選落ちしてるから、本当は土・日・月とすごくヒマだったはずなのに、クラブも握れず。
でもこっちにいると吹っ切れちゃうというか、そういうことは何回かはあるよね、と。
日本では全てのことがスムーズにいく感じがあるから、同じことが起きると、違和感を感じるけど、こっちだとそれが半分、当たり前だから。
GG:みんな他の人もそういうことが結構あるんでしょう?
久常:そうです。
みんな何かしらのトラブルを抱えながらやってるんで、ゴルフの競技を含め、全部が「運」の要素というか。調子が悪い時は、不運が重なったりもしますしね。
だからあまり深く考えないことですね。
欧州ツア―の楽しみと転戦事情
GG:いろんなところを転戦しているわけですが、どこが一番よかったですか?
久常:南アフリカが好きですね。
サファリツアーが出来て、ご飯もおいしく、リゾート地に入っていれば結構安全だし。
ヒョウやライオン、ゾウも見れるんですよ、ゴルフ場の隣の公園で。
ケニアでも、「ネッドバンク」の時もサファリツアーに行きましたけど、楽しいですね。
それと他のヨーロッパの国も全部、街並みがすごく古くて歴史がある感じですごく良かったです。
バッキンガム宮殿にもベルサイユ宮殿にも行ったし、プラハの街も観光したし、行くところ行くところで観光して楽しみました。
川村さんがよく知ってるから、連れていってもらいましたよ。
GG:あとはどんな息抜きを?
久常:ネットフリックスとか、YouTubeを観たり。
車が好きなんで、日本に帰ったら買いたいなと思いながら観てるんですけど、別に乗る機会もないので、観て満足するだけですね。
GG:そうそう、あとは「フランスオープン」で優勝した時に、「ビジネスクラスで帰ろうかな」ってインタビューで答えてましたよね。普段はエコノミーで移動しているんですか?
久常:これがおもしろい話で、次に試合がある時で、4時間以上乗るような時は、基本的にビジネスに乗るようにしてるんですけど、あの時はフランスで終わって、一度日本に帰ろうと思ってたので、エコノミーで帰ろうと思ってたんです。
節約じゃないけど、オフで帰る時くらいはエコノミーを使いますね。
ただ、あの時、ビジネスにアップグレードしたかったんですけど、ビジネスまではアップグレードできなくて、プレミアムエコノミーで帰ったんですよ。
GG:そうだったんですね。あの話は、欧州ツアー1年目で節約しながら頑張ってるんだな、という感じが出てたんで、すごく好感を持った人も多かった。
久常:そうですよね。
たまたまラッキーでしたね。
あの時、賞金を何に使う? って聞かれて、別に何も買うものもないし、何かおもしろいことないかな、と思って咄嗟に出たんです。
あれはあれでおもしろい返しになったと思うんですけど。
「あざといなぁ、ビジネスに結構乗ってるのにな」、と思いながら。
基本はやっぱり、エコノミーではきつい部分があるんで。
GG:体が資本ですからね。
久常:ビジネスに乗っても、頑張っていればちゃんとそれなりに賞金も出るツアーだから、使える時は使う、という風にしています。
世界ランク2位のマキロイとの違いを痛感
GG:そして、PGAツアーのシード権獲得、おめでとうございます。獲得してどんな気分ですか?
久常:最後の3週間くらいはずっとピリピリしている中、プレーしていてしんどかったんですが、本当に嬉しいです。
そしてまさか最終戦の最終日にスーパースターのローリー(マキロイ)と回れるなんて思わなかったですね。
この1年間、本当にいろいろな経験ができましたし、いろんな引き出しも増えたと思う。
自信もつきましたし、来年、新たなトビラが開いただけなので、この自信を持ってPGAの方で頑張りたいですね。
GG:特にどの辺がスキルアップしたな、と思いますか?
久常:ゴルフの捉え方というか、攻めていかないとこっちでは勝てないということですね。
ハザードギリギリを狙って打っていかないといけないロケーションもいっぱいあるし、そういうところでしっかり打ち切れるようになったことが、自分にとって大きかったんじゃないかなと思います。
まだまだ足りない部分はありますけど、今年の初めよりは成長していると思うし、今週の最終戦、最終ホールのあのティーショットは、そういう意味でいいショットを打てたんじゃないかなと思います。
GG:ローリーと回って、どんなことを感じましたか?
久常:たまたま1打、僕の方が良かったですけど、全然レベルが全てにおいて違いすぎて……。
自分の今後の戦い方で、これから何から手をつければいいか、ちょっとわからない状態ですけど、ただゴルフっていうのはスコアを競う競技なんで、そういった意味では今日、1打スコアが良かったというのはいい形で終われたなと思います。
GG:マキロイと自分を比較して、どこが違いますか?途中でマキロイとは話した?
久常:飛距離もそうですが、全部違いますね。
ショートゲームとか、体も足りないと思います。最近試合が続いていてしんどかったので、その辺がまだまだだな、と。
マキロイからは「来年、PGAに来れそうだね」という話をしてくれて、ちょっと話しましたけど、今日は自分もそんな余裕がなく、緊張していて、なかなか話すことができませんでした。
でも本当にローリーの背中を見て、あのプレーをしっかり目に焼き付けられたので、また同じ舞台で戦えるように頑張りたいですね。
本当にマキロイと回れたのは大きかったです。
先週は(「ネッドバンクゴルフチャレンジ」優勝者の)マックス・ホーマと回ることもできましたし、自分には足りないものだらけ、というのを再認識できました。
GG:今年1年を点数つけるとしたら、何点ですか?
久常:PGAツアーのシードも取れたし、優勝もできたので100点ですね。
周囲の方の支えのおかげで、こうやっていい結果が出ていると思うので、これからも回りに感謝しつつ、もっと助けてもらって頑張りたいですね。
GG:出るのを楽しみにしている試合は?
久常:いっぱい好きなイベントはあって選べませんが、日本人なので、日本開催の「ZOZOチャンピオンシップ」で一番勝ちたいですね。
GG:何かPGAツアーで特別に思い入れのある選手、試合はありますか?
久常:僕はずっと松山さんをPGAツアーで見てて、このツアーで戦いたいと思ってましたけど、それが現実になって嬉しいですし、頑張りたいですね。
松山さんは、すご過ぎます。
川村さんとは全然違うタイプですけど、僕は松山さんのようにあんなにストイックにはちょっとできそうにないなと思っていて……。
別次元の方なんでね。
GG:たぶん来年は一緒に練習ラウンドしたり、ご飯を食べに行ったり?!
久常:そうですね、お願いしたいです。
日本人の先輩を追いかけて、先輩にいろいろ教えてもらいながら、苦しむことなくシーズンを戦っていけるといいですね。
GG:どこを拠点に戦いたい?
久常:松山さんや小平(智)さんなど、たくさん日本人がいるので、フロリダで頑張って家を借りたいですが、当分はホテル暮らしでしょうね。
GG:アメリカに行ったら、何が楽しみですか?
久常:大谷さんを観に行きたいです。
GG:そして、来年は優勝したル・ゴルフナショナルで「オリンピック」がありますね。今現在のランキングだと、松山選手と久常選手の2人が出場する可能性が濃厚ですが、自分が優勝した場所でオリンピックを開催するというのはどうですか?
久常:すごく出たいです!
僕、2018年にユースオリンピックに出たことがあって。
それまでは僕、あまりオリンピックでゴルフ、ということにピンときてなかったんですけど、それに出て国の威信をかけて戦うということはすごく名誉なことだと思いましたし、オリンピックのコースで優勝できたというのもあるので、代表に選ばれるように頑張っていきたいですね。
GG:今年、コースを回りながら、「ここでオリンピックをやるんだよな」と考えながらプレーしてました?
久常:いや、それはなかったですね。
「ライダーカップ」を開催したり、フランスでもすごく有名なコースっていうのは聞いていて、マキロイ、ここからすごいショットを打ったよな、とか思いながらやってた感じで。
でもそのコースで優勝できて自信にもなりましたし、その自信を持ってオリンピックに出たいです。
2023年DPワールドツアー全戦績
フォーティネット・全豪PGA選手権 | 2位タイ |
ISPS HANDA全豪オープン | 31位タイ |
アルフレッド・ダンヒル選手権 | 26位タイ |
AfrAsiaバンク・モーリシャスオープン | 予選落ち |
ラス・アル・カイマ選手権 | 28位タイ |
ヒーロー・インディアンオープン | 10位タイ |
マジカル・ケニヤオープン | 3位タイ |
SDC選手権 | 予選落ち |
ISPS HANDA選手権 | 予選落ち |
韓国選手権・ジェネシス | 予選落ち |
DSオートモビルズ・イタリアンオープン | 16位タイ |
ソウダルオープン | 10位タイ |
KLMオープン | 55位タイ |
ポルシェ・ヨーロピアンオープン | 予選落ち |
ボルボカー・スカンジナビアン・ミックス | 27位タイ |
ベトフレッド・ブリティッシュマスターズ | 15位タイ |
メイド・イン・ヒマーランド | 8位タイ |
バルバソール選手権 | 58位タイ |
バラクーダ選手権 | 10位タイ |
D+Dリアル・チェコマスターズ | 14位タイ |
オメガ・ヨーロピアンマスターズ | 13位タイ |
ホライゾン・アイリッシュオープン | 予選落ち |
BMW PGA選手権 | 予選落ち |
カズー・フランスオープン | 優勝 |
コマーシャル・バンク・カタールマスターズ | 21位タイ |
ネッドバンク・ゴルフチャレンジ | 9位 |
DPワールドツアー選手権 | 18位タイ |
※このインタビューは、2023年11月の「DPワールドツアー選手権」で行なったものです。
Photo/Eiko Oizumi、Getty Images、DP World Tour
Text/Eiko Oizumi