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【世界のゴルフ通信】From Europe 欧州ゴルフの喪失と混沌 「全英オープン」の声 アイヴァー・ロブソン氏逝去

「全英オープン」の声 アイヴァー・ロブソン氏逝去

40年以上にわたって「全英オープン」のスターターを務めたアイヴァー・ロブソン氏。高めの声で有名だった。©R&A
2014年、ロイヤルリバプールで開催された「全英オープン」の最終日、1番ティーでタイガー・ウッズ(右)と会話するロブソン氏。©GettyImages
「全英シニアオープン」でもスターターを務めたロブソン氏。ベルンハルト・ランガーやコリン・モンゴメリーと談笑。©GettyImages

10時間、トイレに行かずにスターターを務めた伝説の男

プロゴルフが岐路に立つ、不確実なこの時期に、長い間ゴルフ界に貢献した男の他界の知らせに、皆は悲しみに暮れた。
40年以上にわたり、穏やかな口調で知られたアイヴァー・ロブソン氏は、ゴルフ界最古のトーナメント「全英オープン」の、伝統と敬意の代名詞だった。
彼はこの大会の公式スターターとして、少なくとも41回は1番ティーに立ったが、夏の長い時間でも、一度もトイレに行かなかったことで有名だった。
6時30分から午後4時30分まで、尿意を催さずにどうやって立ち続けられたのかと私が尋ねた時、「何も口に入れなければ、何も出ないよ」と冗談を交えて言っていたものだ。

しかし、ロブソンが40年以上にわたって毅然とした態度を保ち続けたのは、膀胱だけではなかった。
数えきれないほどの選手たちを、その独特のスコットランド訛りのアナウンスで送り出したのだ。

ゴルフ界を彩った最も偉大な選手たち……タイガー・ウッズ、ジャック・ニクラス、アーノルド・パーマーらは皆、この温厚な紳士の熱心な仕事ぶりを知っていたが、多くの偉大なチャンピオンたちをふさわしい方法で栄光へと送り出したように、ロブソン氏の「全英オープン」でのお別れは2015年にセント・アンドリュースで行なわれ、同年後半には、欧州ツアーのスターターとしての引退式も行なわれた。
その8年後の2023年10月、彼が83歳で死去したことが発表され、多くのスター選手から温かい追悼の言葉が寄せられた。

「アイヴァー、私の全英オープンのスタートを思い出深いものにしてくれてありがとう」―― タイガー・ウッズ

「全英オープンの声。アイヴァーとは何年にもわたるたくさんの素晴らしい思い出がある。安らかに眠ってください、友よ」 ――ゲーリー・プレイヤー

「僕たちを旅立たせてくれた、ユニークな声を持つ紳士。美しいゴルフというスポーツへのあなたの献身に感謝します」 ――ルーク・ドナルド

これは、彼が試合へと送り込んだプロたちと、良好な関係を楽しんでいた彼に対する賛辞のほんの一部である。

一昨年、「トゥデイズ・ゴルファー」誌のインタビューで自身のキャリアを振り返りながら、ロブソン氏はこんなエピソードを語った。

「リー・トレビノは、ティーショットのときに話すのをやめなかったんだが、トニー・ジャクリンが彼に『今日は話したくない気分なんだ』と言ったら、リーは『話す必要はない、ただ聞いていてくれればいいんだ』と答えたんだよ」

「それから、サム・トーランスは、彼のアナウンスをするたびに、私の後ろに立ち、ドライバーで私の足首を叩いて、私を邪魔してくるんだ。セルヒオ・ガルシアも私を小突いてくることもあったね」

 このようなエピソードは枚挙に暇がないが、選手たちがいかにロブソン氏を愛していたかがはっきりわかる出来事だ。
R&Aの最高経営責任者であるマーティン・スランバーズ氏は、ロブソン氏のレガシーを次のように語る。

「彼の訃報を聞いて、非常に残念に思っている。『全英オープン』の公式スターターとして40年以上にわたり活躍してきた彼の声は、世界中の選手や何百万ものゴルフファンにすぐに認識され、『全英オープン』の代名詞だった。彼は『全英オープン』に出場した全てのゴルファーの間で人気があり、尊敬されていたので、この訃報に彼らも悲しむことだろう。R&Aを代表して、アイヴァーの妻で、61年間のパートナーのレスリーさんとロブソン一家に心からお悔やみを申し上げる」

2015年「BMWインターナショナルオープン」で、引退するロブソン氏にプロからの寄せ書きが贈呈された。©GettyImages

LIVゴルファーがDPワールドツアーへ復帰
罰金150万ポンドは、LIVが肩代わり

今年からDPワールドツアーに復帰する、LIVゴルフ・クリークスGCに在籍していたベルント・ウィースバーガー。©LIV GOLF

LIVから欧州ツアーへ復帰したベルント・ウィースバーガー

ジョン・ラームのLIVゴルフへの移籍は、PGAツアーの立場を悪くしただけでなく、米国の個人投資家に媚を売りながら、サウジアラビアの公共投資基金(PIF)との交渉も続けているPGAツアーの立場をさらに弱めることになった。
ツアー間の境界が曖昧で、混乱している状況は、2022年にLIVに移籍した後、DPワールドツアーの一員として再び迎え入れられたベルント・ウィースバーガーのケースでも見て取れる。

ウィースバーガーはLIVでの出場権を失い、2024年にDPワールドツアーで再びフルにプレーしたいとの希望を表明したことから、メンバー資格が回復。
ウィースバーガーには、ツアーの許可なくライバルのLIVイベントに出場したとして150万ポンド(約2億7000万円)もの巨額の罰金と、2023年1月に開催された「ドバイ・デザートクラシック」までの出場停止処分が科されたが、彼がLIVゴルフに参加する際の契約条件にあった通り、LIVが彼の代わりに罰金を支払ったと理解されている。
この例は将来、他の選手にとって重要な道を開く可能性があることを示している。

女子ゴルフもまた単純ではない。LPGAと欧州女子ツアー(以下、LET)の合併が期待されていたが、LETメンバーの会議の直前、合併に向けての投票が突如延期されたのだ。
キャンセルの理由については何の説明もされておらず、失望した選手たちは理由もわからないまま、闇の中にいる。

だが、少なくとも1つの組織は、正しい方向に着実に進歩しているようだ。
G4Dツアー(障害者ゴルフツアー)は、障害を持つさらに多くの選手が参加できるようにするための刷新された方式を採用し、2024年の8試合のスケジュールを発表した。
各大会の出場選手を決めるため、グロスとネットの両方の世界ランキングが使用されるようになり、さらに、各ランキングから上位8人の男子と2人の女子が出場可能に。
また、障害を持つ女性ゴルファーも、各大会に出場できるようになったのだ。

初のアフリカ開催(マジカル・ケニアオープン)を含め、5か国で8試合が行なわれるが、試合形式の変更について欧州障害者ゴルファー協会の会長、トニー・ベネット氏は、「G4Dでは、素晴らしいパフォーマンスが好スコアに直結することは稀で、常に自分の潜在能力を発揮することが重要。身体的、感覚的、認知的、感情的スキルを組み合わせてプレーする必要がある」と述べた。

「この変更により、私たちはゴルフが万人に開かれたスポーツであり、どんな困難があろうとも、すべてのプレーヤーにプレーする道が用意されていることを示したい」

DPワールドツアーと同じ会場で開催されているG4Dツアー(障害者ゴルファーのツアー)。今年は全8試合が予定されている。写真は昨年の「DPワールドツアー選手権」の会場で行なわれた大会で優勝したマイク・ブラウン(右から2番目)。©GettyImages

“世界のルールブック”デビッド・リックマン氏が今年の10月に引退

「全英オープン」や「全英女子オープン」などで、約40年間、競技委員を務めてきた「ミスター・ルールブック」。今年の10月に引退する。©R&A

世界を代表する競技委員
今年の10月に引退へ

最後に、アイヴァー・ロブソン氏同様、「全英オープン」の舞台裏で長年活躍した重鎮に思いを馳せて締めくくりたいと思う。
R&Aで37年間勤務したデビッド・リックマン氏は、今年の10月にゴルフの管理業務での長年の栄えあるキャリアに終止符を打つこととなった。
ルールの専門家として、彼は引退時までに約130試合というゴルフ界の名誉ある大会で審判を務めることになる。
今年、ロイヤル・トルーンで開催される「全英オープン」で競技委員長を務めるリックマン氏は、「全英オープン」で34回、競技委員を務め、競技委員長としては28回目を迎えるが、最後のR&Aの大会は、8月にセント・アンドリュースで行なわれる「AIG女子オープン(全英女子オープン)」となる。

彼はまた、他のメジャーや世界中の権威あるプロアマ大会でも存在感を示し、「マスターズ」16回、「全米オープン」15回、「全英女子オープン」7回、「BMW PGA選手権」21回、「ウォーカーカップ」15回など、競技委員チームの一員として活躍。
R&Aでの経歴の中で、リックマン氏は全米ゴルフ協会と緊密に連携し、2019年のゴルフ規則の近代化や、アマチュア規則の制定など、ゴルフ史上最も重要なガバナンスへのいくつかの取り組みにも関与してきた。
また、ディスタンスインサイトプロジェクトや、最近のゴルフボール技術の規制の決定においても重要な役割を果たしている。

「私は大好きなスポーツで働くことができ、非常に多くの重要かつ前進的なガバナンスへの取り組みに携われたことを誇りに思っている。これまで支えてくれた全ての人々に感謝し、R&Aの将来が安泰であることを信じている」(リックマン氏)

Text/Euan McLean

ユアン・マクリーン(スコットランド)

スコットランド・グラスゴー在住のスポーツライター。『サンデーメール』などに寄稿。欧州ツアーなど過去20年にわたり取材。

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