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【PGAツアーレポート】アルコール依存症・うつ病を乗り越えてクリス・カーク開幕戦V!ブービーの松山英樹「せめてトップ10前後にはいたかった」

2024年 ザ・セントリー
2024年1月4日~7日/米国・ハワイ州カパルア・プランテーションコース

アルコール依存症とうつ病を乗り越えてクリス・カーク開幕戦V

優勝
Chris Kirk

クリス・カーク(アメリカ)
1985年5月8日生まれ。191cm、79kg。2014年「ドイツバンク選手権」などツアー6勝。2019年にアルコール依存症とうつ病のため、戦線離脱。2023年「ホンダクラシック」で8年ぶりの復活優勝を遂げた。©GettyImages

物静かで目立たない存在だが、強い男がPGAツアーの開幕戦で優勝した。
クリス・カークである。
昨年の「ホンダクラシック」で8年ぶりの復活Vを遂げてカパルアの地にやってきたが、数年前は、苦しい人生を送っていた。
彼のこれまでを振り返りつつ、プレースタイルを分析する。

アルコール依存症を「公言」することで克服

最終日の18番ティーショットを放つ、クリス・カーク。向こうにモロカイ島が見える、打ち下ろしの雄大なホールだ。©Eiko Oizumi

今季のPGAツアー開幕戦であり、予選落ちのない、高額賞金のかかるシグネチャーイベントの第1戦「ザ・セントリー」がハワイ・マウイ島のカパルア・プランテーションコース(7596ヤード・パー73)で開催された。
3日目を終えて首位に立っていたクリス・カークが最終日に8バーディ、ノーボギーの65で回り、通算29アンダーで優勝。
優勝賞金360万ドル(約5億2400万円)とフェデックスカップポイントを700ポイント獲得した。
なお、世界ランキングは、この勝利で25位に浮上(現在は、27位)。
通算6勝目を飾った。
1打差の2位にはサヒス・シガーラ(28アンダー)、3位にはジョーダン・スピース(27アンダー)が入った。

「今日は信じられない日だった。もちろん最終日を迎えるにあたっては緊張もしたけど、心静かにプレーすることができたし、1日中、手堅くていいプレーができた」(C・カーク)

カークは2011年に「サンダーソン・ファームズ選手権(旧バイキングクラシック)」でツアー初優勝を飾ると、2013~2015年には「ドイツバンク選手権」など、毎年優勝を重ねた。
だが、2016年からは成績不振に陥り、アルコール依存症とうつ病のため、戦線離脱。
休養を経て、2020年に下部ツアー「キング&ベアークラシック」で優勝すると、2023年には「コグニザントクラシック・イン・ザ・パームビーチズ(旧ホンダクラシック)」で8年ぶりにPGAツアーで優勝。
昨年11月には、アルコール依存症、うつ病を克服して優勝し、復帰を果たしたことでPGAツアーから、「カレッジアワード」(勇敢な選手に贈られる賞)が贈られた。

「人生で間違いなく最高のことは、アルコール依存症を克服できたことだ。過去何度も言ったけど、もし克服できなかったら、僕のPGAツアー人生は、しばらく前に終わっていただろうからね」

「依存症であることを公言したことは、確実に役に立ち、プラスに働いた。僕の人生の大半は、ある意味、人前で生きているようなもの。だから、僕にとってとても大事なことは、毎朝起きて、自分の顔を鏡で見た時に何も隠し事をする必要がなく、自分であることに誇りを持てるということだ。僕が依存症を公言しない限り、このことはあり得なかったと思う」

昨秋には、心の病を克服し復活優勝を遂げたことで「カレッジアワード」も受賞

昨年は「ホンダクラシック」で8年ぶりのツアー優勝。右はターニー夫人。©GettyImages

物静かな男のプレースタイルはデービス・ラブⅢの家訓から

決して飛ばし屋ではないが、「ザ・セントリー」の3日目に428ヤードを記録している。©Eiko Oizumi

カークの弱点はパッティング。現在、ストローク・ゲインド・パッティングで126位と、平均以下となっているが、「ザ・セントリー」の週はショットとパットが噛み合い、連日60台をマークした。©Eiko Oizumi
2023年は腰痛のため、棄権したザンダー・シャウフェレ。今年は通算24アンダーの10位タイに入った。2019年のチャンピオン。©Eiko Oizumi
ジョーダン・スピースも優勝争いに加わっていたが、2打差の3位に終わった。©Eiko Oizumi

デービス・ラブⅢの弟から受けた影響

38歳のカークは、いつも物静かで、感情を表に出さないタイプのプレーヤー。
最終日の17番ホールで2打目を約80センチにピタリとつけて楽々とバーディを奪った時も、力強いガッツポーズを繰り出すこともなかった。

「(バーディを取っても)嬉しそうにはおそらく見えないと思うが、そういうふうに自分を作り上げてきたんだ。最終ホールで、このパットを入れれば優勝という場面ですら、そのキャラクターを壊したくなかった。僕は、感情を出さないようにしてプレーしたいんだ。何年もかけて、それが自分のベストなプレー方法だと気づいた。僕は本当に、1打1打コツコツと、ベストを尽くしたいタイプ。1日の中でできるだけ多くの時間を、次のことに集中するようにしているんだ」

この「感情を表に出さない」という彼の特性(メソッド⁈)は、ゴルフコーチとして慕っているデービス・ラブⅢの弟、マークの影響によるところが大きいらしい。
マークはラブのキャディを務めていたこともあるが、ティーチングプロとして活動している。
カークがゴルフで悩んでいる時期にマークに相談した際、ゴルフは紳士のスポーツであり、プレー中は節度ある姿勢でプレーすべきというラブ家の教えを受けたという。
それが彼の性格にフィットし、今もラブ家の教え通りにプレーしているのが奏功しているようだ。

PGAツアーも「カリフォルニアスイング」を終え、「フロリダスイング」に突入している今、5試合を終えて、「ジェネシス招待」で予選落ちをしたものの、フェデックスカップランキングでは4位に踏みとどまっているカーク。
今年はまだまだ優勝争いに顔を出すことも多くなりそうなだけに、今後の展開に注目したい。

最終成績

優勝クリス・カーク−29
2位サヒス・シガーラ−28
3位ジョーダン・スピース−27
4位アン・ビョンフン−26
5位イム・ソンジェ
ブライアン・ハーマン
J.T.ポストン
コリン・モリカワ
スコッティ・シェフラー
−25
10位ジェイソン・デイ
ザンダー・シャウフェレ
−24
22位ビクトル・ホブラン−21
58位松山英樹−8

「せめてトップ10前後にはいたかった」
松山英樹ブービーに終わる

初戦では「やりたいことの方向性は定まってきているが、まだ定かではない」と語っていた。©Eiko Oizumi

「ZOZOチャンピオンシップ」以来の試合復帰

黒宮幹仁コーチ(左)と、データをもとにパッティングの練習。©Eiko Oizumi

昨年、フェデックスカップランキングでギリギリ50位に入り、開幕戦の「ザ・セントリー」への出場を決めた松山英樹。
4年連続7回目の出場だ。その後、ジョン・ラームがLIVゴルフへの移籍を決めたため、彼のランキングは49位となったが、今年もエリートプレーヤー50人のみが出場できる、カパルアでの大会から松山の1年は始まった。

PGAの試合に出るのは、昨年の「ZOZOチャンピオンシップ」以来で、試合勘やショットの感覚を好調時に戻すまでに時間がかかったのだろう。
3日目には76という自身ワーストスコアも記録し、最終日を終えて58位。
ブービーに終わり、世界ランクも50位と、順位を落とした。

「ショットもなかなか思い通りに打てなかった。パッティングもあまりいい兆しが見えない。なかなか決め打ちができないみたいな感じがある」

「まだまだ精度が足りない。トップ10前後にはいたかったが、そうできないのが現状。しっかり受け止めて、頑張りたい」と最終日を終えて語っていた。

その1か月半後にはショットもパットも調整し、「ジェネシス招待」で9勝目を挙げるわけだが、年始の試合ではこのようになかなか思い通りのプレーができていなかったのだ。
今大会での不甲斐ない結果もバネに変えて、「ジェネシス招待」優勝まで、自分を高めていったと言えるのかもしれない。

O嬢日記@カパルア

2年連続で「ディフェンディングチャンピオン」不在のトーナメント

2022年チャンピオンのキャメロン・スミス(右)と、2023年チャンピオンのジョン・ラーム。ともに現在はLIVゴルフでプレーしている。©Eiko Oizumi

通常、トーナメントは、開催前からディフェンディングチャンピオンの写真を使ったポスターや公式プログラムなどの印刷物を作り、開催までに大会を盛り上げていくものであるが、ここ2年ほど、この当たり前のルーティーンに苦戦している大会がある。
「ザ・セントリー」だ。
なぜなら、2年連続でディフェンディングチャンピオンが不在で、しかも2023年に優勝したジョン・ラームは、12月の初旬までLIVに移籍することを発表していなかったからである。
1月1週目に開催される試合で、1ヶ月前の発表となれば、その後のドタバタは容易に想像できる。
ポスターなどの印刷物は、急遽ジョン・ラームのものを廃棄し、ラームに代わる人気ビッグネーム、たとえば、ジョーダン・スピースやリッキー・ファウラー、松山英樹らの写真を使って製作しなければならない。

クリス・カークなら、いろんな意味で大丈夫な気もするが、3年連続とならないよう祈るばかりだ(笑)。

Text & Photo/Eiko Oizumi
Photo/Getty Images

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