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【世界のゴルフ通信】From Europe 去る者の遺産と新任のこれから。グラスゴーに昨年の夏に誕生したR&A創設の「ゴルフ・イット!」とは?

R&Aが昨年8月にオープンさせた「ゴルフ・イット!」の2階建て練習場。全52打席あり、トップトレーサーやシミュレーターなどを完備。30分の打ち放題で6ユーロ(トップトレーサー付き)から。©R&A
ゴルフの発展のために、ゴルフ未経験者の大人も子供も楽しめるゴルフ場やパッティングコース、ショートゲームエリアがある。©R&A
家族で、友人同士で気軽に楽しめるのが「ゴルフ・イット!」のいいところ。ドレスコードもないので、Tシャツ&短パンでもOK。©R&A

R&Aが創設した新しい形のゴルフ

「Golf It!」(以下、「ゴルフ・イット!」)は、昨年の真夏にオープンして以来、大いに話題になっているスコットランドで最新かつ最も革新的なゴルフ施設だ。
R&Aの考案と、資金提供を受けてゴルフ遺産の守護神は、260年前に世界に与えたゴルフというゲームを21世紀に生まれ変わらせたのだ。
そしてそれは、あまりにも長い間ゴルフの発展と幅広い層への普及を妨げてきた、伝統的でエリート主義的なイメージとは全く異なる。
セントアンドリュースのフェアウェイを歩くときに感じる伝統への敬意の感覚とは違い、時代遅れの束縛から解放されたような、見た目も雰囲気も違う場所なのだ。
恐らくそのため、ドアや、壁の周囲に入っている、R&Aの有名な紺色のロゴが目立たないのだろう。

ここには活気があり、カジュアルな雰囲気の中で、見るもの、聞くもの全てが賑やかで、人々の想像力を掻き立てるように作られている。
ここでドレスコードがあるとすれば、それは何でもOKというものだ。
着心地のいい「ゴルフ・フイット!」のフーディが、公式スタッフのユニフォームに最も近いかもしれない。
練習場では、スピーカーから流れる音楽に合わせてボールが打たれ、笑い声が打席に響き渡っている。
この場所の全てが大胆で明るく、ビートのリズムや、さまざまな屋台スタイルの軽食、カクテルの香りまで、そこに足を踏み入れた瞬間から心地よい雰囲気を作り出すように設計されているのだ。

ゴルフを親しみやすいものへ

これによって、ゴルフというスポーツが開かれたものになり、年齢や社会的背景に関係なくゴルフを始められ、上達していけばいい。
ゴルフ入門の旅は、3つのアドベンチャーゴルフコース、アプローチ&パットコース、パッティンググリーンを誇るショートゲームエリアから始まり、9ホールのコースで「本物」に取り組む自信をつける前に、52打席の投光照明付きの2階建て練習場で、初めてフルショットを打つことかもしれない。

以前はレサムヒルという名の粗末な市営コースが、R&Aが古い敷地を大規模に再開発するまで、財政難に陥った地元の自治体によって放置されていた。
だが今や、パドルテニスコート、自然の散歩道、レンタル自転車、屋台スタイルの飲食エリアなどのアトラクションやアクティビティが完備されている。
「ゴルフ・イット!」はPGAツアーからLIVゴルフへと転職した選手たちが「ゲームを成長させよう」と主張している陳腐なスローガンとは異なる。
これこそがゴルフを成長させ、その魅力を拡大し、その未来に息を吹き込む方法なのだ。

R&Aの最高経営責任者であるマーティン・スランバーズ氏は当初から、「ゴルフに革命を起こし、ゴルフをよりアクセス可能で包括的なものにする」という R&Aの目標の中核にある新施設の重要性を明らかにしていた。
初年度に400万球の打球を目標に掲げてオープンした彼らは、わずか8週間で目標の半分に達し、その活況ぶりを見ようと何万人もの人が訪れた。
地元の学校との長期的な提携のおかげで多くの子供たちが何度も訪れ、施設は大いに賑わっている。
学校のカリキュラムの一部として、グラスゴー全域の4万2000人の子供たちにゴルフ体験を提供することは、次世代にゴルフを普及させるという使命を既に果たしていることになる。
それだけでなく、これらのレッスンは、子供たちがゴルフの基本だけでなく、ゴルフコース内外で役立つ主要な生活スキルやテクニックを身につけられるようになっている。
参加している各学校は、5週間の学習カリキュラムと課外ゴルフセッションを受けることになる。

「ゴルフ・イット!」の支配人であるラッセル・スミス氏は「ゲームを簡素化し、楽しく、誰でも使える道具を使うことが、ゲームを楽しむためのカギだった。全ての参加校の生徒全員に『エクスペリエンスゴルフ・イット!』のメンバーシップが与えられる。若者が自分のスキルを試し、私たちと一緒にゴルフの旅を続けることができるように一連のイベントを企画している」と語っている。

ドレスコードなしのカジュアルな雰囲気で
子供から大人までゴルフに親しめる

新しいタイプのゴルフ施設

レベルやパワーに応じて、5つのティーグラウンドを用意している、パー33の9ホールのコース。全長2470ヤード。90分あればラウンド可能。大人1人平日10ユーロ、週末15ユーロ。子供は常に5ユーロ。©R&A

自然や資源の保護、地域社会の発展に貢献

最近、「ゴルフ・イット!」は、環境や社会的責任、持続可能なゴルフにおけるリーダーシップへのプロジェクトの取り組みが認められ、GEO認定開発ステータスを獲得した。
この国際的に認められた賞は、「ゴルフ・イット!」の以下のアプローチによってもたらされた前向きな変化を称えるものだ。

●自然/この開発により、1ヘクタール以上の公共用水域を創出。ミズハタネズミの生息地が保護された。現存する広葉樹林や湿地エリアが拡大され、これらの生息地の健全性と質が改善された。

●資源/全ての大量建設資材はスコットランド内で調達され、この施設は廃棄物をゼロにすることに取り組んでいる。整備車両での使用のために、電気機械やハイブリッド機械が購入された。

●地域社会/地元の教育団体、学校、慈善団体とのパートナーシップを確立し、ゴルフへの取り組みやすさや、地域社会との関わりを促進。またインターンシップや見習いプログラムを導入し、人々をゴルフ業界に引き込み、生活スキルを教えている。

おそらく最も重要なことは、世界中の他の施設が目指すべきモデルとして「ゴルフ・イット!」の地位を高めることにもなるということだ。
9年間、R&Aを前へと導いてきたスランバーズ氏が、今年の年末にその職を退く前に、誇りに思える遺産となるだろう。

元IMGの敏腕マネージャーがDPワールドツアーのCEOに就任

今年の4月2日から、DPワールドツアー・CEOとなったガイ・キニングス氏。「マスターズ」にて。©Eiko Oizumi
2019年「ベトフレッド・ブリティッシュマスターズ・ヒーローチャレンジ」の会場を訪れたガイ・キニングス氏(左)。中央はヒーロー自動車のパワン・ムンジャル代表、右は前DPワールドツアーCEOのキース・ペリー氏。©GettyImages

DPワールドツアーの新任CEOはどんな人物?

DPワールドツアーは4月にキース・ペリー氏の後任として、ガイ・キニングス氏を新しい最高経営責任者として迎えた。

キニングス氏は、ゴルフ業界のほとんどの人にとって見知らぬ人物ではない。
彼は30年以上にわたり、舞台裏で影響力のある人物として活躍し、最初はビッグネームたちのエージェントとして活躍してきた人物である。

オックスフォード大学の法学部卒業生として1989年に大手マネージメント会社IMGの法務チームに入社した後、2年弱でゴルフ部門に異動。現代のスポーツエージェントのパイオニアであるマーク・マコーマック氏の下で技術を学んだ。

これらの経験は、トーマス・ビヨーン、ポール・ケーシー、そして特にコリン・モンゴメリーなど、複数のスターのキャリアを舵取りする際に役立った。
モンゴメリーは、キニングス氏と非常に親密になり、2度目の結婚式の介添人として彼を招待したほどだ。

彼の人気は非常に高く、タイガー・ウッズは彼を「ピンキー」と愛情を込めて呼んでいる。
それはキニングス氏がシャツやネクタイにフェミニンな色をいつも選んでおり、選手たちから広く尊敬されていることを評価しているからだ。
彼は2018年に、より影響力のある役割を引き継ぐために、IMGを退職したが、それは当然の結果だった。

欧州ツアーのドル箱を管理する役割

IMGの共同マネージングディレクターとしての役割に惹かれ、彼はパリでの「ライダーカップ」が開催される直前に、副CEOとしてDPワールドツアー入りした。
彼の仕事の一部は、長い間組織全体に資金提供してきた大規模なドル箱「ライダーカップ」を管理することだった。
6年前にキニングス氏が登場した瞬間から、ペリー氏が後継者を育てていると予測した者たちから、彼がCEOに就任することが期待されていた。
だが、ゴルフ界の過去最大の存亡の危機を乗り越えるために、ツアーを舵取りしなければいけない困難に対して、果たして完璧に備えることができるのだろうか。

LIVゴルフとPGAツアーの間で進行中の対立は、憂慮すべき不確実性に依然として包まれており、DPワールドツアーの選手やスタッフは、彼らがまだその銃撃戦に巻き込まれる可能性がある。
今後数か月は、親しみやすい魅力と堅実な交渉力のスキルを同等に備えたキニングス氏のような人物が適任だ。
しかし、暴風雨の予報の中、それで十分かどうかは、また別の問題だ。

Photo/R&A, Getty Images
Golf It! ホームページ/ www.golf-it.com

Text/Euan McLean

ユアン・マクリーン(スコットランド)

スコットランド・グラスゴー在住のスポーツライター。『サンデーメール』などに寄稿。欧州ツアーなど過去20年にわたり取材。

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