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【PGA Championship】 万年2位の汚名返上! ザンダー・シャウフェレ ついに「全米プロ」でメジャー初優勝!

2024年5月16日〜19日  Valhalla Golf Club(ケンタッキー州)・7609ヤード・パー71

優勝
Xander Schauffele

ザンダー・シャウフェレ(米国)
1993年10月25日生まれ。2015年プロ転向。PGAツアー8勝(うちメジャー1勝)、欧州ツアー3勝。日本育ちの台湾人の母とフランス人、ドイツ人のハーフの父の間に生まれる。2021年「東京オリンピックゴルフ」で金メダル獲得。
◉キャディ:オースティン・カイザー
シャウフェレとは、サンディエゴ州立大時代に知り合い、ゴルフ部に所属。10年以上の友人であり、6年以上、キャディを務めている。「世界で最高の選手のバッグを担いでいる。他の選手のバッグを担ぐつもりはない」と断言。©PGA of America

前週の「ウェルズファーゴ選手権」での敗北も勝利への燃料に変えて、戦ったシャウフェレ

最終日の最終ホールで、2打目を放つシャウフェレ。足場はバンカー内、ボールは傾斜地のラフという難しいライだった。©Eiko Oizumi
最後のパットを沈め、両手を突き上げて初メジャー優勝の喜びを噛み締めるシャフフェレ。©PGA of America
最終日は、「全米プロ」チャンピオンのコリン・モリカワ(左)と最終組で回った。©PGA of America
昨年の11月からコーチを務める、タイガー・ウッズやブライソン・デシャンボーのコーチも務めた、クリス・コモ氏(左)とシャウフェレ。現在は、ジェイソン・デイ、カート・キタヤマらも彼に師事している。©Eiko Oizumi

輝かしい過去の経歴に欠けていたもの

ザンダー・シャウフェレは、「オリンピック」金メダルや数々のトロフィー、「ライダーカップ」出場経験、そして数々の高い賞賛に満ちた履歴書を携えて、今年の「全米プロ」に臨んだ。
だが、その輝かしい経歴の中で、30歳になった彼には1つだけ欠けているものがあった。まだメジャータイトルを獲得していなかったのだ。

だがついに彼は「メジャー未勝利の最優秀選手」リストからその名が外れることになる。
シャウフェレは、ケンタッキー州の晴れた日曜日にバルハラゴルフクラブで見事な最終ラウンド、6アンダーの65をマークし、その小さな汚点を見事に解消。
18番ホールで2メートル弱のパットを沈めて最後のバーディを奪い、ついにゴールを迎えたのだ。
これは最終日に獲得した7つ目のバーディで、彼にはその全てが必要だった。

シャウフェレの72ホール目での英雄のような活躍により、ゴルフ界のポール・バニヤン(アメリカの西部開拓時代の怪力無双のきこりで、伝説上の巨人)とも言われる勇猛でロングヒッターのブライソン・デシャンボーを1打差でかわし、21アンダー(263ストローク)というメジャー史上最高スコアでの勝利を収めた。
デシャンボーはティーショットの調子が今ひとつの中、64という好スコアをマーク。
18番グリーンからさほど遠くない練習場で、3ホールのプレーオフに備えてボールを打ち続けていたが、そのプレーオフは実現することなく試合は終わったのだった。

前週の敗北の経験を糧に戦ったシャウフェレ

シャウフェレにとって、この勝利は特別に甘美で嬉しいものだった。
なぜなら、1週間前のノースカロライナ州シャーロットで開催された「ウェルズファーゴ選手権」では3日目まで首位に立っていたにもかかわらず、ローリー・マキロイが最終日に65をマークし、優勝をさらわれたばかりだったからだ。
シャウフェレはその挫折の破片を決意に変え、さらに良いプレーをするための燃料にした。
前週の試合での接戦で敗北したことに気落ちすることなく、勝利へのモチベーションに変えたのだ。

「勝つことは結果だ」と、シャウフェレはその大きく美しい「全米プロ」のトロフィーを横目に見ながら語った。

「これは素晴らしい。最高だよ。でも振り返ってみると、過去とは違って、今日はいくつかの場面で自分の対処の仕方に、本当に誇りを感じている」

その場面とは、たとえば、18番グリーン手前からの巧みなアプローチで、バーディを狙った大事な場面や、カップの左側から消えた最後のウィニングパットの重要な瞬間。
バルハラGCの最もやさしいホール、パー5の10番ホールで唯一のボギーを打った直後に、11番ティーで必要なものを引き出す場面など……。
その時、シャウフェレはどう対処したのか?次の2ホールで連続バーディを奪うことで対処したのだ。

「彼が優勝して、本当に嬉しい」と、シャウフェレと最終ラウンドをともにプレーした米国「ライダーカップ」のチームメイト、コリン・モリカワは言った。
彼自身は残念な結果(最終日、イーブンパーの71ストローク)に終わったが、良き友人の初メジャー優勝を祝った。

「彼は世界最高の選手の1人だ」と、モリカワはシャウフェレについて語った。
シャウフェレがフロリダに移住する前、2人がラスベガスに住んでいた頃、ほぼ毎日一緒にプレーしていた。

「今日はまさにその全てが1つに集約されたようなものだった。彼は18番で何をしなければならないかを知っていたが、それが偉大な選手のすることだ」

シャウフェレはこの勝利で、公式世界ランキングの順位を1つ上げ、スコッティ・シェフラーに次ぐ2位に浮上。
これにより、今夏の「パリオリンピック」の米国代表入りが確実となり、再び金メダルを狙うことになった。

メジャー史上最少スコア62を2回マーク

シャウフェレは、初日から最後まで首位に立ち、完全優勝を飾った。
初日は9アンダーの62という驚異的なスコアでスタートした。
ゴルフ史上、メジャーで62を出したのはわずか5人しかいないが、シャウフェレは昨夏の「全米オープン」に続いて2度達成し、初の偉業となった。

18番でバーディを狙ったパットは、選択肢があるなら選ぶようなパットではなかったが、選択肢はなかった。
それは上りの約1.8メートルのパットで、わずかに左に切れるように見えたが、彼は真っすぐに打った。
パットはカップの左端の方に向かってコロがり、左端からクルリと回るようにしてカップイン。
温かい感情の波が彼を包んだ。

「ボールが吸い込まれた時……実際には吸い込まれたのをあまり覚えていないけど…… 皆が歓声を上げているのが聞こえて、ホッとして空を見上げたんだ」と彼は言った。
ケンタッキー州全体がその光景を見守っていたかのようだった。

バルハラでは1週間を通して常に、スコアを出すのに最適なコンディションだった。
太陽が輝き、週初めには雨が降ったが、週末にはフェアウェイは乾いてきており、グリーンはミドルアイアンやショートアイアンで止めやすい状態が続いていたのだ。
シャウフェレは全出場者の中で最も多くのバーディ(25個)を獲得し、その卓越したアイアンプレーによって、優勝のチャンスが生まれた。
彼は72ホール中、60ホールでグリーンを狙い通りにとらえ、首位に立った。

今回も、質の高いフィニッシュを決め、これが決定的な違いを生んだ。
最後の8ホール中、3ホールでバーディを奪ったのだ。
シャウフェレは週の初めに世界ランキング3位だったが、そこに留まるためには多大な忍耐が必要だった。
彼は2022年の夏に連勝して以来、勝利を収めていなかった。

父からのメッセージ「雨垂れ石を穿つ」を教訓に、完全優勝を達成

優勝後の記者会見で、優勝トロフィーを見ながら最終日のプレーなどを振り返った。©PGA of America
父のステファンさん(右)は、幼少の頃からのコーチでもあり、その関係は今も続いている。2021年「東京オリンピックゴルフ」にて。©GettyImages
優勝直後に、コースに不在のステファンさんと電話で話すシャウフェレ。ステファンさんは電話口で号泣し、自分もつられて涙を流しそうになったと告白した。©GettyImages

父からのメッセージ「雨垂れ石を穿つ」

彼のキャリアのほとんどにおいて、父のステファンは指導者であり、息子がさらに高みに登るよう、常に励ましてきた。
日曜日のケンタッキーには父の姿はなかったが、シャウフェレがバルハラの18番グリーンでワナメーカートロフィー(「全米プロ」の優勝トロフィーの名称)を受け取る直前に息子と父親が電話で話したとき、2人とも感情を抑えるのに苦労していた。

最終ラウンドの前夜、ステファンが息子にドイツ語で伝えた言葉はおなじみのものだった。
シャウフェレはそれを翻訳しないといけなかったが、その言葉「雨垂れ石を穿つ」をよく知っていた。

ザンダー・シャウフェレは卓越性を絶え間なく追求し、素晴らしいプレーをこれまで数多くしてきたが、不屈の努力も行なってきた。
一貫して雨垂れのごとく努力し続け、その忍耐力には揺るぎがなかったのである。

ケンタッキーでの日曜日、彼はその石を穿ってきたが、ついに、長年待望のメジャーチャンピオンとなり、第106回「全米プロ」にとって最も価値ある勝者となった。

2024全米プロ 最終成績

優勝ザンダー・シャウフェレ−21
2位ブライソン・デシャンボー−20
3位ビクトル・ホブラン−18
4位トーマス・デトリー
コリン・モリカワ
−15
6位ジャスティン・ローズ
シェーン・ローリー
−14
8位ビリー・ホーシェル
スコッティ・シェフラー
ジャスティン・トーマス
ロバート・マッキンタイヤー
−13
12位ローリー・マキロイ−12
18位久常 涼−11
26位トミー・フリートウッド
ブルックス・ケプカ
−9
35位松山英樹−8
43位ダスティン・ジョンソン
ジョーダン・スピース
−6
63位リッキー・ファウラー−3

予選落ち/中島啓太、金谷拓実、タイガー・ウッズ、フィル・ミケルソン、ジョン・ラーム、アダム・スコット他

Photo/Eiko Oizumi、PGA of America
USGA、Getty Images

Text/Jeff Babineau
thanks to PGA of America

ジェフ・バビニュー(アメリカ)
ゴルフ取材を30年以上行なう。現在はフリーライターで、「全米プロ」「マスターズ」などの公式ライターとしても活躍。「マスターズ」取材は、25回以上。

全メジャー出場の期限が切れるまで、あと1年だった
メジャーで上位に入り、世界ランクを維持するブライソン・デシャンボー

LIVゴルファー2位
Bryson DeChambeau

最終日に64をマークし、通算20アンダーでホールアウトしたデシャンボー。自らの好プレーに思わず雄叫び!©Eiko Oizumi
ドライビングディスタンスは、4日間を通じて平均330.5ヤードを記録(出場選手中1位)。ストローク・ゲインド・オフ・ザ・ティー(ティーショットの貢献度)はザンダー・シャウフェレと並び、1位タイだった。©PGA of America
最終日の最終ホールでバーディを奪い、通算20アンダーとしたデシャンボー。「大の字ガッツポーズ」で喜びを表現!©Eiko Oizumi

LIVゴルフでは世界ランクポイントが獲得できないが、今後もメジャーで戦い続けるには、メジャーのようなビッグイベントに出場し、上位に入るしかない。
デシャンボーは今年、メジャー3試合でトップ10に入り、現在世界ランクトップ10以内にいる。

 通算21アンダーで優勝したザンダー・シャウフェレに、最終日猛追したのが、現在LIVゴルフに属するブライソン・デシャンボー。
2022年6月にLIVゴルフに移籍した彼は現在、2020年「全米オープン」で優勝した特典を行使して、全メジャーに出場しているが、優勝後10年間出場できる「全米オープン」以外のメジャーは5年間の期限つきのため、来年いっぱいでその期限が切れることになっていた。

2026年以降も全メジャーに出続けるには、再びメジャーで優勝するか、あるいは来年まで出場が可能なメジャーで上位に入り続け、世界ランク50位以内をキープするしかなかったが、彼は「全米プロ」の後に開催された「全米オープン」で見事優勝。
再びメジャーに出続けるチャンスを手繰り寄せ、しかも世界ランキングでトップ10入りを果たした。

 さて、話題を「全米プロ」に戻そう。
デシャンボーは、連日60台のスコアを記録し、最終日は7バーディ、ノーボギーの64(7アンダー)をマーク。
ビリー・ホーシェルらと並び、最終日のベストスコアだった。通算20アンダーとし、優勝したシャウフェレに1打足りず、2位に終わった。

「個人的にはガッカリだが、まぁ、今週はいいプレーをしたと思う。自身最高のプレーではなかったが、パッティングはA+、ウェッジショットもA+、ショートゲームでもA+、ティーショットはBくらいだった。でもメジャーで20アンダーを出せたことを誇りに思う」

探究心の強いデシャンボーだが「全米プロ」の週に学んだことは?と問われると、「クラブが大事だということだ。スイングがうまくいってなくても、なんとかゴルフができることがわかった。『全米オープン』に生かしたい」と語っていた。
彼は3Dプリンターで独自のソールとオフセットのアイアンを発明するなど、ゴルフ界の「狂気の科学者」として揶揄されることもあるが、最終日にはドライバーの調子が悪かったものの、彼は挑戦し続け、30歳にして私たちの前で成熟していく姿を見せた。

Text & Photo/Eiko Oizumi  Photo/PGA of America

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