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【全米オープン】ブライソン・デシャンボ ー「全米オープン」2勝目! ペイン・スチュワートと亡き父に捧げた勝利

2024年6月13日〜16日/Pinehurst Resort & Country Club No.2(ノースカロライナ州)/7548ヤード・パー70

優勝
Bryson DeChambeau

ブライソン・デシャンボー(米国)
1993年9月16日生まれ。185cm、109kg。米ツアー9勝(メジャー2勝)、欧州ツアー3勝、LIVゴルフ2勝。ゴルフの科学者と呼ばれ、独自のスイング理論を持つ。世界の飛ばし屋。2022年からLIVゴルフでプレーし、クラッシャーズGCのキャプテン。
最後のパットを沈めた瞬間、雄叫びを上げ、大喜びするデシャンボーと、沸き立つ観客たち。©Eiko Oizumi
「全米オープン」のトロフィーを大事そうに抱えるデシャンボー。1999年に優勝したP・スチュワートも同様に、トロフィーを抱きかかえる写真が残っている。©USGA

ピンまで55ヤードのバンカーショットが人生最高の勝利の1打

ピンまで55ヤードのバンカーショットを、ピンそば1メートルにピタリ。©USGA
表彰式後、このバンカーにトロフィーを持ち込み、ニッコリ記念撮影!©Eiko Oizumi
お行儀よく、バンカー内をレーキでならしてから退出するデシャンボー。©Eiko Oizumi

新生デシャンボー
観客を味方につけて優勝

ブライソン・デシャンボーは、新しい人間に生まれ変わった。
6月に2度目の「全米オープン」優勝を果たし、彼は世界で最も興味深いゴルファーとなったのだ。
彼はすでにそう見なされていたかもしれないが、それは主に彼の科学的な知識、フットボール選手(もしくは小型の相撲力士)のような体型への挑戦、そしてプロゴルフ界で唯一の同一シャフト長のアイアンセット(全てのアイアンの長さを37・5 インチに統一)という奇妙な装備のためだった。
しかしデシャンボーは、ノースカロライナ州のパインハーストNo・2で、ローリー・マキロイに対する1打差の勝利で新しい領域に踏み込んだのだ。

デシャンボーは、2020年というコロナパンデミックの年に、ニューヨークのウィングドフットにて無観客で初の「全米オープン」を制した。
しかしその時は、もし観客の入場が許可されていたとしても、カリフォルニア出身の彼を応援する人はそうはいないだろうと思われていた。
確かに、彼は飛ばし屋であり、必見の新奇な存在だったが、当時、友好的なタイプではなく、その気まぐれな一面があまりにも目立っていたからだ。

パインハーストでは、彼はパーティの中心にいた。
依然として世界トップクラスの飛ばし屋ではあるが、余分な体重を減らした今、No・2での4日間にわたる困難な日々で重要だったのは、①ファンと交流し、②もっと多くのゴルファーが見せるべき勝利の喜びを示すためにどれだけ努力したかということだ。

最終的には、両方の努力においても思い通りの結果に終わった。
マキロイが72ホール目(最終ホール)のグリーンで短いパーパットを外して勝利の可能性のトビラを閉じかけた後、デシャンボーはグリーン手前のバンカーからの難しい寄せを成功させ、1メートル強のパーパットを沈めて2度目のメジャータイトルを獲得したのだ。
2020年のウィングドフットでは6アンダーで2位と6打差の勝利を収めたが、今回も6アンダーで優勝。
ただ、今回は2位との差は僅差ではあったが……。

憧れのペインと同じ舞台で「全米オープン」2勝目

3日目を終えて、マチュー・パボン、パトリック・キャントレー、そしてマキロイに3打差の首位に立ったデシャンボーは、最終日に1オーバーの71でプレー。
一時2打差でリードしたマキロイは、最後の4ホールで3ボギーを叩き、69でホールアウトした。
デシャンボーは、18番ホール(パー4)のグリーン手前55ヤードからのバンカーショットを見事に決め、ウィニングパットへと繋いだ。
この週を通して、このバンカーからの唯一のパーセーブだった。

「人生最高のショットだった」とデシャンボーは語った。
彼がウィニングパットを決めた時、両拳を高く掲げ、空を突き刺した。
彼は何度も「イエス!」と叫び、その瞬間の歓喜がやりすぎだったかもしれないと後に認めた。

「信じられるか? なんてことだ!」とデシャンボーは18番グリーンの後ろで友人たちと祝いながら、カメラに向かって叫んだ。
このグリーンは、25年前に故ペイン・スチュワートが1打差の勝利を守るためにパーをセーブしたのと同じグリーンだ。
30歳のデシャンボーは、「全米オープン」に複数回優勝した23人目の選手となり、ブルックス・ケプカ、レティーフ・グーセン、タイガー・ウッズ、アーニー・エルス、リー・ジャンセン、カーティス・ストレンジらと並び、過去40年間で5年以内に2度「全米オープン」を制した7人目の選手となった。
この勝利は、彼にとってPGAツアー9勝目となるが、2022年にLIVゴルフリーグ入りして、ツアーを離れたため、この勝利にはフェデックスカップランキングへのポイント付与はない。
彼はLIV入り後、メジャー8試合に出場し、トップ10入りを5回果たしている。
そして今年は「マスターズ」で6位タイ、「全米プロ」では2位に入っている。

世界のゴルフ界分裂を解消する懸け橋に

「まず、父の日おめでとうございます。残念ながら、父は2年前に亡くなりましたが、この勝利は父に捧げます」と、表彰式で父・ジョン氏への敬意を表してデシャンボーは語った。

「また、ペイン・スチュワートにも捧げます。私がSMU(サザンメソジスト大)に行った理由は、彼にあります。僕が以前、ハンチング帽をかぶっていたのは、彼がかぶっていたからです。すごいことです!」

「今週の皆さんからの応援には、どれだけ感謝してもしきれません」とトロフィーとジャック・ニクラスメダルを受け取った後、ギャラリーに語りかけた。

それを聞いたギャラリーは歓声を上げた。
彼らは一日中、そして一週間、彼を応援していたのだ。表彰式後に、彼は群衆の中へ向かい、皆に「全米オープン」のトロフィーを触らせた。
デシャンボーがPGAツアーを放棄し、新興のLIVゴルフリーグに参加した最も著名な選手の1人であるという事実がありながら、自分を応援してくれた人々と、優勝を分かち合いたいと思ったのだ。
しかし今はもう、誰もそのことは気にしていないようだ。
この時、彼らはさらにデシャンボーに声援を送った。
デシャンボーは素晴らしいパフォーマー、そのものである。

「今夜、皆さん全員にこのトロフィーに触れてもらいたい。この感覚を皆さんにも体験してほしいからです。皆さんは、今週のこの旅の一部であり、アフターパーティの一部にもなってほしい」と彼は語った。

父の死によって得た人生の素晴らしい視点

「どんな形であれ、たくさんの人たちにこのトロフィーを触ってもらい、喜びを分かち合いたい」と、表彰式後に自らギャラリーの元に走り、もみくちゃになりながら大騒ぎ!©USGA
日没後もデシャンボーのファンサービスは続く。この姿に彼の大ファンになった人も多いのでは……。©USGA
デシャンボーが憧れてやまない母校サザンメソジスト大の先輩であり、この地で優勝した1999年「全米オープン」チャンピオンのペイン・スチュワート像。©Eiko Oizumi
P・スチュワートのトレードマークだった「ハンチング帽」をキャディバッグにぶら下げて、共に戦っていた。©Eiko Oizumi

デシャンボーの人生を変えた父の死とクラブの変化

いったい何がこの人間性と人格の成長をもたらしたのか?

「彼ら(ファン)は僕と交流したり、関わり合いを持つようなことを言ってくるが、僕はそれに応じて行動するだけ」と彼は説明した。

「これが、僕がやっていることに本当に共感してくれる人々と直接会話することなんだ。本当の自分を見せるための素晴らしいプラットフォームなんだよ」

「今日、あのファンたちは本当に僕を後押ししてくれた。でも皆さん、ご存知でしょう?僕は退屈なゴルフはしないんだ。バンカーに入れたとしても、ファンたちはまだ僕の名前を叫んでくれていた。それが僕にあの寄せワンを成功させるインスピレーションを与えてくれたんだよ」

彼はファンのために、そして自身の記録のためにプレーしていたように見えるが、彼の心には2022年末に亡くなった父親の存在があった。
父親を失ったことで彼は変わったが、そのことについて語っている。

「確かに、いろんな面で変わった。まだデビューしたばかりの頃の自分と気持ちは同じだが、人として、接し方が違うと感じる。そして去年、クラブを替えてから、人生が劇的に変わった。父が亡くなったことで、人生に対する素晴らしい視点が与えられたんだ。5年ごとに誰かの人生が変わると言われているが、まさにその通り。ウィングドフットの頃の自分とは全く別人だ」

2024全米オープン 最終成績

優勝ブライソン・デシャンボー−6
2位ローリー・マキロイ−5
3位トニー・フィナウ
パトリック・キャントレー
−4
5位マチュー・パボン−3
6位松山英樹−2
7位ラッセル・ヘンリー
ザンダー・シャウフェレ
−1
9位サム・バーンズ
デービス・トンプソン
コーリー・コナーズ
E
12位セルヒオ・ガルシア
ルドビグ・オーバーグ
+1
26位ブルックス・ケプカ+6
32位アダム・スコット+7
41位スコッティ・シェフラー+8

予選落ち/清水大成、ビクトル・ホブラン、タイガー・ウッズ、石川遼、金谷拓実、ジャスティン・トーマス、河本力、星野陸也 他

Text/Dave Shedloski
Photo/Eiko Oizumi、USGA

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