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【世界のゴルフ通信】From USA PGAツアー&サウジの枠組み合意の電撃発表から1年が経過して未だに統一しないゴルフ界

PGAツアー政策委員会メンバーであり、3月には自身のバハマの別荘でサウジ、PGAツアーの会合を開いたタイガー・ウッズ。©Eiko Oizumi
タイガー同様、PIF(サウジ政府系ファンド)とPGAツアーの統合について直接交渉するメンバーの1人のアダム・スコット。©Eiko Oizumi
昨年11月にローリー・マキロイがPGAツアー選手理事を辞任。それに代わって就任したのが、ジョーダン・スピースだ。©Eiko Oizumi

いまだに解決を見ないゴルフ界の分断問題

ローリー・マキロイは、昨年11月にPGAツアー政策委員会の選手会理事の職を辞任したが、その後、サウジアラビアの公共投資基金(PIF)との交渉が行き詰まっているように見えるため、ウェブ・シンプソンの後任として復帰したいと考えた。
だが、その復帰を拒否された。

現在の男子プロゴルフの状況が混沌としているように見えるのは、無理もないことだ。
ゴルフ界に衝撃を与え、ゴルフ界に統一をもたらすはずだった「枠組み合意」から1年が経過したが、まだ決まっていないことがたくさんある。
PGAツアー政策委員会の選手会理事が、新しいPGAツアーエンタープライズがどうなるのか、そしてPIFからの投資によって、どのような影響を受けるのかを考察しようとしているため、選手会理事が現在あまりにも多くの権限を持ちすぎているという考えに、ジョーダン・スピースは反対している。

しかし、ゴルフ界の著名人で政策委員会の独立取締役でもあるジミー・ダン氏は、交渉に進展が見られないことに不満を抱き、5月13日に辞任を表明した。
ダン氏は秘密裏にPIFと交渉し、約1年前に発表された「枠組み合意」をまとめた人物だった。
ダン氏は辞任届の中で、自身の役割が“不要”になったと述べ、「今や選手たちの数が、独立取締役の数を上回っている」と述べている。

昨年の秘密協定の際、選手たちはPGAツアーコミッショナーのジェイ・モナハン氏に対して、合意に関する情報が不足していると反発した。
タイガー・ウッズが取締役会に加わったことにより、スピース、アダム・スコット、パトリック・キャントレー、ピーター・マルナティ、ウェブ・シンプソンらとともに6人の選手会理事が揃ったことになる。

「選手がこれらすべてのことを決定しているというのは誤解だ。ジミーが言っていたのはそういうことではない。彼が言っていたのはバランスの問題であり、c-6(非営利団体501c-6であるPGAツアーのこと)のバランスは、適切な場所に戻されつつあると思う。物事が分裂した今、全く異なる2つの舟のようになっているが、皆が同じ方向にボートを漕いで、お互いが健全な場所に到達しようとしている。今後は現在起こっているようなことが続かないようにしたいと願っている」とスピースは語った。

サウジ側と初めて接触を持ったダン氏のこれまで

ダン氏はエド・ヒルリヒ会長とともに、PGAツアーエンタープライズではなく、PGAツアー・インクの政策委員会に所属していたが、この委員会のメンバーは14人に拡大され、そのうち6人が独立した。
PGAツアーエンタープライズの取締役会には13人のメンバーがおり、その中には6人の選手会理事と、元選手のジョー・オギルビーが含まれていて、連絡役を務めている。
また、PGAツアーエンタープライズとプライベートエクイティ契約を結んだストラテジック・スポーツ・グループ(SSG)の4人もこの取締役会のメンバーだ。
ダン氏は、オーガスタナショナル、セミノール、サイプレスポイントなどの著名なクラブのメンバーであり、2001年9月11日のニューヨークでのテロ攻撃で多数の従業員を失った企業の代表を務めている。
彼のこれらの家族に対する慈善活動はよく知られており、彼は9・11との関係が疑われるサウジアラビアとのいかなる取引にも強く反対していたと言われている。

しかし、昨年初めてPIF(サウジ政府系ファンド)の総裁、ヤシール・アル・ルマイヤン氏に接触し、LIVゴルフとPGAツアー間の訴訟を終わらせ、ゴルフ界をある形で再統一する計画を進めたのはダン氏だった。

当初の契約条件では、アル・ルマイヤン氏は新しいPGAツアーエンタープライズの取締役会長に就任する予定だった。
しかし、合意がなかったため、それは実現せず、その後ツアーはSSGとの契約を結んだ。

「ジミー・ダン氏が関与しなくなったことは損失だと思う」とスピースは述べた。

「過去数か月間、彼と何度も話し、とても良い会話ができた。彼が取締役に就任してから、全てがどのように起こったのかについて説明すると、私にはとても納得のいくものだった。だから、確かに少し驚いたよ」

「これ以上、ダメージを大きくしないで!」
サウジとの取引を望む声

PGAツアー政策委員会のメンバーで、PIFとの枠組みについて水面化で交渉していたジミー・ダン氏が辞任した。©GettyImages
PGAツアー政策委員会への復帰を望んでいたローリー・マキロイだが、タイガー・ウッズ、パトリック・キャントレー、他1名の政策委員会メンバー計3名が反対し、却下された。©Eiko Oizumi

ジミー・ダン氏の辞任後の懸念

先日、マキロイはタイガー・ウッズとアダム・スコットを含む「取引委員会」の委員に任命され、PIFと直接交渉することになった。

しかしマキロイは、ダン氏の離脱が交渉への打撃であると見なした。

「正直なところ、PGAツアーがPIFとの取引を成立させ、ゴルフ界を統一しようとしているなら、ダン氏の辞任は大きな損失だと思う。ジミーは基本的にPGAツアーとPIFの間の関係の、いわばパイプ役のようなものだったし、ここ数か月、彼が関与していないのは本当に残念。それが現在の停滞の一因だと思う」

「だから、本当に残念だし、そのせいでツアーは悪い状況に陥っていると思う。まぁ、これからどうなるか、何が起こるかを見ていきましょう。先週までも、何かが成し遂げられる自信は以前と同じくらい低かったが、今回のジミーの辞任のニュースで、彼と相手側との関係、そして相手側からどれだけ温かく迎え入れられていたのかがわかっただけに、心配している」

話し合いは続けられていると言われているが、終わりに近づいてはいないようだ。

「毎週、ますます混乱が深まっているように見える」と全米プロゴルフ協会のセス・ウォー氏は言う。

「私は、ゴルフというゲームにとって最善の策は、取引することだと思う。我々はその点については一貫している。持続不可能なビジネスモデルだったものは、ツアーのような他の場所にも圧力をかけており、それがいくつかの財政的な面での動きを生み出している。正直に言えば、それが我々にも財政的な圧力をかけているのだ。このようなツアーが2つ存在するほどゴルフ界は大きくなく、ゲームを不健全な方法で薄めていると思う」

「すぐに合意されることによって、(ゴルフ界の分断が)解消することを望んでいる。なぜならツアーやゴルフにダメージを与えているからだ。それが永久的なダメージではなく、一時的なダメージであることを望んでいる」

Text/Bob Harig

ボブ・ハリグ(アメリカ)

Sports Illustrated誌のゴルフライター。25年以上にわたり、ゴルフトーナメントの取材を続けている。全米ゴルフ記者協会会員。

Photo/Getty Images、Eiko Oizumi

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