
罰金を支払うことなく「ライダーカップ」に出場する戦略を公言するラーム
ルールを知っていることと、ルールを尊重することは全く別物だ。
それについては、LIVゴルフに移籍したジョン・ラームに聞いてみればわかるだろう。
ラームは、DPワールドツアーのシステムを逆手に取り、ヨーロッパ代表として「ライダーカップ」に出場するための資格を守り抜こうとしているのだ。
簡単にまとめると、ラームはLIVゴルフに移籍したことで、古巣である欧州ツアーに多額の未払いの罰金を抱えているが、彼はその罰金を支払うつもりは全くないと公言している。
DPワールドツアーの規定では、少なくとも年間4試合に出場しなければ「ライダーカップ」の出場権を失うというルールがある。
これは、名声を得て主に米国で活動するようになった大物プレーヤーたちが、依然としてヨーロッパの舞台に登場することを保証するために作られたルールだ。
そして、未払いの罰金を支払わなければ、それらの必要な試合には出場できない。
しかし、ルールは破られるためにあるわけではないなら、それを回避する方法は確かに存在する。
ラームは、その規則を回避して今年も残りの必要な試合に出場し、来年9月のベスページでの「ライダーカップ」出場権を確保する戦略について、恥ずかしげもなく正直に語っている。
彼は単に罰則に対して異議申し立てをしており、その審理は、「パリ五輪」に加え、「スペインオープン」、「ダンヒル・リンクス選手権」、「アンダルシア・マスターズ」の出場が完了するまで延期された。
「DPワールドツアーとはまだ交渉中で、スペインでプレーするつもりです。すでにエントリーはしています。プレーさせてくれるかどうかは別問題ですが……」と、ラームは9月の「LIVゴルフ・シカゴ大会」前に記者に語っていた。
実際、これらの試合にラームは出場できた。
「罰金にはあまり賛成していません。そのことについては率直に話してきました。罰金を払うつもりはありませんが、どうすればそれが実現するかを、彼らと引き続き話し合っています」
「何度も言ってきましたが、『スペインオープン』に出場するのは、栄光のためでも他の何かの理由のためでもない。出場は、スペインゴルフ界への私の義務だと思っているし、ソトグランデ(『アンダルシア・マスターズ』)でもプレーしたいと思っています。その時点で、出場させてもらえないのは、自分にとってもスペインのゴルフにとっても、不利益となるでしょう」とラームは語っている。
ルールの抜け穴を利用して自己権利を主張


そして、ラームの言葉の中に重要なカギがある。
ルールは、尊重に値するものにのみ適用されるべきなのか?
明らかに、元世界ナンバーワンの彼は、DPワールドツアーの細かい規定を、純粋に自己保身のために作られた皮肉な専門用語だと考えている。
数多くの経験豊富な欧州ツアーのプロたちは、その意見に強く反対するだろうが、その中にはラームの友人であったとしても彼の主張に対しては一歩も引かない姿勢を示している者もいる。
2021年の「ライダーカップ」欧州チームキャプテンのパドレイグ・ハリントンは次のように語っている。
「私の時代にも、米国のPGAツアーでプレーしている選手たちが欧州ツアーで十分な試合数を消化せずに、特別措置や免除を求める状況があった。私を知っている人なら誰でもわかると思うが、私はルールに厳格な人間だ。ルールが書かれていれば、それを守るべきだ。私はジョンの大ファンであり、彼の友人でもあるが、ルールが定められているなら、それに従うしかない」
「『ライダーカップ』は、単なる試合以上の存在で、欧州ツアーの屋台骨のようなもの。欧州ツアーには、選手たちを欧州に呼び戻すための強い手段は多くないが、『ライダーカップ』は、彼らを戻すための『ニンジン(餌)』なのだ」
「(2025年大会)キャプテンのルーク・ドナルドや『ライダーカップ』にとって、これは非常に難しい状況だ。彼らは最強のチームを持ちたいと思っているし、『優勝のチャンスを最大限に活かしたい』というのも無理はない。これは、欧州ツアーをゴルフ界の最前線に維持する上で何よりも重要な要素の一つだ」
ラームのイベントでの存在感や、2年に一度の米国チームとの対戦での素晴らしい戦歴を考えると、彼の異議申し立てがチームメイトを困らせることはなさそうだ。
たとえツアーそのものに対しての貢献度は低くても、「ライダーカップ」欧州チームへの彼の貢献度の高さを理解しているからだ。
たとえば、LIVゴルフやツアー脱退者をこれまで最も声高に批判してきたローリー・マキロイも、ラームが「敵陣営」に移籍した瞬間、資格基準を緩和すべき時が来たと認めた。
しかし、何かまだ腑に落ちないことがある。
批評家の中には、ラームがそれほどまでに「ライダーカップ」に出場することに情熱を持っているのであれば、選手とツアーの間で何らかの金銭的妥協が成立することはできないのか、と疑問を抱く人もいる。
それは少し、甘い考えかもしれない。特に、同じように控訴の抜け穴を利用してきた他の選手(ティレル・ハットン、君のことだ!)が、同様に減額された和解を求めるという前例を作ることになるだろうことを考えれば……。
DPワールドツアーにとって、これは難しいジレンマであり、この問題をいつまでも先送りするわけにはいかない。
ラームの出場資格は、次回の「ライダーカップ」の年には満たされるかもしれないが、2027年のアデア・マナーではどうなるだろうか?
それは、最高責任者のガイ・キニングス氏の山積みの課題リストの中でも「明日の問題」だ。
そして、その頃までにLIVゴルフを後援するサウジアラビアの政府系ファンド(PIF)の支援者と、PGAツアーとの間で何らかの和平協定が締結され、ゴルフ界に再び平和が戻ることが期待されている。
しかし、過去3年間の苦い経験を考えると、それに期待しすぎない方がいいかもしれない。
テニス界を引退したアンディ・マレーがゴルフに転向


テニス界のスーパースターがゴルフに転向
もしかすると、2027年の「ライダーカップ」では、これまで全く違うスポーツの舞台で活躍していた非常に馴染み深い顔が、予期せぬスーパースターとして注目を集めるかもしれない。
8月の「パリオリンピック」でテニスから引退して以来、サー・アンディ・マレーはゴルフに新たな情熱を見出したようだ。
すでにハンディキャップ7でプレーしているこの選手は、「ウィンブルドン」で2勝し、「全米オープン」でも優勝。
そして「オリンピック(ロンドン、リオ)」では金メダリストとなったが、現在はスクラッチゴルファーになることを目指している。
「BMWPGA選手権」の前日に行なわれたプロアマ戦で、スコットランドの同郷、ロバート・マッキンタイヤーとペアを組んでウェントワースでデビューしたことから判断すると、その夢は現実味を帯びている。
「今日は、僕のスポーツ界のヒーローの一人である、アンディと一緒に時間を過ごせて本当に信じられないくらい素晴らしかった」とマッキンタイヤーは語っている。「彼がスクラッチになるのもそう遠くはないだろう」
しかし、マレーはあまり自信過剰にならない方がいいだろう。
というのも、昔からのテニスのライバルで、元世界ランキング7位の、マーディ・フィッシュがウェントワースでプレーしているマレーの姿を見て、SNSでメッセージを送ってきたからだ。
フィッシュも自分のチャンスを見据えているのかもしれない。
「やぁアンディ、テニスコートで君に負けた時に失った賞金を賭けてゴルフで勝負しよう。どうだい?」
これについて少し背景を説明すると、マレーはフィッシュに5勝しており、その内訳はベスト32で2回、準々決勝で2回、そして準決勝での1回となっている。
いずれもメジャー大会ではないが、生涯獲得賞金額が約4900万ポンドのマレーにとっても、これはかなりの金額だ。
フィッシュがゴルフ場で「水を得た魚」であることを考えると、マレーは慎重に考えた方が賢明だろう。
フィッシュのハンディキャップは3程度と考えられており、複数の有名人の試合で優勝している。
2022年には、地元ミネソタ州で開催されたPGAツアー「3Mオープン」に招待され、本戦に出場したこともある。
彼は81、74のスコアで予選落ちしたが、それでもその賭けはかなりリスクが高いだろう。
Photo/Getty Images
Text/Euan McLean

ユアン・マクリーン(スコットランド)
スコットランド・グラスゴー在住のスポーツライター。『サンデーメール』などに寄稿。欧州ツアーなど過去20年にわたり取材。