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The Winners ~Road To Glory~ ”栄光への道” Vol.3 ルドビグ・オーバーグ

ゴルフは人生に似ている。
時には勝ち、時には負けることもあるが、努力が実り、運も味方して勝利した者だけが優勝トロフィーを掲げることができる。
「栄光への道」を突き進む、彼らの足跡をご紹介していこう。

Ludvig Åberg

ルドビグ・オーバーグ(スウェーデン)
1999年10月31日生まれ。190㎝、86㎏。スウェーデン出身。米国テキサス工科大出身。元世界アマチュアランキング1位。「ベン・ホーガン賞」「ジャック・ニクラス賞」などをアマチュア時代に受賞し、2023年にプロ転向。同年8月に開催された「オメガ・欧州マスターズ」で初優勝を遂げ、「ライダーカップ」欧州チームメンバーとして勝利に貢献。同年11月には「RSMクラシック」で米ツアー初優勝。2024年「パリ五輪」出場。2025年「ジェネシス招待」で米ツアー2勝目。
今年の2月、トーリーパインズGCで開催された「ジェネシス招待」で優勝したルドビグ・オーバーグ(右)と大会ホストのタイガー・ウッズ。
©GettyImages

彗星の如くプロゴルフ界に現れたスウェーデン出身のオーバーグ。
2023年にプロ転向するや否や欧州ツアーで1勝を挙げ、「ライダーカップ」欧州チームにも大抜擢。
同年11月にはPGAツアーでも初優勝を果たし、翌年にはメジャーでも大活躍した。
そして今年は「ジェネシス招待」でPGAツアー2勝目。
今や世界ランク5位にまで浮上し異次元の活躍を見せている。

2023年プロ転向した年に、「ライダーカップ」欧州キャプテンのルーク・ドナルドが、オーバーグをキャプテン推薦で大抜擢した。©GettyImages
2023年「ライダーカップ」では、ビクトル・ホブランと組んで、世界ランク1位のスコッティ・シェフラー&メジャー5勝のブルックス・ケプカ組(米国)と対戦。オーバーグ組は、9&7という歴史的な大差をつけ、米国チームを下した。©GettyImages

スウェーデンのボルボ車のように精密さと駆動力を兼ね備えた天才の登場

母国スウェーデンの自動車工業の中心地・ヨーテボリで生産されるボルボ車のように、精密さを備えた25歳のルドビグ・オーバーグ。
彼は、ヨーテボリの工場で生産されるどの車にも匹敵するほどパワフルな、世界最高のゴルファーになるための強力な「駆動力」を持っているようだ。
彼のその加速するようなゴルフの成長の道は、幼少期に始まり、今や(4月1週目時点で)世界ゴルフランキングのトップ5に名を連ねるところまで続いている。

オーバーグは、今やプロゴルフ界のスターだ。
なぜこれほど早く成功したのかは、容易に想像がつく。
教科書のように正確なスイング、冷静で集中力のあるメンタル、そして天から授かった多くの才能。
彼の名前は米国では「オーバーグ」と発音されているが、これは、同じスウェーデン出身のアイスホッケー界のレジェンド、ピーター・フォースバーグがNHLのキャリアを通じて使用していた発音にならったものだ。
彼が今いる場所は、まさに当然の結果だ。
人気も高く、新設されたインドアゴルフリーグ「TGL」にもスカウトされ、2023年、ローマで開催された「ライダーカップ」の欧州代表にもルーキーで選出された。
そして、メジャーやPGAツアーのシグネチャーイベントにも当然のように名を連ねている。

メジャーデビューとなった2024年の「マスターズ」で、彼は最終日に優勝争いに加わったが、惜しくも2位に終わった。
誰もが「驚きはなかった」と口をそろえる。

「この一週間でたくさんの経験を積み、多くの教訓を得ました」と、オーガスタナショナルでの戦いを終えた彼は語った。

「ハングリー精神がさらに強くなりましたし、何度でも挑戦したいと思います」

そのチャンスは、これからいくらでもやってくるだろう。

2023年6月にプロ転向したオーバーグは、同年8月に開催された「オメガ・欧州マスターズ」でスピード優勝。©GettyImages
欧州ツアー初優勝、「ライダーカップ」初出場を遂げた年の11月にPGAツアー「RSMクラシック」で優勝。大会ホストのデービス・ラブⅢ(右)、ロビン夫人(左)と。©GettyImages
2024年「パリ五輪」には、スウェーデン代表として出場。初日はスコッティ・シェフラー(米国)、ローリー・マキロイ(北アイルランド)とともに回り、注目度の高さを証明した。©GettyImages

LIVゴルフのオファーも断り大学ゴルフ部に残留

スウェーデンのエスロブで生まれ、現在はPGAツアー本部があるフロリダ州ポンテベドラビーチに住むオーバーグは、元々は優秀なサッカー選手だった。
しかし、8歳のときに父親がゴルフを教えたことが転機となり、一般的な高校に通った後、スウェーデンの国立スポーツ高校「フィルボルナスコラン」に入学し、ゴルフに専念。
ちなみに、同校にはLPGAで活躍するマヤ・スタークやリン・グラントも在籍していた。

2019年、テキサス州ラボックにあるテキサス工科大学のゴルフ部でプレーするよう勧誘されたが、2020年シーズンは新型コロナウイルスの影響で中止に。
帰国してスウェーデンゴルフツアーにアマチュアとして参加し、プロを相手に2勝を挙げた。
言うまでもなく、彼は大学ゴルフでも活躍できる実力を十分に示したわけだ。
将来有望だったため、2022年にはLIVゴルフから契約オファーを受けるほど注目されたが、テキサス工科大学のレッドライダーズに残り、スポンサー招待でPGAツアーの試合にも数試合出場。その活躍が認められ、PGAツアーの「PGAツアー・ユニバーシティ」制度を通じて初めてPGAツアーカードを獲得した選手となった。
そしてその年末には、アマチュア世界ランキングで1位に輝いた。
大学最終年となる2023年シーズンには、4勝を挙げ、「ベン・ホーガン賞」「フレッド・ハスキンス賞」「ジャック・ニクラス賞」という3つの全米年間最優秀選手賞を総なめに。
その後プロ転向し、すぐにその評判を裏付けるような活躍を見せた。

「僕がその制度を最初に活用できたことは、とても光栄です。本当にキャリアの大きな後押しになりましたし、最高のスタートを切ることができました」

そして今、彼はそのチャンスをしっかりものにしている。
期待通りだ。

米国『ゴルフダイジェスト』誌は、今年の2月にサンディエゴのトーリーパインズで開催された「ジェネシス招待」で彼が優勝した際、次のように評している(これはオーバーグにとってPGAツアーで2勝目となる大会だった)。

「オーバーグの快進撃は、当然の結果だ。2023年、彼はPGAツアー・ユニバーシティのトッププロスペクトとしてテキサス工科大学から登場し、6月にプロ転向。その直後から欧州ツアーとPGAツアーの両ツアーで11試合中7回のトップ10入りを果たし、『オメガ・ヨーロピアン・マスターズ』と『RSMクラシック』で優勝。メジャー初出場前に『ライダーカップ』に出場した史上初の選手として歴史に名を残し、ローマでのヨーロッパ圧勝に貢献。そして翌春の『マスターズ』では、あと一歩でグリーンジャケットを逃したものの、その試合内容は圧巻だった。彼のゴルフは〝制御されたパワー〟の教科書であり、そのスイングは〝流れるような美しい動きの交響曲〟である」

美しいスイングの持ち主は準備、決断、成長スピードも速い!

©GettyImages
インドアゴルフリーグ「TGL」のザ・ベイGCのメンバー入りを果たしているオーバーグ(左)。チームメイトのミンウー・リー(中央)、ウィンダム・クラークと。©TGL
ガールフレンド、オリビア・ピートさん(右)と、「ライダーカップ」ガラディナーに出席。©GettyImages

オーバーグのスイングとプレースピード

オーバーグは、実に優雅で効率的なスイングの持ち主で、ゴルファーたちの羨望の的だ。
その優雅さは、ジェイク・ナップのリズミカルなスイングに並ぶものだと称賛されている。

さらに、プロゴルファーとしての大きな魅力は「プレーの速さ」だ。
スイングを真似できなくても、彼のプレースピードなら真似できるかもしれない。
オーランドのベイヒルで開催された「アーノルド・パーマー招待」で「他の選手が真似したほうが良いことは何ですか?」と聞かれると、彼はいたずらっぽく笑った。

「うーん……プレースピードかな?」

満面の笑みを浮かべながら、こう付け加えた。

「自分では速いと思ってますし、決断も早いほうだと思っています。それは良いことだと思うんです」

PGAツアーは近いうちに選手ごとのプレースピードのデータを公開する予定だが、おそらく彼は最速記録リストのトップに立つことは間違いないだろう。

この「準備の速さ」は、彼が幼少期から「練習よりもラウンドを多くこなしてきたこと」に由来しているという。

「ラウンド中、自分のせいで人を待たせたくなかったんです。スロープレーが嫌いだし、ラウンド全体が良いテンポで流れていくほうが楽しいから。たぶんそれが今も続いているんだと思います」

意外なことに、そんな彼でも「試合ではかなりストレスを感じる」という。
歴代の名選手でも同じことを語る人はいる。
ボビー・ジョーンズは大会中に体調を崩すことがあったし、バイロン・ネルソンは大会週に数キロ痩せてしまうこともあった。
オーバーグは自分なりの方法でそのストレスと闘っている。

「〝何が起きてもプレーを続けること〟に集中してきました。プレーし続けていれば、技術は自然に発揮されると思います。逆に、立ち止まってしまうと、その技術も発揮されないんですよ」

その〝技術〟は、ゴルフのキャリアが浅いにもかかわらず、すでにかなり発揮されている。
そして今後何年も続くだろう。
なぜなら——彼は、そのために生まれてきたような存在だからだ。

Photo/Getty Images,TGL

Text/Dave Shedloski

デーブ・シェドロスキー(アメリカ)
長年にわたり、ゴルフトーナメントを取材。著書にアーノルド・パーマーの伝記『A Life Well Played』やジャック・ニクラスの『ゴールデン・トワイライト』などがある。

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