PGA Championship
2025年5月15日〜18日/米国ノースカロライナ州 クエイルホロークラブ・7626ヤード・パー71
1年前は、大会2日目に逮捕の珍事!
世界ランク1位スコッティ・シェフラー「全米プロ」でメジャー3勝目
優勝 Scottie Scheffler

1996年6月21日生まれ。190cm、91kg。世界ランク1位。米ツアー16勝、メジャー3勝。今季は「CJカップ」「全米プロ」「メモリアルトーナメント」で3勝。2024年は「パリ五輪」で金メダルを獲得し、シーズン7勝を挙げた。コーチはランディ・スミス。
シェフラーの両親(左の2人)とメレディス夫人(右から3番目)の両親(右の2人)、1歳のベネットちゃんと記念撮影するシェフラー。©PGA of America
大会前、ドライバーのルール不適合が判明、予備ドライバーで勝利





ツアー15勝目、メジャー3勝目を達成
ノースカロライナ州のクエイルホロークラブで開催された今年の「全米プロ」は、過去「マスターズ」で2勝を挙げている世界ランク1位のスコッティ・シェフラーが、2位のブライソン・デシャンボーらに5打差をつけ、メジャー3勝目を飾った。
過去、2位に3打差以上をつけて、最初のメジャー3勝を飾っているのは、セベ・バレステロスだけである。
そして、2012年、ローリー・マキロイが8打差をつけて「全米プロ」で優勝して以来、最大のストローク差だ。
今回の勝利で、通算15勝を達成したが、29歳になる前でのその勝利数達成は、ジャック・ニクラス、タイガー・ウッズに次ぎ、3人目の快挙だ(この後、『メモリアルトーナメント』でも優勝し、16勝目を飾った)。
優勝が決まった後、シェフラーが帽子を思い切りグリーンに投げつけたシーンがあったが、これは何かに対する怒りではなく、喜びや感謝の気持ち、達成感からだったという。
「とにかく喜びですね。それと感謝の気持ちもありました。すごく長く感じた1週間だったし、自分のキャリアの中でも、これほどまでに必死に戦った大会はなかったと思う。最初の2日間はスイングが思うようにいかなくて、それでもなんとかスコアをまとめられましたが、昨日の最後の5ホールが勝負を分けたと思う。今日のバック9も特別だけど、昨日の終盤の締めくくり方がすごく重要だった」
ムービングサタデーに単独首位に浮上
2日目を終えた時点で、首位のジョナサン・ベガスに3打差の5位タイ(通算5アンダー)だったが、ムービングサタデーの3日目には、1イーグル、7バーディ、3ボギーの65で回り、6つスコアを伸ばして通算11アンダーに。
2位のアレックス・ノーレンに3打差をつけて単独首位でホールアウトした。
この時点でシェフラーのメジャー3勝目への期待が大きく膨らんだ。
最終日の序盤、5ホールを終えて5打差にリードを広げたにもかかわらず、ショットは左へと引っかかり続け、6番ホール(パー3)と9番ホール(パー4)でボギーを叩いた。
2つ前の組ではジョン・ラームがバーディを重ね、シェフラーを5打差で追っていた。
彼は8番、10番、11番でバーディを奪い、9アンダーで首位のシェフラーに並んだ時があった。
実は大会前、USGA(全米ゴルフ協会)のテストでドライバーのヘッドが不適合であることが判明したシェフラーは、予備のドライバーで今大会を戦っていた。
経年劣化で、もともと適合していたヘッドの厚みが使用しているうちに薄くなり、不適合になるケースもあるという。
その影響でショットが乱れているのかと、記者たちは想像したが、実際は「自分自身のミス」とのことだった。
シェフラーは、ジャック・ニクラスやタイガー・ウッズに将来並ぶ存在になるのか?



グリーンマイルで脱落したラームと、上昇したシェフラー
ラームに並ばれた時、シェフラーに〝あるスイッチ〟が入った。
「今週、自分が誇りに思うのは、精神的に集中を切らさず、必要な時に必要なショットを打てたこと」と、28歳(当時)のシェフラーは語っている。
前半9ホールではフェアウェイを7ホール中2ホールしかとらえられず、全て左にミスしていた。
しかし、10番、11番、12番でフェアウェイをとらえ、短い14番ではグリーン手前のバンカーまで運び、15番でもフェアウェイをキープ。
3バーディを重ねて12アンダーへと再加速した。
一方のラームは、16番~18番の「グリーンマイル」と呼ばれる難ホールでボギー、ダブルボギー、ダブルボギーという悪夢のような締めくくりで優勝争いから脱落。
メジャーの舞台は、再びシェフラーのものとなった。
また、ファンたちの人気を集めるブライソン・デシャンボーも4つのバーディを奪い、優勝争いに食い込んでいたが、最終ホールでボギーを叩き、2位タイで終了。
終盤のホールは池がからみ、距離もあるため、正確性と頭脳プレーを要するが、このコースでのキーホールで、シェフラーは必要な場面でしっかりと対応。
ワナメーカー・トロフィーを掲げるにふさわしいパフォーマンスを見せた。
「今週は重要なショットをしっかり打てたから、こうしてトロフィーを持ち帰ることができた」
シェフラーの勝利へのモチベーション
勝利への原動力は何か?と問われると、シェフラーは次のように語った。
「ゴルフで一番好きな時間は、たぶん一人で練習している時。とても静かで、何かを追い求めるプロセスが本当に楽しい。それがゴルフの魅力だ。結局、常に自分自身と戦っていて、常に何かをつかもうとしている。そして、それを完璧にすることは絶対にできない。常に改善できる余地があり、常に新しい課題があるのがゴルフ。それがすばらしいチャレンジで、とても楽しい」
4月の「マスターズ」では、ローリー・マキロイがついにキャリアグランドスラムを達成したが、シェフラーは今回「全米プロ」を制したことで、グランドスラム達成まで「全米オープン」「全英オープン」の2大会となった。
6月にはペンシルバニア州のオークモントCCで「全米オープン」、7月には北アイルランドのロイヤルポートラッシュGCで「全英オープン」が開催されたが、「全米オープン」で優勝できなかった時点で、グランドスラム達成への道は来年以降にお預けに。
タイガー・ウッズの全盛期と比較されることも多くなってきたシェフラーだが、まだタイガーには及ばないという評価も多い。
タイガーほどのカリスマ性はないものの、ここ一番の大舞台に強い29歳のシェフラーが、コツコツと勝利を重ね、将来、グランドスラムを達成してタイガーのメジャー勝利数に迫ることができるかどうかが注目される。
2025 全米プロ 最終成績
優勝 | スコッティ·シェフラー | −11 |
2位 | ハリス·イングリッシュ ブライソン·デシャンボー デービス·ライリー | −6 |
5位 | テーラー·ペンドリス ジョナサン·ベガス JTポストン | −5 |
8位 | ホアキン·ニーマン ベン·グリフィン デニー·マッカーシー ライアン·ジェラルド ジョー·ハイスミス マシュー·フィッツパトリック キーガン·ブラッドリー ジョン·ラーム キム·シウー | −4 |
28位 | ザンダー·シャウフェレ | −1 |
37位 | 久常 涼 | 1 |
47位 | ローリー·マキロイ | 3 |
予選落ち/松山英樹、中島啓太、金谷拓実
魔の“グリーンマイル”で5打スコアを落とす悲劇
優勝目前で大崩れのジョン・ラーム
「これで世界が終わるわけじゃない」


最終日に一時、スコッティ・シェフラーと首位に並ぶも終盤のミスで優勝を逃したジョン・ラーム。
メジャーで最終日にリードした際は、全て勝ち切ってきた彼にとって、猛追したのちに敗退という経験は初めてのことだった。
「全米プロ」最終日、ジョン・ラームは一時、シェフラーとの首位争いに食い込むも、終盤のミスで優勝を逃した。
15番までは「ここ最近で一番楽しかった」というラウンド。
しかし、16番と18番での痛恨のショットミスが悔やまれる結果となった。
「本当に紙一重だった。メジャーでここまで勝利に近づいて、勝ち切れなかったのは初めて。日曜日にリードしていた時は、今まで必ず勝ち切っていた。今回は今までとは違う状況だったね」と振り返った。
終始自分のゴルフを貫きながらも、勝利にはあと一歩届かなかったラーム。
中盤までは理想的な展開で、11番ホールまでは3バーディ、ノーボギーとスコアを伸ばしていた。
「本当にいいゴルフができた」と言うが、その後、悲劇が訪れる。
「グリーンマイル」と呼ばれる最難関の終盤3ホールで、ボギー、ダブルボギー、ダブルボギーとスコアを5つ落としたのだ。
「スイングの感覚自体は悪くなかった。ただ、ほんの少しのズレが結果に大きく影響する。それがゴルフだよね。結果は悲惨でした」と、自身の現在のスイング調整の影響も認めた。
風との相性、球筋の選択、コースマネジメント……。
その全てが噛み合わなかったわけではないが、状況によっては「もっと攻めてもよかったのかもしれない」と戦術面の反省点も挙げた。
結果はかなり悔しい内容となったが、一方で「ポジティブな面」にも目を向けた。
「僕はゴルフという素晴らしい仕事を生業としている。信じられないほど恵まれているんだ。終盤の崩れ方は恥ずかしいが、これで世界が終わるわけではない。悔しさはあるが、ポジティブな面もたくさんあった1週間。優勝争いにからめたのは大きな自信になる」と語った。
そして愛妻と3人の子供たちの存在が、傷心のラームにとって大きいという。
「正直、今はまだ傷が癒えていない。でも、家に帰れば子どもたちは僕が勝ったかどうかなんて気にしない。それが一番の癒しになる」と、気持ちを切り替えた。
今年はLIVゴルフでも、ほぼトップ10入りしているものの、優勝には手が届いていない。
今回の失敗経験と悔しさを糧に、今季初優勝を狙う。
Text/Eiko Oizumi
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大泉英子
「ゴルフ・グローバル」編集長。海外メジャー取材は男・女・シニア合わせて130試合以上。現在もLIVゴルフを含め、海外ツアーをメインに取材。全米・欧州ゴルフ記者協会会員。