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【Senior PGA Championship】アンヘル・カブレラが全米プロシ ニアでメジャー2週連続優勝!

Senior PGA Championship
2025年5月22日〜25日  米国メリーランド州 コングレッショナルCC・7152ヤード・パー72

DVで服役2年半を経て、今季からシニアツアー参戦
アンヘル・カブレラ、「全米プロシニア」でシニアメジャー2週連続V

優勝 Angel Cabrera

アンヘル・カブレラ(アルゼンチン)
1969年9月12日生まれ。183cm、95kg。2007年「全米オープン」、2009年「マスターズ」でメジャー2勝。ツアー屈指の飛ばし屋。PGAツアー3勝、世界で57勝。今年から出場しているシニアツアーで今季すでに3勝。服役2年半の後、今季復帰。
優勝したカブレラ(左から3番目)と、キャディを務めた息子のアンヘルジュニア(右隣)。アルゼンチン出身のリカルド・ゴンザレス(右)、チリ出身のフェリペ・アギラ(左)らもカブレラの優勝を祝った。©Eiko Oizumi

「マスターズ」「全米オープン」でメジャー2勝を挙げたアルゼンチンのアンヘル・カブレラが、シニアツアーで大暴れだ。
DVの罪で2年半にわたり服役していた彼は、今年からシニアツアーに参戦しているが、シニアメジャーに2週連続で優勝するという快挙を達成。
彼の復活劇をお伝えしよう。

神妙な面持ちで優勝記者会見に臨む、カブレラ。©Eiko Oizumi

2年半の服役を終え、猛練習
今季からシニアツアーに参戦し、すでに3勝

最終日の18番ホールで、ティーショットを深いラフに打ち込んだが、そこから見事に脱出し、グリーンをとらえた。©Eiko Oizumi
優勝を決めるパットを沈め、息子と喜びを分かち合う。©PGA of America
最終日の終盤、写真を撮る筆者に指をさすカブレラ。優勝も狙い撃ちだ。©Eiko Oizumi

シニアメジャー“1週間で2勝”

元妻を含む複数の女性への暴行と脅迫の罪により、刑務所で服役していたアルゼンチンのアンヘル・カブレラ(55歳)が、「リージョンズ・トラディション」(シニアメジャー第1戦)に続き、コングレッショナルCCで開催された「全米プロシニア」でメジャー2週連続優勝を飾った。
「リージョンズ・トラディション」は悪天候のため中断し、月曜日に終了したので、1週間で2勝といった方が正しいかもしれない。

最終日の彼は、6番ホールから10ホールで5アンダーという見事な追い上げを見せ、3アンダーの69でホールアウト。
通算8アンダーでアイルランドのパドレイグ・ハリントンらを1打差で破り優勝した。
カブレラは、1990年以降最初に行なわれている2つのシニアメジャー(「リージョンズ・トラディション」と「全米プロシニア」)を制した5人目の選手となったが、2週連続での制覇は彼が初めてだ。
なお、1990年以降で同じ年にこの2大会を制したのは、リー・トレビノ(1992年)、ベルンハルト・ランガー(2017年)、アレックス・チェイカ(2021年)、スティーブ・ストリッカー(2023年)だ。

クラブに触らず刑務所で過ごした2年半

「とても感傷的になっている」とカブレラは試合後に語った。
彼は昨年、アルゼンチンでの30か月間の服役を終えてゴルフ界に復帰したばかりで、今年からチャンピオンズツアー(米シニアツアー)に出場している。
服役中はゴルフが一切できず、「しばらくはクラブに触ることもなく、座っているだけの時間を過ごした。もう復帰できないかもしれない、と思っていた」と言うが、出所した後は、できる限り一生懸命、練習に取り組んできた。
その努力が奏功して、突如、チャンピオンズツアーで最強の選手の一人となっている。
キャディを務める息子のアンヘルジュニアも「父は、ショットも武器だけど、メンタルも強い」と語る。

「見た目にはそう見えないかもしれないが、本当に感動しているんだ」

涙を流すこともなく、言葉が詰まることもなかったが、優勝記者会見で彼は神妙な面持ちでそう語っていた。

「2週連続で優勝できたこと、そして1年で3勝目を挙げられたことが本当に嬉しい。これまでの人生を思い返すと、非常に感慨深い。こんなに早く、2週連続で勝てるとは思っていなかった。このツアーには素晴らしい選手がたくさんいるだけに、今回の優勝は誇らしいし、感傷的にもなる」

今回開催されたコングレッショナルCCは、過去「全米オープン」や「全米女子プロ」が行なわれた難易度の高い名門コースで、〝モンスター〟と呼ばれている。
長いブランクと波乱に満ちた人生を乗り越え、〝モンスター〟を制したアルゼンチンの怪物が、再び大舞台に帰ってきた。

「子供の頃からの悪いクセが出た」
勝ち戦に負けた大きな原因

2位タイ パドレイグ・ハリントン

現在もシニアツアーだけでなく、PGAツアー、DPワールドツアーに出場しているハリントン。平均飛距離は303.1ヤードで、シニアツアー2位。©Eiko Oizumi
最終ホールで、深いラフに打ち込んだハリントン。©Eiko Oizumi
グリーン上でしゃがむことができず、独特のスタイルでラインを読む。©Eiko Oizumi

最終日、一時は10アンダーまでスコアを伸ばし、2022年「全米シニアオープン」以来のシニアメジャー2勝目を飾るかと思われたパドレイグ・ハリントン。
通算7アンダーでホールアウトし、トーマス・ビヨーンと並び1打差の2位タイに終わった。

彼は前半で32をマークし、通算7アンダー。
さらに11番、12番、14番でバーディを奪い、通算10アンダーに到達した。
その時点では、カブレラが3組後ろで追っていることなど気にもしておらず、「あの時点では全てがうまくいってた」と言う。

だが、突然歯車が狂った。
15番ホール(440ヤード・パー4)でダブルボギーを叩いたのだ。

「自分は子供の頃から、油断してしまうクセがあるんだ。それが15番のティーで出てしまった。調子に乗って、集中力を欠いてしまう。本来なら、簡単なティーショットだった。5番ウッドで、軽くドローをかけて打つだけ。でも、集中しきれず、最後の一瞬でパニックになり、ひどいフックになった」

ほぼ同じタイミングで、カブレラが11番でバーディを奪って追いついた。
さらに、ハリントンがつまずいた15番でカブレラがバーディを獲り、逆転。
その後ハリントンはスコアを伸ばせず、18番では大きく右にティーショットを曲げた。
そこからのセカンドは見事で、高いウェッジショットで木越えを成功させ、グリーンオン。
約10メートルのバーディパットは決まらなかったが、内容には納得していた。
残念ながら、次の1メートル弱のパットは、読み切れずに外してボギー。
ホールアウト後、彼は自らの「油断」という過去の過ちについて記者たちに語り始めた。

「18歳の時に『アイリッシュユース選手権』で同じことをやった。残り3ホールで2打リードしていて、気が抜けたんだ」

 最終ホールグリーン上のカブレラが約10メートルから2パットでいければ、2打差で優勝が決まる、という場面をハリントンはテレビで観ていた。
「こうなったら、2パットで(2打差で)優勝してほしい」と願ったが、最初のパットは約2メートルもショート。

「ああ、ダメだ……」と沈痛な声を漏らした。

「次のパーパットを彼が外したら、もっと悔しくなる」

観ていられなくなった彼は、その場から立ち去った。
結局、カブレラはパーを逃してボギーでホールアウト。通算8アンダーとなり、結果、ハリントンは1打差の敗戦に終わった。
最後の4ホールで3オーバーを叩いた自分自身に、ますます悔しさが募ったハリントンだった。

2025 全米プロシニア 最終成績

優勝アンヘル·カブレラ−8
2位トーマス·ビヨーン
パドレイグ·ハリントン
−7
4位スチュワート·シンク
ジェイソン·キャロン
レティーフ·グーセン
−6
7位キャメロン·パーシー−5
8位ダレン·フィチャード
ソーレン·ケルドセン
ビジェイ·シン
−4
11位ミゲル·A·ヒメネス−3
25位リー·ウエストウッド1
28位スティーブ·ストリッカー2
35位アーニー·エルス4
51位片山晋呉8

予選落ち/ホセ・マリア・オラサバル、宮本勝昌、藤田寛之、兼本貴司、トッド・ハミルトン

Text & Photo/Eiko OizumiPhoto/PGA of America

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