世界のゴルフフォトグラファーの第一人者として今も第一線で活躍するデビッド・キャノン。
彼のファインダーを通して切り取られた世界のゴルフコースの数々は、まるで宝石箱のジュエリーのように一つ一つが個性豊かに輝いている。
私の愛したゴルフコース第33回はシスキンゴルフクラブ(スコットランド)を紹介する。
Shiskine Golf Club

シスキンゴルフクラブ(スコットランド)
●設計:オールド·トム·モリス
●コース:2996ヤード·パー42(12ホール)
●備考:アラン島へはグラスゴーから飛行機、またはアドロッサン(グラスゴーから車で約50分)からフェリーを利用。メンバーコースだが、ビジターもOK。約2時間でプレーできる。1896年設立。

グラスゴー近郊の街からフェリーで向かう〝魔法のコース〟
スコットランド・アラン島の西海岸に、ユニークな12ホールのゴルフコースがある。
アラン島の主港ブロディックまでは、グラスゴーから車で1時間以内のアドロッサンからフェリーで約20マイル。
フェリーは1日5便以上運航されており、所要時間は約1時間。島に到着したら、美しい景観の中を内陸へ車を走らせ、島の西端にある小さな村ブラックウォーターフットへ向かうと、そこにこのコースがある。
アラン島は、ロイヤルトゥルーン、プレストウィック、ターンベリーの各リンクスからクライド湾越しに西の水平線上に見ることができる。
シスキンゴルフ&テニスクラブは1896年に創設された。
当初は9ホールだったが、すぐに18ホールに拡張された。
しかし第二次世界大戦により6ホールが農地に転用され、その後再建されることはなかった。
現在プレーできる12ホールは、まさにそのとき残されたレイアウトそのものである。
12ホールのゴルフコースというのは極めて珍しく、これこそがこの魔法のような場所の大きな魅力のひとつだ。
コースの全長は約3000ヤードと現代の基準では非常に短く、コースの構成はパー3が7ホール、パー4が4ホール、そしてパー5が1ホールの合計12ホールとなっている。
私がここを訪れたときは、7月の晴天の日に12ホールを3周し、36ホールプレーした。
それでもスコットランドの長い日照時間のおかげで、さらにもう1ラウンドできるほどだった。
5月~8月であれば、天気が良ければ朝5時から夜11時近くまでプレーが可能だ。
「キルブラナンサウンド」として知られる水域の向こうの水平線から、キンタイア半島まで続く景色は、どの時間帯にプレーしても心を奪われる美しさがある。
オールド·トム·モリスらが設計
12ホールの珍コース

シスキンGCは、エアシャー海岸沖の小さな島、アラン島の西側に位置する12ホールのコース。3番ホールは「クロウズ・ネスト」と呼ばれ、グリーンは砲台になっている。ティーグラウンドからは見えないため、背の高い旗が目印。ただしこれは、カップのある位置を示しているわけではないので、この旗狙いではボールをロストする。©David Cannon (Getty Images)
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Magical Course
魔法のコース

風変わりで奇抜な名門コース
確かにこのコースは「風変わり」であり、ゴルフコースを表現する際にはあまり使われない「エキセントリック(奇抜)」という言葉がぴったりだ。
しかしそれこそがシスキンゴルフの真髄である。
高速でビロードのようなグリーンや、予測可能なバウンドなどを期待してはいけない。
その代わりに、このコースならではのチャレンジと絶景を存分に味わってほしい。
このゴルフクラブの本質は、体験にある。
そして、その体験はきっとあなたの記憶にいつまでも残るだろう。
ここはスコットランドの隠れた名コースのひとつだ。
最初のホールは「ロードホール」という386ヤードのパー4。
ブラックウォーターフット・ビーチ沿いに伸びるホールで、左サイド全体がOBとなっている。
ティーショットがうまくいけば、次は小さなグリーンに向けてブラインドの2打目が待っているが、グリーンオーバーは厳禁だ。
シスキンの洗礼といえるだろう!
2番ホールは、コースの中で最難関ホールとされている。
「トゥワ・バーンズ」と名付けられたこの391ヤードのパー4は、スコットランドで小川を意味する「バーン」を2つ越える構成。
ティーショットはわずかに打ち上げで、1つ目のバーン越え。
フェアウェイ中央の小さなバンカーを避けて打てば、2打目はミドル~ショートアイアンで2つ目のバーン越しにグリーンを狙える。
パー3の3番ホール「クロウズ・ネスト」は、シスキンを象徴するホールと言ってよいだろう。
わずか128ヤードの打ち上げだが、傾斜の強いグリーンが待ち受ける、恐るべきショートホールだ。
絶対にグリーン左に打ってはいけない。
そこにはイバラの密集した急斜面があり、数多くのボールが命を落としている。
とはいえ、このグリーンからの眺めは本当に素晴らしく、さらに4番ティーへ登っていくと、360度のパノラマが広がり、どの方向を見ても息を呑む美しさだ。
4番ホールは「シェルフ」と名付けられており、グリーンは146ヤード先に位置している。
これほど魅力的なティーショットが打てる場所は他にそうないだろう。
しかしその景観に惑わされてはいけない。
風が吹けば、このホールの難度は一気に増す。左から右、そしてフォローの風が吹く中で、ボールを高く上げて柔らかく落とすショットを打たなければならず、実際にグリーンをとらえるのは至難の業だ。
そしてグリーンに到達し、後ろを振り返ったとき、ティーグラウンドの背後にそびえる巨岩がその全貌を現す。
それはまるで「スコットランドのエアーズロック」のような存在感を放っている。
真夏の晴れた夕方には、この岩が夕日に染まりながら様々な色に変化していく様子を眺めるだけでも、至福の時間となる。
最後の3ホールは全てパー3。
その最初の10番ホール「パラダイス」はわずかに打ち下ろしで、深いイバラを越えてバンカーに囲まれたグリーンを狙う。
そして11番ホール「ホロウズ」は209ヤードもある難関ホールで、しばしば南西からの風をまともに受けることになる。
ここを無事に乗り切ったなら、最後の12番ホール「キルモリー」で一息つける。
趣のあるクラブハウスの正面にグリーンがあるこのホールは128ヤードと短く、バーディを狙うには絶好のチャンスだ。
プレーを終えると、モダンなクラブハウスと「クロウズ・ネスト・キッチン」レストランが待っている。
誰がこの素晴らしく楽しいゴルフコースを訪れても、温かい歓迎と、シスキンのリンクスから望む息を呑むような眺望、そして何よりも「楽しかった!」という思い出を胸に帰路につくことになるだろう――たとえゴルフボールの消耗が激しかったとしても!
Text & Photo/David Cannon(Getty Images)
David Cannon デビッド・キャノン(イギリス)
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海外メジャー100大会以上を取材し、現在も第一線で活躍中のゴルフフォトグラファー界の巨匠。自身もシングルハンデの腕前で、息子はプロゴルファー。アメリカ、ヨーロッパ、中東、オーストラリア、アジアと世界各国を股にかけて撮影している。2022年、PGAオブ・アメリカ生涯功労賞を受賞。Getty Images所属。
Text & Photo/ David Cannon (Getty Images)