ゴルフは人生に似ている。
時には勝ち、時には負けることもあるが、努力が実り、運も味方して勝利した者だけが優勝トロフィーを掲げることができる。
「栄光への道」を突き進む、彼らの足跡をご紹介していこう。
Scottie Scheffler

1996年6月21日生まれ。190cm、91㎏。米国ニュージャージー州出身。テキサス大出身。2018年にプロ転向し、下部ツアーを経て、PGAツアー入り。20年「ライダーカップ」に出場し、22年「フェニックスオープン」でツアー初優勝。同年3月の「WGC・デルテクノロジーズ・マッチプレー」で優勝し、自身初の世界ランク1位へ。2022年、2024年「マスターズ」、2025年「全米プロ」でメジャー3勝。ツアー通算16勝。「パリ五輪」金メダリスト。家族は、メレディス夫人とベネットちゃん(1歳)。©GettyImages
2023年5月末から、115週にわたり世界ランク1位の座に君臨しているスコッティ・シェフラー。
これまでメジャー3勝、ツアー通算16勝を挙げ昨年は「パリ五輪」で金メダルを獲得。
PGAツアーのフェデックスカップ総合優勝も果たしているが、彼はまだプロ転向8年目の29歳だ。
圧倒的な強さを誇る彼の成功の秘密に迫る。

他の強豪を寄せ付けずジャック・ニクラスの試合「メモリアル」で2連覇



オーストリア出身のセップ・ストラーカは、今シーズン、PGAツアーで2勝を挙げる好調ぶりを見せている。
6月1日、オハイオ州ダブリンで行なわれた「メモリアルトーナメント」の最終ラウンドで彼は、スコッティ・シェフラーを追いかけようと奮闘したが、その強さを目の当たりにして、改めて世界ナンバーワンゴルファーのすごさを痛感させられた。
「スコッティがいいゴルフをするっていうのは、ある意味もうわかってることだよね。彼はとにかく容赦がない」とストラーカは語る。「競争が大好きだし、スコアを落とすのが嫌いなんだよ」
もちろん、シェフラーが毎回「素晴らしい」ゴルフをしているわけではない。
だが、いつも「良い」ゴルフはしている。
そしてタイミングよく、勝負どころで「良い」ゴルフをするのだ。
世界ランク1位の彼は、2位の「マスターズ」王者、ローリー・マキロイを大きく引き離しているが、それはどの大会に出ても常に彼なりの技術と才能を発揮しているからに他ならない。
必ず勝つというわけではないが、勝つことは多い。
そして常に勝つチャンスはある。
その最新の証明が、ミュアフィールドビレッジGCでのことだ。
シェフラーは、ベン・グリフィンの追撃を退け、ストラーカやカナダのニック・テーラーらを寄せ付けず、ジャック・ニクラス主催の「メモリアルトーナメント 」のタイトル防衛に成功した。
ジャック・ニクラスもシェフラーのゴルフを称賛
最終日、完璧とは言えないが、堅実に2アンダーで回ったシェフラーは、通算10アンダー(278打)で2位と4打差の勝利を収め、ツアー通算16勝目を飾った。
この大会は賞金総額2000万ドルの「シグネチャーイベント」であり、彼はこれで直近4試合中3勝を挙げたことになる。
また、54ホール単独首位からの勝率はこれで9割。2週間前にノースカロライナ州シャーロットのクエイルホロークラブで開催された第107回「全米プロ」でも、3つ目のメジャータイトルをその流れの中で手にしている。
記念すべき第50回「メモリアルトーナメント」で、シェフラーはタイガー・ウッズに続いて大会2連覇を果たした選手となった。
今回の優勝で手にした賞金は400万ドル(約5億8000万円)。
今年3勝目だが、その全てが5月からの約1か月間での勝利だ。
「スコッティは、彼自身にしては特別すごいゴルフをしたわけじゃない。でも、やるべきことをやった」と、慣例に従ってシェフラーの優勝会見に同席したニクラスは語った。
「堅実で、スマートで、良いゴルフをしていた。70、70、68、そして70。あのコンディションでこれだけのスコアは素晴らしい。世界一のプレーヤーというのは、こうやって正しい方法で試合を組み立てていくものなんだよ」
29歳のシェフラーは、何か特別なことをしなくても勝てる。
時には、ただ「容赦なく」プレーするだけで十分なのだ。
昨年末に手を負傷
5月の4試合で復活





今年の彼の「全米プロ」優勝は、5月初旬に地元テキサスで開催された「CJカップ・バイロン・ネルソン」での今季初優勝に続くものだった。
「全米プロ」では、2位に3打差の首位で最終日を迎え、最終的には5打差で勝利。
最終ラウンドには苦しんだが、ジョン・ラームや「全米オープン」王者のブライソン・デシャンボーらの追撃を抑え、イーブンパー(71)にまとめ、通算11アンダー(273打)で優勝を果たした。
「ベストな状態じゃなかったけど、最後まで踏ん張った」と、念願のワナメーカー・トロフィーを手にしたあとにシェフラーは語った。
「バックナインでギアを上げて、いいプレーができた。それが全て」
彼は昨年末に、ワイングラスで手を切るというアクシデントで試合を1か月間欠場し、遅いスタートを切った。
春先にはマキロイが「プレーヤーズ選手権」や「マスターズ」などを含む3勝を挙げ、世界ランキングポイントの差を詰めてきたが、現在のシェフラーはほぼ完全に調子を取り戻している。
ミュアフィールドビレッジは、2年連続で「全米オープン」並みに難しいコンディション(高速グリーンと深いラフ)にセットアップされたが、シェフラーは再び〝狂いのない〟ボールストライキングを披露し、対戦相手を翻弄した。
「彼が何をするか、あまり考えすぎないようにしていた。でも、だいたい想像はつくよ」と、最終日をシェフラーと1打差で迎えたグリフィンは語った。
「フェアウェイを外さない、グリーンを外さない、ミスをしない。そういうゴルフをするのが彼だから」
シェフラーは、自分に〝勝負強さ〟があるとは思っていないという。自らの支配力について問われると、少し苛立ちを見せながらこう答えた。
「支配するなんて、そんなこと考えたこともない。そんなの考えても、意味がない。自分にできる限りのベストを尽くして、努力して、自分の与えられた才能を良い方向に使う。それだけだよ」
トーナメントの創設者でホストでもあるニクラスは、現在のゴルフ界におけるシェフラーの立ち位置を率直に評価した。
「偉大なプレーヤーとは、重要な場面で自分を高め、プレッシャーの中でしっかりプレーできる選手のこと」
そして次のように語る。
「今日のリーダーボードを見ればわかる。ベン・グリフィン、セップ・ストラーカ、ニック・テーラー。どの選手もいいプレーヤーだけど、シェフラーのレベルには達していない」
これは誰かを見下す発言ではない。ニクラスは、タイガー・ウッズが台頭したときも、自身がメジャー18勝を積み重ねたときも、常に〝今〟のゴルフを冷静に見つめてきた人物だ。
「彼のプレースタイルは、私が好んでいたゴルフにとてもよく似ている」とニクラスは語る。
「でも正直に言うと、彼の方がずっと上手くて、もっと安定している。彼のゴルフは本当に素晴らしい。見るのが楽しいし、どこであっても、テレビでも、彼が出ているときは絶対に観たいと思うよ」
Photo/Getty Images,TGL
Text/Dave Shedloski

デーブ・シェドロスキー(アメリカ)
長年にわたり、ゴルフトーナメントを取材。著書にアーノルド・パーマーの伝記『A Life Well Played』やジャック・ニクラスの『ゴールデン・トワイライト』などがある。




