

サウジアラビアが仕掛けた作戦
表向きはゴルフの大会だったが、舞台裏では巧妙なビジネス戦略が進行していた︱―これは、韓国を訪れたサウジアラビアの公共投資基金(PIF)にまつわる話である。
PIFは2022年2月、アジアンツアーの大会として「サウジインターナショナル」を開催し、同年6月には、多くの選手がLIVゴルフへの移籍を発表。
この瞬間からPIFの名はゴルフ界に広く知られることとなった。
さらに石油会社アラムコと組み、欧州女子ツアー(LET)では「アラムコ・チームシリーズ」も開催した。
また、LIVゴルフへの昇格制度や、LIVゴルフ選手の男子世界ゴルフランキング(OWGR)獲得のため、アジアンツアー内に「インターナショナルシリーズ」を創設。
こうして、PIFは男子・女子・アジアと、あらゆる側面からゴルフ界に浸透していった。
韓国で展開されたPIFの作戦
PIFは2025年5月上旬に、韓国で複数のゴルフイベントを開催。
「LIVゴルフ韓国」と、アジアンツアーの「GSカルテックス・毎日経済オープン(以下GSCMO)」を、同週に同地域で実施したのだ。
LIVゴルフは4月30日に記者会見を行ない、韓国系選手で構成されるアイアンヘッズGCが注目を集めた。
中でも、KPGAツアーでジェネシス大賞を受賞し、LIVに移籍したチャン・ユビンが話題に。
さらに、LIVのCEOスコット・オニール氏、ジャック・ニクラスGCコリアの代表、仁川市長らも登壇した。
また、リザーブ選手として出場したキム・ミンギュは、代償としてPGAツアーから1年間の出場停止処分を受けることとなった。
大会の舞台となったのは、2015年に「プレジデンツカップ」が行なわれたジャック・ニクラスGCコリア。
あれから10年、PGAツアーの旗は降ろされ、新たにLIVゴルフの旗が掲げられたのである。
「LIVゴルフ韓国」は観客数を伸ばし、最終日にはK-POPスターが登場。
Coupangと契約するG-DRAGONが出演し、華やかなフィナーレを演出した。
アイアンヘッズGCは優勝できなかったが、ブライソン・デシャンボーが個人戦とチーム戦(クラッシャーズGC)の両方を制した。
LIVゴルフと同週に開催されたアジアンツアー
一方、「GSCMO」は京畿道の南ソウルカントリークラブで5月1日~4日に開催された。
40年以上の歴史を誇るこの大会は、例年最多の観客数を誇る大会であるにもかかわらず、今年は極めて静かなものとなった。
韓国のゴルフファンの注目は、完全にLIVゴルフに奪われていたのだ。
同週、アメリカでは韓国のCJグループが「CJカップ・バイロン・ネルソン」を開催。
CJは注目度の低下を懸念し、韓国メディアを多く現地に招待したが、あいにく会場をハリケーンが直撃。話題性を生むには至らなかった。
翌週には、LETの「アラムコ選手権」が首都圏で開催された。
旧「アラムコ・チームシリーズ」から名称を変更したこの大会は当初注目されなかったが、キム・ヒョージュが前年に続き優勝を果たしたことで話題を集めた。
数々のゴルフ大会が開催される中、サウジ&韓国のビジネスフォーラムを開催

華やかな舞台の裏側で進行するビジネス
「LIVゴルフ」「GSCMO」「アラムコ選手権」の各大会では、いずれもプロアマ戦が行なわれた。
そこには豊山(プンサン)グループ、コロングループなど韓国の財閥関係者やゴルフ業界の著名人が招かれ、選手たちと共にラウンドを楽しんだ。
シャンパンが開けられ、ガラディナーやセレモニーでは杯を交わす姿も見られた。
5月9日には、「アラムコ選手権」の第1ラウンドに合わせて、ソウル市中区のロッテホテルで「韓国・サウジアラビアビジネス投資フォーラム」が開催された。
韓国産業通商資源部が主催したこのフォーラムは、サウジアラビアの国家戦略「ビジョン2030」に基づき、両国の経済的パートナーシップを深めることが目的だった。
サウジ側からは20社が出席し、韓国側は100社が参加。
現代自動車(ヒュンダイ)は、中東初となる自動車工場をサウジのキング・アブドラ経済都市に建設することで合意しており、「ヒュンダイ・モーター・マニュファクチャリング・ミドルイースト(HMMME)」と命名される予定である。
このイベントに参加した梨花資産運用のグローバル投資本部キム・ヨンイル本部長は次のように述べた。
「PIFとその関連企業は、経済の多角化を目的に合弁事業や戦略的提携を積極的に推進しています。輸出依存の軽減は急速に進んでおり、特に外国人労働者が人口の半数を占める湾岸協力会議加盟国では、急成長する内需市場が形成されています」
また、スポーツ分野のプレゼンテーションでは、アイアンヘッズGCのマネージャー、マーティン・キム氏が登壇し、韓国とサウジのスポーツ交流を担うパネリストとして発言した。
韓国とサウジアラビアの「複合戦略」
ゴルフとビジネスを同時に展開することで、サウジアラビアはアジアにおける韓国の重要性を強調している。
たとえば、サウジ最大の民間電力会社であるACWAパワーは、韓国電力公社(KEPCO)や斗山(ドゥーサン)グループと「チームコリア」を結成し、提携を発表した。ACWAパワーの担当者は次のように語る。
「私たちは『チームコリア』と良好な関係を築いています。サウジ政府は、2030年までに電力供給の50%を複合ガス、残り50%を再生可能エネルギーでまかなう方針で、これは石油依存からの脱却を意味しています。この計画にはKEPCOや斗山のようなパートナーが必要であり、今後のエネルギー事業拡大における重要な基盤になるでしょう」
光と影――
「KLPGA選手権」の存在感の薄れ
もちろん、スポットライトの裏には影もあった。
「LIVゴルフ韓国」「GSCMO」と同週には、KLPGAツアーのメジャー大会「クリスF&C 第47回KLPGA選手権」も開催されていた。
しかし、PIFが関与する二大イベントの陰に隠れてしまった。
KLPGAメジャーは参加者の99%が韓国人選手で構成されているが、その存在感は、海外資本による新興勢力の華やかさに押され、霞んでしまったのである。
Text/Donghoon Lee

イ・ドンフン
ソウル生まれのゴルフライター。アジュビジネスデイリー紙、ゴルフマガジン、ゴルフジャーナル(ともに韓国)などに寄稿。2021年韓国PGA感謝賞受賞。