5回の「マスターズ」出場で2度目の優勝!
スコッティ・シェフラーがNo.1である理由
今年、10戦中9試合でトップ10入り。
しかも3月~4月にかけて5戦4勝という驚異的な強さを誇る世界ランク1位のスコッティ・シェフラー。
2018年にプロ転向して以来、過小評価される傾向のあった彼は「マスターズ」で2勝目を挙げ、真の強さを世界のゴルフファンにはっきりと証明した。
競争相手が自滅する中、バーディを取り続け「マスターズ」2勝目を飾ったシェフラー
オーガスタでは珍しい接戦の優勝争い
第88回「マスターズ」は、ジョージア州の暖かく晴れた日曜日の午後、最終ラウンドのバック9が進むにつれて、ここ数年我々が観てきた「マスターズ」とは異なっているように見えた。
今年の「マスターズ」は接戦で、4人の選手が互いにリードを奪い合おうとしていた。
そして、エキサイティングでカミソリのように切れ味鋭い結末を迎えることになる運命だったのだ。
2021年4月の松山英樹の1打差での優勝を除けば、過去数年間、「マスターズ」で優勝争いが接戦になるのは稀だった。
2020年11月に開催された大会では、コロナ禍の影響でほとんどの観客が不在の中、ダスティン・ジョンソンが5打差で圧勝。
2022年には、スコッティ・シェフラーが3打差で初のグリーンジャケットを獲得したが、その差は最終ホールで不注意な4パットをしたこともあって、2位との差が3打に縮まったのだった。
そして、昨年の4月には、ジョン・ラームが4打差でラクラクと優勝を飾った。
シェフラー、「マスターズ」初出場のルドビグ・オーバーグ(スウェーデン)、キャリアグランドスラム達成に向けて3勝目を狙うメジャー2勝のコリン・モリカワ。
そしてメジャーで過去あまり成功してこなかった33歳のマックス・ホーマが、今シーズン初メジャーの最終日のバック9に向けて、混戦を繰り広げていた。
その戦いも後半に入ると、シェフラーが支配し、キャディのテッド・スコット氏が言うところの「スコッティ・シェフラーらしいこと」をやってのけた。
8番ホール(パー5)で10フィートのバーディパットを決めてからというもの、まるでスイッチが入ったかのように、シェフラーはすぐに自分のゲームを別のレベルに引き上げた。
彼はバーディパットを決めたが、彼のキャディはこれを「その日の最も重要な1打」といい、シェフラー自身は「勢いを変える瞬間」と語った。
最終組でプレーしていたモリカワもバーディを決め、シェフラーと並んだが、シェフラーが世界ランク1位であるのには理由がある。
9番ホール(パー4)では、102ヤードの素晴らしいウェッジショットがあわやカップイン!タップインバーディを決めたのだ。
距離の長いドッグレッグの10番ホールでは、1組前のホーマがバーディを決めていたが、シェフラーは2打目を10フィートにつけ、3連続バーディを決めた。
その後、彼の競争相手たちはスコアを崩し始めた。オーバーグとモリカワは、11番ホール(パー4)で共にダブルボギー。
両者とも5番アイアンでグリーン左の池に入れた。ホーマは12番のティーショットがわずか数フィートオーバーし、グリーン奥のブッシュに打ち込み、ダブルボギー。
シェフラーが12番でパーを取り、その後の2ホールで連続バーディを決めた時点で、シェフラーのために2着目のグリーンジャケットが用意される時が来たのだ。
誰も彼についていけず、我々が見たかった接戦とはほど遠い結末となった。
シェフラーは68をマークし、2位のオーバーグと4打差、3位タイのモリカワらに7打差で勝利した。
彼は、オーガスタでの4日間を2桁のアンダーパー(11アンダー)で終えた唯一の選手となったが、前年、寒く雨の降る中で優勝したラームもまた、唯一の2桁アンダーを記録した選手だった。
スウェーデンの天才、オーガスタで実力発揮
ルドビグ・オーバーグは、最高のフィニッシュを見せたが、この24歳のスウェーデンの天才は、今回初めて「マスターズ」に出場しただけでなく、初メジャーを経験したことになる。
彼はテキサス工科大学を経て1年も経たないうちにDPワールドツアーで優勝するとともにPGAツアーでも勝利。
「ライダーカップ」の優勝チームでプレーし、世界ランク7位にまで上り詰めた。
彼は今年、競技者として初めてオーガスタでプレーし、多くのことを学んだが、彼のドライバーの飛距離と積極的なプレースタイルがあれば、今後何年にもわたって、オーガスタでトッププレーヤーであり続けることだろう。
「まず第一にオーガスタでプレーするという夢が実現できた」とオーバーグは語った。「こうした状況で、最後の数ホールを緊張感やプレッシャーを感じながら歩けたのは夢のよう。これこそ僕が長い間やりたかったことだ」
飛距離と高弾道のアイアン、小技のうまさを併せ持つ、世界ランク1位
「マスターズ」2勝目よりも大事なこと
もしもシェフラーが日曜日の午後に、今週で1番のゴルフをしていなかったら、他の選手たちにとっては全く異なる結果になっていたかもしれない。
68よりも良いスコアを出した選手は、トム・キム1人しかいなかった。
フロント9で2ボギーを叩いたシェフラーは8番から立ち直り、最終ラウンドで合計7つのバーディを決めた。
そしてプレッシャーが最高潮に達した時、彼は最高のパフォーマンスを見せ、27歳で2度目の「マスターズ」チャンピオンとなったのだ。
若くして「マスターズ」で2勝した選手は、タイガー・ウッズ、ジャック・ニクラス、セベ・バレステロスなど、史上最も偉大なゴルファーと見なされている名手ばかりだ。
彼は今年の「マスターズ」の優勝候補だったが、実際、優勝候補に挙げられた選手で過去に優勝したのは、2005年に4度目の「マスターズ」制覇を遂げたタイガー・ウッズだった。
彼は2019年に5枚目のジャケットを手にすることとなったが、ウッズとシェフラー、世界ランク1位の座にありながら、「マスターズ」で2回優勝したのは彼らだけだ。
テキサス州出身のシェフラーは、この3年間でゴルフ界で大きな影響力を持つようになった。
PGAツアーでの最初の65試合では優勝できなかったが、2022年2月以降は10勝している。
その勝利にはメジャー2勝と「プレーヤーズ選手権」2勝も含まれている。
シェフラーを倒すのがいかに難しいかについて、何人かの選手たちが日曜日の午後に話したが、彼にはロングドライブと、弾道の高いアイアンショット、ツアーで最高のショートゲームがある。
時にはパッティングが彼の勢いを止めてしまうこともあるが、「マスターズ」では計109パットを記録し、出場選手中、3番目の好成績を残した。
2度目の「マスターズ」制覇は、彼にとって4月の最大のニュースではない。
隣のサウスカロライナで行なわれる次週の大会に向かう前に、今回は「マスターズ」に同行していなかった妻のメレディスに会うためにテキサスに戻った。
メレディスはテキサスの自宅におり、彼らの第一子誕生を待っていた。
「子供の誕生がどれほど特別であるかを、言葉にするのは難しい」とシェフラーは語った。
「マスターズ」で2勝することは素晴らしいことだが、彼は別のことを考えていた。
2年前、彼は「マスターズ」の日曜日に目覚めた時、全世界が注目する大きな試合で勝つのに十分な能力を持っているかどうかわからずに泣いていた。
今回彼は、1人で日曜日の朝を迎えたが、動揺することも泣くこともなかった。
「家に帰って、メレディスとお祝いするのが楽しみだ」と大会後に語った。
データで判明!シェフラーとオーガスタの相性
今年の「マスターズ」では、強風に悩まされる日があり、誰もがスコアメイクに苦戦したが、それでもシェフラーは66、72、71、68(パー72)と1度もオーバーパーを叩くことなく4日間を終えた。
今大会彼の部門別データを見ると、バーディ数2位、フェアウェイキープ率10位タイ、パーオン率7位タイ、ドライビングディスタンス13位タイとなっているが、通常、PGAツアーでは平均飛距離299.3ヤード(81位)の彼が、「マスターズ」では305.7ヤードで13位タイにつけているのも興味深い。
通常よりも6ヤード以上飛んでいることになるのだ。
「飛距離がこのコースでは重要」とシェフラーは語っているが、オーガスタは他のメジャーと比べてフェアウェイが広く、グリーンが硬いため、普段よりも少し強く振ってティーショットを飛ばし、グリーンを狙うショットを短いクラブで打つようにしていたという。
オーガスタは飛距離がそこそこ出て、アイアンは高弾道、小技もうまいシェフラー向きのコースであることが実証された。
最終成績
優勝 | スコッティ·シェフラー | −11 |
2位 | ルドビグ·オーバーグ | −7 |
3位 | トミー·フリートウッド コリン·モリカワ マックス·ホーマ | −4 |
6位 | キャメロン·スミス ブライソン·デシャンボー | −2 |
8位 | ザンダー·シャウフェレ | −1 |
9位 | ウィル·ザラトリス ティレル·ハットン キャメロン·ヤング | E |
22位 | ローリー·マキロイ | +4 |
38位 | 松山英樹 | +7 |
43位 | フィル·ミケルソン | +8 |
45位 | ブルックス·ケプカ ジョン·ラーム | +9 |
53位 | ニール·シプレー(アマ) | +12 |
60位 | タイガー·ウッズ | +16 |
予選落ち/久常 涼、ビクトル・ホブランダスティン・ジョンソン、ジョーダン・スピース、ジャスティン・トーマス
Photo/Augusta National Golf Club、Getty Images、Eiko Oizumi
Text/Jeff Babineau
ジェフ・バビニュー(アメリカ)
ゴルフ取材を30年以上行ない、現在フリーライターとして「全米プロ」「マスターズ」などの公式ライターとして活躍。「マスターズ」取材は、25回以上。