100年近い古い映画館の存続か、世界のスーパースターのコラボ店のオープンかで苦悩するセントアンドリュース
94年の歴史を持つ映画館の存亡
セントアンドリュースほど伝統を大切にし、その伝統を収益化している場所は、ほとんどない。
この「オールド・グレイ・トゥーン」とも呼ばれる町の観光産業は、名高いオールドコースのフェアウェイや、古い街並みを歩いたゴルフ界のレジェンド達の足跡を辿る神秘的な体験が、世界中から訪れる観光客を魅了することで繁栄している。
しかし、その輝かしい過去を称賛しながらも、活気に満ちた現在と未来を受け入れるというバランスを取ることは、困難な課題である。
セントアンドリュースは豊かな歴史を持つ街だが、今日では、主にセントアンドリュース大学で勉学に励む多くの学生と、年間66万300人の観光客が訪れる国内有数の観光地であることで活気に満ちている。
そしてここでは、ゴルフ界のレジェンドと音楽界のスーパースター、オールドコースの1番ティーからわずか3番ウッドの距離にある、丘の上の古風で趣のある映画館という奇妙な顔ぶれにより、ノスタルジーと必要な進歩が激しくぶつかり合った。
映画館「ニュー・ピクチャー・ハウス(以下NPH)」はセントアンドリュースのノースストリート沿いにあるが、880年前から歴史が始まったセントアンドリュースにおいてはこの建物は「新しい」としか言いようがないものだった。
地元の人々から愛されている、この映画館は、94年の歴史があり、オープン以来、ほとんど変わっていない。
だが、現在のビジネスモデルのままでは、観客収容率が10%を少し超える程度で運営されており、このまま100周年を迎えるのは難しいと見られている。
そのため、タイガー・ウッズとゴルフ好きの彼の友人で、歌手兼俳優のジャスティン・ティンバーレイクが、スポーツとビジネスの共通の可能性を広げる場所を探していたとき、ここは完璧な施設に思えた。
「Tスクエアード・ソーシャル」のセントアンドリュース店
タイガーが「全英オープン」引退時にお披露目可能か?!
スーパースターの計画に反対する人々と地元の議会の考え
しかし、どうやら誰もがそう思うわけではなかったようだ。
今年7月、ファイフ議会は、ウッズとティンバーレイクが映画館を彼らのスポーツバー「Tスクエアード・ソーシャル」の2店舗目に改装する計画に対し、建設許可を与えた。
ちなみに最初の店舗は、2023年9月にマンハッタンにオープンし、店名はウッズのファーストネームの頭文字Tとティンバーレイクのラストネームの頭文字Tにちなんでいる。
計画では、3つのスクリーンを備えた映画館を、スポーツ中継やゴルフシミュレーターを備えたガストロパブに改装する目標が示されているが、懐かしさを重視する人への配慮として、新作映画上映用に1つのスクリーンを残す予定だ。
しかし、これは変化に抵抗する人々には受け入れられなかった。
昨年10月の最初の発表から数日後、この計画に反対するオンライン署名が数千件集まった。
今年2月には、セントアンドリュース映画協会とセントアンドリュース映画祭が共同で平和的な抗議活動を組織し、映画ファンたちが「ミーン・ガールズ」や「アメリカン・フィクション」といった映画のチケットを完売させることで、映画館が経済的に存続可能であることを映画館経営者に示そうとした。
「NPHは私たちのコミュニティの重要な柱であり、だからこそ私たちは団結したのだ。この映画館は、私たちにとって本当に大切なもの」と、映画学を専攻する最終学年の22歳の学生であり、映画協会会長であるアッシュ・ヨハン・カリー・マチャド氏は語る。
「私たちの唯一の映画館なので、どんな犠牲を払ってでも守らなければならない。なぜなら、ダンディーやさらに遠くまで行かなくても済む選択肢が、他にないからだ。NPHが財政難に直面しているなら、完全に諦めるのではなく、コミュニティとしてそれを改善し、より多くの観客にリーチすることが私たちのコミュニティとしての義務だ」
しかし、年に1度や2度ならともかく、日々のチケット販売が減少し続けている現状を考えると、映画館の経営者と町は、「Tスクエアード・ソーシャル」プロジェクトの一環としてNPHを再構築するか、それとも完全になくすかという厳しい選択からは逃れられない。
3年以内に建設開始
タイガーの「全英オープン」引退と同時期に開場か⁈
確かに、ファイフ議会もそのように考えているようで、議会の計画委員会の会議は、このプロジェクトが「保護地域の特徴と外観を保護し、向上させる」という見解を述べている。
多くの住民も賛同しており、ある匿名の地元住民は『ガーディアン』紙に「この場所がこのような大物セレブと並んで話題になることは、素晴らしいこと」と語っている。
映画館のマネージングディレクターであるデビッド・モリス氏も、「計画されているTスクエアード・ソーシャルへの投資により、地元住民、学生、そして観光客は、この人気の劇場で、より幅広い映画、食事、エンターテイメントを体験する機会を得ることができるようになる」と付け加えた。
「NPHは追って通知があるまで、通常通り営業を続ける。取締役は、Tスクエアード・ソーシャルの開発計画を支援し、再開発工事が完了した際には、新規および既存の顧客を新しい施設に迎え入れる」
オープンの日付はまだ確定していないが、建設許可の条件によれば、映画館の改装工事は今後3年以内に開始される必要があり、2027年までに開始しなければならない。
「全英オープン」は通常5年ごとにセントアンドリュースに戻ってくるため、タイガー・ウッズがセントアンドリュースで「全英オープン」キャリアに別れを告げるのと同じ週に、新しい扉を開く姿を見ることができるかもしれない。
ゴルフに若者を取り込む短縮型トーナメント
ゴルフ・シクシーズ・リーグ、世界に拡大中
次世代の若者ゴルファーを取り込む革新的フォーマット
セントアンドリュースの伝統とは別に、ゴルフは次世代にアピールするスポーツを創造するための革新的で継続的なフォーマット「ゴルフ・シクシーズ・リーグ」を世界中に拡大させている。
これは、当初2017年にDPワールドツアーで6ホールのチームマッチプレーイベントとして始まったが、現在では20か国で行なわれ、若者がゴルフに参加することを奨励するための本格的なプログラムとなっている。
最近では、アイスランドとアラブ首長国連邦がこの革新的な短縮型チームゴルフフォーマットを受け入れ、リーグはシミュレーター上でプレーされるリーグに進化した。
ゴルフ財団は最近、イギリスとアイルランドで、600を超えるクラブから8000人以上のプレーヤーが参加したと発表。
活動がまだ発展途上にある他の国々でも、今年末までにさらに270のクラブと4000人以上のプレーヤーが参加する予定だ。
「ゴルフ・シクシーズは、新しい観客をゲームに引き込むことができる短縮型トーナメント形式として誕生した」と、DPワールドツアーのサステナビリティ責任者であるマリア・グランディネッティ・ミルトン氏は述べている。
「それ以来、この形式は独自の発展を遂げ、若者をゴルフに引き込むための理想的な手段として世界中に広がっている。ゴルフの主要団体や地域の草の根組織との協力によって、この拡大が実現したのを目の当たりにするのは素晴らしいことであり、この勢いが今後も続くことを期待している」
Photo/Getty Images、T-Squared Social、DP World Tour
Text/Euan McLean
ユアン・マクリーン(スコットランド)
スコットランド・グラスゴー在住のスポーツライター。『サンデーメール』などに寄稿。欧州ツアーなど過去20年にわたり取材。