2025MASTERS
2025年4月10日〜13日 Augusta National Golf Club 7555ヤード・パー72
ローリー・マキロイの「マスターズ」初優勝を予見させた出来事
優勝 ローリー・マキロイ

1989年5月4日生まれ。2007年プロ転向し、メジャー5勝、PGAツアー29勝、DPワールドツアー19勝、アジアンツアー4勝。今季は「プレーヤーズ選手権」「マスターズ」など3勝。世界ランク2位。
グリーンジャケットをかけるのは2024年チャンピオンのスコッティ・シェフラー・
©Augusta National GC
11年ぶりのメジャー制覇でついに達成!
史上6人目のキャリアグランドスラマーへ
「マスターズ」が開催されるたびに注目を集めてきたローリー・マキロイの優勝と、キャリアグランドスラム達成の偉業が、ついに今年実現!
長年にわたって重荷を背負って戦い続け、夢を叶えたマキロイだが、実は、優勝を予感させる数々の出来事があった。

「1997年、タイガーのマスターズ優勝を見て、僕もこの試合で優勝したいと思った」ローリー・マキロイ


タイガー・ウッズ以来のグランドスラム達成
2011年の「全米オープン」でメジャー初優勝を果たし、2012年には「全米プロ」、2014年には「全英オープン」と、異なるメジャー大会のトロフィーを順調に手にしてきたローリー・マキロイ。
4大メジャー全制覇に向けて、残すは「マスターズ」の優勝のみという状況になってから11年――ついに今年、その悲願が叶い「マスターズ」で初優勝を遂げた。
これにより、ジーン・サラゼン、ベン・ホーガン、ゲーリー・プレーヤー、ジャック・ニクラス、タイガー・ウッズに続く史上6人目の「キャリア・グランドスラム」を達成。
また、今大会の優勝により、マキロイは420万ドル(約6億円)の優勝賞金を獲得した。
世界ランキングでは依然としてスコッティ・シェフラーに次ぐ2位となっているが、今季3勝目で、フェデックスランキングでは、2位のセップ・ストラーカに1100ポイント以上の差をつけて、独走態勢に入っている。
「本当に夢が叶った。物心がついた頃から、ずっとこの瞬間を夢見てきたんだ。1997年にタイガー・ウッズが優勝したのを見て、彼が最初のグリーンジャケットを手にした瞬間、僕の世代の多くが『自分もいつか彼のようになりたい』と思っただろう。正直、自分でも〝グリーンジャケットに袖を通す日が来るのか?〟と疑った時期もあった。今日のプレーもラクではなかったし、すごく緊張していた。自分のゴルフ人生の中でも、最も厳しい1日だったと思う」
3日目を終えて、2位のブライソン・デシャンボーに2打差の12アンダーで首位に立っていたマキロイは、最終日の1番でいきなりダブルボギーを叩き、デシャンボーに並ばれた。
そしてデシャンボーが2番でバーディを取り、マキロイはパー。
この時点で逆転された。
しかしその後、デシャンボーは3番、4番で2連続ボギーを叩き、11番ではダブルボギー。
12番でもボギーを叩いてこの時点で優勝のチャンスはほぼなくなっていたと言ってもいい。
一方のマキロイは6バーディ、3ボギー、2ダブルボギーと出入りの激しいプレーで、オーバーパーの73でホールアウト(通算11アンダー)。
この日10バーディ、4ボギーで6つスコアを伸ばしたジャスティン・ローズが11アンダーで先に上がっており、18番ホールを12アンダーで迎えたマキロイがパーで上がれば優勝という状況だったが、このホールで1.5メートルのパーパットを外し、ローズとのプレーオフに。
1ホール目をローズがパー、マキロイがバーディとし、マキロイの優勝、そしてグランドスラム達成が決まった。
ローズは、「ライダーカップ」でも長年チームメイトとして共に戦ってきた仲間である。
ホールアウト後に2人は抱き合い、ローズはマキロイに「このグリーンで、キミがキャリアグランドスラムを達成する瞬間に立ち会えて、本当によかった。ゴルフの歴史に残る、最高で意義深い瞬間だった」と祝福の言葉をかけた。
ローズにとっては、昨年の「全英オープン」に続くメジャー2位。
そして「マスターズ」では、セルヒオ・ガルシアにプレーオフの末敗れた2017年以来の2位である。
「悔しいが、プレーオフで2度目の敗戦というのは、自分がいかにあと一歩だったかを突きつけられているようなもの」と語った。
「マスターズ」優勝を予感させた数々の出来事

マキロイは、2014年に「全英オープン」で優勝して以来、メジャー優勝から遠ざかっていた。
11年間、オーガスタに来るたびにグランドスラム達成について質問され続けてきたが、終わってみれば、何か今週は優勝の前触れのような、啓示的な出来事がいくつかあった。
最終日の1番ホールでいきなりダブルボギーを叩いたマキロイは、そこで意気消沈することなく、優勝に向かって戦い続ける気持ちを持ち続けた。
2023年にジョン・ラームが大会初日の1番でダブルボギーを叩きながらも優勝したことを思い出し、気持ちを落ち着けることができたからだ。
また、マキロイとローズは、火曜日の夜にクラブのメンバー数名に招かれ、ディナーに出席した。
そして出席した選手は、(プレーオフを演じた)この2人だけだったそうで、不気味なほどの偶然だ。
彼自身も「こういうのって面白いよね」と語っている。
さらにもう一つ加えるなら、「パー3コンテスト」に愛娘ポピーちゃんと参加したが、最終ホールで8メートル弱の距離のパットを彼女に打たせたところ、明らかに大ショートしそうだったにもかかわらず、途中から急に加速し始めカップに吸い込まれていったのだ。
これを現場で見ていた私は、オーガスタにはやはり女神がいるのかも、と何だかゾクゾクした。
ポピーちゃんは、パットを決め、周囲が大騒ぎしているので怖くなったのかもしれない。
パットが入って大喜びするどころか、泣き出しそうな顔をしてマキロイにしがみついた。
普段、「パー3コンテスト」を取材して、ほのぼのとした気持ちになることはあっても、涙が出そうになったり、鳥肌が立つほどゾクゾクすることはない。
この時のポピーちゃんのパットは、オーガスタの女神のいたずらのような気がして、もしかしたらマキロイの優勝を暗示しているのかもしれない、と思ったものだ。
そしてついでにもう一つ。これはマキロイが優勝後の記者会見で明かしたことだが、2011年「マスターズ」の最終日にともに回った「マスターズ」チャンピオンで、DV(配偶者や恋人など親密な関係にある者にふるう暴力)の罪による30か月の服役を終えたアンヘル・カブレラが最終日の朝、「幸運を祈る」というメッセージをマキロイのロッカーに残していたというのだ。
2011年というのは、マキロイが最終日の前半を首位で折り返したにもかかわらず、10番ホールでトリプルボギーを叩き、優勝戦線から脱落した年だ。
あの悲劇の日にともにプレーしたカブレラからのメッセージは「粋な計らいでもあったし、皮肉でもあった」と告白しているが、「14年間は本当に長かったけど、ようやく達成できて本当に嬉しい」と語っていた。



マキロイの「マスターズ」優勝を超える話題はあるのか?

「優勝を予感させる出来事」というのは、優勝後に「ああ、こんなこともあったな」とその意味深さを振り返ることも多いものだが、今年のマキロイの優勝の筋書きは、どんなストーリーテラーでも描けないほど、劇的で感動的なものだった。
今後、「マスターズ」で誰が優勝しても、ここまでの感動と衝撃は得られないだろう。
最近では2019年のタイガーの復活優勝があったが、今回の勝利はこれに匹敵する(日本人の私たちにとっては、これに松山英樹の優勝も加わる)。
この2つの衝撃を超える出来事はなかなか起こりづらい。
マキロイ自身、優勝後の記者会見で開口一番、「まずは僕から質問させてください。来年は、何を話題にすればいいんでしょうか?(笑)」と切り出したが、全くその通りだ。
そしてキャリアグランドスラムについては、マキロイのことだけにとどまらない。
「全米プロ」でジョーダン・スピースが優勝すれば、キャリアグランドスラム達成となるが、マキロイの優勝の衝撃ほど大きくはないだろう。
また、フィル・ミケルソンの「全米オープン」制覇でグランドスラム、という話も長年語られてきたが、現在54歳の彼に、その可能性は残されているのか?
もし叶ったとしたら、これもまた大きな話題となることだろう。
これまでの11年間でマキロイは、数々のメジャー優勝をあと一歩で逃し、苦しんできたことで、緊張を高め、物語を引き延ばしてきた。
しかし、彼自身も語っているように「今が自分のゴルフのピーク」であるなら、今回の優勝を逃せば、もしかしたらもう優勝のチャンスが巡ってこない可能性もあった。
だが、こうして「マスターズの優勝」と「グランドスラム」を達成したことで、マキロイ物語もひとまず完結することができた。
彼はもちろん、今後もメジャーで優勝するだろうし、今回の勝利で、さらにメジャーに対して自由な気持ちで、さほどプレッシャーを感じることなくプレーすることができるだろう。
タイガーのような複数回グランドスラムも可能になるかもしれない。
しかし、今回の「マスターズ」優勝ほどの重みは持たないだろう。
彼のゴルフ人生で最大のクライマックスであることは間違いない。
ジャック・ニクラス、ゲーリー・プレーヤー、トム・ワトソン、タイガー・ウッズらに「マキロイはいつかマスターズで勝つ」と言われることは光栄なことだが、同時にかなりの重荷だったと優勝会見で告白したマキロイ。
「正直にいうと、助けにはならないんですよ(苦笑)。言わないでくれればいいのに、と思うこともありました」と大きな偉業を成し遂げた男は笑って言った。
周囲の期待に応え、ひとまず「マスターズ」優勝という重荷を解いた彼が今後目指すのは、いったい何なのだろうか?
最終成績
1 | ローリー・マキロイ | −11 |
2 | ジャスティン・ローズ | −11 |
3 | パトリック・リード | −9 |
4 | スコッティ・シェフラー | −8 |
5 | ブライソン・デシャンボー イム·ソンジェ | −7 |
7 | ルドビグ・オーバーグ | −6 |
8 | ザンダー・シャウフェレ ザック·ジョンソン コーリー·コナーズ | −5 |
14 | ジョン·ラーム ジョーダン·スピース コリン·モリカワ | −3 |
21 | 松山英樹 トミー·フリートウッド ビクトル·ホブラン | −2 |
予選落ち/ベルンハルト・ランガー、セルヒオ・ガルシア、アダム・スコット、ブルックス・ケプカ、フィル・ミケルソン、アンヘル・カブレラ
Text & Photo/Eiko Oizumi
Photo/Augusta National Golf Club, Getty Images
Text/Eiko Oizumi

大泉英子
「ゴルフ・グローバル」編集長。海外メジャー取材は男・女・シニア合わせて130試合以上。現在もLIVゴルフを含め、海外ツアーをメインに取材。全米・欧州ゴルフ記者協会会員。