

マキロイの「マスターズ」優勝と年間グランドスラムへの期待

ローリー・マキロイがついに「マスターズ」で優勝したことで、「これでようやく解き放たれた。
ここからはローリーの時代だ」──誰もがその後の快進撃を信じて疑わなかった。
11年ぶりのメジャー優勝を「マスターズ」で飾り、キャリアグランドスラムを達成した史上6人目の男となったことで、ローリー・マキロイの名はゴルフの伝説の中に刻まれることとなった。
これで流れが変わる──誰もがそう思った。
プレッシャーや期待の重圧から解放され、自由にプレーできるようになったローリーは、もはや誰にも止められない存在になるはずだった。
中には、目を輝かせたファンが「今季、4大メジャー全制覇も夢じゃない」と声を上げるほどで、それすら非現実的な夢物語ではないと思わせる材料があった。
なぜなら、2025年の残り3大会の開催コースを見れば、確かにそう感じざるを得なかったからだ。
「全米プロ」開催コースのクエイルホロー・クラブは、マキロイが過去にPGAツアーで4勝を挙げ、コースレコードの「61」を記録した地。
ジョーダン・スピースが冗談交じりに「ローリー・マキロイ・カントリークラブ」と言ったこともあるコースだ。
そして「全米オープン」の開催地オークモントCCは世界でも最も難しいと言われるレイアウト。
正確無比なショットが求められるこの舞台に、マキロイほど適した選手はいないだろう。
また今年最後のメジャー「全英オープン」開催地のロイヤル・ポートラッシュでも、マキロイはコースレコード保持者で、ここは彼の故郷ベルファストからわずか約100キロ。それだけに地元開催に近い大会だ。
「これは運命だ」──我々はそう夢見た。
4大メジャー全てを制し、年間グランドスラムも達成するという前人未到の偉業。
その壮大な旅路の最終章が、この〝巨人たちの国〟北アイルランドで幕を閉じるのだと。
しかし、現実は全く異なった。
「マスターズ」以降のマキロイの失速は、「マスターズ」に至るまでの驚異的な安定感と対照的に、あまりに劇的だった。
愛用ドライバーの不適合とメディアとの確執
オーガスタ以降のマキロイの絶不調ぶりは、「マスターズ」に向けて示してきた安定感と同様に驚くべきものがあった。
5月上旬の「トゥルーイスト選手権」では7位タイ。
まずまずの成績で終えたが、「全米プロ」大会前に、用具検査でマキロイの愛用ドライバーが「ルール不適合」と判定された。フェースが使い込まれすぎて薄くなり、飛距離が増す可能性があったためだ。
もちろんマキロイに不正の意図はなかったが、この情報が大会前にリークされたことが、彼の不満をさらに増大させた。
ちなみに、この大会に向けて同じくドライバー変更を余儀なくされた世界ランキング1位のスコッティ・シェフラーについては、誰も情報を漏らすことはなかった。
その後、マキロイは報道陣の前から姿を消し、ラウンド後の記者会見を欠席することが常態化。
これに対して著名な評論家たちからの批判も集まった。
「全米オープン」前にようやく応じた唯一のインタビューでは、いつになく落ち込んだ様子で、どこか防御的な姿勢さえ見せた。
「ライダーカップ」の元欧州チームのキャプテン、ポール・マギンリーは警鐘を鳴らした。
「正直、かなり心配だ。彼の目に輝きがなかったし、エネルギーが全く感じられなかった。『マスターズ』前に彼が持っていた〝鋭さ〟が見当たらなかった。あのときの彼は、何かを証明しようとする闘志に満ちていた。『俺の邪魔をするな。今、行くぞ』という勢いがあったし、それは誰の目にも明らかだった。でも今の彼には、それが全く見えない。自分の経験から言っても、大きな大会に勝った後は、燃え尽きてしまうことがある。それを立て直すには、時間がかかる。今、彼はまさにその過程にいるんじゃないか。キャリアグランドスラム達成は、とてつもない偉業だからね。私は心理学者ではないけど、今の彼は〝気が抜けた〟ように見える。プレー内容だけじゃなく、記者会見での様子からもそれが伝わってくる。あれは〝いつものローリー〟じゃない。ローリーが最も輝くのは、悔しさや敗北の直後だと思う」
燃え尽きたマキロイ
「ライダーカップ」で再燃?!

マキロイ自身も「マスターズ」の後遺症がいまだに尾を引いていると認めている。
「僕は、ビッグトーナメントの後はいつもプレーのモチベーションを維持するのが難しいタイプなんだ。何かを15年も追いかけ続けてきて、ようやくそれを手にした。ちょっとくらい気を抜いたって許されると思うよ」
それは誰もが理解できる話だ。だが、再び情熱を取り戻すには、どれだけの時間が必要なのか。
「6週間前のことをいったん忘れ去って、〝記憶喪失〟になることが必要だと思う。そして、再び外に出て、以前と同じように努力するモチベーションを見つける。今シーズンは、まだまだ試合が残っているんだから」
この言葉に最も深くうなずいているであろう人物が、「ライダーカップ」の欧州キャプテン、ルーク・ドナルドだろう。
9月には、マキロイが万全の状態でいてくれなければ、チームの未来は厳しいものになるからだ。
だが、マギンリーの言う「闘志」を再び呼び起こすカギは、すでに見つかっているかもしれない。
この号が出る頃には終了しているが、「全英オープン」がマキロイの地元のロイヤル・ポートラッシュ(北アイルランド)に戻ってくるからだ。
2019年、アイルランド中が マキロイの〝地元優勝〟を熱望していたが、勝ったのはシェーン・ローリーだった。
大会初日の79という大叩きにより予選落ちを喫し、自宅でテレビ観戦するという結末は、マキロイにとってキャリアの中で最もつらい出来事の一つだった。
もし最近の彼にモチベーションが欠けていたとしても、故郷の大観衆の前でリベンジを果たす決意があれば、北アイルランド・ダウン州ハリウッド出身のゴルファーは、今度こそハリウッド映画のような〝贖罪の物語〟を書き上げるかもしれない。
Text/Euan McLean

ユアン・マクリーン(スコットランド)
スコットランド・グラスゴー在住のスポーツライター。『サンデーメール』などに寄稿。欧州ツアーなど過去20年にわたり取材。