

欧州チームの影のキーパーソン
今号が発売される頃には、すでに「ライダーカップ」は終了しているが、大会前は誰がチーム入りするのか? ペアリングでは誰と誰が相性がいいのか? などの予想で大いに盛り上がった。
そしてもちろん、トロフィーを掲げるのはどちらのキャプテンなのか?
どれも当然の疑問であり、内部情報や直感、さらには突拍子もない推測まで、様々な理由に基づいた白熱の議論や強い意見が交わされた。
しかし、この混沌の中にあって、その全てを「推測」に任せないことを文字通り
〝仕事〟にしている人物がいた。
手に入る限りの情報を駆使して、欧州チームが栄光をつかむための最善の準備をしていたのだ。
その名はエドアルド・モリナリだ。
この姓を聞いて、まず思い浮かぶのは弟のフランチェスコだろう。
そう想像してしまうのも無理はない。
実際、フランチェスコもまた、ルーク・ドナルドを支える副キャプテン陣の一員として、2023年の「ライダーカップ」優勝に続き、2大会連続でサポート役を務めることになっている。
フランチェスコは、2023年の「ヒーローカップ」(欧州大陸 vs 英国&アイルランド選抜)でもプレーイングキャプテンとして好成績を残しており、次期キャプテンの最有力候補と見られている。
だが、それでも彼は「最重要な副キャプテン」ではない。
いや、それどころか、ドナルド体制においては「最重要なモリナリ」ですらないのだ。
その役割を担ったのは、兄であり、同じく副キャプテンであるエドアルド・モリナリ。
彼は2年前のローマ大会に続き、今回も同じ極めて重要な役割を担う。
コロナ禍の中でデータ分析をビジネス化
その仕事とは、チーフ・スタティスティシャン(主任統計分析官)であり、スプレッドシートの番人。
全ての判断を裏付けるデータを揃える分析のプロである。
キャプテン推薦者の選出からペアリングまで、全ての決定に数字という根拠を与える存在だ。
彼のこの仕事は、彼自身の開発によるデータ分析プラットフォーム「スタティスティックゴルフ」に始まり、その後「アクロス・プロ・インサイツ」として進化。
現在ではマシュー・フィッツパトリック、ビクトル・ホブラン、ネリー・コルダ、ニコライ&ラスムス・ホイガード兄弟など、世界中の30人以上のプロ選手に利用されている。
元々は自身の試合準備のために作ったシンプルなエクセルファイルだったが、2020年のコロナ禍でビジネスとして本格始動。
当時、多くの選手が庭でネットに向かってショットしたり、リビングでボールをコロがしていた頃、彼は自らの工学知識(トリノ大学卒)を生かして事業化を進めていた。
中でも最大の〝広告塔〟となったのが、2022年「全米オープン」を制したフィッツパトリックである。
彼は、練習、スケジュール、コース戦略の全てにおいて、モリナリのデータの影響が大きかったと語っている。
その人気は急上昇し、やがてエドアルドは2人のフルタイムスタッフを雇うことに。
プレーヤーが入力したデータに基づき、パーソナライズされたプレー傾向分析データを提供するこのシステムは、単に「昨日のパット数」を示すだけにとどまらない。
例えば「右から左へのラインが苦手」とか、「ベント芝よりバミューダ芝で成績が悪い」といった実践的な気づきを得られるのだ。
「工学の学位を持っているけど、それ以前から簡単な方法で自分のスタッツを集めていた。数年前にフィッツパトリックから〝手伝ってくれないか〟と頼まれたのが始まりだった。最初は全てイタリア語で作っていたから、彼や他の選手のために英訳して、使いやすく作り直した。フィッツィー(フィッツパトリック)がインタビューで好意的に紹介してくれて、そこから利用者が一気に増えたんだ」
「(コロナ禍で)ロックダウン中、やることがなかったからパッティングコーチのフィル・ケニヨンに相談した。『こういうアイデアがあるんだけど、興味ある選手いる?』って。数日後にフィッツィーとしっかり話す機会が持てた。彼に構想を説明したら『それが完成したら、利用するだけでなく、出資もしたい』と言ってくれた。『出資の件はともかく、最初のクライアントになってくれれば十分だ』と答えたよ。彼が本気で取り組む様子を見て、〝これをうまく作れば他の選手にも広まるかも〟と思った。最初は2年で10人くらい管理できればいいかな、と思ってたけど、2か月半で10人に達した」
「今では一人でコードを書いて6時間も作業するのは無理になってしまった。当初はシンプルなもので、フェアウェイキープ、パーオン率、パットの距離とラインの切れ具合を記録するだけ。でも今では風向き、ピン位置、狙いの方向や球筋まで入力可能だ。パッティングでは、傾斜、距離、ライン読みの過不足、スピードミスまで記録できる。特定のピン位置に対するリカバリー率も表示可能にしている。これにより、攻めるべきピンと、安全に外すべき場所が明確になる。ティーショットに関しても、過去のデータと選手個々の傾向から、ドライバーか3Wかレイアップか、どの戦術が最も有効かを示せる。戦略を最適化できるんだ」
しかし、彼の統計的専門性ばかりに注目するのでは、本来の姿を過小評価してしまう。
実際、兄弟二人は2010年の「ライダーカップ」で初出場を果たし、欧州チームの勝利に貢献している。
あれから15年。
その経験は、「ライダーカップ」特有のプレッシャーや予測不能な事態を知る貴重な財産となり、今のデータ分析にも生かされている。
「フィッツィーと一緒に過ごした時間は長く、彼が〝左奥のピン〟で苦労してたとき、一緒に練習メニューを作った。数週間後、彼はメモリアルで3位に入った。彼から〝あなたは天才だ。左奥ピンの18番で、バーディが取れた〟ってメッセージが届いたよ。早い段階で、この分析は効果がある、と実感した。例えば『新しいドライバーの方が良い気がする』と思って買い替えても、実際に数字を見れば、前の方が平均0.3打稼げていたってこともある。0.3打って、世界トップ50とシード権ギリギリの選手との差になることもあるんだ」
今回も「ライダーカップ」で彼のデータ分析が、欧州チームの戦いに役立っただろうか?
Text/Euan McLean

ユアン・マクリーン(スコットランド)
スコットランド・グラスゴー在住のスポーツライター。『サンデーメール』などに寄稿。欧州ツアーなど過去20年にわたり取材。




