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The Winners ~Road To Glory~ ”栄光への道” Vol.6 トミー・フリート ウッド

ゴルフは人生に似ている。
時には勝ち、時には負けることもあるが、努力が実り、運も味方して勝利した者だけが優勝トロフィーを掲げることができる。
「栄光への道」を突き進む、彼らの足跡をご紹介していこう。

Tommy Fleetwood

トミー・フリートウッド(イングランド)
1991年1月19日生まれ。180cm、76kg。イングランド・サウスポート出身。欧州ツアー8勝、米ツアー1勝。2024年「パリ五輪」で銀メダル獲得。2025年「ツアー選手権」でPGAツアー初優勝を遂げ、フェデックスカップ年間王者に。「ライダーカップ」に出場し、5戦4勝1敗の好成績を挙げた。3人の子供の父親でもあり、現在はドバイを拠点に米国・欧州で戦う。©GettyImages

長い髪をたなびかせてプレーする姿は、まるでロック歌手のようなトミー・フリートウッド。
ドバイを拠点に、欧州、米国でプレーし、「ライダーカップ」のポイントゲッターとしても活躍。
昨年は「パリ五輪」で銀メダルを獲得し、今年、PGAツアーで初優勝を遂げた。
その人柄とルックスで人気も高く、選手たちからも愛されるイングリッシュマンを紹介しよう。

今年の「フェデックスカップ・ファイナル」最終戦の「ツアー選手権」で、PGAツアー初優勝を遂げたトミー・フリートウッド。©GettyImages

フリートウッド、ついに悲願の米ツアー初優勝を達成

「ツアー選手権」最終日の最終ホールで池越えの2打目を放つフリートウッド。©GettyImages
イングランド・サウスポート出身のフリートウッドは、「全英オープン」優勝を夢見てプロを目指した。写真は、今年のロイヤル・ポートラッシュで観客に笑顔でサインするフリートウッド。©R&A

トミー・フリートウッドが、ついに大舞台で悲願を成し遂げた。

これまで国際大会で数々の勝利を挙げ、「ライダーカップ」でも欧州チームの柱として活躍してきたものの、アメリカのPGAツアーでの勝利だけは手にできずにいた。
幾度も優勝争いに絡みながら、あと一歩届かない日々。とりわけ8月の「フェデックス・セントジュード選手権」では、終盤に崩れて勝利を逃し、もはや優勝は〝幻〟になるのではとさえ思わせた。
またこの惜敗と同様、もう1試合、惜しい敗北があった。
それは6月の「トラベラーズ選手権」。
最終日、1打差の単独首位で迎えた最終ホールでボギーを叩き、キーガン・ブラッドリーに勝利を譲った時である。

しかし「セントジュード」の後、彼はキャリアの中でも最高の1か月を過ごすことになる。

まず、アトランタのイーストレイクGCで開催された「ツアー選手権」を制覇した。
これがPGAツアー初優勝となり、同時にシーズンを通したフェデックスカップの総合優勝も獲得。
賞金1000万ドルを手にし、長年の鬱憤を晴らすと同時に、シーズンの粘り強さを示す象徴的な勝利となった。

通算163試合で2位が6回、3位が6回、トップ5が30回という〝惜敗の歴史〟に終止符を打つ勝利。
最終日に68をマークして、通算18アンダー(262ストローク)に。3打差でパトリック・キャントレー、ラッセル・ヘンリーを退けた。
34歳のフリートウッドは、2003年のチャド・キャンベル以来となる、「ツアー選手権」でPGAツアー初勝利を挙げた選手となった。

「ずっと長い間、心の中ではPGAツアー優勝者のつもりでいた。それが現実になって本当にうれしい」と語ったフリートウッドは、この勝利で世界ランク6位に浮上した。

ドライバーの平均飛距離は299.4ヤード(ツアー118位)だが、ショットの精度の高さやパッティングのうまさが光り、ストロークゲインド・トータルで、ツアー2位を誇る。©GettyImages

「常に正しい精神で戦うべき」というルーク・ドナルド主将の姿勢を実践したフリートウッド

今年の「ライダーカップ」でフリートウッド(右)は、アウェイの中、5戦4勝1敗の好成績を達成。ローリー・マキロイと組み、フォーサム形式で2回戦い、2回とも勝利した。©Eiko Oizumi

アウェイの地でポイントゲッターとして活躍

そしてその勢いはそのまま、「ライダーカップ」へ。ニューヨーク州ファーミングデールのベスページ州立公園・ブラックコースで行なわれた第45回大会で、欧州チームを牽引する存在となった。
3日間で5マッチを戦い抜いたフリートウッドは、欧州チームの15対13という勝利に貢献し、通算成績は4勝1敗0分。チームで最もポイントを獲得したプレーヤーとなった。
唯一の敗戦は、最終日のシングルス戦の最終グリーンで、ジャスティン・トーマスに4メートル弱のバーディパットを沈められ、1アップで敗れた時。
トーマスの勝利は、7点差という記録的リードを許した後の、最終日の米国チームの猛追の一部だったが、最終的にはフリートウッド、ローリー・マキロイ、ジョン・ラーム、そしてキャプテンのルーク・ドナルド率いるチームメンバーが、米国の地での勝利を達成した。
これは、1979年に欧州大陸の選手がイギリス・アイルランド連合チームに加わって以来、5度目のアウェイでの勝利だ。
ちなみに米国チームのアウェイでの勝利は、わずか2回しかない。
1981年はジャック・ニクラス、トム・ワトソン、レイ・フロイド、ヘール・アーウィン、ジョニー・ミラーなどが活躍し、1993年はワトソンがキャプテンを務めたチームだった。

3日間の競技を通しての努力と振る舞いが高く評価され、フリートウッドはAONが贈る「ニクラス=ジャクリン賞」を受賞。
スポーツマンシップを体現した選手に贈られる名誉ある賞で、4回のセッションでの勝利を、チームメイトの功績だとたたえたフリートウッドは、この栄誉を受けた4人目の選手となった。
過去の受賞者には、ジャスティン・ローズ(2023年ローマ大会)、セルヒオ・ガルシア、ダスティン・ジョンソン(2021年ウィスリングストレーツ大会)が名を連ねる。

「このようなチームイベントでプレーする時は、必ずしも個人賞を獲得することを目指すのではなく、正しいプレーをし、最も重要な時に正しい判断を下すことに集中するものだ。このように認められ、ジャック・ニクラスやトニー・ジャクリンといったレジェンドにちなんで名付けられた賞を受賞し、彼らの足跡を辿ることができるのは、とても素晴らしい。スポーツマンシップは私たちのゲームにとって重要であり、『ライダーカップ』は我々が経験する最も厳しい環境。常に試練となる出来事が起こるが、ルーク・ドナルドがこのチームに“常に正しい精神で戦うべき”という素晴らしい姿勢を植え付けてくれた。それによって勝利を収め、再びライダーカップを勝ち取るのに本当に役立った」とフリートウッドは語った。

惜敗の歴史にピリオド
再び次の勝利へ向けて始動

2024年「パリ五輪」では銀メダルを獲得。左からフリートウッド、スコッティ・シェフラー(金メダル)、松山英樹(銅メダル)。©IGF
「パリ五輪」で銀メダルを獲得し、クレア夫人(右)が祝福。フリートウッドのマネージャーを務めていたクレア夫人とは、23歳差の「年の差婚」。2017年に結婚。©Eiko Oizumi
2017年「アブダビHSBC選手権」で優勝。この年は欧州ツアー「レース・トゥ・ドバイ」を制して年間王者に。左は母親のスーさん、右は父親のピートさん。©GettyImages
2017年に結婚し、今では3人のパパに(そのうち2人は、クレア夫人の連れ子)。左からクレア夫人、フランキーくん(2017年に誕生)、マレーさん、フリートウッド、オスカーさん。©GettyImages
キャディのイアン・フィニス氏(左)は、フリートウッドの出身地近くのコースでアシスタントプロを務めていた。昔からの親しい友人でもあり、2016年からキャディに起用。フリートウッドを世界的なプレーヤーへと押し上げた。©GettyImages

昨年の「パリ五輪」では、スコッティ・シェフラーに次ぐ銀メダルを獲得したフリートウッドだが、彼はアマチュア時代から頭角を現し、2008年「全英アマ」2位、2009年「スコットランドアマ」と2010年「イングランドアマ」優勝など、輝かしいアマチュアキャリアを誇る。
2010年にプロ転向後は欧州ツアーで勝利を重ね、PGAツアー本格参戦は2017-18年シーズンから。
長年の苦闘を経て、ついに米ツアー「ツアー選手権」で栄冠を手にした。
この勝利は安堵だけでなく、信念の再確認でもあった。

「誰もがキャリアの中で成し遂げたい一歩だ。何も必要ではないが、僕はそれを望み、ようやく手にできた。この1勝は、惜しかった物語を完結させるものであり、シーズン終盤に向けて積み上げてきたものにクレッシェンドをかける。でも家に戻れば、また練習を始めるだけ。次の試合に備えるだけだ」とフリートウッドは語った。

彼が指した「次の試合」とは、実際には「ライダーカップ」。
そして、そこでも彼は勝者となった。

Text/Dave Shedloski

デーブ・シェドロスキー(アメリカ)
長年にわたり、ゴルフトーナメントを取材。著書にアーノルド・パーマーの伝記『A Life Well Played』やジャック・ニクラスの『ゴールデン・トワイライト』などがある。

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