ついにPGAツアー3ヶ月ぶりに再開!
Xデイを迎えた日
PGAツアーがついに帰ってきた!3月のプレーヤーズ選手権初日で中断していたツアーが3ヶ月ぶりに再開された。
コロナウイルス感染防止対策や人種差別問題に関するツアーの対応をレポートする。
コロニアルCCのベン・ホーガンの銅像もマスク着用。
全487回の検査と万全のコロナ対策で感染者ゼロからスタート!
PGAツアーのコミッショナー、ジェイ・モナハン氏は、ツアー再開に際し、大きな目標を掲げていた。
それは、とにかくこの1週間を乗り切り、修正されたスケジュールに従って2試合目の開催へとこぎつけること。
多くの障害と疑問があったものの、コロナウイルスのパンデミックにより延期されていたPGAツアーは13週間ぶりに再開された。
ありとあらゆる対策を講じたことで、大会は大成功を収めることができた。
そのうえ、ボーナスもあった。数多くのすばらしいプレー、スター選手たちの名前がずらりと並んだリーダーボード、そして最後は、プレーオフまでもつれた結果、ダニエル・バーガーがコリン・モリカワとのサドンデスで勝ったのである。
「やるべきことは、まだまだたくさんある」とモナハン氏は語る。
「しかしこれは、私たちの復活に向けてのすばらしいスタートだ。それは間違いない。このために尽力してくれたチームを誇らしく思う」
それでは、この歴史的な1週間に何が起こったかを詳しく振り返ってみることにしよう。
トーナメント会場には、ソーシャルディスタンスを取るよう促す看板がいくつも設置されていた。6フィート(約2メートル)はゴルフ流に言えば、2クラブレングスの長さだ。
新型コロナウイルスに関するプロトコルは?
テキサス州フォートワースに向けて出発する前に、選手とキャディは新型コロナウイルス検査を受けること、そして毎日健康診断を受けることが奨励されたものの、これらは必須ではなかった。
テキサス到着後は、主要なスタッフや一部のボランティアを含む全員が検査を受け、全部で487の検査が実施されたが、陽性だった者は一人もいなかった。
そして毎日、コース入場前には、選手やキャディ、関係者など全員に対して検温と、健康に関するいくつかの問診が行なわれた。
「僕たちのことを考えて、あらゆる点で徹底的な準備がされていると思った」と、最終日に崩れたローリー・マキロイは言う。
「とても安心できたよ。全員が適切な行動をとっているし、トーナメント関係者はマスクと手袋を着用している。そして、どこに行っても殺菌剤が置いてあるので、安心感がある。ここにいるほかの人も全員、基本的には同じように思っているだろうね」
また、ツアーは試合会場間の移動用にチャーター機を出しているが、利用する選手は出発前の土曜日にさらに検査を受ける必要がある。
そして次のトーナメント開催地に入れば、またウイルス対策が最初から実施されることになる。
綿棒を鼻に突っ込んで行なわれるPCR検査(鼻腔検査)。「思っていたよりも痛い」(ジョン・ラーム)。
米国の医療機関である「サンフォードヘルス」のサポートを受け、選手や関係者の検査を徹底的に実施。ツアー会場には検査車両が配備されている。
再開初戦
チャールズ・シュワブ・チャレンジ
2020年6月11日~14日(テキサス州コロニアルCC)
6月2週目になんと過去3勝!
珍記録保持者のD・バーガー
ダニエル・バーガー(アメリカ)
1993年4月7日生まれ。
185cm、79kg。米ツアー3勝。2014~2015年の新人王。今年は手首の怪我による公傷制度でツアー参戦していた。
ツアー再開後の初優勝者は6月男のダニエル・バーガー
サドンデスでのプレーオフ1ホール目。コリン・モリカワは約1メートルのパーパットを外し、ダニエル・バーガーはPGAツアー3勝目を飾った。
優勝が決まった後のエキサイティングなひと時でも不気味なほど静かなのは、PGAツアー再開後の最初の5試合は、無観客で行なわれることになっているからだ。
「確かにちょっと違和感がありましたね」とバーガーは言う。
「でも結局は、トロフィーを手にすることができた。とにかくそのことが、私にとっては重要なんです」
彼は18番ホールでバーディを決めて4アンダーのスコア66をマーク。
プレーオフの末、3年ぶりの優勝を決めている。
しかし彼は、ツアーが中断されるまでもいいプレーを続けていた。
去年の10月11日以来、オーバーパーで回ったことはなく、28ラウンド連続でアンダーパーの記録を樹立。
これはツアー最長記録だ。また今年に入り、トップ10入り4回(1回は優勝)と好成績を収めている。
手首の怪我のために2018年の重要な時期を棒に振ったバーガーは、今回の優勝で世界ランキングトップ100圏外から31位まで一気に浮上した。
プレーオフ1オール目でコリン・モリカワ(右)を下し、優勝したバーガー(中央)。
ジョージ・フロイドに捧げる8:46の儀式
ゴルフは、マイノリティに関する問題をはじめとして、社会問題への対応が遅れがちだ。
しかしPGAツアーは、ミネソタ州ミネアポリスでジョージ・フロイド氏が亡くなったことを受けて、象徴的な意思表示を行なった。
毎日配布されるペアリング表の午前8時46分は空白になっており、この間は1分間、プレー中の選手も一時プレーを中断して黙祷を捧げた。
8:46はフロイド氏が地面に押さえ付けられていた8分46秒を示すもの。
「ジョージ・フロイド氏の身に起こった事件は、あらゆる人を深く傷つけることになった」とミネソタ在住のトム・レーマンは語った。
「人の苦しみや痛み、他の誰かにもたらされた死を完全に無視して、省みようとしないことも、問題の一端であるということをあらゆる人が理解する必要がある。つまり、私たちは皆人間であり、お互いを思いやる必要があるということだ」
PGAツアー・コミッショナーのジェイ・モナハン氏も黙祷。「人種差別撤廃を目指して活動する」と語った。
ついに出た!
初のコロナ陽性者と周囲の反応
ソーシャルディスタンスを取るよう会場のあちこちに看板が設置された。
PGAツアー初のコロナ感染者となったツアー5勝のニック・ワトニー。
PGAツアーで初の新型コロナウイルス陽性者となったニック・ワトニーは、1ラウンドを終えたところで棄権を余儀なくされ、サウスカロライナ州のヒルトンヘッドアイランドで10日間の自主隔離を強いられることとなった。
新型コロナウイルスのパンデミックによる13週間のツアー中断後に再開されたPGAツアー第2戦の出来事だった。
1週目を陽性者なしで乗り切った後でのワトニーの検査結果は、それ以降の大会開催に警鐘を鳴らすこととなったのだ。
試合は全米オープンチャンピオンのウェブ・シンプソンが通算22アンダーの大会記録を樹立し今シーズン2勝目を挙げ、世界ランク5位に浮上した。
話題が盛りだくさんだった第2戦の出来事をさらに詳しく見てみよう。
ニック・ワトニーがツアー初の陽性者に
PGAツアーで5勝しているワトニーが、ツアー初の陽性者となった。
彼は、第2ラウンド前夜(木曜日の夜)から軽い症状を発症し、体調を崩していたが、自分の手首に巻いていた体調管理用のリストバンドが、呼吸数の上昇を警告していたのだ。
彼は第2ラウンドの金曜日の朝に検査を依頼し、陽性と判明。試合を棄権し、その後はサウスカロライナで10日間の自主隔離を要請されることとなった。
ワトニーはセルヒオ・ガルシアとともにテキサス州からこの大会に移動してきたが、大会開催週の火曜日に到着した際の検査結果は陰性であった。
「彼は何かがおかしいと気付いていたね」とガルシアは語っている。
「彼はそのことを医師に相談したんだ。たいてい他の人たちなら、おそらくそんなことを気にすることなくプレーを続けたと思う。でも、彼は自分のことだけでなく、周りのすべての人のことを心配し、検査を受けたんだ。このことは、彼の人柄をよく示しているよね」
「ニックは、信じられないほど良い人。彼はボクのことをすごく心配し、何回かテキストメッセージをくれたんだ。彼はおそらく25回は私に申し訳ないって謝ってたと思う。ボクは「問題ないよ」と彼に伝えたんだ。起こったことは、仕方がない。私には何の問題もなかったけど、それは良かったよ。願わくは、彼の具合がそれほど悪くならず、できるだけ早く戻ってきてほしいと思う」
ワトニーは10日間の自主隔離後、「ワークデイ・チャリティオープン」から復帰している。
再開第2戦
RBCヘリテージ
2020年6月18日~21日 (サウスカロライナ州ハーバータウンGL)
父の日に優勝2回のウェブ・シンプソン、父への想い
最終日は荒天のためプレーが中断される場面もあったが、暗闇迫るハーバータウンで優勝を決めたウェブ・シンプソン。
ウェブの優勝に天国の父の笑い声
7バーディ・ノーボギーの64をマークし大混戦の中、今季2勝目を挙げたシンプソン。
ウェブ・シンプソンはオリンピッククラブで開催された2012年全米オープンで父の日に優勝したことがあったが、今回RBCヘリテイジで優勝した彼にとって2度目の父の日の優勝となった。
彼はインコース9ホールの最終7ホールで5バーディを決めて、この日は7アンダーの64。アブラハム・アンサーを1打差で抑えて勝利し、大会記録も樹立した。
「父が亡くなった後、母の日にプレーヤーズ選手権で優勝したが、それは格別なもので、感動的な勝利だった」とシンプソンは語っている。
「最終日が父の日だった全米オープンで優勝した後、記者会見に向かう途中で父に電話したんだ。父は電話に出た時、ただ笑っているだけだった。父が幸せな時によくそうして笑っていたんだよ。今日はそういう笑い声を聞けないので、寂しいね。それでも、父のことはよく思い出している。今朝も、ゴルフ場でも考えていたんだ。父はゴルフが大好きだったし、ボクの今日のプレーぶりも喜んで観ていただろうね」
松山英樹はコロナの最大の犠牲者?
ウイルス検査に臨む松山英樹。RBCヘリテージでは全369回の検査が行なわれた。
松山英樹は、コロナウイルスのパンデミックによるツアー中断で、最大の犠牲者の一人と言ってもいいかもしれない。
彼は「プレーヤーズ選手権」では第1ラウンドを63で回り、首位に立っていたにも関わらず、その夜、トーナメントが中止されたからだ。
「チャールズ・シュワブ・チャレンジ」をスキップした松山は、「RBCヘリテージ」に出場したものの予選落ち。
松山は大会初日を74で終えたが、その日は60台前半で回った選手も多かった。
第2ラウンドは70で回ったが、それでも予選突破には遠く及ばなかった。
「ロケットモーゲージ・クラシック」では予選通過を果たし、21位タイとまずまず。松山英樹の本領発揮もこれからだ。
BobのOn Site Report
ツアー再開2戦目のRBCヘリテイジの取材に赴いた特派記者ボブ・ハリグが、現地で感じたことを生レポート!
ESPNのスタッフライターであるボブ・ハリグ。ESPNのゴルフコーナーにも登場。
1対1では話ができないパソコン越しのインタビュー
プレーヤーズ選手権以来、約100日ぶりにRBCヘリテージの取材でツアー会場に行きましたが、なんだかヘンな感じでしたね。
美しいコースがあり、世界のトッププロはそこにいるのに、普段当たり前のようにいる観客がいない。しばらくの間はこれに慣れないといけないんですね。
メディアに対する規制もとても厳しいものでした。
1対1のインタビューは禁止で、個人的に選手に接触することも禁止。
すべてのことがコンピューターを通じて、あるいは距離をとって行なわれていましたが、今のコロナ時代に求められている取材スタイルとは、実際こういう感じなのか、と現地に行ってみて改めて実感しました。
ボブ・ハリグ
(アメリカ)
ESPN.comシニアゴルフライター。25年以上に渡り、ゴルフトーナメントの取材を続けている。全米ゴルフ記者協会会員。
Photo/PGA TOUR, Getty Images