松山英樹が世界中のゴルファーが憧れる「マスターズ」でアジア人初の優勝を成し遂げた直後、緊急帰国して記者会見に臨んだ。以下に約40分に渡る記者会見の内容をお伝えする。
Text/Eiko Oizumi
一問一答
Q:優勝して2日経ちましたが気持ちは?
まだ日本に帰ってきてから誰にも会ってないので、不思議な気持ちはあります。
Q:様々な反響があったかと思いますが
日本に帰ってきてからいろんなニュースを見るたびに、すごいことをしたんだな、と実感しています。
Q:何が技術面で変わったから優勝できた?
技術的には今年に入ってから少しづつよくなる気配はありながら、なかなか結果に結びつけることができなくて、すごくもどかしい日々を過ごしていたんですけど、マスターズの週の水曜日、練習が終わったあとで、今週いけるかもしれないという何かがあって……それがなんなのかは僕自身わかっていないんですけど、そういう気持ちになったことが一番大きかったと思います。
Q:スイングの変化とかはなかった?
そんなにすぐによくなるとは思ってないので、それでもそういう気持ちになれたってことは、少しづつよくなってきている安心感があったから、成績が出ていなくても、何か日々の発見だったり、そういうところが繋がってるんじゃないかと思います。
Q:初日から好調をキープして迎えた最終日。ピンチもあったかと思いますが、最終日にご自分で最もピンチだと感じたのは?
1番ホールから最終ホールまでずっと緊張しっぱなしだったので、余裕があるという感情は1度も抱くことなくプレーしていました。
Q:15番では池に入るシーンもあり、崩れる瞬間もあったかもしれないが、食い止めたメンタルは?
それまでのリードがあったのが一気になくなるというのは、すごくしんどかったですし、でも、そこまでリードしてるんだ、という自分を鼓舞するような気持ちでやってました。
Q:攻めの姿勢を変えなかったのが、(同伴競技者の)ザンダー・シャウフェレのプレーにも影響したと思うが……
ザンダーのプレーは、僕にはどうにもできないので、ただただ自分がいいプレーをすることだけを考えていました。
Q:今までうまくいかなかった時に、何か表情に出てしまうこともあったと思うが、今回はあまり見られなかった。今大会は成長を感じられたか?
いろんな方が指摘していると思うんですけど、前の週の「バレロ・テキサスオープン」で初日よかったんですけど、その後よくない3日間が続いた時に、なんでこんなに怒ってるんだろうって思いながら、なんか自分に呆れたというか、そういうところがあったんですけど、マスターズの週は月曜日、火曜日、水曜日と日にちが経つにつれて感触もよくなってましたし、本当にいけるんじゃないかというフィーリングがあったので、今週は怒らずミスしてもここまでやってきたことを信じてやろうと決めてやってました。
Q:早藤キャディの「お辞儀」のことなども称賛されているが……
あの映像を見たのは夜11時くらいに観たんで、こんなことしてたんだ、と思いました。いい行動をしたんじゃないかな、というのがありますし、僕も一緒にできたらよかったなと思ってます(笑)。
Q:2020年東京オリンピックで金メダル、その頃にメジャー優勝と昔語っていたが、見事一つ達成。この後東京オリンピックの金メダルだけだと思うが、意気込みは?
正直まだオリンピックがどうなるかわからないということはありますけど、今のところ順位的には選ばれるとは思うので、無事開催されれば…..それまでも試合があるので、それまでケガにも気をつけて、金メダルに向けて、それを目標にしっかり頑張りたいです。
Q:(今回はプレー中の)表情が柔らかいという話があったが、心がけてやってた?
心がけてというのもあると思うんですけど、状態が出来上がってきたところでミスを許せるというか、そういう気持ちになったんじゃないか、と。自分でもよくわかってないんですけど、自然とそういう行動になったんじゃないかな、と思います。
Q:次の10年の目標はどんなものが挙げられる?
先のことはわからないので、どういう10年が待っているかわからないですけど、目の前の試合を今までも一生懸命やってきましたし、そういう姿勢を今後も変えずにやっていければいいと思ってます。
Q:ゴルフファンは、他のメジャーも全て勝って欲しいと思ってますが……
そういう気持ちは少なからずあるんですけど、終わって疲れたというか、今までにない感情を感じているので、まだ目標を次に決めるというところに達していないですね。もう少し(優勝の)余韻に浸りながら、ゴルフをしたいと思った時にしっかり目標を立てて頑張りたいと思います。
Q:グリーンジャケットは、帰国時にも着て帰ってきた?
さすがにずっと着てるのはあれなんで……。ずっと腕に持ってました。常に持ち歩こうとは思ってますけど、どこかに置いてなくなるよりは、自分が持ってた方がいいのかな、と思ってます。着ることはないにしても、手には持っていると思います。
Q:帰国は昨日(4月13日)?
はい。本来なら「ウェルズファーゴ選手権」に出る予定だったんですけど、そこは今のところどうするか考えているところで、次の「AT&Tバイロンネルソン」(5月13日〜16日開催)は出る予定にしています。
Q:東北の方々には、優勝してどのような言葉をかけたいか?
10年前に僕が直接お会いして話すことはなかったし、今もそうですけど、10年前に大変な時に送り出してくれた感謝の気持ちは忘れていません。早いのか遅いのかわからないですけど、こうしてグリーンジャケットを着て、こうやって会見ができているというのは僕自身も嬉しいですし、いい報告ができたんじゃないかなとは思っています。
Q:金谷拓実さんとか佐々木さん(大魔神)とか、俳優さんとか、松山さんからけっこうマメに(祝福のメッセージに対する)返事が来たって言ってましたけど、祝福の連絡は相当あった?
ありました。僕の携帯に入っている(件数)が少ないので、そんなに多くはないですけど、うれしかったです。
Q:今回コーチをつけたのは、どういう効果があった?
去年はすごくスイングに対して悩んでましたし、思うような結果が出ない時にコーチとお会いして、話をしていく上で、自分が大事なところを忘れていたとか、そういうところもあったので、それは感覚的なことなので、お話しすることはできないですけど、それを見つけてくれたというか。それを2月の頭から、2ヶ月弱、毎日過ごしていく中で、僕が毎日毎日新たな発見とか、こうした方がいいんじゃないか?といろんな意見を出してくれて、「それは違うんじゃないか?」「でも、これは合ってるよね?」とかそういう意思疎通が、コミュニケーションが取れて、今までとは違う感じでプレーできてました。
Q:来年のチャンピオンズディナーは?
どういうものを出せばいいのか、想像もつかない世界なんで、そこを考えて、時間がまだあるんでしっかり考えていければと思ってます。
Q:子供たちへのメッセージをおっしゃってたが、国内男子ツアーがコロナで試合が思うようにできなかったり、人気面の問題があったりする。そこをどう考えるか?
やっぱり女子ツアーに押されているような形ですけど、日本の男子ツアーもすごく魅力あると思いますし、今週も「東建ホームメイトカップ」が開催されてますし、おもしろい戦いが見れるんですけど、なかなかその魅力が伝わらないのが現状だと思います。そういうものも含めて、僕が優勝したことで注目されて、男子ツアーを見て面白いと思って頂けるような形になるかどうかわからないけど、そうなればすごく嬉しいですね。
Q:チャンピオンになってレジェンドの仲間入りを果たしたが、どう思うか?
本当にこれ(グリーンジャケット)を着れる日本人は初めてだと思いますし、そのことがすごく嬉しいなと思ってます。今までやってきたことを今後も変わらず全力でゴルフに取り組みたいですし、今まで以上に注目されることが多くなると思いますが、そういう時に今までよくない行い……クラブを叩きつけたりとかたくさんあったと思うんですけど、そういうのを見られないように、そういうのがないように気をつけていきたいと思ってます。
Q:新型コロナで暗いニュースが多い中、明るいニュースが国内を駆け巡った。そのあたりは?
自分が優勝したことで、どういう報道のされ方をしたのか、日本にいなかったのでわからないですが、他のスポーツ界の方が僕は勇気をもらってるんで、他のスポーツ界にとって明るいニュースだったらいいなと思ってます。
Q:地元愛媛の皆さんにメッセージを!
これからも変わらず頑張っていくので、応援よろしくお願いします!
Q:「オーガスタでしか感じない苦手意識がある」と去年言っていたが、それは何か?また、ゴルフの魅力はいろんな感情が出ることだと言っていた。今回のマスターズを見ると、とにかく笑顔もよく見られたが、この4日間、感情のコントロールは意識してやったのか、自然とできたのか?またそれがなぜオーガスタでなのか?
きっかけは前の週の試合で初日、いいスタートを切ったんですけど、なかなか思うようなラウンドができなくて、イライラしているところへキャディの早藤にも当たったりとかチームのみんなにも迷惑をかけたりとかし、「何をやってるんだろう?」とはたと気づくことがあって、マスターズの前でよかったなというのがあって。マスターズに入って、自分の状態がどんどん上がっていくのがわかって、今週は怒らず、でも今年に入って1回もトップ10に入ってなかったので、ミスは受け入れていこうという気持ちでやってました。
Q:オーガスタはどういう場所?
最高の舞台だと思います。
Q:オリンピックまであと100日。一言お願いします。
無事に開催されるのであれば、金メダルを目指して頑張りたいです。
Q:青木功さんは「松山英樹選手は最近、和やかなんだよな」とおっしゃってた。今回の優勝にチーム松山の雰囲気は関係しているか?
前の週までは僕もすごく怒ってプレーしていたので、なんとも言えないですけど、チームのみんながいるからこそ、我に帰って、チームの雰囲気を壊すのはよくないと思いながら、それを含めてマスターズの週は怒らず頑張ろうと思いました。
Q:今回の優勝で改めてゴルフやスポーツをやっている子供達に勇気を与えたと思うが、今後はどんな松山英樹像を見せたいか?
これからまだまだ活躍しないと、そういう子たちにもそこを目指したいと思われないかもしれないので、頑張って10年、15年と長く活躍したいと思ってます。
Q:10年前にアマチュアで初めて出た時、97年のタイガー・ウッズの優勝を見てゴルファーを志したということだが、今回、マスターズで優勝したことについて、どうか?
最後、ガッツポーズできなかったし、最後の上がり方もかっこ悪かった。それでも日本人でグリーンジャケットを着れるんだということは証明できたと思うんで、僕がタイガーのようになりたいと思った感情が、僕みたいになりたいと思ってくれたらすごく嬉しいなと思います。
Q:「次はすっきり勝ちたい」というコメントがあったが、来月には「全米プロ」がある。どんな戦いを見せたいと思っているか?
本当に終わったばかりなので、初めて「クラブを握りたくないな」と思ってる状況なんで、まだそこに頭が切り替わっていない。切り替わった時にまたメジャーで勝てるようにいい戦いができるように、日本のファンの皆さんにいい報告ができるように頑張りたいですね。
Q:愛媛県とはどういう場所?
生まれ育った場所なんで、早く帰りたいんですが、コロナで隔離もあるのでなかなか帰れないですけど、帰ってゆっくりしたいです。今は何をするというのではなく、ゆっくりしたいのが現状。愛媛からメジャーチャンピオンが誕生したぞ〜!って伝えたいです。
Q:オーガスタ、マスターズの何が特別なのか?
10年前に震災があったときに、送り出してくれた東北の皆さんや日本の皆さんが、そこでローアマが取れて、10年後にまたあの舞台で優勝して表彰式に出れたということが、すごく僕の中では特別な感情を抱いたというのはあります。
Q:宮城県で大学生活を過ごし、その間にマスターズ初出場、プロ転向という転機もあったが、どういう4年間だったか?
すごく大きな4年間だったなと思いますし、成長できた4年間だったという思いもあります。これから先、もっともっと人としても成長しないといけないと思ってますので、4年間以上に頑張りたいという気持ちが今はあります。
Q:震災から10年。被災地は復興に向けて頑張ってるが、松山さんの活躍に元気をもらったことも多いと思う。苦難を乗り越える原動力になったものは何か?
被災された方にとっては、僕の悩みなんてちっぽけなものだと思いますし、それでも僕は僕なりにいろんな葛藤はありながら、こうしてグリーンジャケットを着て、乗り越えることができたということは皆さんの応援のおかげだと思いますし、これからも応援お願いしますという気持ちが強いです。
Q:2011年の初出場から、10年間を振り返って、マスターズについて思うことは?
最初にローアマを取ることができて、それからはなかなかいい思い出の方が少ないんじゃないかという感じでしたけど、今年こうして優勝できて、全部の思い出がいい思い出に変わってるんで、よかったなと思います。
Q:2週間の隔離などがあるが、日本に戻ってきた理由は?
もともと予定していたので、帰ってきただけです。特には考えていないです。隔離が終わったら報告しにいきたいとか、そういう気持ちはあるんですけど、次の試合もあるんで、長くはいられないなと思ってます。
Q:文化の違うアメリカで大きな挑戦を、ストイックにしている姿を見てきたが、努力はどんな意味があると思うか?
努力と言われれば努力ですが、ゴルフが好きで、うまくなりたい、試合で勝ちたいという気持ちでやってるので、あまり努力というのは人のいう努力はしてるのかなという気持ちはあります。やらないとうまくはならないですからね。
Q:2〜3週間前はマスターズに間に合わないような感じに見えたが、どのようにきっかけをつかんで、水曜日にいい状態だと思ったと言ってましたが、どのようなきっかけをつかんで、どこで自分のスイングをつかんだのか?
「プレーヤーズ選手権」で予選落ちして、自分の中ではそんなに悪い状態ではないと思ってたけど、結果が出ないというところで、スイングがずれているのかきっかけがわからない状況だったんですけど、自分がよかったなと思う時から、すごく真逆な感じがあって、なんでこうなったんだろうと……。1月からやってることが無駄だったような感じがした週があって、それから少しづつコーチやキャディ、トレーナーとも話して、そこから徐々に前の週も少しづつよくなってました。マスターズの週に入って、ここがうまくいけばな、というところで、月・火・水で練習ラウンドも普段2ラウンドするところを、あえて3日間で1ラウンドしかしなかったのがよかったんじゃないかなというのがあります。
Q:お父さんと歩んできた時間
初めてクラブを握って、その頃の記憶はないですけど、愛媛を離れるまではずっとコーチとして、厳しく、かどうかわからないですけど教えてくれて、今年もあまり思うような成績が出てない時もたまに連絡をくれて、そういうところで本当に感謝の気持ちしかないですね。
Q:日本人として常に背負っていること、日本人ゴルファーとして大事にしていることは?
なんですかね。あまりそういうことを考えたことがないので、難しいですね。
Q:自分にやさしく、というのは意識していた?
今までミスした時はすごく怒ってましたし、マスターズの前の週もすごく怒ってましたし、ただ状態が上がるにつれてのいらだちとかあったんですけど、マスターズの週はそれを受け入れていこうと思ってやってました。
Q:今後マスターズ優勝で、プレッシャーがかかってくると思うし、心に余裕もできるかもしれない。今後戦う時にどういうメンタルになるか?
全然想像はつかないですけど、今まで通り僕はいつものように練習して、試合をやるだけだと思ってるんで、重圧とかはわからないですね。
Q:「自分にやさしく」というやり方は、今後のスタイルになるか?
わからないですけど、マスターズの週でよかったということは、忘れないようにしたいと思います。