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なぜ「LIVゴルフ」はPGAツアーから敵対視され、
バッシングされているのか?

Text & Photo/Eiko Oizumi

サウジアラビア最大の石油会社「アラムコ」のCEOであり、PIF(サウジ政府系ファンド)などのCEOも務めるヤシール・アル・ルマイヤン氏(左)とゴルフサウジCEOのマジェド・アル・ソロル氏(左から3番目)、PIFからの資金を元にLIVゴルフイベントを開催している「LIVゴルフ・インベストメンツ」CEOのグレッグ・ノーマン。

欧米の記事を読んでいると、圧倒的にLIVゴルフに対するバッシングが多く、PGAツアーからもツアーメンバーでLIVゴルフに出場した者(あるいは今後出場予定者)に対して、出場停止が言い渡されているため、「LIVゴルフはゴルフ界にとっての悪」「LIVゴルフはうさんくさい」という見方をしている日本のゴルフファンも多いだろう。だが一方で、LIVゴルフが目指しているもの、ゴルフ界にプラスになることもある、と実際に試合会場を訪れ、感じた部分も多かった。賞金や契約金が破格すぎるため、つい金銭面、およびその資金源のサウジアラビアに目が向けられがちだが、LIVゴルフはそれだけではない。ここではまず、なぜLIVゴルフがバッシングを受けているのかを、説明したい。

まず、欧米の記者たちがこぞって記者会見場で選手たちに厳しく質問し、書き立てているのは、LIVゴルフイベントへの法外な資金源であるサウジアラビアのオイルマネー(サウジアラビア政府の公的な資金)と、サウジの人権問題(ワシントンポスト紙のジャマル・カショギ記者の殺害、女性権利活動家の拘束、公開処刑などの非人道的な刑罰、女性・同性愛者蔑視など)である。それらの問題への非難から逃れるために、ゴルフ以外にもF1やパリダカなどのオートレースやサッカー、ボクシングなどのスポーツに莫大な資金を投入し、「スポーツウォッシング」が行なわれているとの見方をされているのだ。

金については「血塗られた金」「汚れた金」などと表現され、フィル・ミケルソンやダスティン・ジョンソンら人気選手は特に、多額の「サウジから汚い金」を受け取っていると批判されている。もちろん人権問題については、記者会見でミケルソンも語っているように容認できる話ではない。また、札束を山ほど積むやり方に違和感や嫌悪感を感じる人も少なくないだろう。たった3日間の試合で賞金総額33億円という破格の額である。「世界のトッププロも、要は金なのか?」と、純粋にゴルフを愛するファンからは、批判的な声も多く寄せられている。

大会前の公式会見では、サウジアラビアの人権問題や金銭的なことなどを厳しく問いただされたフィル・ミケルソン。自らのギャンブル依存症の話も語っていた。ギャンブルによる約50億円前後の借金がある、と一部の報道では伝えられている。

そしてこのLIVゴルフに対して、真っ向から敵視しているのがPGAツアーだ。出場したPGAツアーメンバー(すでにメンバー資格を返上している者も含めて)17名に対し、「LIVゴルフインビテーショナル」がスタートした後に名指しで「出場停止、あるいは資格を剥奪する」とジェイ・モナハンコミッショナーは選手宛の書簡で表明した。しかもPGAツアーのメンバーでなくなった後は、スポンサー推薦などで出場することも一切できず、PGAツアーだけでなく、チャンピオンズツアー(シニアツアー)、コーンフェリーツアー、PGAツアー・カナダ、PGAツアー・ラテンアメリカなどのPGAツアー関連のツアー試合に出場することができないという、非常に厳格なものだ。「ただし、PGAツアーに復帰したいと考えている者には、透明性を持ってPGAツアーの規定に則り対処する」という一文も見られ、若干の猶予も見せている。ケビン・ナのように「PGAツアーのルールを破るわけだから、自分から資格を返上してLIVゴルフに出るのが当然。辞めろと言われる前に、自分で辞める」と事前に資格を辞退している選手も何人もいた。ミケルソンは「自分は生涯シード選手になるために、これまで一生懸命頑張ってきた。いつ、どの試合でも出られる権利が自分にはあるはず。この段階で資格を自ら返上する必要はないと思っている」と淡い期待を寄せていたものの、バッサリと切り捨てられた結果だ。以下、ツアーの出場停止を言い渡された選手たちのリストである。

セルヒオ・ガルシア(*)
テーラー・グーチ
ブランデン・グレース(*)
ダスティン・ジョンソン(*)
マット・ジョーンズ
マーティン・カイマー(*)
グレアム・マクドウェル(*)
フィル・ミケルソン
ケビン・ナ(*)
アンディ・オグレトリー
ルイ・ウーストハイゼン(*)
ターク・ペティット(*)
イアン・ポールター
シャール・シュワーツェル(*)
ハドソン・スワフォード
ピーター・ユーライン
リー・ウエストウッド(*)

*のついている選手は、事前にツアー資格を返上した選手

 モナハン氏は、「LIVゴルフ出場選手は、金銭的な理由などにより、LIVゴルフ参加を決断した。しかし彼らは、PGAツアーの特典や、機会、プラットフォームなどを要求することはできない。どちらにも参加したいという期待は、ツアーメンバーの皆さん、ファン、パートナーたちを軽視することになる。ジャック・ニクラス、アーノルド・パーマー、タイガー・ウッズ他の選手たちが作り上げてきた、彼らのレガシーはPGAツアーと深く結びついており、買収されたり、売却されるべきものではない」と書簡でツアーメンバーに伝えている。

 様々な問題を抱えているサウジアラビアが、LIVゴルフのバックにはついているが、そこにツアーメンバーが出入りすることを懸念しているのだろう。そしてその莫大な資金を利用して、PGAツアーメンバーを引き込もうとするやり方に脅威と反発を感じているのだ。LIVサイドはLIVだけにしか出場してはいけないとは言っておらず「ホームのツアーを基点に、出場できる試合に出てくれればいい」というスタンスだが、PGAツアー側としては、ツアーメンバーにLIVゴルフでのプレーを許可すると、どうしても賞金の高いLIVゴルフに出場する選手が増えるため、同週に開催されるPGAツアーの大会には出場しなくなり、ツアーのバリューが落ちてしまうと危惧しているのかもしれない。

 これに対し、LIVゴルフ側は「今日のPGAツアーからの発表は、執念深く、ツアーとそのメンバーとの間の溝をさらに深めているようなもの。ゴルファーにプレーの機会を作ることに貢献するのがツアー組織なのに、プレーを妨害していることに困惑している。フリーエージェンシーの時代は始まっているが、ロンドン、そしてその後の試合にも参加してくれる選手たちがフルフィールドでいることを誇りに思う」と公表。PGAツアーの発表を受けて、ラウンド後にフィル・ミケルソンは「PGAツアーに関するコメントはしない」と固く口を閉じ、セルヒオ・ガルシアは「自分はもうメンバーではないから、関係ない。いうこともない」と語る一方、イアン・ポールターは「理解できない。世界中でプレーするために両方のメンバーになることに何の問題があるんだ?」と反撃。PGAツアーからの追放決定に異議申し立ての意向だ。グレアム・マクドウェルは「スタートの30分前に資格を返上した。厳しい決断だったが、今回のことで、自分たちはいつどこでもプレーできる権利を守ったと自負している」と語っている。

PGAツアーに対して、異議申し立てをする意向のイアン・ポールター。

 ちなみに他のゴルフ団体はどうか? 全米ゴルフ協会(USGA) は、今年の「全米オープン」に関しては「急にルールを変更するのもフェアじゃない。今までの出場資格通りの規定で選手を出場させる」とLIVゴルファーで資格を持っている選手の出場を許可している。またR&A主催の「全英オープン」に関しても同様の意向だ。ただ来年以降のメジャーの出場資格に関しては、今のところ何のアナウンスもない。各団体のコミッショナーの発表を待つばかりだ。今、D Pワールドツアーがサウジアラビアに買収されるのでは?という憶測も流れ始めている。今後の欧州の動きが世界のゴルフ界のバランスを大きく変えることもあるかもしれない。

 ゴルフ界の発展と活性化のために、PGAツアーに同調する形でメジャーもLIVゴルファーが全て排除されるようなことがないことを願いたい。そして近い将来、ゴルフ界のこの悲しい「分断」に終止符が打たれ、両者の間で話し合いのもと、折り合いがつくことを祈っている。

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