世界にはゴルフ文化のない国、あるいは最近ゴルフ場ができたばかりという国がいくつもある。
ここでは、「ゴルフ発展途上国」の歴史と文化、“ゴルフの夜明け”との関係性などを紐解いていく。
第10回はスロバキア共和国を紹介する。
古代から征服と分離が繰り返されてきたヨーロッパの十字路
中央ヨーロッパの共和国国家で、首都はブラチスラバ。北西はチェコ、北はポーランド、東はウクライナ、南はハンガリー、南西はオーストリアと隣接。ハンガリー貴族の発祥地でもある。第一次大戦後、オーストリア・ハンガリー帝国から、チェコと合併する形で独立し、1993年にチェコと分離独立し、現在に至る。
小高い丘の上からドナウ河畔の街並みを見下ろす「ブラチスラバ城」。首都ブラチスラバのシンボル的存在。
国立公園に指定されているタトラ山。
見た目が非常に美しいブラチスラバの青の教会「聖アルジュベタ教会」。内観も外観もブルーで統一。
スロバキア東部の、のどかな田園地帯にそびえ立つ中世の山城「スピス城」。93年に世界遺産に登録された。
ブラチスラバの中心部にある、おもしろいデザインの銅像の一つ「チュミル像」。マンホールから顔を覗かせているおじさんが、ユニーク。
ハンガリー出身のピアニストであり作曲家、フランツ・リストの記念プレート。
スロバキア共和国の建国記念に作られたエスプレッソコーヒーカップ。
スロバキアの郷土料理の一つ「ブリンゾベー・ハルシュキ」。ジャガイモでできたニョッキを羊のチーズと混ぜ合わせた料理だ。
ハンガリーから続くカルスト群。見渡す限りの洞窟や鍾乳洞、氷穴が広がる神秘の絶景。
革命や分離を繰り返してきた激動の歴史
かつては「チェコスロバキア社会主義共和国」として中央ヨーロッパに存在した連邦国家だったが、1989年に「ビロード革命(チェコスロバキアで勃発した共産党体制崩壊をもたらした民主化革命)」が起こり、「チェコ共和国」と「スロバキア共和国」の2国に分離。
現在スロバキアは、北西はチェコ、北はポーランド、東はウクライナ、南はハンガリー、南西はオーストリアと隣接する共和国として存在している。
首都はドナウ川河畔に位置する美しい古都ブラチスラバで、1811年に火事で焼失するまではオーストリア王家の居城だったバロック様式のブラチスラバ城は必見。人口50万人のスロバキア最大の都市だ。
スロバキアは古代より国体が常に激しく変化してきた歴史を持つが、この地のスラブ人は1000年間、少数民族としてハンガリー王国の支配下に置かれていた。
ハンガリーにとっても歴史的に重要な地であり、ハンガリー貴族発祥地とも言われている。
第二次世界大戦中には、ナチス・ドイツの要求に従い、分離独立し、ヒトラーの要求に応じてナチス・ドイツと同盟を結んだこともあった。
1945年にルーマニアとソビエト軍に解放されるまで、数千人が虐殺され、村が破壊されるという暗い過去が付きまとう。
スロバキアの産業と観光・文化
スロバキアはヨーロッパの中央に位置し「ヨーロッパの十字路」とも言われている。
いろいろな民族が入り混じり、文学や音楽、舞踊、建築様式、料理などにもそれが反映されているが、ヨーロッパで最も急速に経済が発展した国の一つである。
EUの中では高所得経済が発達し、世界でも豊かな国の上位50位以内に入っているが、富のレベルや雇用の面で地域格差が大きく、アンバランスな状況だ。
主にサービス業が盛んで、自動車や電気工学などの製造業なども盛ん。
フォルクスワーゲン、アウディ、ポルシェ、シトロエン、キア、ジャガー、ヒュンダイなどの自動車工場がスロバキアにある。
観光面では、ハイタトラ山脈のハイキングツアーやブラチスラバ周辺が人気で、ドナウ川クルーズもオススメ。
スロバキア国立公園には渓谷や森、川、滝などがあり、氷河湖なども見ることができる。
ドブシンスカ氷穴も魅力的だ。
また、ピエシュチャニは最大の温泉街で、毎年ドバイやバーレーンなどの中東の国々から大勢の観光客を受け入れているという。
スポーツに関しては、サッカーとアイスホッケーが最も人気があり、テニス、ハンドボール、バスケットボール、バレーボードなども広く行なわれているが、ゴルフはまだまだ発展途上中である。
スロバキア最古・現存する9ホールのゴルフ場
ピエシュチャニゴルフ&カントリークラブ
Piestany Golf & Country Club
温泉地に位置する「ゴルフの十字路」
スロバキア最古のゴルフ場は、9ホールのパークランドコース。ポーランド、ハンガリー、ルーマニア、チェコなどに住む人たちも、この地でゴルフを楽しんだ。
1914年からスパタウンに位置するピエシュチャニのクラブハウス。食事を楽しむ女性の姿も見える。
1932年に初開催された、「チェコスロバキアレディース選手権」の表彰式。
ピエシュチャニの当時のポスター。9ホール・2918ヤードの情報もわかる。
有名な温泉街にあるスロバキア最古のゴルフ場
ピエシュチャニといえば、スロバキアの有名な温泉地だが、その土地にスロバキア最古のゴルフ場がある。
1914年に造られた全長2159メートル、パー34の9ホールのパークランドコースだ。
練習場やショートゲーム練習場、インドアのシミュレーターなどを完備し、1928年~1934年にかけてポーランド、ハンガリー、ルーマニア、チェコスロバキアの中欧における「ゴルフの十字路」として知られていた場所である。
かつてはドイツやチェコ、ハンガリーの貴族に愛され、今は欧州や中東からの観光客も訪れる人気のコースだ。
スロバキア最大のゴルフリゾート
ブラックリバーゴルフリゾート
Black River Golf Resort
マリア・テレジアの居城がクラブハウスの欧州最難関コース
このリゾートには、合計45ホールあるが、グリーンの数は55個というユニークなレイアウト。1993年、首都ブラチスラバにオープンした。
クラブハウスは、オーストリア大公、ハンガリー女王、ボヘミア女王として君臨していたマリア・テレジアが住んでいたという城(テレジア城)を改造したもの。
計45ホール&55のグリーンを備えたスロバキア最大のゴルフリゾート
ブラック・リバーコースの18ホールと、ユーロバレー・ゴルフリゾートの27ホールから成る、スロバキア最大のゴルフリゾートが、首都ブラチスラバにある。
2006年にブラチスラバCCのメインレイアウトとしてブラック・リバーがオープンしたが、「ヨーロッパで最もタフなコース」として知られている。
特に終盤の17~18番はチャレンジングなホールが続き、17番の浮島フェアウェイや浮島グリーンは、非常に印象的なレイアウトだ。
●コース:6483メートル・パー73(ブラック・リバーコース)
●住所:Kaštieľ 5,900 27 Bernolákovo, Slovakia
●HP:www.golf.sk
●備考:首都ブラチスラバ市街から車で20分のスロバキア最大のゴルフ場。ブラック・リバーコース(18ホール)とホワイト・ユーロバレーコースから成り、計45ホール・55グリーンを備える。ブラック・リバーコースは、2006年にオープンし、ヨーロッパで最も難しいコースの一つと言われている。
ジャック・ニクラスもデザインする、世界基準のゴルフ場
ペナチゴルフリゾート
Penati Golf Resort
スロバキアのナショナルオープンを開催する本格チャンピオンシップコース
木々でセパレートされた、ジャック・ニクラス設計のレジェンドコース。
高い松の木々でセパレートされ、ショットの精度が求められるレイアウト。フェアウェイは平坦だが、アンジュレーションもあり、難しい。
2019年「ペナチ・スロバキアオープン」で優勝した東京五輪・男子ゴルフ銀メダリストのローリー・サバティーニ(右)。現在彼は、スロバキア人女性と結婚し、スロバキア国籍も所有し、本大会のアンバサダーとなっている。
2021年「ペナチ・スロバキアオープン」で優勝したフィリップ・ミュルゼク(中央)。
スロバキアではトップクラスのゴルフ場
36ホールのペナチゴルフリゾートは、ニクラスデザイン社の設計による「レジェンド」と、ジョナサン・デービソン設計の新しい「ヘリテージ」で構成されている、スロバキアではトップクラスのPGA・USGA基準のゴルフ場だ。
レジェンドは松林や砂丘に囲まれ、ヘリテージはスコットランドテイスト。レジェンドの、中欧で最長の716メートルのホールは必見だ。
ペナチでは「PGAスロバキア選手権」をはじめ、毎年数多くの大会を開催。
広大な練習場、屋根付きブース、ショートゲームの練習場、ゴルフアカデミーなどを完備している。
●コース:6539メートル・パー73(レジェンドコース) 6207メートル・パー72(ヘリテージコース)
●住所:Šajdíkove Humence 443, 905 01 Senica, Slovakia ●HP:www.penatigolfresort.sk
●備考:ブラチスラバ空港から車で約1時間20分、 ウィーン(オーストリア)から車で約1時間。
ビジターもプレー可能。居住施設があり、 オーナーはコースのメンバーシップを獲得できる。
数々のトーナメントが開催されている。
タトラ山脈の裾野に広がる27ホールのコース
ブラックストーク・ゴルフリゾート
Black Stork Golf Resort
タトラ山脈のパノラマビューが美しい豪華ホテルを有したゴルフリゾート
雄大なタトラ山脈に囲まれ、豪華リゾートホテルも備えた27ホール
アマチュアのトーナメント「ロムニカ選手権」を開催しているブラックストーク。その他、チャリティイベントやフットゴルフなども行なわれ、観光業に注力している。
自然環境の保全にも力を入れており、2007年には鳥類が59種類だったのに対し、2014年には77種類に増加。また、植物も17種類だったのが、159種類と約10倍に増加しているという。
フットゴルフ場としても使用されるゴルフリゾート
ポーランドにほど近い、全27ホールのゴルフリゾート。
スパやジャグジー、温水プール、レストランなども完備する豪華ホテル「ホテル・インターナショナル」を有する。
2020年にはニック・ファルドが推進するジュニア育成のトーナメント「ファルドシリーズ」も開催された、本格チャンピオンシップコースだ。
タトラ山脈に囲まれ、素晴らしい景観も魅力の一つ。
フットゴルフ場としても使用されているが、将来的にはアクアパークなどの構想もあるようだ。
●コース:9379メートル・パー108
●住所:Tatranská 754, 059 52 Veľká Lomnica, Slovakia ●HP:www.golftatry.sk
●備考:スロバキアのコシツェ国際空港から、車で約1時間半。
大自然に囲まれた18ホールのゴルフリゾートコース
ゴルフクラブ&リゾート・テール
Golf Club & Resort Tale
冬は一大スキーリゾートに変身するスロバキア初の18ホール
グレーベアテールGCは、2002年にタトラ山脈の裾野にオープンしたスロバキア初の18ホールコース。設計はサウスカロライナを本拠地とするUSゴルフコースデザイン社。奥にホテル「ストゥプカ」も見える。
秋には紅葉も美しいタトラ山脈を眺めながら、プレーできる。
ゴルフ場の芝生は、「全英オープン」開催コースで使われているフェスキューなどを使用。グレーベアの18ホールの他に、「リトルベアゴルフアカデミー」用の9ホールもある。初心者だけでなく、熟練ゴルファーがショートゲームの技を磨くにも最適なコースだ。
起伏に富んだ地形と豊かな自然美が魅力のコース
2002年8月、米国サウスカロライナ州の「ゴルフコースデザイン社」が設計した、スロバキア初の18ホール・チャンピオンシップコースがオープンした。
ロータトラス国立公園内の緑豊かな起伏に富んだ地形に、6296メートルのグレーべアが広がっている。
イギリスのレジェンド、トニー・ジャクリンをして「独特で美しい景観、独自の環境と設計を持ち合わせたコースで、高い評価に値する」と言わしめた素晴らしいコースだ。
渓谷を縫うように進み、豊かな自然美、そびえ立つモミの木、壮大な岩、水辺の景色を堪能できるのが、このリゾートの特徴。冬はスキー場に様変わりする。
●コース:6296メートル・パー71
●住所:Tále 100, Horná Lehota 977 01 Brezno Slovakia
●HP:https://www.tale.sk/en/
●備考:スロバキアのほぼ中央、ブレズノの町から北に17キロの場所に位置するリゾート。
冬はスキー場となり、ゴルフ場はクロスカントリーに利用されている。
Text/Susanne Kemper
スザンヌ・ケンパー
(スイス)
オーストリア国籍、スイス在住。20年以上にわたって米国、欧州を中心に世界中を旅しながら、ゴルフ誌やライフスタイル誌に寄稿。5ヶ国語を操る。
Text/Susanne Kemper
スザンヌ・ケンパー(スイス)
オーストリア国籍、スイス在住。20年以上にわたって米国、欧州を中心に世界中を旅しながら、ゴルフ誌やライフスタイル誌に寄稿。5ヶ国語を操る。
Photo/ PGA Slovakia, Slovakia Golf Federation,Visit Bratislava, Slovakia Travel