キャプテン・イメルマンの采配ぶりと世界選抜チームの未来への期待
「全英オープン」チャンピオンのキャメロン・スミスら有力選手が続々とLIVゴルフへ移籍し、彼らの抜けた世界選抜チームは戦力的にピンチに立たされた。
だが、イメルマン主将を中心に、メンバーは結束力を高め、徐々に本領発揮し始めた……
LIVゴルフの余波を大いに受けた世界選抜チーム
有力選手が抜け、米国圧勝かと思われたが……
世界選抜チームのメンバー。左から、副キャプテンのジェフ・オギルビー(豪州)とマイク・ウィア(カナダ)、クリスチアン・ベフーズンハイト(南ア)、コーリー・コナーズ(カナダ)、キャメロン・デービス(豪州)、イム・ソンジェ(韓国)、トム・キム(キム・ジュヒョン・韓国)、キャプテンのトレバー・イメルマン(南ア)、キム・シウー(韓国)、イ・キョンフン(韓国)、松山英樹(日本)、セバスチャン・ムニョス(コロンビア)、テーラー・ペンドリス(カナダ)、ミト・ペレイラ(チリ)、アダム・スコット(豪州)、カミロ・ビジェイガス(コロンビア)、チェ・キョンジュ(韓国)。
世界選抜チームは2019年当時のキャプテン、アーニー・エルスが、米国が国のために戦うのに対し、世界も皆が一つになれるよう、新ロゴを考案した。
世界選抜チームは優勝はできなかったものの、20歳のトム・キム(手前)がチーム内にエネルギーをもたらしたことで、明るいムードに。
3日目のフォーボール戦では、アダム・スコット(右)とキャメロン・デービスという豪州出身の2人がペアを組み、ビリー・ホーシェル&サム・バーンズ組を撃破。
出場選手の人選に影響
グレッグ・ノーマンのLIVゴルフ
もともと「プレジデンツカップ」は、欧米間で行なわれている「ライダーカップ」に出場できないアジア、豪州、カナダ、南米、南アなどの地域の選手たちが参加できる場を、ということで豪州のグレッグ・ノーマンの発想により作られた大会。
かつては自らも出場し、世界選抜チームのキャプテンを2回務めたこともあったが、世界選抜チームの躍進を、皮肉にもノーマン自身が妨げる形となってしまった。
グレッグ・ノーマン率いる「LIVゴルフ」が今年発足し、PGAツアーはこれを敵対視。
PGAツアーが開催する「プレジデンツカップ」へのLIV移籍選手の出場を停止したため、その煽りを大いに受けたのだ。
世界ランク3位のキャメロン・スミス、21位のホアキン・ニーマン、24位のエイブラハム・アンサー、33位のルイ・ウーストハイゼンあたりは、LIVとPGAツアーの確執がなければ今年も出場していただろう。
しかし、PGAツアーから出場停止を言い渡されたため、出場不可能になった。
もともとあまりLIV組脱退の影響を受けていなかった米国チームは、さらに有利な展開に。
しかも初出場者が世界選抜は8人と約7割が未経験者。
だから大会前から「米国の圧倒的勝利」を予測する関係者やゴルフファンは多かった。
実際に試合が始まってみると、下馬評通りの結果にはなったものの、世界選抜の健闘も光った。
2日目を終えて、米国8ポイント、世界2ポイントとなった時には、「やはり今年の世界選抜には、米国との戦いは荷が重すぎるのでは?」と感じた人も多かったことだろう。
だが、3日目になると、戦況は一変。
世界選抜は逆襲をしかけてきた。午前と午後にフォーサム、フォーボールが4マッチずつ(合計8マッチ)行なわれたが、米国3勝に対し、世界は5勝を挙げ、米国11ポイント、世界7ポイント、とその差を4ポイントに縮めたのだ。
キャプテンのイメルマンは大会前から「我々に勝ち目がないことは明らかだし、その状況は過去ずっと続いてきた。でも過去の記録や、世界ランキングを見比べても、我々は失うものは何もない。だから好きなようにプレーすればいい」と語っていた。
7か国の文化も言葉も違う選手が集まり、徐々にチームの雰囲気にも慣れてきた頃に実力を発揮し始める、というパターンは過去にもあり、たいていはシングルス戦でようやく発揮されることが多かったが、今年は負けを経験し続けてきたベテラン選手達がLIVに移籍した代わりに、順応性の高い、フレッシュな若手が集まった分だけそのタイミングも早かったのかもしれない。
3日目(土曜日)のチーム戦で、その傾向が見られ始めた。
「失うものはなにもない。ただ自分達が好きなようにプレーすればいいだけ」
―トレバー・イメルマン
副キャプテンのチェ・キョンジュが、キャプテンのトレバー・イメルマンの労をねぎらう。
シングルス戦では、米国6・5ポイント、世界5・5ポイントと、ほぼ互角の戦いを展開。
特に1組目のジャスティン・トーマスとキム・シウーの対戦では、クエールホローでの2017年「全米プロ」で優勝し、コースとの相性も良い格上のトーマスを、シウーが撃破するという番狂わせもあった。
「WGCの試合でも彼とプレーしたことはあったし、すごくプレッシャーはあった。でも、1マッチ目は大事だし、ポジティブシンキングで臨んだんだ」(K・
シウー)
最終的に米国との差は5ポイントに終わり、過去の大会と比べても、遜色のない成績に終わった。
大会史上、世界ランキングの上では、米国との差は最大だったかもしれないが、有力選手が抜け、明らかに戦力ダウンした世界選抜チームは、予想に反して米国にプレッシャーをかける戦いぶりを見せたのだった。
アダム・スコットは「彼らは(世界選抜チームの)未来だ。今回の経験がプレジデンツカップだけでなく、大きな舞台で自分たちのキャリアを押し上げてくれることは間違いない。チーム全体が、将来の世界選抜だ」と語っている。
今回初出場の8人がさらに今後経験を積めば、世界選抜が優勝カップを手に入れるチャンスも出てくるに違いない。
LIVゴルフに移籍した選手たち(世界選抜)
今年「全英オープン」で優勝した世界ランク3位のキャメロン・スミス(左・豪州)とマーク・リーシュマン(豪州)。
エイブラハム・アンサー(写真)やカルロス・オルティスら、メキシコ勢もLIVゴルフに移籍。
2022年「ジェネシス招待」を含む、PGAツアー2勝を挙げたホアキン・ニーマン(左・チリ)。
過去の「プレジデンツカップ」で強さを発揮してきたルイ・ウーストハイゼン(右から2番目)やブランデン・グレース(左)ら南ア勢。イメルマンも本来であれば、母国出身の彼らに選手として、副キャプテンとして出場して欲しかったに違いない。
「プレジデンツカップ」開催週の世界ランキング
世界ランク | 選手名 | チーム |
1 | スコッティ・シェフラー | 米国 |
3 | キャメロン・スミス | 世界(LIV) |
4 | パトリック・キャントレー | 米国 |
5 | ザンダー・シャウフェレ | 米国 |
7 | ジャスティン・トーマス | 米国 |
8 | ウィル・ザラトリス | 米国(欠場) |
9 | コリン・モリカワ | 米国 |
12 | サム・バーンズ | 米国 |
13 | ジョーダン・スピース | 米国 |
14 | トニー・フィナウ | 米国 |
15 | ビリー・ホーシェル | 米国 |
16 | マックス・ホーマ | 米国 |
17 | 松山英樹 | 世界 |
18 | キャメロン・ヤング | 米国 |
19 | イム・ソンジェ | 世界 |
21 | ホアキン・ニーマン | 世界(LIV) |
22 | トム・キム(キム・ジュヒョン) | 世界 |
23 | ダスティン・ジョンソン | 米国(LIV) |
24 | エイブラハム・アンサー | 世界(LIV) |
25 | ケビン・キスナー | 米国 |
26 | コーリー・コナーズ | 世界 |
30 | アダム・スコット | 世界 |
33 | ルイ・ウーストハイゼン | 世界(LIV) |
43 | イ・キョンフン | 世界 |
49 | ミト・ペレイラ | 世界 |
61 | マーク・リーシュマン | 世界(LIV) |
63 | セバスチャン・ムニョス | 世界 |
66 | キャメロン・デービス | 世界 |
67 | クリスチアン・ベフーズンハイト | 世界 |
76 | キム・シウー | 世界 |
109 | テーラー・ペンドリス | 世界 |
*ブルーは米国選抜メンバー、ピンクは世界選抜メンバー。黄色はLIVゴルフに移籍しなければ出場していたであろう選手。
Photo/Eiko Oizumi,Getty Images