世界にはゴルフ文化のない国、あるいは最近ゴルフ場ができたばかりという国がいくつもある。
ここでは、「ゴルフ発展途上国」の歴史と文化、“ゴルフの夜明け”との関係性などを紐解いていく。
第13回はケイマン諸島を紹介する。
カリブ海に浮かぶイギリス領
ケイマン諸島
キューバの南、ジャマイカから北西約270キロのカリブ海西部に位置するケイマン諸島。イギリスの海外領土で、グランドケイマン島、ケイマンブラック島、リトルケイマン島の3島からなる。1503年5月10日、コロンブスの4度目の航海中に発見された。
世界のトップ銀行が数多く集まる銀行業が経済を支配しているカリブの島国
ケイマン諸島で作られているゴールデンラムの「セブン・ファトムズ」のアイス乗せ。クリーミーでおいしそう!
採れたてのロブスターとジャンボホタテの料理。海に囲まれた土地ならではの魚介料理がオススメ。
ケイマン・クリスタルケイブは、グランドケイマン島のノースサイドにある洞窟で、見学ツアーもある。洞窟は3つあり、長い年月をかけて形成された鍾乳石は、息を呑むほど美しい。かつて海賊の隠れ家で、財宝が眠っているとも言われている。
グランドケイマン島の最も中心的なビーチが、セブンマイルビーチ。現在、ビーチの長さはわずか5.5マイルだが、透き通った海とサンゴの白砂が世界中の観光客を魅了している。
美しい海で、カメとシュノーケリングを楽しむことができるのもケイマン諸島の魅力。
ケイマン諸島の首府ジョージタウン。グランドケイマン島の西部に位置し、行政の中心。議事堂をはじめ、政府機関がある。オーウェン・ロバーツ国際空港が市街地の中心にあり、クルーズ船のターミナルも備えている。
9月に死去した英国の女王エリザベス2世を称える「クイーン・エリザベス2世植物公園」。ジャングルのような植生が見られる他、絶滅危惧種の青いイグアナも見ることができる。
コロンブスが発見したワニの島
ケイマン諸島は1503年5月10日、クリストファー・コロンブスが最後のアメリカ航海で発見し、多く生息していたカメにちなんで「ラス・トルトゥガス」と命名されたが、のちにワニにちなんで、「ケイマンズ」と改名された。
元々この島は無人島で、海賊以外、初期の入植者は住んでいなかったのだという。
キューバの南に位置し、3つの島からなるケイマン諸島は、国土の75%を占める最大の島グランドケイマンに首府ジョージタウンがある。
セブンマイルビーチなどのビーチリゾートや、スキューバダイビング、シュノーケリングスポットなどもあり、青く美しい海が広がっている。
またリトルケイマン島では、絶滅危惧種のブルーイグアナや、海鳥のアカアシカツオドリなど、多様な野生動物が生息し、植生も豊かだ。
豊富な植物や野生動物は、クイーン・エリザベス2世植物公園でも見ることができる。
1670年にジャマイカとケイマン諸島をイギリス支配下に入れ、1734年に王室の土地が与えられた後、ケイマン諸島初のイギリス人入植地が作られた。
ケイマン諸島の住民は、イギリス系かアフリカ系(アフリカ奴隷)であり、1802年、グランドケイマンの人口933人のうち、545人が奴隷だったという。
1833年、奴隷制が廃止され、1863年にケイマン諸島はイギリスの直轄植民地になった。
ケイマン諸島の発展と経済
1950年代、オーウェン・ロバーツ国際空港が開港し、クルーズ船だけに頼らない観光業を向上させることで、発展を遂げた。
ケイマン諸島は歴史的に、非課税の国であり、政府は直接税ではなく、間接税に頼っているが、近年、観光とオフショア金融業(国内市場と切り離した形の自由金融市場を拠点にして、国外から外貨資金を有利な条件で取り込み、運用する国際金融業務のこと)に重点を置き、発展を遂げている。
ケイマン諸島はこれまで所得税、キャピタルゲイン税(株式や債券などが値上がりした時に課せられる税金)、富裕税を課したことは一度もない。
現在、多数の保険会社、コンサルティング会社、投資管理組織などに加え、世界のトップ50の銀行のうち、40行超を含む、約600の銀行や信託会社があり、銀行業が経済を支配している。
10万社を超える企業が税制上の優遇措置を受けるために登録しており、1つのビルに1万2000以上の法人が登録されている場合もあるようだ。
この島国が経済的にダメージを受けるとしたら、それはハリケーンによるところも大きいという。
「ハリケーン・アイバン」は、2004年9月にグランドケイマンを襲ったが、過去86年間で最悪のハリケーンで、インフラの83%に影響を与え、2年超にわたる再建を要した。
現在2~3年おきにケイマン諸島はハリケーンの襲来を受け、打撃を受けている。
ケイマン諸島の音楽や食文化・スポーツ
ジャズ、カリプソ、レゲエといったケイマンの音楽スタイルは、重要な文化財だ。ケイマンの民族音楽の保存と振興に取り組むため、1984年以降、ジャズフェスティバルなど、フェスを開催している。
またケイマン諸島の食文化もユニークで、名物カクテル「マッドスライドカクテル」はマストだ。
ベイリーズ・アイスクリーム、カルーアとコーヒー、チョコレートをブレンドし、フローズンスタイルで提供されるこのカクテルは、まさに天国のカクテル。
また、スパイシーなエキゾチック料理から、伝統的なイギリス料理まで、さまざまな味と食感をケイマン諸島では楽しめる。
アオウミガメのシチューは必ず一度はトライしたい珍味。
その他、コンク貝の料理やライオンフィッシュとブレッド・フルーツのサラダ、ココナッツシュリンプなど、魚介類料理がオススメだ。
最後にスポーツだが、、老若男女、さまざまなジャンルのスポーツが盛んだ。サッカーは国技で、その他、バスケットボール、野球、ラグビー、バレーボール、ウィンドサーフィン、スキューバダイビング、フリスビー、ゴルフなどが人気がある。
ケイマン諸島のゴルフについては、ジュニアゴルファーの育成が特に盛んだ。
Photo and Thanks to Cayman Islands Dept. of Tourism, Getty Images
ケイマン諸島で唯一の18ホールのコース
ノースサウンドゴルフクラブ
North Sound Golf Club
カリブの美しい海を眺めながら爽快にプレーできるノースサウンドGC。写真はシグネチャーホールの11番ホール。ノースサウンドの先端に位置する。
風向きによってはドライバーも必要な、海沿いのパー3に挑戦!
基本的にはフラットだが、フェアウェイにはアンジュレーションがあり、地面が硬い。海からの風も強く、見えないハザードにも注意しなければならない。
芝種は、耐塩性のパスパラムを使用。
広大な練習場とトレーニング施設を完備。「アクア・ドライビングレンジ」と呼ばれる、池に向かってボールを打つ練習場もある。
イグアナやカラフルな野鳥も訪れ、トロピカルムード満点!
ケイマン諸島には現在、3つのゴルフ場があるが、唯一18ホールを有するのは、ノースサウンドGCだ。
1994年にオープンしたこのコースは、ロイ・ケースによって設計され、伝統的なスコティッシュリンクス風のコーススタイルで造られている。
ヤシの木でセパレートされ、白砂バンカーと青い空と海、そして目に鮮やかなグリーンとのコントラストが非常に美しいコースだ。
11番ホールはノースサウンドの先端に位置するシグネチャーホールで、235ヤードのパー3。
グリーンに乗せるには風向きにもよるが、3番ウッドやドライバーが必要になることもあるだろう。
ケイマン諸島に来たら、一度はプレーしたいコースだ。
ジュニアゴルファーの育成にも積極的な、メンバーコース
リッツカールトンゴルフクラブ
Ritz Carlton Golf Club
左サイドの池に注意しながらプレーしたい短いパー4。ティーショットでは池を避けて右サイドに打っていくのが賢明。
グレッグ・ノーマン設計のチャレンジングな9ホール
156ヤード・パー3のアイランドグリーン。通常右から左に向かって風が吹いている。ピン位置や風向き、風の強さによってクラブ選択が4~5番手変わってくるというチャレンジングなホールだ。
左ドッグレッグのパー4は、左サイドの池に要注意。左からの風が吹いているが、右に風でボールが流れても、フェアウェイバンカーが池ポチャを食い止めてくれる。
コースのあるリッツカールトンでは、ターコイズブルーのカリブ海を眼前に望むゴージャスステイを満喫できる。プレーの後には、プールやビーチ、スパでリラックスもオススメ。
ノーマンが設計した息を呑むほど美しいコース
「ハリケーン・アイバン」によって壊滅的な被害を受けた後、2006年にオープンしたゴルフコース。
9ホールのコースだが、ヤシの木や池でセパレートされ、非常に美しく、チャレンジングなコースに仕上がっている。
特にフィニッシングホールの9番のアイランドグリーンや、洞窟のようなフェアウェイバンカーのある7番ホールなどは、一度回ったら忘れられないインパクトがあるだろう。
このコースには250名のメンバーがおり、ジュニアプログラムも盛ん。
ケイマン諸島のゴルフの発展に寄与している。
また、このコースの他、ジャック・ニクラス設計の9ホール、ブリタニアGCもあり、ケイマン諸島には現在3コースある。
ケイマン諸島のゴルフ事情
ノースサウンドGCで開催された「カリビアン・アマチュアゴルフ選手権」。グランドケイマンの男子チームが優勝した。
「ゴルフはレクリエーションで楽しいもの」
一方でジュニア教育にも注力
イギリス人によってケイマン諸島に持ち込まれたが、これまでなかなか発展しなかったゴルフ。
それがここ10年間で、飛躍的に発展を遂げ現在では海外メジャーに出場できるレベルのアマチュアゴルファーが登場するようになった。
ここではケイマン諸島の現在のゴルフ事情を探る。
アーロン・ジャービスは、ネバダ大学ラスベガス校出身のアダム・スコットの後輩にあたり、ゴルフ部に所属。1列目の右から2番目がジャービスだ。
ケイマン諸島のゴルフの普及
ケイマン諸島のゴルフの普及と発展の歴史を遡ると、1992年にゴルフ協会(以下CIGA)を設立したことに始まる。
あらゆる年齢層、技術レベルのゴルファーを対象としたイベントや、プログラムを開催する協会だ。
ジュニアや女性向けのクリニックから、エリートアマチュア競技まで幅広くカバーし、ゴルフは楽しく健全に楽しめるものであるというメッセージを送っている。
この協会は非営利団体であり、会費やトーナメント参加費、スポンサーなどによって経費が賄われている。
現在は250名の正会員がおり、ジョナサン・ジョイスが会長を務めている。
CIGAは特にジュニア教育に力を注いでおり、7~18歳までの子供たちが対象。
ジュニアを指導する地元のゴルフプロが支援しており、ジュニアが練習施設を使ったり、ラウンドできるようにしたり、あるいは島内の試合を開催して、競技の機会を提供。
さらには島外の試合への出場も支援している。
スコットランド人夫婦のゴルフへの貢献
今から20年以上前に、スコットランド人のポール・ウッドハウスとその妻が、ケイマン諸島に移り住んだ。
彼らは共に熱心なゴルファーで、ノースサウンドGCのメンバー入りを果たし、CIGAの役員に選出された。
2013~2020年にかけて会長に選出されたウッドハウス氏は、ゴルフ施設開発の立ち上げや運営に携わったのだ。
特に、ジュニアのゴルフに注力したのがキーポイントで、カナダ人のプロゴルファー、ブラッド・シフォードらがコーチを務め、100人ほどのジュニアがゴルフを始め、その保護者たちのサポートや関心を高めた。
「母親たちに関わってもらうことは、サポート、努力、推進力、仲間意識を高めるのに不可欠」とウッドハウス氏は強調している。
子供たちは早朝から夜までゴルフに一生懸命取り組んでいたが、いつしか才能あるジュニアが現れ始めた。
ウッドハウス氏は常にジュニアたちに寄り添い、手助けし、2人の米国人プロを1か月間招いて、年齢別や能力別の指導を実施したのである。
「大成功でしたね。みんなやる気満々で、指導やトレーニング、能力開発の必要性を勉強しました」とウッドハウス氏は語る。
2018年、彼はノースサウンドGCで「カリビアン・アマチュアゴルフ選手権」を主催し、グランドケイマンの男子チームが優勝。
その中には、アンドリュー・ジャービス(当時19歳)、アーロン・ジャービス(当時15歳)、そして最終ホールでパットを決め、優勝に導いたジャスティン・ヘイスティングス(当時14歳)がいた。
ケイマン諸島の星アーロン・ジャービスがオーガスタへ……
2022年「ラテンアメリカ・アマチュア選手権(以下LAAC)」に優勝し、「マスターズ」と「全英オープン」の出場権を得たジャービス。ケイマン諸島から初めて海外メジャー出場者が誕生した。
今年の「マスターズ」に出場したアーロン・ジャービス。通算11オーバーで予選落ちした。
「LAAC」で優勝直後のアーロン・ジャービスと家族の記念写真。
アダム・スコットの後輩が世界へ羽ばたいた
2022年1月の「ラテンアメリカ・アマチュア選手権」で1打差で見事に優勝した19歳のアーロン・ジャービスは、同年の「マスターズ」に出場。
オーガスタでの練習ラウンド中、隣のホールにタイガー・ウッズを発見し、一緒にプレーさせてほしいと頼んだのだそうだ。
その後「全英オープン」にも出場し、予選通過。出身地ジョージタウンの30人以上の応援団と、本人が在籍するネバダ大学ラスベガス校のゴルフ部コーチなどを引き連れて、4日間戦った。
「セルヒオ(ガルシア)とのプレーは最高でした。夕食も誘ってくれたんです。マスターズに出場して以来、精神面が成長したと思います」と語っている。
また練習日には、ネバダ大学の先輩のアダム・スコットや、ブライソン・デシャンボー、パドレイグ・ハリントン、ジョン・ラーム、フィル・ミケルソンらと積極的に練習ラウンドを行なったのだ。
彼は過去、フロリダのレッドベターアカデミーで2年間を過ごし、技術だけでなく、ゴルフの知識も学び、トレーニングにも一生懸命取り組んだ。
現在19歳の彼は、将来プロゴルファーになりたいと思っている一方、ホスピタリティの学位も取得したいと思っているという。
ジャービス兄弟やヘイスティングス、女子アマのホリー・マクリーンなど、何人もの優秀なアマチュアを輩出しているケイマン諸島。
今後、この小さな島国からどんな選手が出てくるか、楽しみである。
ケイマン諸島には才能あふれる女子アマ、ホリー・マクリーン(18歳)もいる。2022年「カリビアン・アマチュアゴルフ選手権」で優勝し、2023年1月にはオクラホマ大学のゴルフプログラムに参加する予定だ。
Text/Susanne Kemper
スザンヌ・ケンパー(スイス)
オーストリア国籍、スイス在住。20年以上にわたって米国、欧州を中心に世界中を旅しながら、ゴルフ誌やライフスタイル誌に寄稿。5ヶ国語を操る。