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【ゴルフの夜明け】ヨルダン・ハシュミット王国 欧州文化と東洋のオリエンタル文化が混在する国

世界にはゴルフ文化のない国、あるいは最近ゴルフ場ができたばかりという国がいくつもある。
ここでは、「ゴルフ発展途上国」の歴史と文化、“ゴルフの夜明け”との関係性などを紐解いていく。
第14回はヨルダン・ハシュミット王国を紹介する。

欧州文化と東洋のオリエンタル文化が混在する国
ヨルダン・ハシュミット王国

サウジアラビア、イラク、シリア、イスラエル、パレスチナ暫定自治区と隣接。中東戦争によって、イスラエルに占領されたパレスチナからの難民を多く受け入れている。首都はアンマン。国土の80%は砂漠だ。

世界最古の歴史を持つアジア・アフリカ・ヨーロッパの交差点
中東のオアシス的存在の役割も……

©Getty Images

中東の砂漠に住む、アラビア語を話す遊牧民族べドウィンは、ヨルダンにも多く、「砂漠の民」と呼ばれている。ヨルダンのベドウィンは、ワディラムを管理しており、観光客相手に案内なども行なっている。

ヨルダン料理には、ベドウィン文化に由来する伝統的な食事「マンサフ」や、「フムス」「マンディ」「ケバブ」などがある。また、ヨルダンのワインやビールもあるので、試してみては……。

©Getty Images

ヨルダンの世界遺産「ペトラ遺跡」は、アラブの一族(ナバテア人)が切り立つ岩肌を削り、大都市を造り上げたもの。写真はエル・ハズネ(宝物殿)と呼ばれる建物で、紀元前30年~9年の間に建設された。映画「インディー・ジョーンズ最後の聖戦」の撮影が行なわれた場所。

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世界で最も低い場所にある塩湖・死海。海抜マイナス423メートルで、塩分濃度は約30%と、通常の海水の約10倍。そのため浮力が強く、プカプカと浮かぶことが出来る。また、死海の海水は肌にいいと評判。

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旧約聖書の舞台「ネボ山」は、宗教上重要な地で、頂上からは聖地や南ヨルダンを見渡すことができる。聖書では、モーゼが初めて「約束の地イスラエル」を目にした見晴らしの良い地であり、モーゼが最後を迎えた場所として知られる。

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ペトラ遺跡から、車で約2時間の場所に位置するワディラム砂漠。赤茶色の砂漠と、巨大岩石で作り出された美しく壮大な景色が広がっている。ロッククライミングや満天の星空を堪能できるキャンプなど、アクティビティも充実。

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街の中心部に位置する、アンマンのシンボル的存在の「アブドラ国王モスク」。華麗なモザイク模様が入った青いドームが美しい。「青い屋根の寺院」とも呼ばれる。

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ヨルダン南部に位置する港湾都市アカバは、ヨルダン唯一の海の玄関口(アカバ湾)で、紅海を経てインド洋に通じる。アジア、アフリカ、ヨーロッパをつなぐ交易の要衝で、海の向こうにイスラエルの街並みが見える。

きな臭い紛争国に囲まれた中東の平和的存在

アジア、アフリカ、ヨーロッパが交差する場所に位置するヨルダン。
アラビア語を公用語とし、中東・西アジアに位置する立憲君主制国家だ。
イスラエル、パレスチナ暫定自治区、サウジアラビア、イラク、シリアと隣接し、イスラエル、パレスチナ暫定自治区とはヨルダン川と死海が国境となっているが、このように紛争当事国に囲まれながらも、平和と安定をもたらす重要な役割(安定のオアシス)を演じている。
パレスチナ難民だけでなく、2003年のイラク戦争や2011年に勃発したシリア内戦を経て、イラク人やシリア人が大量に流入しているが、彼らにもヨルダン国民同様、教育や保健医療などの公共サービスを提供しているため、急激な人口増加による財政負担の増大が、大きな問題となっている。

世界最古級の歴史を持つヨルダンはキリストの洗礼の地でもある

ヨルダンの歴史は、世界でも最も古く、およそ50万年前の旧石器時代から人類が住み着いていたことが知られている。
紀元前8000年紀には人類最古級の農業が営まれていた。アッシリア、バビロニア、ペルシア、ローマ、ビザンチンといった帝国がその後支配し、最後はオスマン帝国がこの地域を統治したが、1921年にはハーシム家(預言者ムハンマドの曽祖父ハーシムの子孫の家系)により、トランスヨルダン王国を建国。
イギリスの保護国となった。第2次世界大戦後の1946年には、トランスヨルダン・ハシェミット王国として独立。
1949年には国名を、現在のヨルダン・ハシェミット王国に改名した。そして、1994年にはイスラエルと平和条約を締結した2番目のアラブ国家(1番目はエジプト)となっている。

国民の90%以上はイスラム教徒だが、ヨルダンといえば、イエス・キリストが洗礼を受けた場所(ヨルダン川のベタニア)があることでも知られている。
アンマンから観光ツアーも出ており、キリスト教徒の巡礼地になっているが、川幅の狭いヨルダン川(国境)の向こうはすぐにパレスチナである。

死海やペトラ遺跡など観光資源が豊富なヨルダン

際立った産業や輸出製品はないが、ペトラ遺跡やワディラム砂漠、ジェラシュ遺跡といった観光資源を生かした産業に力を入れている。
アンマンやアカバ、イルビドではナイトライフも好評で、ロックバンドが夜を盛り上げる。
また、塩湖でプカプカと浮遊体験を楽しめる「死海」は特に人気。浮遊だけでなく、塩分による治療や肌へのエステ効果も期待できるのだという。

2000年代のヨルダンは、年率5%以上の高い経済成長を実現していたが、2008年の世界的金融危機の影響で経済は落ち込み、2010年代の「アラブの春」や「シリア内戦」、ISISの台頭などの影響から観光業は大きな打撃を受けた。
外貨収入は減り、一方で難民の流入による負担が増大しているため、財政は危機的な状況にある。

ヨルダンの一番人気スポーツはサッカー、バスケ

ヨルダンではスポーツが盛んに行なわれているが、一番人気はサッカー、2位はバスケットボールだ。
ゴルフに関しては、2014年にヨルダンゴルフ連盟が発足したが、現在、ゴルフ文化を育てようと、草の根レベルで活動している。

アイラゴルフクラブ
Ayla Golf Club

ナイターコースも完備する、本格的チャンピオンシップリンクス

©Ayla Golf Club

ヨルダンの海の玄関口・アカバ湾に面した美しいリンクスコース。

グレッグ・ノーマン設計のヨルダン初の18ホールコース

©Ayla Golf Club

波を打ったようなユニークな形状が目を引くクラブハウスは、ベドウィンの古代の建築遺産に敬意を表し、オッペンハイム建築設計事務所によって設計された。

©Ayla Golf Club

「アイラ」と呼ばれるゴルフ&ビーチリゾートには、ホテルのほか、居住施設もあり、ビーチやゴルフ場に隣接している。モダン建築で、内装はシンプルで快適。

©Getty Images

欧州男子下部ツアー、欧州女子ツアー、欧州シニアツアーの選手が一緒に戦う「ヨルダン・ミックスオープン」が2019年にアイラGCで初開催。写真は欧州女子ツアーメンバーのメーガン・マクラーレン(英国)。

©Ayla Golf Club

2019年にアイラで開催された「ヨルダン・ミックスオープン」で優勝したシニア、男子、女子の各部のチャンピオンたち。左からホセ・コセレス(アルゼンチン)、ダアン・フイジング(オランダ)、メーガン・マクラーレン(英国)。

©Ayla Golf Club

昨年10月末にアマチュアの大会「ヨルダンオープン」がアイラGCで行なわれ、男子の部、女子の部、ジュニア(14歳以下の部と19歳以下の部)が戦った。写真は各部門別の1位~3位。ヨルダンだけでなく、サウジアラビア、チュニジアなどの近隣諸国のアマチュアも参加。

©Ayla Golf Club

80万㎡の広大な敷地を使ってグレッグ・ノーマンによって設計されたアイラGC。人工の池や川の水は、地下水の貯水池となっている。また、渡鳥たちのオアシスにもなっている。

ヨルダンで唯一の芝の18ホールコース

2016年、ヨルダンに「アイラゴルフクラブ」が誕生した。
ヨルダン初の芝の18ホールコースで、全長7152ヤード、パー72の本格チャンピオンシップコースである。

グレッグ・ノーマンの設計で、どんなレベルのプレーヤーでも楽しめるように様々なティーグラウンドを用意。
起伏のある80万㎡以上の敷地にコースは広がり、周囲の山々の景観がもたらす壮観な眺めに感嘆の声を上げるゴルファーも多い。
アイラのシグネチャーホールは6番ホールのパー3(219ヤード)だ。

このコースで2019年に「ヨルダン・ミックスオープン」が開催され、欧州男子下部ツアー、欧州女子ツアー、欧州シニアツアーの選手がこのコースをプレーした。
その他、MENAツアーの試合も開催したことがある。
欧州女子ツアーのメディアディレクターは「アイラの2~3ホールからは国境を越えてイスラエルまで見えるのも興味深い」と語っている。

また、1085ヤード、パー27のナイターコースも完備。
ドライビングレンジやショートゲーム、パッティングの練習場に至るまで、広大な練習施設がある。
さらに屋内スイングスタジオが2か所、屋内パッティングスタジオが1か所利用できる。

モダンな設計のクラブハウスには、終日食事が可能なレストラン「シリカ」があり、その他プロショップもあり、クラブの修理も可能だ。

Photo/Ayla Golf Club,Getty Images

ビシャラットゴルフクラブ

ヨルダン初の9ホールのサンドゴルフコース

Photo/Bisharat GC Webサイトより

アンマンの近くにある全長2754ヤード・パー34のサンドコース。3つの丘にまたがるレイアウトになっている。

Photo/Bisharat GC Webサイトより

パッティング面は、グリーンならぬ「ブラウン」で、細かい砂にオイルを混ぜたものとなっている。

Photo/Bisharat GC Webサイトより

人口マットを持ち歩き、その上からショットするのが、このコースの回り方だ。

1990年にオープンしたヨルダン初のパブリックコースは、首都アンマン近郊にあり、このエリアの素晴らしい景観が堪能できる。
2つの渓谷の中にレイアウトされ、距離は全長2754ヤードと短いが、トリッキーで難しい。
ショットの正確性が求められるコースである。
ゴルフカートは利用できないが、キャディが付き、手引きカートがあるので歩きやすい。
ラウンド中は人工マットを持ち歩いて、その上にボールを乗せて打つのがお作法だ。

Photo/Bisharat GC Webサイトより

アイラGCの素晴らしい練習環境がヨルダンのゴルフ文化を育成

©Jordan Golf Federation

昨年の「ヨルダン・ジュニアゴルフリーグ」に参加したヨルダンの女子ジュニア

©Jordan Golf Federation

エジプトのパームヒルズGCで開催された「エジプト・ジュニアオープン」で優勝したヨルダンの男女ジュニアたち。

©Jordan Golf Federation

普段、アイラGCで練習しているヨルダンのトップアマ、ハムザ・サルマンくん。

ヨルダンの星
シェルゴ・アル・クルディ

©Eiko Oizumi

昨年のアジアンツアー「インターナショナルシリーズ・エジプト」に参戦していたクルディ(右)。

©Eiko Oizumi

2021年12月にプロ転向。DPワールドツアー(欧州ツアー)で、18歳の時に中東出身のゴルファーで予選通過を果たしたことが話題となった。

©Jordan Golf Federation

「全英オープン」の予選会に出場したクルディだが、本戦出場は叶わなかった。

ジュニアゴルファーの育成と試合数を増やすことが目標

ヨルダンゴルフ連盟(以下JGF)は、2014年に創立し、2016年に国際ゴルフ連盟(IGA)に加盟。
現在、アンマンにあるヨルダンオリンピック委員会内で活動している。

連盟にはアイラGCとビシャラットGCの2つのクラブで練習する有力な選手たち100名が登録されているが、オリンピック委員会の傘下にあるJGFが重視しているのは、年齢や性別を問わず、ヨルダンでの試合を増やすことと、ゴルフ施設を最大限に増やして改善することなのだそうだ。

ヨルダンでのゴルフ文化は、1990年、アンマンのビシャラットGCがオープンしたことに起因するが、30年以上経っても、ヨルダンではゴルフは依然として馴染みが薄かった。
だが、アイラGCがアカバにできてからは、素晴らしいコースや練習施設とともに、広がりを見せている。
2019年にはDPワールドツアーの大会「ヨルダン・ミックスオープン」を開催するという歴史的な出来事もあったが、ジュニアの試合を開催する他、学校でゴルフクリニックを行なうなど、ジュニアの育成にも力を入れている。

ゴルフ連盟に登録されている選手たちは、アイラGCやアル・ビシャラットスタジアムの練習場を使用することができ、年齢によっては他のオプションやプログラムを利用することができる。
特に連盟は女性とジュニアをゴルフに取り込もうと特別プログラムで応援。ヨルダンゴルフの海外からの評価は高い。

初のヨルダン人イケメンプロ
クルディに注目!

現在、プロとして活動するシェルゴ・アル・クルディはヨルダンの草分け的ゴルファーで、MENAツアー(中東・北アフリカのツアー)でプレーし、賞金王に輝いた。
イングランド生まれだが、ヨルダンで育った彼は、父親の影響でゴルフを始め、女子プロのスーザン・ペテルセンと手合わせしたこともあったという。
欧州やアジア、中東のアマチュア試合に出場していたが、2021年にプロ転向。
ゴルフサウジのアンバサダーに就任し、2022年DPワールドツアー「ラス・アル=ハイマクラシック」で初めて決勝ラウンドに駒を進めたアラブ人プレーヤーに。
最近は、アジアンツアーやLIVゴルフでもプレーしているが、彼の今後の活躍に注目だ。

Photo/Jordan Golf Federation,Eiko Oizumi 

Photo/Getty Images、Ayla Golf Club、Bisharat Golf Club

Text/Susanne Kemper

スザンヌ・ケンパー(スイス)
オーストリア国籍、スイス在住。20年以上にわたって米国、欧州を中心に世界中を旅しながら、ゴルフ誌やライフスタイル誌に寄稿。5ヶ国語を操る。

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