2023 MASTERS
2023年4月6日〜9日 Augusta National Golf Club 7545ヤード・パー72
世界最強のジョン・ラームがマスターズ初制覇!
セベ・バレステロスの誕生日に、スペイン勢4人目の優勝者誕生
昨秋から覚醒! 今年すでに4勝と無敵の王者
優勝
ジョン・ラーム(スペイン)
1994年11月10日生まれ。188センチ、100キロ。バスク州ビスカヤ県バリカ出身で、アリゾナ州立大に進学。2016年「全米オープン」でローアマを獲り、その後プロ転向。2021年「全米オープン」などメジャー2勝。PGAツアー11勝、その他8勝。ニックネームはランボー。世界ランク1位。
優勝直後、ケリー夫人(左から2番目)と2人の子供(ケパとエネコ)に18番グリーンで祝福されたラーム。
Photo/Augusta National Golf Club, Getty Images
現在、自他共に認める「世界最強の男」ジョン・ラーム。
LIVゴルフに移籍したかつての「メジャー最強男」を逆転し「マスターズ」で初優勝を飾った。
奇しくも最終日は、子供の頃のヒーローだったスペインの巨星セベ・バレステロスの誕生日。
スペイン勢の「マスターズ」での勝利の歴史は、バレステロスからオラサバル、ガルシア、ラームと着実に紡がれている。
連日首位をキープしてきたブルックス・ケプカ(右)を逆転したラーム。最終ラウンドを終え、お互いの健闘をたたえあった。
最終日、アーメンコーナーの12番ホール(パー3)でショットを放つジョン・ラーム。
「マスターズ」と「全米オープン」で優勝した初のヨーロッパ人に
4月9日はスペインの巨星、故セベ・バレステロスの誕生日だが、スペイン人のジョン・ラームがバレステロスの誕生日に「マスターズ」で初優勝。
これでグリーンジャケットを手にしたスペイン人は、セベ・バレステロス、ホセ・マリア・オラサバル、セルヒオ・ガルシアに続き、4人となった。
第2ラウンドを終えた時点で、1位ブルックス・ケプカ(12アンダー)、2位ジョン・ラーム(10アンダー)、3位サム・ベネット(アマチュア・8アンダー)と、ケプカとラームのほぼ一騎打ちの様相を呈していた。
第3ラウンドを終えた時点でも、ケプカの背後に2打差でピタリとつけていたラームだが、最終ラウンドに突入すると、ケプカがスコアを伸ばせず、後退。
フロント9でスコアを3つ落とし、首位の座をラームに譲ると、その後はバーディを取っては、ボギーも叩くという出入りの激しいゴルフで通算8アンダーにまでスコアを落とし、優勝争いからは脱落してしまった(最終ラウンドは75)。
なお、最終日の日曜日は、悪天候のため前日からの第3ラウンドの残りを持ち越しており、最終組のケプカとラームは、1日で30ホールを消化しなければならないという長い1日だった。
「すごくガッカリしたよ。優勝するのに十分なプレーができなかった。そんなに悪いゴルフをした感じはないんだけど……。我慢強くプレーしたが、仕方がない。全力を尽くしたし、今日はよく眠れるよ。俺も健康であれば優勝争いができる。今日のジョンは、とても素晴らしいプレーをしていたよ」(B・ケプカ)
一方ラームは、9番でボギーを叩いたものの、4バーディ、1ボギーの69をマークし、2位のケプカ、フィル・ミケルソンに4打差をつけて優勝。
最終18番ホールでは、2打目をグリーン手前のバンカーの手前に運び、そこからピンそば1・5メートルにつけパー。
カップインした瞬間、天を仰ぎ、グリーンサイドで待っていたケリー夫人と2人の子供たち、両親と喜びを分かち合った。
そして、スペインの「マスターズ」チャンピオン、オラサバルもグリーンサイドに駆けつけ、ラームの優勝を祝福した。
「言葉にならないほど嬉しい。僕にとっても、スペインのゴルフにとっても大きな出来事だし、今回の優勝は、スペイン勢ではメジャー10勝目、マスターズでは4人目の優勝。そして個人的には、メジャー2勝目を飾ることができた。本当に信じられないほど嬉しいよ」
「『マスターズ』と『全米オープン』に優勝した初のヨーロッパ人選手になれたなんて、信じられない。歴史を作ったんだ。どんなことよりも達成感があるね。僕の前にはたくさんの偉大な選手たちが欧州にはいたが、自分がその初めてのプレーヤーになったなんて恐縮してしまう」
メンタルコントロールができていたランボー
以前はスコアを崩すと、顔を真っ赤にして怒っていた「ランボー(彼の愛称)」も、今ではメンタルコントロールができるようになっており、昨年の8月から現在に至るまで、〝最強のラーム〟を維持している。
「ここ最近では、自分が世界で一番強いと思える」というほど、自他共に認める世界トップランクのプレーヤーだ。
ほか、スコッティ・シェフラー、ローリー・マキロイと世界ランク1位の座を巡って激しく争っているが、今年に入ってすでに4勝をしているラームには、死角が見当たらない。
「(今日の)僕は、落ち着いていた。決してフラストレーションがたまることはなかった。全てがコントロールされている感じだった。もちろん緊張はしていたけどね。9番でボギーを叩いた時は、あまりメンタルのコントロールがうまくいってなかった。なぜなら、フィル(ミケルソン)とジョーダン(スピース)が、バーディを取って追い上げてきたのがわかったから。10~12番もタフだった。見た目には落ち着いているように見えていたかもしれないが、かなり緊張していた」
「マスターズ」と「全米オープン」で優勝した初のヨーロッパ人に
最終日の17番ホールを終え、4打差をつけて最終ホールのティーショットを放つラーム。
優勝後の会見に、グリーンジャケットを着用して臨むジョン・ラーム。優勝の喜びを語った。
ジョン・ラームにゴルフを教えた父、エドルタさん(右)と「マスターズ」初制覇に大いに貢献したキャディのマイク・ヘイズさん(左)。
PGAツアーのラームが優勝。2位タイにLIVゴルファー2人
最終ラウンドの最終組は、ブルックス・ケプカとジョン・ラームの2サムだったが、記者に「パトロン(観客)の自分自身への応援が、いつもよりも多く感じられたか?」と優勝会見で問われると「いや、そうでもなかったね。最初はブルックスがリードしていたし、彼への声援が多かったから。でも、8番で僕がバーディを取り、(ケプカを)逆転してからは、9番でボギーを叩いても、かなり応援してくれていた。バック9に入ると『セベ!セベ!セベ!セベのために優勝しろ!』という声も聞かれるようになった。この言葉が最も今日は気持ちのコントロールを難しくさせた。もし優勝したらと思うと、感情的になってしまうから」
今回の「マスターズ」は、「LIVゴルフVSPGAツアー」というような見方をするゴルフファンも多かったと思うが(実際、メディアもそうだ)、彼らの組についているパトロン(観客)たちの反応を見ていると、どちらかといえば、米国人のケプカよりも、ラームに対する声援が終盤になるにつれ、大きかったのは確かだった。
「マスターズ」のパトロンは、どんな選手にも平等に拍手や声援を送っており、選手たちの素晴らしいプレーをたたえてはいた。
しかし、それでもLIVゴルフに対して嫌悪感を抱いている人もいるんだな、というのは彼らの声援を聞いていてわかった。
私が最終組についているパトロンたちの群衆に紛れて観ていた限り、ケプカがスコアを落とすと喜んでいた人たちの方が多かったからだ。
結局、優勝したのはPGAツアーのジョン・ラームだが、LIVゴルファーのフィル・ミケルソン、ブルックス・ケプカの2人が2位につけた形となった。
パトリック・リードも4位タイである。
巨額の移籍金と賞金を手にしてLIVゴルフに移籍したからといって、〝ぬるま湯の中で腕がなまったとは言われたくない〟〝どこで戦っても、優勝争いできることを証明したい〟というのが、彼らの正直な気持ちだったのだろう。
LIVゴルフの代表選手であるミケルソン(52歳)は、若手選手に交じり、最終ラウンドで7つスコアを伸ばし、一気に2位タイまで浮上。
LIVゴルファーの旗頭を務める彼には人一倍、その気持ちが強かったのかもしれない。
5月には海外男子メジャー第2戦の「全米プロ」が、ニューヨーク州ロチェスターの「オークヒルCC」で開催される。
世界ランキングポイントを獲得することができず、メジャー出場が日に日に困難となっているLIVゴルファーたちだが、2年前に50歳で「全米プロ」優勝を果たしたフィル・ミケルソンや、過去数年以内にメジャー優勝しているカテゴリーで出場できるブルックス・ケプカ、ダスティン・ジョンソン、ブライソン・デシャンボー、キャメロン・スミスのほか、昨年、ウィル・ザラトリスらと「全米プロ」で優勝争いをしたミト・ペレイラらが出場する。
18人のLIVゴルファーが出場した「マスターズ」と比べれば、少人数のLIVゴルファーしか出場できず、雰囲気は一変するだろう。
いったいどんな戦いが展開されるのか、楽しみである。
最終成績
優勝 | ジョン・ラーム | −12 |
2位 | フィル・ミケルソン ブルックス・ケプカ | −8 |
4位 | ジョーダン・スピース パトリック・リード ラッセル・ヘンリー | −7 |
7位 | キャメロン・ヤング ビクトル・ホブラン | −6 |
9位 | サヒス・シーガラ | −5 |
10位 | スコッティ・シェフラー マシュー・フィッツパトリック ザンダー・シャウフェレ コリン・モリカワ | −4 |
16位 | 松山英樹 サム・ベネット(アマ) | −2 |
39位 | アダム・スコット | 5 |
48位 | ダスティン・ジョンソン | 8 |
50位 | フレッド・カプルス | 9 |
棄権/タイガー・ウッズ、ウィル・ザラトリス他
予選落ち/比嘉一貴、ジャスティン・トーマス、ローリー・マキロイ、セルヒオ・ガルシア、ババ・ワトソン
Text/Eiko Oizumi
大泉英子
「ゴルフ・グローバル」編集長。海外メジャー取材は男・女・シニア合わせて130試合以上。現在も海外ツアーをメインに取材。全米ゴルフ記者協会、欧州ゴルフ記者協会、日本ゴルフジャーナリスト協会会員。