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【海外メジャー一気見せ大特集・前篇】ケプカが全米プロ優勝でメジャー5勝目! LIVゴルファー初のメジャー制覇!

ブルックス・ケプカ「全米プロ」優勝でメジャー5勝目達成!

©PGA of America

優勝

Brooks Koepka
ブルックス・ケプカ(米国)
1990年5月3日生まれ。PGAツアー9勝、欧州ツアー7勝、メジャー5勝。日本でも「ダンロップフェニックス」で2連勝を果たしている。2022年LIVゴルフリーグに移籍し、LIVゴルフ2勝。今年「マスターズ」ではジョン・ラームに逆転優勝を許し、2位タイに。

LIVゴルフ発足後、初のメジャーチャンピオン誕生!

©PGA of America

最終日・最終ホールの2打目を放つブルックス・ケプカ。

昨年6月にLIVゴルフの第1戦がスタートして以来、LIVゴルファー初のメジャーチャンピオンが誕生した。
かつて、「メジャーでしか勝てない」と言われた時期もあったブルックス・ケプカだ。
ヒザのケガで苦しんだ時期もあったが、ようやく復活だ。

 ヒザの痛みに苦しんだ日々を乗り越え、4年ぶりにメジャー優勝

©PGA of America

最終組でプレーし、2位タイに終わったビクトル・ホブラン(右)と、ガッツポーズで喜ぶケプカ。

©Eiko Oizumi

最終ホールのバーディパットをわずかに外し、苦笑いを浮かべるケプカ。

メジャーに強い男がヒザのケガを克服して復活

2017年、2018年と「全米オープン」で2連覇を果たし、2018年、2019年には「全米プロ」で2連覇を果たしたブルックス・ケプカが、4年ぶりに「全米プロ」でメジャー優勝。
本大会3勝目、メジャー5勝目を飾った。
「全米プロ」で3勝以上の選手には、ウォルター・へーゲン(5勝)、ジャック・ニクラス(5勝)、タイガー・ウッズ(4勝)、ジーン・サラゼン(3勝)、サム・スニード(3勝)と、ズラリとレジェンドの名前が並ぶが、ケプカはそのレジェンドたちの仲間入りを33歳にして果たした。

「メチャクチャうれしいね!この優勝は本当に特別なもので、今までの優勝よりも意味のあるもの。ここ数年、いろんなことがあったからね。でもこうして優勝争いの場に戻り、メジャー5勝目を飾れてよかった」

3年間でメジャー4勝を挙げていた当時、PGAツアーの試合よりも「メジャーのほうが勝ちやすい」と豪語していた彼だが、その後、ヒザの故障に悩まされ、2021年「WMフェニックスオープン」で優勝したものの、メジャー優勝からはしばらく遠ざかっていた。
そして去年の夏には、PGAツアーを離れ、LIVゴルフに移籍。
「もう試合で優勝争いができないかもしれない」とこぼしていた時期もあったが、ヒザの故障が、少なからず彼の移籍には関係している。

「今回の優勝は、間違いなく、自分が大きなことを成し遂げたということだ。汚い言葉で申し訳ないが、クソみたいにいろんなことが起きた。誰もそんなことは知らないし、僕の痛みなどわからない。ヒザを曲げることすら、できなかったんだからね」

ヒザの故障中の彼の苦悩をそばで理解し、サポートしていた人間は限られていた。
彼の両親、兄弟の他、キャディのリッキー・エリオットや昨年結婚したジェナ夫人とほか数名だ。
手術の際はキャディのリッキーが付き添っていたというが、メジャーで連勝していた絶頂期も、ヒザの故障で苦しい時も彼は常にケプカから離れずに見守っていた。
そんな彼をケプカは、「彼はどんな時も自分に向き合ってくれた。結婚式の時もいたし、家族の一員。リッキーもそれはわかっている。僕は彼が死ぬほど大好きだし、僕自身よりも、彼の方が僕の成功を心待ちにしてくれていた。素晴らしい仕事をしてくれたよ」と語る。
昨年結婚したジェナ夫人とともに、年の離れた兄のように、どんな時も常に寄り添ってくれるリッキーがいかに大きな存在であり、心強い存在だったことか。

苦しんだ時期があっただけに、今回のメジャー優勝は大きな意味がある。
以前よりももっと周囲の人間に対して、感謝の気持ちを持てるようになり、どれだけ一生懸命、メジャー優勝するために練習しなければならないのか、を理解するようになったと語った。

「マスターズでの失敗がなければ今回の優勝もなかった」
失敗から学んだケプカ・メジャー優勝の秘策

©PGA of America

最終日の17番ホールで、ラフに打ち込み、そこから脱出するケプカと、それを見守る大勢のギャラリー。

©PGA of America

優勝後の記者会見に臨むケプカ。「最高に嬉しい。この優勝がおそらく今までの優勝よりも意味のあるものだと思う」

「マスターズ」で学んだことと優勝までのプロセス

昨年の10月には「LIVゴルフ・ジェッダ(サウジアラビア)」で優勝し、今年も「マスターズ」直前の「LIVゴルフ・オーランド」で優勝。
昨年はダスティン・ジョンソンの賞金の荒稼ぎが目立ったが、今季のケプカは7月3日現在で、個人戦賞金ランク2位。
今後の活躍次第で賞金王も夢ではない。「オーランド大会」で優勝した時、彼は「今年の1月から、ヒザの調子も良くなり、ゴルフの調子も良くなってきた」と語っていた通り、「マスターズ」でも連日、リーダーボードの上位で優勝争いを続けていた。
最後は、ジョン・ラームに逆転され、2位タイに甘んじたが、メジャーで再び優勝争いできる、という大きな自信を取り戻せた1週間でもあった。

「優勝した時よりも、2位に終わった時の方が学びが多い。失敗からどのように学ぶかが大事で、それによって自分を改善できる。どちらかというとメンタル的なこと。カギは、自分に対して正直であることだ」

「マスターズ」で負けなければ、今回の優勝もなかったというケプカ。
失敗で学んだことがあるそうだが、今後もその学びをどの試合でも、どのメジャーでも優勝争いをするときには活かしていくという。
では、その学んだこととは?
ケプカは「秘密」と言って明かさなかったが、6月には「全米オープン」、7月には「全英オープン」を控えている。
それでもし優勝することがあれば、ケプカは完全にメジャー優勝の方程式をマスターしたことになるだろう。

LIVのためよりもまずは自分自身のために

今回の優勝で、彼の世界ランキングは、13位に浮上。その前週は44位だった。
現在、LIVゴルフでは世界ランキングポイントがもらえないため、ダスティン・ジョンソンやブライソン・デシャンボーなど、かつての世界ランク上位者たちは軒並み順位を下げている。
唯一、彼らにとってビッグポイントを獲得できるメジャーで活躍して、ポイントを稼ぐか、あるいはケプカのようにメジャーで優勝し、複数年のメジャー出場権を自力で手に入れなければ、メジャーの舞台に立つことはできない。

「今回の優勝は、LIVにとっても大きな優勝だが、同時に全米プロで個人として優勝争いできたことは大きい。優勝トロフィーを3度、家に持ち帰ることができて、ただただ嬉しい」

「僕はLIVイベントで初めて2勝を挙げた。メジャーで勝つことは、普段どこでプレーしていようが、常にすごいことなんだ。オーガスタで負けたことで、(僕がもうメジャーで勝てないんじゃないか? と)疑っていたかもしれないが、今回のことで自分を証明できた。僕はメジャーの優勝者として戻ってきたんだ」

この優勝で、それまでLIVを痛烈に批判していたローリー・マキロイは次のようにケプカを評価した。

「もちろんブルックスは、『ライダーカップ』の米国チーム入りを果たす価値のある選手だ」

「全米プロ」の後に、PGAツアー、PIF(サウジ政府系ファンド・LIVゴルフを開催)との電撃発表があり、両者が統合するという話になったが、「ライダーカップ」はPGAツアー下での開催ではないため、出場することはもともと可能だった。
現在、ケプカは米国チームランキングで2位につけているので、間違いなく出場することになるだろう。

2023全米プロ 最終成績

PGA Championship
2023年5月18日〜21日/Oak Hill CC・7394ヤード・パー70

優勝ブルックス・ケプカ−9
2位スコッティ・シェフラー
ビクトル・ホブラン
−7
4位キャメロン・デービス
カート・キタヤマ
ブライソン・デシャンボー
−3
7位セップ・ストラカ
ローリー・マキロイ
−2
9位キャメロン・スミス
パトリック・キャントレー
ジャスティン・ローズ
−1
29位松山英樹+5
50位ジョン・ラーム+7
58位フィル・ミケルソン+10
62位星野陸也+11
76位比嘉一貴+20

予選落ち マシュー・フィッツパトリック、リッキー・ファウラー、ジェイソン・デイ

Text/Eiko Oizumi

大泉英子
「ゴルフ・グローバル」編集長。海外メジャー取材は男・女・シニア合わせて130試合以上。現在も海外ツアーをメインに取材。全米ゴルフ記者協会、欧州ゴルフ記者協会、日本ゴルフジャーナリスト協会会員。

Photo/Eiko Oizumi、PGA of America、Getty Images

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