ゴルフ界隆盛の礎を築いたレジェンドたちの栄光を振り返る「Legends of Golf」。
シニアツアー史上、最強のプロゴルファー、ベルンハルト・ランガー。
今年の「マスターズ」で引退する予定だったが、アキレス腱断裂のため欠場することになった。
ドイツ出身の寡黙な職人の、これまでを振り返る。
Bernhard Langer
米シニアツアーで、史上最多記録46勝を達成!
「マスターズ」で2勝を誇る、ドイツ史上最高のプレーヤー
米シニアツアー史上最多優勝記録達成!
65歳で「全米シニアオープン」優勝
ヘール・アーウィンの持つシニア45勝を塗り替えたドイツ人の教訓
ベルンハルト・ランガーの「マスターズ」での幕引きは延期されることになった。
ドイツのスターであり、「マスターズ」で2勝を達成。50歳以上の選手が出場するPGAツアーチャンピオンズ(米シニアツアー)史上、最も成功した選手の1人であるベルンハルト・ランガーは、4月にオーガスタナショナルGCで行なわれる「マスターズ」での最後の出場が予定されていた。
1985年と1993年にグリーンジャケットを獲得したランガーは、2月初旬にフロリダ州ボカラトンの自宅でトレーニング中にアキレス腱を断裂。
現在、療養中である。
66歳という年齢にもかかわらず、ランガーはゴルフ界でも最も健康な選手の1人であるため、彼がトレーニング中にケガをしたこと自体は不思議ではなかった。
むしろ、健康状態が良好であったため、全くケガをしてこなかったこと自体が驚きであった。
ランガーはDPワールドツアー(欧州ツアー)で42勝しており、世界ゴルフ殿堂入り選手であるが、50歳以降に参戦したシニアツアーでも、その活躍は際立っている。
ランガーはPGAツアーチャンピオンズで46勝を挙げ、「全米オープン」3勝のヘール・アーウィンの持つ45勝という破られることのないと思われていた記録を塗り替えた。
この時彼は、昨年7月にウィスコンシン州スティーブンスポイントのセントリーワールドで開催された「全米シニアオープン」で優勝。
65歳10か月5日でシニアツアー史上最年長の優勝者となったのだった。
「私の母は8月4日に100歳になるので、良い遺伝子を持っていると思う」とランガー。
シニアメジャーで12勝目を飾ったあとでそう語ったが、この記録もまた前人未到の記録である。
「たぶん今後数年は、僕も生きられるだろうね」
残念ながら、母のワルブルガさんは昨年末に亡くなった。
信心深いクリスチャンの彼は、母と父エルヴィンさん(職業はレンガ職人)が人生の基礎を与えてくれたと述べた。
「(父母から教えてもらった)最も大切な教訓は、常に正直で率直であること、嘘をつかないこと、ごまかさないことだった」と彼は述べた。
「子供の頃、いくつかのことから逃げようとしたが、あまり良い結果にはならなかった。だから私は苦労して学んだんだ。しかし、それは素晴らしい教訓にはなった。だからイエスならイエス、ノーならノーと自分の言葉を守り、約束をしたら実行し、仕事をするなら、何であれ、何でも一生懸命にやること。これが私の両親から教わったことだ……100%、全力を出して、自分がやっていることを誇りに思ってほしい」
世界の「マスターズ」を制覇した真のマスター
1957年8月27日にドイツのバイエルン州アンハウゼンで生まれたランガーが、プロ入りしたのはわずか15歳の時だった。
プロゴルファーとして活躍するまでには時間がかかったが、彼は公式世界ゴルフランキングで1位に上り詰めるなど、輝かしいキャリアを持つことになる。
実際彼は、1986年に世界ランキングが作られた時、最初のNo・1プレーヤーだった。
彼の持ち前の粘り強さと意志の強さの象徴として、ランガーはパッティングのイップスと闘いながらも成功を収めた。
彼はイップスと闘うためにさまざまな方法を用いた最初の選手だった。
特に注目すべきは「アームロック技術」であり、他の選手たちが後にさまざまな形で彼を模倣することになる。
彼は1975年、「ドイツ・ナショナルオープン選手権」でプロ入り後、初勝利を挙げたが、自国で挙げた13勝のうち唯一、欧州ツアーではない試合だった。
1980年の「ダンロップ・マスターズ」で最初のDPワールドツアータイトルを獲得したが、これは予言的だった。
彼は「マスターズ」という名前を冠したトーナメントのマスターだったのだ。
その後、「ドイツ・マスターズ」、「オーストラリア・マスターズ」、「アルフレッドダンヒル・マスターズ」、そして「アルゼンチン・マスターズ」を制覇し、オーガスタナショナルでの「マスターズ」でメジャー2勝している。
彼はまたドイツ代表として、12回の「ワールドカップ」に出場し、「ライダーカップ」には欧州チームメンバーとして10回出場。
最後は2004年、デトロイト近郊のオークランドヒルズCCで行なわれた「ライダーカップ」でキャプテンを務め、米国チームに9ポイント差で圧勝した。
それは当時、ヨーロッパ最大の得点差であり、2021年の「ライダーカップ」で米国チームに抜かれるまでは、史上最大の勝利得点差の歴代記録と並ぶものだった。
ランガーの、長く成功を収めるコツ
「長年のキャリアの中で休息をとること、自分のペースをつかむことを学んだ」
ゴルフ人生の晩年を迎えているランガー
ランガーは50年以上、プロゴルファーとして活躍中だ。
彼は「マスターズ」への最後の出場を、どのように扱うかについて確信が持てなかったが、もちろん2025年に出場することを前提とするなら、それについて考える時間はもっと増えるだろう。
彼は「マスターズ」に40回出場し、トップ10入り9回、トップ25入り15回を果たした。
27回、予選通過を果たしており、最後に予選を通過したのは2020年、29位タイだった。
彼の「マスターズ」でのキャリアは終わるが、引退するとは思わないでほしい。
彼はもう少し長く現役でいたいと述べており、その可能性は非常に高い。
「私にとって、それはある意味簡単だ。私は非常に競争心の強い人間だからね」とランガーはスポーツを続ける動機について語った。
「ほとんどの方がご存じのように、私は非常に若くしてゴルフを始めた。15歳でプロになり、18歳でツアーに参加したので、非常に長い間やっている。時々休息をとることを学び、自分のペースをつかむことを学んだんだ。休憩が必要な時や、ゴルフから離れて回復する時間が必要な時には、自分の体の声に耳を傾けている。その合間に他のこともしているよ」
「トーナメントの時期が来ると、いつも行きたくて仕方がない。競技ゴルフは、私の人生において大きな部分を占めており、ゴルフなしの人生を想像するのはほとんど難しいほどだ」
そして、ベルンハルト・ランガーなしのゴルフ界を想像するのもまた難しい。
Photo/Getty Images
Text/Dave Shedloski
デーブ・シェドロスキー
(アメリカ)
長年にわたり、ゴルフトーナメントを取材。著書にアーノルド・パーマーの伝記『A Life Well Played』やジャック・ニクラスの『ゴールデン・トワイライト』などがある。