昨年、小平智がPGAツアー初優勝を挙げた「RBCヘリテージ」で、再びアジア人のツアー初優勝者が誕生した。台湾のCTパンだ。
彼は2015年にプロ入りし、過去PGAツアーカナダで2勝を挙げているが、PGAツアーは今大会で初優勝。3日目を終えて、世界ランク1位のダスティン・ジョンソンが単独首位に立っていたが、最終日77を叩く大失速で28位に転落。一時はシェーン・ローリー、マット・クーチャーら5人が首位に並ぶ大混戦を、168cmの小柄なパンが通算12アンダーで制した。台湾人選手のPGAツアー優勝は、「ジェネシスオープン」(旧ロサンゼルスオープン)で優勝した陳志忠以来32年ぶりの快挙だ。
「本当に夢みたいだ。こんな勝ち方、想像もしていなかったよ。毎週出ていてもなかなか勝てないトーナメントで優勝できたなんて信じられない!」
「タイガー・ウッズに憧れていた。PGAツアーで勝つために、アメリカの大学に入り、こうしてPGAツアーにやってきたんだ。そこで勝ててうれしい」
パンは母が台湾のゴルフ場のキャディを務め、父もまたゴルフ場で働いていたことから幼少の頃からゴルフには慣れ親しんでいた。5歳からゴルフを始め、ジュニア時代から活躍し、世界アマチュアランキングでは2013年に8週間、1位だったこともある。4年に1度のアジア版オリンピック「アジア競技大会」では、2014年に個人戦、団体戦で金メダルを獲得。世界最高峰のPGAツアーに出て優勝したい一心で渡米し、世界の大学ランキングで10位(2018年10月に発表)のワシントン大学に入学した。また、フロリダのIMGアカデミーにも在籍し、ゴルフの腕を磨いた努力の人である。また、渡米当時は英語はまったく話せなかったというが、今ではネイティブスピーカーばりの発音で、まるで幼少の頃からアメリカで生まれ育ったような雰囲気を持つ。
CTパン・RBCヘリテイジ (Photo by Streeter Lecka/Getty Images)
2016年のウェブドットコムツアーで11 位に入り、2017年からPGAツアーメンバーの仲間入りを果たした彼は、昨年の「ウィンダム選手権」でミッシェル夫人をキャディに従え、2位に入賞。美人妻キャディとの最強タッグを組んだ末の大活躍でCTパンの名前を覚えたゴルフファンも多いだろう。ちなみに彼女はもうキャディをすることはないそうだ。
「残念ながら妻はここには来ていないが、彼女は今、僕がテキサスで開催するAJGA(米国ジュニアゴルフ協会)の試合のことを僕の代わりにやってくれている。そして僕たちが台湾から連れてきた女の子たちの一人が試合に勝ったと彼女が教えてくれた。今週末は僕にとって、過去最高だろうね。家族が僕にとって全てだ。家に帰ってお祝いしないと……」
CTパン・RBCヘリテイジ (Photo by Streeter Lecka/Getty Images)
パンはもともと、今年に入って成績が良いようであれば、自分がホストであるAJGAの試合「CTパン・ジュニア選手権」(テキサス州 ザ・クラブ・オブキングウッドで開催)のために今大会は欠場するつもりでいたが、実際はここのところあまりいいプレーができていなかったので、妻に「試合に行ってらっしゃい。ここにいてはダメよ」と言われたそうだ。「妻の言うことは聞いておかないとね(苦笑)」と妻の言いつけ通りに試合に出場し、優勝できたパンは語っていたが、世間的に「奥さんの言うことは正しい」は、どこの国でも同じようだ(笑)。 まだ松山英樹と同じ27歳の若手だが、台湾でのゴルフの普及やゴルフ人口の拡大など、台湾人プロの一人として使命感を持って取り組んでいる。AJGAのホスト役は、CTパンの他、アニカ・ソレンスタムやセルヒオ・ガルシア、パク・セリ、ジャスティン・トーマス、デビッド・トムズ、カイル・スタンレーなどがいるが、アジア人選手ではただ一人、しかも他は皆、ツアーのベテランやメジャー優勝者たちがほとんどだ。
台湾人選手で海外で活躍している選手には、陳志明&志忠の兄弟プロのほか、陳全米女子プロチャンピオンのヤニ・ツェンや、テレサ・ルー、キャンディ・クンらがいるが、日本よりも小さな国からこれだけ海外で活躍する選手を輩出している背景には、パンのようにジュニア教育を重んじる人物たちの意識が高いのかもしれない。
なお、今大会の優勝により、フェデックスカップでは113位から一気に26位に浮上し、翌月の全米プロにも出場が可能に。来年のマスターズやセントリー・トーナメント・オブ・チャンピオンズなどの出場権や、2020年いっぱいのシード権も獲得した。ジュニア育成にも注力するパンにとっては、自分自身のスケジュールがある程度、自分の好きなように決められる立場に立てたことは大きいだろう。