世界のトッププロたちは、毎週各地を転戦し、自宅で家族と過ごす時間はあまりない。
しかし過酷なスケジュールの中、頑張れるのも家族がいるから。
プロたちの大事なチームである家族を紹介する。
連載第6回は、誰もが羨むゴルフ界のスーパースターのタイガー・ウッズ。
タイガー・ウッズ
Tiger Woods
史上最強のプロゴルファー、タイガー・ウッズ。
彼はアメリカ人だが、父はアフリカ系アメリカ人、母は中国・オランダ系タイ人と、少なくとも5ヶ国の血を受け継ぐ国際的なルーツを持つ。
ゴルフ史を塗り替え続けてきたヒーローを支える彼の家族を紹介しよう。
1998年タイ・ブルーキャニオンCCで開催された「ジョニーウォーカークラシック」で優勝したタイガー・ウッズ(中央)。右は父のアールさん、左は母のクルチダさん。
97年「マスターズ」でメジャー初Vを共に祝福した父アール氏の大きな存在感
2019年「マスターズ」で、11年ぶりのメジャー優勝を遂げたタイガー。最終日の18番グリーン奥で彼を待ち受ける家族たち。左から母クルチダさん、チャーリー・アクセルくん、サム・アレクシスちゃん、ガールフレンドのエリカ・ハーマンさん。
2019年「全米オープンテニス」でラファエル・ナダルを応援するウッズファミリーとガールフレンドのエリカ・ハーマンさん(右から2番目)。
愛する息子と初のチーム戦に参戦
11月に開催された「マスターズ」にディフェンディングチャンピオンとして出場したのを除けば、「PNC選手権」ほどタイガー・ウッズにとって重要なゴルフトーナメントはなかった。
「PNC選手権」は、以前は「ファーザー・サン・チャレンジ」として知られていたが、現在は他の家族とコンビを組んでもいいことになっている。
ウッズは、フロリダ州オーランドで開催されたこの試合で11歳の息子チャーリーと初出場を遂げた。息子は父親と同様、幼くしてとても優れたゴルファーなのだ。
「チャーリーとプレーする初めての公式トーナメントが本当に楽しみだ。
ジュニアゴルファーとして成長する息子を見てこられたのは素晴らしいことだし、チームで一緒にプレーできるなんて最高だね」とウッズは語っていた。
オーガスタでの父との抱擁
それから22年後……
ウッズは12月下旬に45歳になった。
彼にはメジャー15勝を含む米ツアー通算82勝の記録があり、最後に獲得したメジャータイトルは2019年の「マスターズ」である。
「マスターズ」での勝利に話が及ぶと、いつもはストイックな彼が、二人の子ども(息子のチャーリーと娘のサム)とともにメジャーの勝利を祝う機会をどのように得たのかを思い出し、胸がいっぱいになっているようだった。
最近の彼にとって、家族を持つことや父親になることは、ジャック・ニクラスのメジャー優勝記録を破ったり、ツアー歴代最多勝利記録でサム・スニードを上回ったりするよりも重要な意味を持っているようだ(彼は2019年日本で開催された「ZOZOチャンピオンシップ」でスニードの歴代記録に並んだ)。
ウッズは、オーガスタナショナルゴルフクラブで行なわれた試合前のインタビューで5着目のグリーンジャケットを引き合いに出し、次のように述べた。
「今もそのことを考えるだけでゾクゾクするよ。優勝を決めたあと、18番グリーン奥にいる僕の家族、母親、子どもたち、そして大変な時期に僕を支えてくれた、あるいは僕のためにそこにいてくれたすべての人々の元へ向かったんだ。そしてチャーリーとお互いに両腕を広げてハグしたことは僕にとって大きな意味があり、今もそれは変わらない。このシーンは父とのことを思い出させてくれるんだ。あのときのことを再び思い出すと、……わかってくれるかな、目がウルウルしてくるんだ」
ウッズが「父とのことを思い出す」と言っているのは、1997年に12打差で勝利して「マスターズ」でメジャー初優勝を遂げたときの記憶と重ね合わせているからだ。
彼が初優勝を決めた後、グリーン奥へ歩いていくと、父親のアールさんが出迎え、しばらく互いに抱きしめ合った。その姿は感動的だった。
タイガーがまだ歩くことさえままならない頃にゴルフを教え、あらゆるレベルの競技で他を圧倒する選手になるように育て上げたのはいうまでもなく父親アールさんである。
彼はタイガーが幼少の頃から大きな影響を与えた。
父が自宅のガレージにネットを張ってボールを打っているのを見て、6歳のタイガーは球を打ち始めた。
2歳の時にタイガーは父と米国の有名TV番組「マイケル・ダグラスショー」に出演。その場にゴルフ好きの俳優・コメディアンであるボブ・ホープも出演していたが、タイガーのスイングに魅了されたという。
父子の絆が深いことで有名な話がある。
アールさんは息子を精神的に強くするため、ショット中にいろいろないたずらをしてわざと邪魔したという話だ。
ショットしている時に、ポケットの小銭をわざとチャリチャリいわせたり、ティーグランドにボールを投げたり……。
こうした中でも動じずにナイスショットができるよう、練習を積んできたからこそ、彼はかなりの集中力を身につけることができたのだった。
彼は成長する過程で何人かのコーチをつけたが、彼の父ほど試合で優勝できる選手に育て上げる上で大きな影響力を持った人物はいない。
1997年「マスターズ」に出場して初優勝した時、父と大きなハグを交わしたが、それは彼らがこれまでの道のりを共に歩んできたことを証明するようなものだった。
最愛の父の死、離婚……
心身ともにボロボロだったタイガーを立ち直らせたもの
2019年マスターズ優勝直後にトランプ大統領(当時)から「大統領自由勲章」を授与されたタイガー(中央)。トランプ夫妻(右)やウッズファミリーと記念撮影。母クルチダさんの姿も見える(左から2番目)。
タイガーと父アールさんの親子の絆は深い。ともに「タイガー・ウッズ財団」を設立し、「タイガー・ウッズ・ゴルフ教育センター」を建設。
タイガーと父の深い絆
彼を取り巻く女性関係
ウッズは、1975年12月30日にカリフォルニア州サイプレスで生まれ、エルドリック・トントと名付けられた。
2006年にガンで亡くなったアールさんとタイ出身のクルチダ・プンサワドさんとの間に生まれた一人息子である。
アールさんは2度、ベトナム戦争に従軍し、バンコクで服務中にクルチダさんに出会った。
タイガーには、父親の前妻との間に生まれた腹違いの兄が二人、姉が一人いる。
アール・ウッズにはベトナムにヴォン・ダン・フォン大佐という友人がいて、アールさんは彼のことを〝タイガー〟と呼んでいた。
その彼に敬意を表し、息子にタイガーというニックネームをつけたという。
2018年に出版された彼の伝記によると、アールさんが亡くなるまで両親は婚姻関係にあったが、最後の数年間は別居していた。
一方ウッズは、スウェーデン人のエリン・ノルデグレンさんとイェスパー・パーネビックの紹介で知り合い、結婚したが、その後不倫スキャンダルが発覚したことを受け、2010年に二人の子どもの母親であるエリンさんと離婚。
悪い評判による崩壊と転落がウッズのプレーに悪影響を及ぼしたことは疑いの余地もなく、彼はその後2年近くも勝てなかった。
2012年にスキーの世界チャンピオンであるリンゼイ・ボンと真剣に交際を始めてからは、5度優勝し、さらに11度目となる「PGAツアー・プレーヤー・オブ・ザ・イヤー」も受賞。2013年には昔の自分を取り戻したようだった。
二人とも競争心が強く、それぞれのスポーツで大成功を収めており、とてもお似合いに見えた。
しかし、それぞれの「多忙な生活」が二人を長い間引き離し、それを乗り越えるのは大変難しいという理由で2015年に破局している。
2006年「ライダーカップ」会場にて。元スウェーデン人モデルのエリン・ノルデグレンさん(左)とは2004年に結婚したが、2010年に離婚。
離婚後、エリンさん(写真左)は大学で心理学を学び、2014年、フロリダのロリンズカレッジを優秀な成績で卒業。
2010年、不倫スキャンダルにより無期限でプロ活動を休止していたタイガーが記者会見を行ない、謝罪。母・クルチダさんも同席し、息子の復帰を応援。
「子供ファースト」の父親としての喜び
2017年から、ウッズはフロリダ出身のエリカ・ハーマンさん(36歳)と親密な関係を築いてきた。
タイガーが経営するレストランである「ザ・ウッズ・ジュピター」を彼女がしばらく運営したことが二人のなれそめだ。
トーナメントの成績においてだけでなく、腰の大手術から回復するために長期に渡って競技から離脱している間も彼女のサポートが助けになったのは言うまでもない。
エリカさんも、2019年の「マスターズ」優勝をウッズと一緒に祝った少数の仲間たちの一人だった。
彼の母親も、そして彼のキャリアの大部分において、確固たる信頼関係で結ばれた友人かつアドバイザーで、長期に渡り代理人を務めてきたマーク・スタインバーグ氏もそこにいた。
彼らは固い絆で結ばれた仲間たち。「チーム・ウッズ」だ。
しかしながら、最近のタイガーは二人の子どもたちを何よりも優先している。
彼は、何度もジュニアの大会でチャーリーのキャディを務めているし、子どもたちがフロリダで参加しているサッカーの試合に付き添っているのも目撃されている。
2020年は彼にとって、フラストレーションのたまる1年だったが、それでも彼は子供たちの父親であることに喜びを感じている。
2019年12月に豪州・メルボルンで開催された「プレジデンツカップ」では米国チームのキャプテンを務め、チームを勝利に導いた。
過去、「ライダーカップ」や「プレジデンツカップ」で副キャプテンを務めることはあったが、キャプテンは初めてだった。
だが一方で、幸せな父親でもある。どうやら史上最高のゴルファーにはそれだけで十分らしい。
2019年「プレジデンツカップ」では初のキャプテンを務めたタイガー。左はエリカさん。
2018年「ツアー選手権」で復活優勝を遂げたタイガーを熱いキスで祝福するエリカさん。
離婚後、美人プロスキーヤーのリンゼイ・ボン(写真左)と交際。 サム・アレクシスちゃん、チャーリーくんと「マスターズ」のパー3コンテストに出場した。その後破局し、タイガーはエリカさんと交際。
Text/Dave Shedloski
Photo/Getty Images
O嬢日記@
タイガーの女たち
「二人の子供たちの父親であることがゴルフよりもずっと大事」
2017年「プレジデンツカップ」で初めて公の場に姿を現したエリカ・ハーマンさん。心細いからかタイガーにすがりついていた姿が印象的。
タイガーの女性遍歴を見ていると、 大きな変化に気づく。
結婚したエリン・ノルデグレンさんやスキーヤーのリンゼイ・ボンまでは金髪の美女だったのが、 現在の彼女のエリカ・ハーマンさんになると黒髪で、 特別、人目を惹くタイプではない。
2017年「プレジデンツカップ」で初めてエリカさんを公の場で披露したタイガーだったが、彼の「ハデハデ金髪美女好き伝説」は一気に崩れ、ずいぶん庶民的な女性と付き合うようになったんだな、と思ったものである。
そう思ったのは私だけではなかった。 当時、現場で取材していた誰もが「え? 彼女が本当にタイガーのガールフレンド?」と疑わしい目で見ていた。
普通であれば、タイガーに交際相手ができたこと自体、大きなニュースになるものだが、米国人記者たちの原稿を読んでも今一つキレがない。
エリカさんの容姿がどうこうというわけではないのだが、タイガーも年を取り、二人の子供たちも成長して、女性に対して求めるものが変わってきたのかもしれないなと思った。
居心地の良さや、心の平静など日常の心地よさは、エリカさんと出会って得られたものなのかもしれない。
過去、エリン&リンゼイの二人とも、取っつきにくいイメージがあり、リンゼイなどはむしろタイガーが食われちゃうんじゃないか、というくらい肉食系のイメージだった。
しかし45歳の父親であるタイガーには、肉食系ブロンド美女はもはや不要なのだろう。
心穏やかに幸せに暮らして欲しいと願う一方、あと一踏ん張り、大記録更新に向けて頑張ってほしいものである。
Eiko Oizumi
O嬢(大泉英子)/ゴルフ誌の元編集長。国内男子、海外ツアー取材を主に担当し、男女シニア海外メジャー取材は100試合超。現在はフリーで活動中。 全米ゴルフ記者協会会員。