Text/Eiko Oizumi
Photo/R&A、Yoshitaka Watanabe
狩りや釣りが趣味で、トラクターを所有し、私有の農場を持つPGAツアーのベテラン選手、36歳のブライアン・ハーマンが「全英オープン」でメジャー初優勝を飾った。今大会の優勝で、2014年「ジョンディアクラシック」、2017年「ウェルズファーゴ選手権」に続く、6年ぶりのツアー３勝目を達成。プロ入り後、340試合目でようやく叶えたメジャー優勝だった。
「嬉しい限りだ。ここ３日間は本当にタフな戦いだった。昨晩はちゃんと寝ることができたのは大きい。首位に立ちながら寝るのは本当に難しいからね。こうして数日間頑張れたことに満足している。両日とも出だしは悪かったが、立て直すことができて本当に満足しているよ」
３日目を終えて、2位のキャメロン・ヤングに５打差をつけていたハーマンは、出だしの2番と5番をボギーにしたが、6〜7番で連続バーディを奪い、振り出しのスコアに戻した。その後、13番でボギーを叩いたが、14〜15番で再び連続バーディを奪い、トータルで4バーディ、３ボギーの70とし、１つスコアを伸ばして通算13アンダーに。2位タイのトム・キム、セップ・ストラカ、ジェイソン・デイ、ジョン・ラームに６打差をつけた。過去、「全英オープン」には８回出場していたが、これまでの最高成績は2022年の6位タイだった。
最終日は雨が降り、寒さとの戦いでもあったが、彼にはもう一つ、リバプールの観客の手厳しいヤジやブーイングとの戦いもあった。地元のトミー・フリートウッドや、ライダーカップ・欧州チームの旗頭でもあるジョン・ラーム、あるいは2014年の「全英オープン」で優勝したローリー・マキロイに大きな声援が飛ぶ中、ボギーを叩くと拍手が湧き、「お前は（メジャーで）勝てるタマじゃない」、「アメリカのクソ野郎」などとヤジられていたブライアン・ハーマンは、現場で見ていても気の毒だった。だが、彼はそんなヤジやブーイングにも動じずに、いや、それをモチベーションに変えて戦っていた。
「昨日（土曜日）、２つ目のボギーを叩いたあと、ある男の横を通り過ぎたんです。その時、彼は『ハーマン、お前は勝てるタマじゃない』と言われたんだ。それが大いに助けになったんだ。その一言を聞いて、自分は十分勝てると思い直せたんだ。僕は優勝できる。自分のやり方でできる、と。そして次のショットもうまくいく、と。うん、これ以上、言及しない方がいいな。彼のおかげ、というよりは、ただの忍耐力だね。そのあともミスショットを打つことはわかっていたし、天候や状況次第で悪いショットを打つこともあるだろう。だが、それにどう反応するかで、自分がここに座っているかどうか（優勝できるかどうか）が決まるとわかっていたんだよ」
「(1番ホールでブーイングされたことについて)なぜかわからないね。フリートウッドやローリーに優勝してもらいたかったからかもね。大丈夫。みんな自分の応援する選手はいるものだから。でももし僕にいいプレーをしてほしくなかったんだったら、もっとやさしくしてくれれば良かったんだけどね（笑）」
こうして悪天候とヤジに耐えながら、メジャーで初優勝したあとは、ニューヨーク北部の湖畔にある家に向かい、家族と時間を過ごしながら、趣味の狩りや釣りを楽しんだというハーマン。彼は無類の狩り好きで、「ブッチャー(肉屋)」というあだ名も持つ。自宅の冷凍庫には自分が捕らえた獲物の肉を貯蔵しているという。また、農場も所有しており、最近、クボタのオレンジ色のトラクターを購入したそうだ。妻にはその料金のことは伝えていなかったそうだが、今回の優勝で３ミリオンドル（約4億2300万円）を獲得したのだから、問題はないだろう。メジャーチャンピオンになり、今後の人生は変わると思うか？ と問われると「変わるとは思えない」ときっぱり。自分には素晴らしい家族がいて、本当に好きな趣味も多様にあり、楽しめる快適な生活を送っているという彼には、人生の変更は必要なさそうだ。
ただ、彼の多彩な趣味にもう一つ「クラレットジャグでビールを飲む」が追加される1年となることは間違いないだろう。
