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欧州開催で34年間、負けなしの欧州チーム
ローマで初開催された「ライダーカップ」で
優勝トロフィを米国から奪還

Text & Photo/Eiko Oizumi

表彰式で喜びを分かち合う、優勝した欧州チーム。中央はキャプテンのルーク・ドナルド。

 2年に1度行なわれる世界最大のゴルフの祭典「ライダーカップ」。今年はイタリア・ローマで初めて開催され(開催地はマルコ・シモーネゴルフ&カントリークラブ)、欧州チームが米国チームに5ポイント差で優勝した(欧州16.5 :米国11.5)。過去、欧州の地で開催された同大会で、欧州チームは34年間負けなしの記録を更新中だ。

 3日間開催の「ライダーカップ」で、最初の2日間はフォアサム(同チームの2人が1つのボールを交互に打つ)・フォアボール(同チームの2人がそれぞれのボールを打ち、いい方のスコアを選択)形式のセッションが、それぞれ8セッションずつ行なわれるが、初日のフォアサムでは欧州が全勝(4勝0敗)。午後のフォアボールでも欧州が1勝3引き分けと、負けなし。初日にして欧州6.5:米国1.5 と5ポイントの差が開いた。2日目の午前中のフォアサムでは、ようやく「全英オープン」チャンピオンのブライアン・ハーマン&マックス・ホーマの米国組が1勝を挙げ、1ポイントを獲得したが、それ以外の3マッチは全て欧州が勝利。過去、米国で開催された「ライダーカップ」や「プレジデンツカップ」で鉄壁コンビのザンダー・シャウフェレ&パトリック・キャントレー組も、ジョン・ラーム&ティレル・ハットン組に2&1で敗北。また、ビクトル・ホブラン&ルドビグ・オーバーグという北欧若手組は、世界ランク1位のスコッティ・シェフラー&メジャー5勝のブルックス・ケプカという最強コンビを相手に9&7という歴史的なスコアで大勝利を果たすなど、勢いは止まらなかった。なお、9&7とは、7ホールを残して9アップの意味だが、この記録は「ライダーカップ」のどの試合形式においても、史上最高の記録である。

 全セッション28ポイント中、14.5を獲得すれば優勝が決まる中、2日目までのセッションを終えて、欧州は最終日に4ポイントを獲得すればいいだけの展開になった。欧州のルーク・ドナルドキャプテンと副キャプテンでデータ分析担当のエドワルド・モリナリの采配が、非常にうまく機能し、成功していた。一方、米国チームのキャプテンのザック・ジョンソンは、「なぜ勝敗を占う大事な初日の午前のセッションで、ジョーダン・スピース&ジャスティン・トーマスを起用しなかったんだ?」「スコッティ・シェフラー&サム・バーンズという仲良しコンビは、過去の大会において相性が悪い(成績が芳しくない)とデータで出ているのに、なぜ初日の1組目という大事な場面で起用したんだ?」などと米国メディアからもその采配に対して批判の声が高まった。そもそも今年不調のジャスティン・トーマスをキャプテン推薦で起用し、今季2勝のキーガン・ブラッドリーを外す、ということについても大会前から賛否両論が出ていた。

 2日目のセッションを終え、欧州10.5:米国5.5で迎えた最終日のシングルス戦(12マッチ)は、欧米とも互角の戦いとなった。1組目から欧州は世界ランク3位でガッツ溢れるプレーぶりが特徴のジョン・ラームを起用し、世界ランク1位のスコッティ・シェフラーと対戦。ドナルドは、ジョン・ラームと2組目のビクトル・ホブランという今年の「フェデックスカップ」総合優勝者を揃え、早めの段階で勝利を決めたかったようだ。

 だが、米国チームも負けてはいられない。一時、スコアボードが米国チームを表す赤色で染まったこともあったが、終わってみれば欧米ともに6ポイントを獲得し、5ポイント差で欧州の優勝となった。優勝を決めたのは、11組目のトミー・フリートウッドだった。

「本当はこんなに後ろの方の我々のところまで勝負が回ってきて欲しくなかったけど……このチームのメンバーでいられて誇りに思う。今年も素晴らしい人たちのグループだった。今年あちょっといつもとは違う欧州チームだったけど、こんなにいいメンバーに恵まれて、これ以上のものはないよ。みんな本当に素晴らしかったし、大きなファミリーのようなものだ」

2018年フランス大会でもフランチェスコ・モリナリとともに大活躍し、今回も優勝ポイントを決めたトミー・フリートウッド。

 前回、米国ウィスコンシン州のウィスリングストレーツで行なわれた際は、コロナ感染流行のため、欧州からの応援客が甚だしく少なく、完全アウェーの状態。応援に負けたようなところもあった。今回は、イタリア開催ということで、欧州チームにとってはホーム。声援のボリュームなどを聞いている限り、欧州の観客が7割、米国の観客が3割といった感じだった。

高さ22メートル、5000席が用意された、1番ティの巨大グランドスタンド。欧州チームを応援する人々が約7割は占めた。

「彼ら(欧州チームを応援する観客)は最高だ。毎日応援してくれて、我々が応援が必要な時は、いつもそこにいてくれた。たくさんのシチュエーションで騒がしく、僕たちをプッシュしてくれて、彼らがいてくれて本当によかった。そして彼らにとってもこの瞬間が人生の思い出となることだろう。とても最高だよ」(フリートウッド)

 表彰式でルーク・ドナルドは、「あともう1回キャプテンをやって!」とローリー・マキロイから言われていたが、それに対して彼は明言を避けた。しかし、今回のルーク・ドナルドのキャプテンとしての活躍は、欧州チームのカップ奪還に計り知れない影響を与えた。彼は声高に何かを強く主張するタイプではないが、選手たちを信じ、冷静に判断し、温厚で親しみやすい性格の持ち主である彼の長所が生きた結果、まとまりのある温かい家族のような雰囲気を作り出すことができたようだ。これは欧州チームの伝統でもある。セルヒオ・ガルシア、イアン・ポールター、ヘンリク・ステンソン、グレアム・マクドウェルら「ライダーカップ」のレジェンドたちがLIVゴルフに移籍したことで、雰囲気はガラッと変わってしまったが、それでも、欧州チームの伝統を守りつつ、新しいフェーズに入り、成功したのだ。

優勝が決まった瞬間のルーク・ドナルド(中央)。思わず涙ぐんでいるのがわかる。左隣はローリー・マキロイ。

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